追憶 -Revive-
『前回のあらすじ』
シナナメ撃破、捕縛まで後少し。まで行ったものの……彼女はマンホールを手に、反撃を行う。
突然の武器・動きの変更に戸惑う二人を圧倒。紅心は限界を迎え灰化、リバイバーも心臓を突き刺され消滅。
追跡はチームメイトであり、何も知らされていないミミツに邪魔され、終焉の到着もあり言い合いは集結。
シナナメと終焉。二人との決着はタイムリミットの二日後に決まり、深い眠りに落ちるのであった。
目が覚めると──其処はもう、見慣れてしまったとさえ思えるあの映画館兼舞台劇場。
赤く柔らかい素材で出来た椅子の背凭れに体を預け、幕が開いて行くのを何もせずに待つ。
今回は映画らしく、スクリーンに投影されるカウントダウンの数字。それが終わると本編が始まり……
リバイバーが無数の別世界が漂う、次元穴の薄緑色な空間で落ちる中。誰かが彼の右手を掴み上げる。
「…………なんで、助けた?」
「貴方は此処で消えるにゃあ、惜しい人物ですからねぇ」
戸惑いや呆れで言葉が遅れたのではなく、無関心・無感情故に掴まれた事の判断が遅れた様子。
突然の問い掛けに、黒いローブを纏う真夜は答える。邪神がそう言う程の奴なのか?リバイバーは……
半透明の足場に彼の足を乗させるも、やる気や立つ気すらも無い彼は手を離し、その場に座り込む。
「貴方はある『強欲な者』に自欲を満たす為だけに作られただけの存在」
「…………」
「その後。自身が生きている事が特異点となり、数多の世界を無意識に滅ぼしかけた存在でもある」
誰かに、あるいは本人に聞かせる様。リバイバー自身の出自や、その後に起きた結果を話す真夜。
最初こそ鼻を伸ばし、自身の自慢話でも語っている素振りで話しているものの。
彼の反応を確かめる様に。チラッと何度も視線を向けるも……当の本人は生気を失くした人間の如く。
座り込んだまま俯き、反応の一つすら見せない。鬱病患者にも見られる、内向的な反応だ。
「最期は戦果も記憶も名も消して世界を守る為に、自ら消える事を選んだ。いやはや……愉快愉快!」
今度はわざと怒りを買うかの様な、煽りを含めた言動・態度・言い方で語るのだが……これも無反応。
反応してくれなくては会話にならない。腕を組み、どうしたものか?右爪先を小さく浮かせ足場を何度も踏む。
しかし、これと言って反応・興味を示してくれそうな話題が思い付かなかったらしく。
苦虫を噛み潰した様な顔をする。ボケてもツッコミや観客が居なければ、漫才が成立しないのと同じ。
「このままだと本当に落ちて消えるだけの存在でしたよ?貴方」
「いいんだよ。もう俺には名前すら……いや、存在意義とかないし……」
「貴方の『友人』が今もまだ、あの世界で戦っていると知っても……ですか?」
「──!?」
遠回りな発言は諦め、直球に聞けば……漸く彼は言葉を返す。されど顔は依然として俯いたまま。
生きる意思を、存在意義を見失った彼の言葉は弱々しく、短気な人が聞けば頭にきて怒鳴る程。
ならば──と、真夜は彼の『友人』がまだ戦っている旨を伝えた途端、強く反応を示し。
リバイバーは条件反射気味に真夜の顔を見上げ、立ち上がる。それ程衝撃的な発言だったのだろう。
「でも。もう、俺には魂繋も……出来ないし」
「貴方を作った人は……さぞ貴方を失いたくなかったんでしょうねぇ」
「えっ?」
「身体能力と治癒能力に長けているみたいですね。付け焼き刃程度になりますが……来ますか?一緒に」
だが……自身にはもう、共に戦う力は残っていない。友人の力になってやる事が出来ないと自白。
もう隣に立って、一緒に戦えすら出来ない。戦力外を痛感する彼を否定するかの如く。
また。気付いていない部分を教えながら、疑問を抱く彼に、先程離された右手を再び差し出す。
今度は一方的に掴むのではなく。彼が──自分自身の意思で、残された可能性を掴むか否かを。
「……俺で……良いのか?」
少し間を空け……少しずつ。されど勇気を振り絞り、自身で良いのかと訊ねる。
『強欲な存在』に作られ、数多の世界を無意識にとは言え滅ぼし掛けた。掛けてしまった……
そんな事実・過去が自責の念としてあるのだろう。友人の居る世界も、滅ぼすのではないか?と。
「はぁ~……私は貴方なんかより、もっとヤベーイ奴らを山程知ってますよ。それに比べれば貴方程度」
「……マジか」
「事情を話せばアレらも稽古とかつけてくれるんじゃねぇデス?気が乗れば──でしょうが」
「…………わかった。ありがとう、真夜」
呆れを孕んだ深い溜め息の後。その程度の危険性がどうした?と言わんばかりに言い返し。
自身の危険性よりもまだ、更に上を行く連中がゴロゴロ居ると知り、己の小ささを痛感。
ヤベーイ連中に事情を話せば、気の良い奴らは稽古をつけてくれるのでは?と発言。
言われたその表情には生気が戻り、まだ自身にもやれる事がある!と自然に口角が上がり感謝する。
「構いませんよ。昔に魂繋もした仲じゃねぇですか。そのお陰でアレに必要なデータも取れましたし」
「あ、でももう、俺は……アイツじゃないし」
「でもあの時の貴方は貴方ですよ。……あー、でも名前はどうします?元の名前を使うと元も子も」
感謝される事ではなく、こん……そう?もした仲だと言うついで、何かに必要な情報を得れたと言う。
アイツ──と言うのは、誰だろう?表現的に多分元になった人物だと思うのだが、確証はない。
発言的に、その人物の名前を使っていたものの、世界を守る為に名前諸共消える予定だったが故……
今はその名前が使えない。使うと守った世界が再び滅びるかも知れない。と考えればそれはそう。
「切り札的意味でJOKER?……はなんかダサいし、二重の意味でネタ被りなんですよねぇ~」
「もういいよ……なんでも」
名付けと言うのは、意外と神経を使う。安易に名付ければ、成長や日々の中で違和感や虐めの対象に。
そもそも、世の中には名字や名前を弄ってくる輩がごまんといる。それを踏まえて考えるも……
ダサいやら、二重の意味でネタ被りと発言。ネタ被りに関しては、自分にもJOKERの呼び名がある。
呆れ返り、もうどんな名前でも構わない。と言うリバイバーだが……それは悪手の中の悪手だぞ?
「え?じゃあフジウルクォイグム──いや。げろしゃぶか……フーミンですね」
「やめろ。はぁ……もういいよRとかで」
「えっ?なんですか、急に1文字?」
「いいだろ。もうなんでも」
彼にとって名前を聞かれる事は若干、トラウマになっているのか。もしくは──
嫌な気分になる引き金にもなってるんだろうな。故に真夜はそんな空気を吹き飛ばす為に。
わざと変な名前、あだ名を選択した。……恐らく、半分はガチだな。闇の魔神、暗黒神だし。
「そんじゃあ稽古に行きますか。今の貴方じゃあ、貴紀さんが戦ってる連中の足下にも及びませんし」
「おいおい……貴紀さん、どんなバケモンと戦ってんだよ」
「貴方の数千倍危険で、全世界と融合を果たし──平和をもたらす存在、オメガゼロ・ワールドロード」
「ワールドロード、世界の王か。確かにヤバそうな相手だな」
名前が決まり、自分と合流する前に役立てるよう、稽古をしに行こうと勧める。
確かに。自分が戦う連中を相手にサポートでも挑むとすれば、多少身体能力が高い程度では……
サンドバッグにも成らん。知恵・力・勇気を兼ね備えて、漸くアイツらに勝てるレベル。
けれど、勝つだけでは意味がない。勝つだけなら、誰にでも出来る。その先を、道を示さなくては。
「そんな相手に挑む貴紀さんは、正真正銘の英雄だな!」
「英雄……貴紀さんが聞いたら、嫌そうな顔をしますね。あの方は、英雄なんて枠に収まりませんし」
「じゃあ……なんて言えばいいんだよ」
まだ姿さえ見ぬ底知れぬ因縁の相手──オメガゼロ・ワールドロード。奴に挑もうとする自分を……
彼は英雄だと言った。そう言われた時、無意識に眉をひそめて嫌な表情を作ってしまう。
此方の心情を理解してか、代弁とばかりに言い返す。真夜の言う通り、自分は英雄の枠には入らん。
もし仮に入るとすれば、オラシオンの面々や協力してくれている仲間達で間違いない。
「世界の終焉や古臭い歴史。心と言う世界さえも破壊し、新たなる道を照らす者。即ち──」
「ワールドロード……まるでトランプに存在する二枚のJOKERだな」
真夜は自分を、終わりを始まりへと続く道に導く者。即ち、破壊者でありワールドロードだと言う。
倒すべき相手と同じ名前故に、リバイバーはトランプを例えに言うが……思い返せば確かにそうだ。
オラシオン集結前、真夜と義父さんがあの五人をトランプの数字で呼んでいた事がある。
十がエリネで多分シオリはJ。QをトワイとしてKは琴音、Aがヴァイス。アイはWILD JOKERか?
黒い切り札と白い切り札の対決。そう考えると色々と納得だわ。
『あんた、此処だと見ない顔だな。外から来たのか?』
『あ、あぁ。手持ちは無いがな』
『なら気を付けた方がいい。此処の連中は金にがめつく、簡単に他人を欺く奴らばっかりだから』
『あ、ありがとうございます』
場面が切り替わった先は……トリスティス大陸にある、人間の集落へ初めて訪れた時の光景・やり取り。
そうか。あの時に感じた、何処かで何度か会った気がしたのは──過去の旅で友で出会ったからか。
まだ以前の名前は思い出せないけれど、思い出す事で彼を不愉快にさせたり、命懸けで守った世界。
それに再び滅びの可能性を与えるのは、此方としても望んではいない。故に、考えない事にした。
「最初のRは提案の一つ、『JOKER』の最後の文字だったからって言う適当に乗り切る言い訳だったけど」
擦れ違う様に別れ、自分が初対面の三騎士・コトハと遭遇している時。彼は此方へ振り返り……
「『Reviver』とか名乗るのも……悪くないかな。貴紀さん、「R」とかだけ言うと。
なにそれ?とか言って、真顔になりそうだしな」そう思考しているのがモノローグ気味に語られる。
名前を聞いて一文字だけとか、なにそれ?と言われてもそりゃそうだろ。としか言い様ねぇよ。
「リバイバーの記憶……いや、追憶か。でも、なんで今更」
「彼の残留を、方舟たるバックルが吸い込んだからでしょうな」
「少年……ビッグウェーブはもう、マージマジ間近。魔法の家族でも手に終えない」
何故今更、彼の記憶・追憶を観ているのか?その疑問に答える様現れたのは……
右隣の席に座っている真夜と。後部座席から前へ身を乗り出し、ネタを挟みながら話す紅瑠美の二名。
あの作品、巨大ロボ戦が不遇に思えるのは自分だけ?と内心思えど、敢えて口に出さす無反応を貫く。
「ふむ。もうそろそろレム睡眠から覚めそうですね。即ち、ズッコンバッ──トマンリターンズ!?」
「その血の運……メーデー!?」
真夜が言う通り、そろそろ意識が覚めそう。それは別に構わない。が──続く言葉を言い切らせぬ為。
ZEROフレームで行う神速のツッコミを繰り出し、二人の額にフォークを突き刺した結果だけが残る。
別に王の深紅だとか、世界とかの能力は持ってねぇ。使えない訳ではないが、ほぼツッコミ限定。
頭上から降り注ぐ白い光に包まれ。意識は徐々に、されど確実に覚めて行くのを感じた。




