姉弟 -I don't care what they say, how they judge you-
『前回のあらすじ』
遂にオメガゼロとしての本気、その一割を披露したエックス。その強さは四天王二人の本気を引き出す程。
ブレイブの翻弄を経てマジックから繰り出された超巨大隕石落下も、完成に近付けた緋想S・D・Nで攻略。
奥の手・モーニングスターすら能力を使い、突破。ダメージを受けた二人は自ら降参を宣言。
これは何かの策では?と疑いつつ、本意を知るべくマジックが自身の素顔を隠す為に付ける仮面を取らせると……
マジック自身に、自らの素顔を隠す仮面を取らせた結果。彼女は……神無月水葉先輩ご本人。
生きていて良かった。どうして貴女が融合四天王に?沸き上がっては混じり合う、歓喜と困惑の感情。
霧散する様に解ける融合。名前すら呼べないまま、地に膝を着け崩れ落ちては両手で顔を覆い隠す。
聞きたい、話したい事は山程あるのに……何も話せず、自分でも恥ずかしい程にただ泣き喚くばかり。
すると水葉先輩は屈み、此方の両手を掴んで顔が見える様開けば、額同士を当てられ──
「「「動くな!!」」」
突然精神世界の図書館へと意識が落ちた矢先。絆・恋・静久に力強い口調の他。
手にした日本刀・棍・三又矛の切っ先を向けて静止を求められ、思わずたじろいでしまう。
一人足りないと思い、愛を探せど絆達の側には見当たらない。それによく見ると……
三人に向けられる武器の先端は、自分ではなくその背後へと向けられていると知り、振り返れば。
「魔女よ。変な動きを一つでもすれば、ぬしの首を引き裂く」
「随分と過激な歓迎ね」
「信用出来ない味方程、抱えて厄介な存在は居ないからね。ご主人様、こればかりは僕達も譲れないよ」
水葉先輩の背後へ回り込み、右手で首筋を掴み爪を食い込ませる、鋭い目付きの愛が居た。
両手を挙げ、抵抗しないと主張しながらも。来客を迎えるにしては、物騒な対応だと反論。
初見ならば確かにそうだが、恋の言う通りでもある。故に、自分からは何も言い返せない。
「少なくとも、私に戦意はないわ。その証拠に──私は彼を倒そうとしたかしら?」
「チッ……さっさと用件を話せ」
「えぇ。改めて……私の本名はミズハ・スカーレット。貴方に協力する博士達、七賢人の一人」
既に行っている行動や過去の結果に説得力を乗せ、理解した恋達は各々武器や爪を下ろし。
勿体振らずに用件を話せ。と静久が言葉で切り返し、先輩は改めて自己紹介から始めたのだが……
本名がミズハ・スカーレットぉ!?それって確か、超古代で戦うアインにプロポーズしてたあの少女?!
あ……だからアイに若作りやらブラコンと言われてたのか。なんか喉に刺さった小骨が取れた気分。
てか、そうなると先輩って……今何歳なんだろう?他人の事を言える立場じゃないけども。
「最初に悪い情報から。魔神王の復活は早くて二日後、遅くとも三日後と判明したわ」
「随分と早い……いや。逆に今日まで時間を稼げた、と考えるべきか」
「ですね。お陰で、マスターはかなり成長出来ましたから」
「それで?良い情報はないのかや?」
用件の一つ目は悪い情報で、今回送り出された旅の最終目標。魔神王の復活が二、三日後。
それまでに三騎士や終焉達を倒し、ベーゼレブルと決着をつけ、万全の状態にしなければならない。
漸く融合四天王全員に勝った反面、まだ魔神王の前に倒すべき相手が六人……しかも全員相当な手練れ。
恋や絆の言う通り、今日まで時間を稼げたのは嬉しい誤算。愛は逆に良い情報を聞くと?
「彼が持つ三つの能力。その根源となる能力の判明とイヴ=サクヤ達の救助完了、かしら?」
「いつの間に……」
「夢現と──闇納の欠片にも手伝って貰ったのよ。元々、彼女達も彼の協力者だし」
自分が持つ三つの力。覚える、破壊、装填。その根源たる能力の判明、サクヤ達の救助完了。
後者の情報は特に、不安を取り除きたい今の自分にとって嬉しいものだ。が……何か引っ掛かる。
何故生存と言わないのか?もしや……あの場から救い出しただけで、復帰出来る程ではない可能性も?
スルッと流したけど──三つの力の根源たる能力の判明した。って何?別々の能力じゃないの?
「彼は常日頃より『 』から微量に力を引き出してる。それこそ──零と壱を操る能力」
「零と壱を……操る?」
簡単な内容を聞けど、いまいちパッと理解出来ない。絆も同じ様で、自分と一緒に首を右へ傾げる。
他三人は理解出来たらしく。呆れ返って溜め息を吐く静久、苦笑いで右頬を掻く恋。
ツボにハマったのか。顔を隠す様に壁に凭れ、右手で壁を叩く愛。何もそこまで笑わんでも……
「無知が理解、存在を破壊、空を満たす。ジェネシス・オーラも同じ」
「要するに、ご主人様は可能性を操れる。簡単に説明すれば、そうなるかな」
「そう考えれば……これまでの無理を突破出来たのも、説明が着く。可能性が零ではない……からな」
二人の説明や静久の感想を聞き、漸く納得出来た。無理難題な修得期間、条件、限界突破、生存。
それら全てが──やり遂げる、貫きたい。そんな強い想いに反応して無意識下で発動していたなら。
弱体化状態での格上狩りや神殺しも……能力のお陰だったのだろう。そう考え、俯くと。
水葉先輩から「死に物狂いでやれる事をやり続け、生存本能を極限まで磨き続けた結果」であり。
命が嫌う死に近付く事で生存本能が働き、潜在能力を無意識に引き出した。とは先輩のお言葉。
「貴方の能力だけが、零を操る魔神王に対抗出来る唯一無二の能力。けれど……」
「けれど……どうしたのですか?」
淡々と説明を続け、魔神王が持つ『零を操る能力』に唯一無二対抗出来る力だと教えてくれたが……
突然俯くと何やら言い淀み、口を閉ざしてしまった。それに気付いたのは此処に居る全員だけど。
真っ先に口を開いたのは──紅絆。問い掛けられ、ハッと我に返り笑顔を見せる水葉先輩。
でも……その微笑みと僅かに残った涙からは、深い悲しみを感じざるを得ない。
「ねぇ、貴紀。一つ……貴方に聞いても、良いかしら?」
「ぬし様よ。どうするのかや?」
気を抜けば、今にも泣き崩れてしまいそうな微笑みで此方へ顔を向け、問い掛けて来る水葉先輩。
悲愴な顔付き……とでも言うのだろうか?何を訪ねられるのだろう。不安を抱え戸惑い俯く。
愛に顔を覗き込まれ、返答はどうするのか聞かれて我に返る。慌てて二度頷き、肯定。
「魔神王を倒したら──元の世界に帰るの?外国に内外から侵略を受け、腐敗し切った政治家や財務省の居る、あんなゴミの掃き溜めに」
魔神王を倒したら……過去の自分なら、あんな世界へは戻らず、第二の故郷たる此処に骨を埋める。
そう……断言出来たんだけどな。本気の一部を使った今だからこそ分かる。魔神王を倒せば、自分は──
夢は間違いなく──存在の全てを使い果たし、確実に醒める。それは確定事項。何故なら。
魔王の居ない世界に、勇者は不要だから。仮に留まれても、あの世界に戻りたいか?
母や妹は心配だが、自分からお金を貸り過ぎて重荷になってないだろうか?百万は超えてたし……
「その様子じゃと、戻る気はなさそうじゃな。異次元の少子高齢を促進させる政治家がおるしのぅ」
「仮に戻っても……貴紀の居た国は他国に侵略されて滅びる。そんな地獄に、わざわざ戻る必要など……ない」
「おいおい……ご主人様の故郷に対して酷い言い草だな。せめて、頭の腐った鯛の群れと言ってやれ」
「皆さん?私、どれも五十歩百歩だと思うのですが」
戻る気は無い。もう二度と……戻れないのだから。根源の力を引き出せば引き出す程、存在は消える。
貯水ダム一つに、宇宙と言う大海は納まり切らない。侵略されてる故郷に戻る部位が……残るか否か。
恋達が自分の元居た故郷を罵り、絆が怒気を孕んだ笑顔を見せる中でも、自分は否定をしない。
「…………ごめんなさい。無関係な上、別次元の貴方にまで迷惑を掛けてしまって」
絆達が言い争う中。水葉先輩から深々と頭を下げた謝罪と、他人行儀な言葉を向けられ。
心に言葉と態度が引っ掛かる。今までの繋がりは、なんだったのか?もう無関係ではない。
色んな世界を渡り歩いたお陰で、沢山の場所に愛着を持ったり、義理の家族や恋人だって出来た。
魔神王がその世界へ繋がる道を蝕むと言うのなら、自分は全身全霊を以て阻止する覚悟。
故に、先輩へ「皆に何と言われようと、あなたをどんな風に言おうと、私は気にしない」と伝えた。
「I don't care what they say, how they judge you……か。実にご主人様らしい発言だ」
「私や堕天使……旧支配者までも仲間に入れ、家族判定する。……まあ、そのアホさに私達は救われた訳だが」
「じゃな。今の人族が忘れて久しい──良くも悪くも損得勘定無い、お人好しのぬし様じゃ」
「マスターが我々に手を差し伸べてくれた様に。我々ら一同、最後の最後まで生涯お供します」
いつの間にやら絆達の言い争いは終わっており、褒めてくれる言葉や半分貶してるのでは?
と捉えれる発言もチラホラ。丁度かなりエネルギーも減ってるし、後で補給を徹底的に手伝って貰おう。
絆は……本当に良い娘だよ。ゼロとは腹違いの兄妹になる訳だが、性格は自由奔放と几帳面で大違い。
「……そうね。本当、自分勝手なお義姉ちゃんでごめんね」
「良い良い。そう言えば、何故この場所を話の場に選んだのじゃ?」
「確かに、それは気になりますね。精神世界と外の違いと言えば、時間の流れと密閉空間位ですが」
右人差し指で溢れた涙を拭い、自身の身勝手さを謝る水葉先輩。別に構わない……と言い出す手前。
愛に先を越され、話の場に何故此処を選んだのか?と疑問を投げ掛ける。改めて考えるとそうだ。
絆が言う通り、外に比べて精神世界内の時間は遅く、外部から盗み見聞きが出来ない密閉空間な点。
そう理解した時、何故か想像すらしなかった疑問が浮かび上がる。いや、何故想定すらしなかった?!
ワールドロードたる自分が使う俯瞰視点。それを魔神王も使えるとしたら?水葉先輩の行動も……
「精神世界が……チッ。外で何が起きている……」
「静久!!ご主人様、僕達も早く戻ろう!」
「闇納──もう、貴女が時間稼ぎに注ぎ込んでくれた勇気も、今や呑み込まれつつあるのね」
突然揺れ出す、精神世界の図書館。幸い本棚は倒れなかったが、小刻みな揺れは継続中。
静久はいの一番に緑色の光球となって精神世界から外へ飛び出し、恋も自分達に続く様伝え外へ。
追い掛ける形で駆け出すも、付いて来ない先輩に気付き振り向けば。訳の分からない事を呟く始末。
兎に角。先輩の右手を取り、自分達も外へ飛び出す。この僅かな時間の大切さを、何も知らぬまま……




