休息 -Love does not dominate; it cultivates-
『前回のあらすじ』
エックスの危機に突如鳴り響くスマホの着信音。ミミツが意識を失う程に襲う怪奇現象。
その正体は旅の中で仲間になり、お互いに守り・助け合う関係でもある百鬼夜行。
三騎士の一角を退け、注意を払いつつも無事に仮拠点の大型スーパーへ帰還。
気を利かせたリバイバーの厚意で桔梗と久し振りに、二人っきりの時間と補給を行うのであった。
漸く愛する妻の手料理と心休める時間を取り戻し、寝具コーナーのダブルベッドで眠っていたが……
自分にだけ向けられる、妙な魔力反応を直感的に感じ取り目が覚めた。知らない天井、見知らぬ部屋。
恐らく自分達以外に使う者はいないであろう沢山のベッド。そして──右隣で安らかに眠る桔梗。
裸の体を起こし、まだ深い眠りにいる彼女の頭を左手で優しく撫で、ベッドから降りる。
(この感じ──親父……だよな?)
(えぇ。器用な起こし方をしてくれるものよ、本当)
(久シ振リニユックリト休ミ、補給モ出来タ。全快ニハ程遠イガ、アル程度ハヤレルダロウ)
ゼロ達も感じ取っていた様で各々喋る中、自分は下着や衣服を次々と着用し。
ベッドの左側に置いた円卓。其処に被せた普段着ているロングコートを掴み、袖を通す。
使える装備は召喚可能な恋月・朔月と破王。スーパーで見付けたパチンコと大きくて長い輪ゴム。
を組み合わせたスリングショット、ストッキングに砂の重りを入れた簡易版ブラックジャックと縄。
普段使っている物も組み合わせや場所等の条件次第で、殺人武器や爆薬に早変わり。恐ろしいモンだ。
「魔力が少なくなったら二種のスリングショット。近接に持ち込まれたらブラックジャックと縄……よし」
(下級の魔物風情なら、これでも十分な殺傷力はあるんだよなぁ~)
(スリングショットノ所持ハ銃刀法違反ニ該当シナイ。反面、射程ト命中精度ハ使イ手次第……カ)
(確か、人に当たるとアザが出来る威力よね。今回持って来た縄も、投擲物固定用に弄ってるけど)
縄はコート内のお腹に巻き、ズボンの左ポケットにブラックジャック、スリングショットが左後ろ。
緊急用武器の位置を左手で再確認。失った右腕は絆達の援助無し状態でスーパーから外へ出れば。
前を向く視線の先には融合四天王・ブレイブ改め、紅心の姿が。ただ、此方と相対する様子は無く。
かと言って両手を上げて降参、または戦意はない。と言う意思表示も見せない辺り、食えない奴だよ。
「おはよう。今日は良い天気だし、少し話をしないか?」
「…………分かった。此処から少し離れた場所に公園が在ったから、其処でもいいか?」
能ある鷹は爪を隠すとは言うものの……紅心は爪を隠すどころか、猫まで被ると来た。
龍神なのに猫を被るとはこれ如何に?いや、被ると言うか纏ってるのは機械の体なんだが。
何気無い挨拶、流れる様に対話を誘われ。即答はせず気持ちを整理する為にわざと間を空けてから。
承諾をしつつも、場所は此方が指定。返答に笑顔と一度だけ深く頷き、自分の案内に付いて来る。
「いやはや。こうしてゆっくり親子水入らずで話すのは久し振りだ。幻想の地で死んで以来だな!」
「アンタの肉体は……あの時、死んだのか?それとも」
「あの時だね。政略結婚で雌の龍神に強姦され、下界へ降り霊華と出会った後だから」
公園へと歩き到着した直後、本人の性質的に素かジョークか判断つかない話題を混ぜられ。
取り敢えず──素と判断し、ある疑問を投げ掛けた。紅心は幻想の地でも、機械の体で現れたから。
すると時期的に強姦された後と言い、続けて下界し霊華と出会い結婚し、ゼロを出産した後も。
天界から自身を連れ戻そうと何度も来る遣いから、娘・紅絆の産卵を伝えられたそうな。
「一方的で……酷い話だな」
「そう酷いばかりでもないさ。霊華が命を賭けて産み、流産した子や死んだ妻、娘の絆も君のお陰で救われた」
紅一族は黒一族の呪術を受け滅びた。もう、後を継ぐ血族は存在しない。
過去の罪を今の子孫にまで償わせる行為は違う。ましてや、幼馴染みを責める行動も時間の無駄。
けれど紅心は、幼馴染みや自身の境遇を恨む様子は一切無く、自分が助けた命と行動に感謝を述べ。
二人揃ってベンチに座るも。顔を合わせる事はせず、真っ正面を向きながら話す。
「今なら……ゼロの本音をハッキリ言えそうだ」
(おいおいおい、宿主様!?それは秘密だって!こっぱすがしいじゃねぇか!!)
「何をだい?」
「…………いや、何でもない。忘れてくれ」
邪魔をする相手が居らず、決着をつける前である今しか伝えるタイミングは無い上、後悔も残る。
そう考え、当人の静止を理解した上で話題を振り、食い付いたと同時に言ってそれで終わり。
と……考えたが、自分が代弁するよりも本人の口から言わせなきゃ絶対後悔する。と思い──
言い掛けた言葉を飲み込み、左膝に手を置き勢い良くベンチから立ち上がろうとすると……
「僕達紅一族に代わり、混血の子を救ってくれてありがとう」
「──っ」
青い龍神族の大空遥達と再会し、トリックの永遠の子供達計画を潰したフォー・シーズンズでの旅で。
龍神族の過激派と一悶着あり、気付けば最終的に丸く収まっていた。それに……多分。
紅心が言っているのは──ゼロが憎悪を圧し殺してまでも助けたい!と言う為、助ける事にした。
紅一族滅亡の原因を作った親の子。自分には助ける気が無かった為、感謝の言葉が胸に突き刺さる。
「……別に、救えてない。それに自分は──」
「見捨てようとした。何故なら、心から紅一族を好いていたから」
「なん……で、それを」
だからか。彼に振り向く事さえしないまま、やり場の無い気持ちを懺悔の如く吐き出す。
続く言葉を言い切る前。自分は何を言っているのだろうか?と疑問に思い、途中で止めるも……
紅心は続く言葉を言い当てた上、心の内側までもを的中させ、思わず振り向く程に此方を驚かす。
例え本当の両親じゃないとしても。紅一族は……彼や霊華は、ゼロと共に過ごし、愛してくれた存在。
紅絆とも戦友兼恋達同様伴侶的な関係。自分は……愛するモノを傷付ける存在を、決して許さない。
「君が大切な存在や仲間に向ける愛は──諸刃の刃過ぎる」
(……ホウ)
「子供達や妻を見護る優しい愛であり、護る為なら支配すら厭わない。確かに、時には必要ではある」
「…………」
此方の心情を見抜いた様に、的確な言葉を投げ掛ける。けど……決して押し付けなんかじゃない。
親が子供に教え伝える様に優しく、それでいて、自分のやり方を真っ向から否定するのではなく。
時には必要だと、部分的に肯定する。まるで──本当にこの方が、自分の父親だと思えてしまう程。
だからだろう。敢えて途中で口を挟まず、言い終わる最後まで耳を傾けようと思い、待つのは。
「Love does not dominate; it cultivates」
「ラブが愛で、ドゥーズは……?」
突然英語で喋られ、聞き取り理解するのに脳が追い付かず唖然とする中。
此方の状況を理解し、見かねた霊華から「愛は支配しない、愛は育てる」と教えて貰い、漸く納得。
すると……笑顔のまま二度頷く辺り、理解するのを気長に待ってくれていたらしい。申し訳ない。
「僕達、紅一族と同じ道を歩んでもいい。けれど、決して……同じ轍は踏まないでくれ」
「同じ……轍?」
「紅一族は愛したモノを支配して来た。それは有機物無機物問わず。故に恨まれ、呪われて滅びた」
「──!?」
タイミングを見計らい、開かれた口から放たれた言葉は……頭が理解をするも、思わず聞き返す内容。
彼を視る左眼が、紅心の過去を勝手に覗き視たその光景は──フォー・シーズンズのスピラ火山。
其処で住む龍神・紅一族は皆、何かを大切そうにしている。それは家族であったり、金銀財宝等々。
でも……他種族や誰かのモノすら愛した者も居て、誘拐や窃盗まで犯し、持ち帰る始末。
良くも悪くも。人類と遜色無い精神性を持つ個体も存在していて、正直視ていて心が痛い。
「同族に絶望し、下界へ降りる決心をした時。僕はマジックと出会い、彼女達の計画に賛同して仲間入りを果たした」
(私と出会う前から……四天王入りをしてたって事?!)
衝撃のカミングアウトに驚く自分達。特に妻である霊華には大層衝撃的だったらしく。
告白された今ですら、信じられないと言った表情。何故か……納得している自分に気付く。
痛みを伴わない経験は身に付かない考え故、賛同と仲間入りは当然の結果と認識し、疑問はない。
「つまり──『愛で育てる』と言いたい訳か。何とも遠回しな言い方、やり方だな」
「霊華にもよく言われたよ。けれど……僕は恥ずかしがり屋でね。本心を知られるのは、物凄く嫌なんだ」
(……マジかよ。宿主様や親父も、なんでお互いにやる気なんだよ!!この戦いに何の意味があンだよ!)
左手に光が集束。愛刀・破王が召喚されるや否や柄を握り締め、両刃の切っ先を紅心の顔に向け。
先程英語で言った内容・意味を理解し、これがアンタの望む結果か。と逆に言葉で心を突けば。
両膝に手を置き、自白しながらベンチから立ち上がり、刃に臆する事無く此方へ振り向く。
お互いにやる気満々。これ以上、戦う前に語る必要無しと小さく笑みを浮かべ、後方へ距離を取る。
そんな自分達の行動が理解出来ないゼロは、何故戦うのか?と言うが、彼の答えはきっと……
「紅一族。紅心改め、終焉の闇が融合四天王・ブレイブ」
「紅一族代表こと紅貴紀改め……オメガゼロ・エックス」
戦いの中にある。紅心は機械の体を召喚せず生身で戦う気らしく、敢えて『身構えない』姿勢。
先程の微笑みは何処へやら。不敵な笑みを此方に浮かべられると、背筋に冷や汗が次々と流れる。
生身の紅心と戦うのは今回が初。戦法や技の型を含め完全に初見。逆に相手は此方の戦法はほぼ熟知。
戦いが始まる前に名乗り出し、自分もそれに乗りお互い背を伸ばし真っ向から名乗り合う。
「「今こそ、迷える哀れな亡霊達に──魂の鎮魂歌を!!」」
死者が現世に残り続ける事は、森羅万象の理に逆らう行為。そもそも、死人に口は無い。
右足を半歩後ろへ下げ、地に足を踏み締め現世に漂う迷える紅の魂達。同じ紅の血を継ぐこの体で。
父親に、一族へ捧ぐ鎮魂歌を。そんな意気込みで叫ぶが……紅心も一字一句、全く同じ言葉を吐いた。




