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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
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傷痕 -ferita che non si chiude-

 『前回のあらすじ』

 囮の四組が終焉達を引き付けている間。エリネ、シュッツ、リバイバーに救助されたエックス。

 突如現れる融合四天王・ブレイブこと、紅心。三人は戦う前に戦意を折られ、挑めど刃が立たない。

 続けて現れたサクヤとミミツだが……サクヤが偽者と見抜き、二挺拳銃で撃ちながら一同は距離を取る。

 エリネとシュッツに援軍の要請を託し、エックスとリバイバーは三騎士・ミミツ相手に時間稼ぎを挑む。



「さあ……遊びましょう?『遊べ──チェルノボーグ』」


 影の椅子から降りたミミツの足下から、横向きの楕円形に黒い影が広がって行き。

 周辺にある瓦礫やガラクタの電化製品、点かなくなった電灯、傾いて線の切れた電柱が呑み込まれた。

 代わりに刀剣類や農具等の刃物、打撃武器に使える物や棍棒等々を持つ──様々な魔物が這い出る。

 武器を『持っている』んじゃない。体の『一部が武器』と言う、融合獣を思い出させる連中が沢山。


「今のって……」


「あぁ。強者が全ての力を解放する際、自身に対して使う解言(かいごん)だ」


 目の前に広がり溢れ出る、魔物とは名ばかりの軍勢。それを生み出したミミツの言葉に違和感を覚え。

 此方に訊ねるリバイバー。己が力を解放する為の……改めて口にすると異様に長いなぁ。

 挽回を発動したのだと伝え、魔物の軍勢に銃弾を撃ち──即戦略的撤退。電気街へ逃げ込む。


「あら、最初は隠れ鬼?いいわ。シチューを煮込む時の様に、じっくりと追い詰めてあ・げ──」


 る。と言い切る前に恋月と朔月を左右持ち変え、家電店の角から右手を出し、緋色の誘導弾を発砲。

 俯瞰視点で相手の位置は見えている為、弾道は魔物達を縦横無尽に避け、ミミツの喉を撃ち抜く。

 野球ボール程の風穴が空けど、渦を描き修復されて行く辺り……文字通りの影武者には無意味か。


「早く移動するぞ。今ので位置がバレた」


「お、おう。てか……なんか慣れてないか?」


「多数を一人で相手にしてたんだ。否が応でも対策や対応は覚えるさ」


 リバイバーへ指示を出し、此処から三件離れた大型家電店を目指して走る。

 慣れてると言われたが、所詮は長い旅路と戦闘で得た経験から来る未来予測、単なる直感。

 そんな中──ふと見上げた茜空に疑問が浮かぶ。救出されてから、どれだけの時間が経ったのか。

 今は何月で何時?夕焼けを意識してから、心が落ち着かない。早く夜になれ、この時間帯は嫌だと。


「……貴紀さん?」


「リバイバー、ブレイブ。今は何月何日で、何時だ?」


「今は──十月二十日で、午後六時……あれ?秒針が止まってる」


「僕の時計も逢魔時(おうまがとき)、十八時から針が動かないな」


 大型家電店・一階の階段裏へ駆け込み、座って休憩がてら左手に持った朔月の銃身を額に当て、深呼吸。

 顔色が悪いと判断したのだろう。リバイバーに呼び掛けられたのを切っ掛けに、月日と時刻を聞く。

 二人の返答は午後六時で全ての針が停止中。どうやら、最悪の予感は的中してしまったらしい。

 地獄を見るのは自分達か、それとも影の魔女か。何はともあれ、時間を稼ぐ行為は無意味となった。

 となれば──ヤるしかない。境界線を越えられる前に。影が……深い闇に飲み込まれるよりも早く。


「前言撤回、猶予がなくなった。祟る前に対処するぞ」


「…………『待て』、は出来そうかい?」


「無理だな。前の戦い(終焉&闇納戦)で相当気が立ってる。下手すりゃアンタは『取り込まれる』側だぞ」


 戦略的撤退と猶予が無くなった今、祟りを行う前にミミツの影武者を除去する必要が出た。

 ブレイブから『待て』が可能か聞かれるも、出来なければ『取り込まれる』側と指摘すれば……

 「ははっ!!それは違いない」と大笑い。隣のリバイバーへ「君へ助言を送ろう」と耳打ちを行う。

 何を耳打ちされたのか。リバイバーは必要な物を集めてくる!と言い、二階へと駆け上がって行く。


「何を耳打ちしたんだ」


「いや何。僕は『お友達』が喜ぶ方法を教えただけさ。ほらほら、話してる内に来たぞ?」


 何を話したのか聞いたら、自分の『お友達』が喜ぶ方法を伝えたとあっけらかんに話した上。

 此方の質問から逃げる様に話題を逸らし、店の出入り口へ右手親指を突き立てて言う。

 俯瞰視点で見えていたが……此方を慎重に探す様々な魔物達が、店裏のゴミ箱まで調べてたり。

 外側から店内を覗き込み、此処も調べるぞ。的なジェスチャーを行い、一匹ずつ慎重に入って来る。

 ……何を持ってくるかは兎も角、リバイバーはほぼ丸腰。二階へ行かせたら殺されるのは明白。ならば……


「──!?!?」


(友の為に危険を省みず注意を引く。あぁ……très bien(トレビアン)!!なんと美しい友・情・愛!)


Verzeihung(フェアツァイウング)!!何度も言っているんですが、また兄様の感情が爆発して……)


(何を言う、我が妹よ。友・マキナが我ら兄妹の為作りしParfait(パルフェ)!!な恋月と朔月の美しさ!)


 階段裏から飛び出し、二挺拳銃で小鬼達の頭や喉を次々撃ち抜く。発砲音と被害を受け、集まる後続。

 恋月が自分の行動を友情と認識し、天を仰ぐ様に右腕を上げ、フランス語で素晴らしいと賞賛。

 それに対し朔月はドイツ語でごめんなさい!と此方に謝罪する様左腕も下がる。……照準がブレるな。

 騒ぐ兄妹曰く、恋月と朔月は元々マキナがドゥームからデトラ強化案を受け、製作した一点物。

 左足が勝手に動き、上半身は前に倒れ背後に迫る無貌の悪魔の顎を蹴り上げ、頭から天井へ突き刺す。


(カーリ、タース!デトラの邪魔をするな!!我らの力を集結させ、王の悲願を果たす為にも)


tout a(トゥタ) fait.(フェ)!我が美貌の輝きにて、悲願への道を照らそうではないか!)


(輝きって……私達は世界を閉ざす闇。けれど、えぇ。Luca(ルカ)の立場も……時には良いですね)


 ブーツにジャッジが宿っており。両手に持つ兄妹へ注意しつつ、撃ち損じた魔物達の顔を蹴り抜く。

 確かに!と自らの非を認め、ナルシスト全開な発言で闇側の奴が道を照らす云々と述べるカーリ。

 それを指摘するタースだが……闇が光をもたらす者の立場でも良い、と嬉しげな声で発言。

 兄妹は此方の四方を包囲した魔物達へ自身の意思で、恋月(誘導弾)朔月(連射弾)が互いの隙を埋める。


「さぁ、僕達に魅せてくれ。君達が紡ぎ、後世に伝え、残すべき物語(ストーリー)を」


 倒された魔物達は黒い影となって溶け、体の一部と化した無機物部分だけが音を立てて落ち。

 上の階から駆け降りる足音に全員の注意が向けば、大小の懐中電灯を両手に抱えたリバイバーの姿が。

 周囲の魔物達が動きを止めたのを見て、自分でも何を思ったのか──屈んで二挺拳銃を両足首に装着。

 装着出来んの?!ってツッコミは後にして、落ちている丸ノコを素早く右手で拾い。

 その場で右側へ一回転。ルシファーを糸に放てば、殺人ヨーヨーと成り敵だけの首を跳ね飛ばす。


「……パッと見、今ので最後か」


「すげぇ。やっぱり、俺が付いて来る意味は無かったな」


「──!!」


 体が溶解し、影となり消える魔物達。店の中へ入り込んで来た分はパッと見で全部倒し安全を確保。

 途中まで下っていた階段を降りて此方に近寄り、二階で集め、抱えている物を見せてくれたが。

 懐中電灯だけじゃなく、携帯電話もチラホラある。その時、リバイバーの薄い影が揺れ動く姿が見え。

 思わず彼の左肩を右手で掴み、右側へと引き離した瞬間──影から伸びる左手が自分の右手に迫り……


「に……逃げるぞ」


「お、おう!」


 掴まれた途端。右腕は影に侵食され始め、付け根に届く寸前、ゼロ達が切断&止血し被害は最小限に。

 けれど対抗策を見付け、考え付く前に見付かった。今戦っても勝ち目はポテチ以下の薄さしかない。

 戦略的撤退。ミミツの嘲笑う声を背に受け、大型家電店より逃げ出し夕焼けの街を走る。

 魔力・霊力の回復に専念しようにも夕日の太陽光では弱く、逆に止血に使う霊力の消費は大きい。


「貴紀さん、意識はあるか?!」


「あぁ……てか、両手に抱えてた物はどうした」


「あんな物より人命が最優先だろ!持ち堪えてくれ、薬局を見付けてガーゼとか包帯を……!」


 少し、意識が飛んでいたらしい。彼に呼び掛けられ、意識を取り戻し応答に答えつつ疑問を投げれば。

 物より人命と言い、此方の左腕を自身の肩へ回し、空いた両手で支えてくれている様子。

 折角集めてくれた、ミミツ攻略に使えるやも知れんアイテムの数々を手放すとは……申し訳ない。

 薬局を探すと言った矢先、足が止まる。何事かと思い顔を上げ、正面に視線を向ければ……


「うふふ。今度はちゃ~んと見付けましたわ」


「マズイ。貴紀さんは右腕を失うし、ミミツの攻略法も……まだ見付かってないのに」


「次は右腕だけ、とは言わず。全身を変貌させてあげますから、ご安心を」


 此方を向く壊れた電灯の影が盛り上がり、ミミツが現れると奴は胸元で両手を叩き。

 此方を見付けたと発言。横目でも分かる程にリバイバーは冷や汗をかき、独り言を呟く。

 先程は蜥蜴の尻尾切りで助かったが、そう何度もやれる方法ではない。文字通り、身を切る戦法。

 それを示す様に、コートの右袖口から滴り落ちる赤い液体。今度は間違いなく、全身を持って行く。

 隣に紅心もいるけど……戦闘に参加する様子も無く、ただ結果を見守る立場なんだと判断。


「貴紀さんの相棒、サクヤさんが居てくれたら……もしくは駆け付けてくれれば!」


「それは無理と言うもの。彼女は今頃、海の底で深海魚のディナーになっていますもの」


 彼は最後の頼みとばかりに、サクヤの救援を求め口にするも……ミミツに現実を突き付けられ驚愕。

 ご都合主義宜しく、助けは来ない。そんな事は彼女達の戦いを過去視で見た以上、分かり切った話。

 小声で此方へ「逃げれるか?」と問い掛けつつゆっくりと後退るリバイバーに迫る、ミミツの影。

 打つ手無し。多分、彼はそう思い目を瞑る。そんな絶体絶命の危機に──時が止まる。


「ねぇ。この街を見て、どう思う?」


 止まった夕焼けの中で白いお面を被り、黒衣を纏う少女……いや。夢現が此方へ問い掛けながら近付く。

 どう思う?と問われても、戦争等の被害地としか言い様がない。顔に出ていたのか、夢現は頷き──


「そう。この街は国が国民に嘘を吐き続けた傷痕。CO2・温暖化。実はテレビが言う程、深刻じゃない」


「まあ……テレビや新聞とかは偏向報道で市民に嘘や、自身らに都合の良い片寄った情報を与えるからな」


「世界中には沢山の傷痕がある。故意・自然・偶然・人為的──目に見える、見えないに限らずね」


 夢現の言葉は世界中でよくある話。私腹を肥やし、自身の正義を押し付け、利用する為に嘘を吐く。

 敢えて米が無い場所へ行き、米不足と大袈裟に伝え市民に不安と混乱を与える事など日常茶飯事。

 会社を撮影する時は撮す場所だけ無駄に人を増やし、見映え重視で嘘偽りを平然と報道。

 世界中には数多の傷痕がある。悠久の時を経て自然に成った物から、虐め殺人誘拐による被害もそう。

 自他共に気付く・気付かないに限らず。立ち尽くす夢現の前に、此方を向いて泣く子供が一人。


「君は──どうする?過去の傷痕を切り捨てるか否か」


「……そんなモン、()うの昔から決まっている」


 動かないリバイバーから離れ、千鳥足のまま泣いている子供……違う。虐められ、家を放り出され。

 誰かに助けを求める勇気も無い過去の自分へ近付き、屈んで残された左腕で自身へ抱き寄せる。

 手放したり、相手を恨み・憎しみ続けるのは容易い。一番大切なのは……自分や他人の失敗を許す事。

 この世で無限のモノは『宇宙と人間の愚かさ』、『世界を支配する三つの力は愚かさ・恐怖・貪欲』。

 弱い人は復讐し、強い人は許し、賢い人は無視をする。その意味は生前に理解し、実行して来た。


「全ての経験と体験を受け入れ、理解し前へ進む。それが──自分の生きる道!」


 嫌な記憶や辛い体験も、反面教師にすれば自分の力になる。幸せは形を変え、周りにお裾分け。

 だから自分はこの旅を通じて強くなれたし、限界を受け入れてもっと高く跳べる様にもなった。

 大切なのは──体験や経験、見聞きする情報どう受け止め、俯瞰的に理解出来るか否か。

 人間は自身の都合が良い様に受け止める傾向にある。その点を理解し、改善出来たなら……きっと。

 治らない傷を受ける被害だって、少しずつ減って行くと思う。怒りとは、近付く行為だから。



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