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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
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密偵 -Pretender-

 『前回のあらすじ』

 エックスが捕まれている場所から西方を過去視、俯瞰視点で覗けば……サクヤと無月闇納が対面する港へ。

 お互いに言葉を交わす中、擦れ違う認識と誤認。闇納はエックスを救う為に、副王達は終わらない物語の為に。

 闇納の実力・心の強さ。それを理解し、痛感したサクヤは鋭い一撃を受け──海へ転落。

 生存フラグをへし折る様に、転落した場所へ駄目押しに撃ち込み、部分凍結して浮上を阻止したのであった。



 目を瞑り、神経を集中させて三ヶ所の戦闘を眠る様に視た為か──近くで鎖が鳴る音に遅れて気付く。

 目を開けば右腕側を人喰い妖怪の桔梗が、左腕側を蜥蜴人の勇者・シュッツが鉄鎖を解かんと苦戦中。

 俯瞰視点では四組以外、救出部隊は見当たらなかった。背後……足側から電動工具で鎖を切る音が響き。

 両腕両足の鎖が解け、漸く地に足を着け自由の身になり助けてくれた面々に視線を向け──


「ありがとう、助かったよ。R、シュッツ。それに……エリネ」


「まあ、普段貴紀さんには助けられてばっかだし。こう言う時位はな」 


「生まれて初めて海を泳いだのが……塩ッ辛くて喉が酷く渇く。やはり泳ぐ時は川に限る」


「ご主人ちゃま、救出が予定よりも遅れてちゅいまちぇん!」


 頭を下げ、礼を述べる。三人が喋る最中、勝手に両眼が三人の過去を俯瞰視点で視る。

 どうやらオラシオンとトップ勢が居る北北東と東北東、この二ヶ所から遠回りをして東南東へ向かい。

 海を経由し此処へ辿り着いたらしい。視覚的な問題はエリネのスキル・屈折を。

 探知は桜花達が隠し持つ撹乱機が妨害。機動力に劣る二人をシュッツが抱え、海を潜り到達した様子。

 よく見なくても三人共……髪や衣服、体がずぶ濡れだ。救出が遅れたと謝られるも、謝られる必要はない。


「男子、三日会わざれば刮目して見よ。とは言うが……長らく直接逢わないのも、それはそれで問題だな」


「アンタは──」


 鉄製シャッターが開き夕焼けの空とある人物が見え、その姿と声から思わず「アンタ」と呼んでしまう。

 本人が言う通り、直接逢うのはどれ位前か。その姿と声で……と限定すれば、MALICE MIZER。

 あの海を攻略しムピテ達、海底代表と会議を行った時以来か。そう考えると、大分逢ってない。

 そう。ヴォール王国の国王にして母、霊華の旦那である紅心。探知・感知能力も、本人と証明済み。


「アンタ……か。もう長い事直接逢ってないんだ、そう呼ばれても仕方ないな。ハッハッハ!」


「いや……それで良いのかよ。国王なのに」


「構わんさ。我が子らを信じて旅に送り出した挙げ句、危機に救いの手すら出せない愚夫(ぐふ)だしな」


 胸元で腕を組み、アンタ呼ばわりを自己解釈&納得して笑う紅心。霊華が惚れる理由も良く分かるよ。

 剛毅木訥(ごうきぼくとつ)と言う言葉がよく似合う癖に、まるで雲の様に掴み所がない知略の持ち主。

 Rに息子からそう呼ばれる事にツッコミを受けるも、自身の立場と責任を重々承知した上での発言。

 自らを愚夫と言うが……自分から言わせて貰えばアンタ、少々『過保護』過ぎねぇかい?


「目の前に現れては力を試したり護ってくれた上、裏でも二重三重スパイをして自らを愚夫呼びか」


「ご主人ちゃま?一体、何を……」


「紅心。確かにアンタは嫌われる事を一切恐れない、勇敢で勇ましい──流石は融合四天王・ブレイブ」


 肩を貸してくれるシュッツにジェスチャーですまない。と示し、自分の足で紅心の前に歩みながら。

 推測や予測ではなく、確信を持って話す。その意味を理解出来ないのか、理解を拒んでいるのか。

 エリネは自身の胸に右手を当て、空いた左手を此方に向けて伸ばすも──距離は遠く届かない。

 お互い正面に捉え、約三メートルの距離を空けた辺りで足を止め、面と向かい合って言い放つ。


「ハッハッハ。流石は僕達の息子。発達障害を引き継いでいなければ、もっと早く気付かれてたな!」


「融合四天王・ブレイブだと?!貴紀殿、下がられよ!病み上がりの貴殿では……」


「よい、シュッツ。今『俺』は、我が子と久し振りの会話をしているんだ」


「っ…………は、はい。失礼……しました」


 看破した直後、ポカーンと間の抜けた顔をしたと思いきや。突然笑い出し、生前の持病まで口にする。

 本当に何処まで知っているんだか。敵と認識したシュッツが足早に自分と紅心の間へ出て。

 手にした槍を両手で構え、顔だけを此方に向け心配する──刹那。彼の左隣に紅心が既に居り。

 右手を肩に乗せられ、何気ない言葉と視線がシュッツの……戦士としての心を容易くへし折り、跪かす。


「こ、国王しゃまが……融合、四天王──ブレイブ?」


「そうだよ、エリネ・フィーア。それと……対話の時に首を狙うのが、君の国でのマナーなのかい?」


「刃が──ッ!!」


 衝撃の事実に動揺が隠せないエリネは、怯えながら一歩ずつ後退。当人にその気は無いのだろうが……

 自分の横を通り抜け。肌に突き刺さる痛みは極寒の地を、肌が焼ける雰囲気は真夏を超え。

 その光景は盗人を睨む龍そのもの。助けようとしたRが左横から刀を振るい、首へ斬り付けるも──

 鉄の刃は薄皮一枚も切れず、皮膚の強度に敗けて砕け。左人差し指一本で軽く顎を上に跳ねられた。

 次の瞬間。オーバーリアクションも同然に後方へ真っ直ぐ吹き飛び、壁に背中から激突。


「おっと……君は常人レベルの肉体強度しかないのか。もう少し、力加減をするべきだったね」


 するよりも速く壁側へ回り込み、自身が吹っ飛ばしたRを両手で受け止め、力を出し過ぎたと謝罪。

 気付けに左手の指先で背中を軽く突つき、意識を取り戻したRは慌てて起き上がり此方側へと駆け寄る。

 そんな彼を見て、手加減ならぬ力加減が足りなかったと発言。いや、まあ……どちらも同じ意味か。

 内心自己解釈した時──女の子が小さく笑う声が聞こえ辺りを見渡すも、他に誰もいない。


「……?」


「さあ、早く此処から出よう。救出された事にいち早く気付く連中は、もう勘付いているだろうし」


 不思議に思う自分の前に、白装束を着て白虎のお面を被る子供が現れた。久しく感じるも……

 何も語らず、ただ此方を見つめるだけ。その意図や意味が理解出来ず、思わず首を傾げる。

 他の面々には見えていない様で、倉庫からの撤退を進言する紅心と……それに続いて行く三人。

 一人取り残されても、子供は何も言動を取らない。溜め息を吐き、仕方なく横を通り抜ける時──


「大丈夫だよ。お兄ちゃん」


「──!?」


 女の子の声で、此方へ振り向く事も無くそう呟いた。知らない声の筈なのに、何故か──

 直感はこの声を知っている、忘れてはいけない!と強く訴え思わず振り向くも、子供の姿は無い。

 幽霊?それとも幻覚や幻聴?疑問は幾らか浮かべど、答えは出ない。もしかしたら……

 そんな熟考も自分を呼ぶR達の声に引き戻され、駆け足気味に走り、倉庫から脱出し夕焼けの下へ。


「そうだ。終焉や闇納、ミミツに敗けたみんなを助けないと」


「それは心配しなくても大丈夫」


「あ──」 


 海を見てサクヤの転落や、仲間達が敗北した事を思い出す。助けないと──そう口にした時。

 右側から女性の声が聞こえ、一同が一斉に振り向く。その人物の姿を見て、Rは口を開き一言。

 黒いドレスに細く長い足。ポニーテールにした黒い長髪で……無貌の女性が此方へと歩み寄る。


「無事だったんだな、サクヤさん!」


「えぇ。間一髪、瞬間移動が間に合ってね。さあ、早く他の救出部隊や待機組とも合流しましょう」


 余程嬉しい様で。Rは食い気味に話し掛け、返答する相手は此方の仲間達との合流を促し。

 こっちだ!と我先に駆け足で先行するRと、転けそうになりながらも追い掛けるエリネ。

 ……確かに、一刻も早くこの場所から離れる必要がありそうだ。白縹(しろはだな)色の霊力が近付いてる。

 港を駆け抜け、崩落した電気街へと戻って来た。合流地点へはまだ幾らか、距離があると思考した時。


「──!」


「貴紀ど……?!」


「ご主人ちゃま?どうちゃれまちた──!?」


 自分の背後から首に触れる黒い左手、不気味な笑みを浮かべる顔の無い悪魔を感じ取り、振り返ると──

 三騎士にして影の魔女・ミミツの姿が其処にあった。やはりと言うか、ゆかり達と戦って傷一つ無い。

 MALICE MIZERやnever(ネバー)land(ランド)計画の際等にも戦ったが、実体を掴まない限り倒しても無駄。

 此方の視線に気付き、振り返る一同。余りにも速い到着、追跡に驚きが隠せないシュッツとエリネ。


「そちらの救出計画が二段構えなのは既に把握済み。当然ながら此方の計画も、二段構えですわ」


「っ……新月殿が予想した通り、此方に密偵が居たとは」


 此方に右手を伸ばし、救出作戦の内容は全て把握した上で対抗策の計画を立てていたと話すミミツ。

 しかし動揺が少ないのは、サクヤが事前に密偵の存在を見破っていた為らしい。

 では何故看破済みにも関わらず、何も手を打っていないのか?その意図を直感的に理解した後──

 素早く右手をコートの内側へ突っ込み、漆黒の拳銃・朔月を引き抜き、右隣に居る奴の頭を撃ち抜く。


「た……貴紀さん?!」


「喚くな。そしてコイツ等を視界に捉えたまま距離を取れ」


「即断即決。仲間や家族の危機には躊躇いを覚える前に動く。実に見事だ」


 地面に横向きで倒れた姿を見下ろせば。今度は左手で純白の拳銃・恋月を抜き、倒れた相手へ連射。

 容赦無い行動に引きつつも、此方に呼び掛けるR。周りの面々にも注意喚起を行い、自分も後ろへ移動。

 魔力弾を受け、幾つもの孔は空くが──右眼は効果無しと断定。此方が距離を空けるのに対し。

 ミミツは自分が撃つ存在へと近付き、這いずる黒い液体を吸い込むかの様に自身の体内へ取り込む。


「私の分身を見破るとは──流石ですわ」


「悪いな。モロバレだよ」


 一本の影が椅子を作るとミミツが座り、細く長い脚を組みながら此方へ拍手と賞賛の言葉を送る。

 モロバレとは言ったが、魔眼やサクヤとのリンク(繋がり)が無ければ見破れなかったかもな。

 二挺拳銃の銃身を奴の頭部へ狙いを定め、次の一手に注意を注ぐ。手持ち武器は……

 召喚可能な恋月・朔月と破王のみ。暗器や武具はコートを除いて全部没収済み。

 魔力・霊力も残り少なく、救出してくれた仲間とミミツの相性も悪い。拠点を知られる訳にもいかん。


「俺と貴紀さんで、ミミツを足止めする。だから、他のみんなは応援を呼んで来てくれ!」


「承知した。無理は禁物だぞ?」


「ご主人ちゃま!おらちおんのみんなを連れて来まちゅので、それまで耐えてくだちゃい」


 「自分がミミツを食い止めるから、みんなは拠点に逃げてくれ」と言うよりも早く。

 R──リバイバーが先に指示を出し、シュッツとエリネの背中を押し、二人を送り出す。

 当然……と言ってもいいのか。紅心は二人に付いて行く気配は無く、この場に残った。


「リバイバー……お前」


「二人なら他のみんなが到着するまでの時間位、稼ぐ事は出来るさ」


 何故リバイバーまで残ったのか?そう思い、呼び掛けると……一人より二人の方が時間を稼げる。

 何を根拠に言うのかさえ理解出来んし、右手に持つ刀は刀身が真ん中から砕け、折れた状態。

 ミミツの秘密を解かない限り、物理攻撃は効かん上、近接戦など自ら荒れ狂う海へ飛び込む様なもの。

 兎に角──使える物は全部使う、旅が始まった頃の戦法でやるっきゃない。



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