罪人 -Endless Story-
『前回のあらすじ』
エックス救出の為、複数隊で行動する一行。終焉に元調律者の桜花とアルファ、元ナイトメアゼノのアニマ。
生ける炎・紅瑠美の四名が挑むも……圧倒的実力差に加え、歓迎されない人物である彼・彼女らは対抗出来ず。
彼女達の意気込みでさえ終焉を苛立たせ、放たれる独り言は覗き見るエックスに、この旅の結末を理解させる。
シナナメを召喚し、完膚無きまでに叩き潰した桜花達を背に彼は──人類への憎しみを吐露するのであった。
オラシオン対シナナメ戦は双方任務達成で引き分け。終焉対トップ勢は終焉の圧勝で幕を閉じた。
改めて自分が現在囚われている場所、みんなが戦っている位置を把握してみよう。
自分を中心に……北北東にオラシオン、東北東がトップ勢、西方はサクヤで北西へゆかり達。
西南西から東南東。つまり後方は港、残りは街。こう考えると、自分は港の倉庫に囚われてる訳か。
一番心配なサクヤ対闇納の対決。西方に俯瞰視点を向けるも……姿が見えず、過去視点へ切り替える。
「貴女……どうして彼を助けに現れなかったの?」
「作戦だったからよ」
其処にはお互い二メートル程距離を空け、向かい合うサクヤと闇納。二人の姿が見えた。
片や黒刀、片や自分から奪ったと思われるフォース・ガジェットを右手に持ち、闇納が問い。
サクヤは作戦だから。と冷静に目を閉じて返答。それを聞いた途端、闇納は静かに俯く。
「……成る程。ならば貴女と言う新月を降し──私が新たなる月と成る他無さそうね」
「私達を一網打尽にする作戦と知る以上、下手な行動は無謀なだけ。この救出作戦にも戦力は必要だし」
「正解。けれど……月光すら持たない貴女じゃ、私達には永遠に勝てない」
俯いたまま呟いた後、顔を上げた。次の瞬間……頭が右に九十度回転させ、大きく目を見開いた上。
口角を大きくつり上げるとサクヤを降し、自身が新たな月になると宣言。新たな……月?
どうやら、救援や援軍が来なかったのは被害を最小限に抑え、救出用の戦力を揃えたかったらしい。
全滅を回避し、救出に全力を注ぐ。それは正しい解答であり、闇納もその選択を正解と認める程。
その上で、サクヤでさえ自身にはどれ程年数を重ねても勝てないと言い切り、不気味に微笑む。
「例え私に勝ち目がなくとも。貴女の描くEndless Storyは、必ず彼が打ち砕くわ!」
「…………くふッ。オメガゼロへ完全に覚醒させてぇ?無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!」
「──!?」
黒刀の柄を両手で強く握り締め、自分が必ず闇納の計画を打ち砕く。そう語り、笑みに対し睨み返す。
信じる意思と発言を聞き少しの間、情けなく呆けた様子で開いた口が閉じない闇納の体が震え……
俯き、我慢し切れず笑いが吹き出す。今度は頭を左に傾け、疑問符を投げ付けると。
頭の位置を縦に戻すと体は弧を描き、空を見上げ狂った様にその行為自体が無駄と連呼。
「オメガゼロへの完全覚醒。それは彼が心から大切にする『人間』の放棄!更に最も嫌う不老不死!!純化した存在は我ら、終焉の闇の餌も同然!貴女達は我々の餌を最後の希望と勘違いして育てていただけぇ~」
終焉の闇を唯一倒せる存在、オメガゼロへの完全覚醒。それは人間を棄て、不老不死……純化する事。
苦しく辛い旅路を乗り越え、支え合って成長して来れたのに……その結果が、闇納達の餌。
自分が強く拒む結果のオンパレード。なのに不思議と怒りが込み上げない。まるで──
結果を既に受け入れたのか?反対に、サクヤの表情は苦虫を噛み潰した様に歯を噛み締め飛び込むが……
「普段の冷静さは何処へ行ったのかしらぁ~?そんな力任せの素振りに当たると思う程、愚かなのかしらねぇ~?」
(何か……何か何か何か何か何か!!何かきっと、突破口がある筈!彼が純化せず、完全覚醒する方法が)
「純化とは不純物が無い状態。完全覚醒する為には、一片の心も不要。それは彼の死を意味する」
「ッ……こんな時に、ヨグ=ソトースから緊急通信?!一体どんな内容──」
唐竹から始まるも、間合いの一歩外へ下がられて当たらず、休む暇無く左足で一歩大きく踏み込み。
右へ薙ぎ払い、右肩から切り裂かんと黒刀を振るうも……風に揺れる布を相手にする様に避けられてしまう。
攻撃の手を緩めぬまま対策を考えるサクヤ、完全覚醒が導き出す結末を伝える闇納。
そんな時。サクヤが右耳に装着するイヤホンらしき小型機械に、副王から緊急通信が届く。
内容はただ一言……エックス。それを聞いた途端、サクヤの表情は焦りから一転し微笑み立ち止まる。
「立ち止まるなんて……遂に観念したのかしらぁ~?」
「オメガゼロ──それは終わりと始まりを繋ぐ者。ウロボロスでありメビウスの輪でもある」
「…………そんな当たり前の事を、今更何?」
動きを止めた行為を、戦意喪失と受け取ったのか。煽る様に再度ネットリとした言い方をするも。
サクヤはオメガゼロが、無限ループを擬人化させた存在だと言えば、闇納は肯定し何を今更と言い返す。
オメガやゼロも数字で例えるなら零──無。終わりにして始まり、永遠に円を描き続ける存在。
……そうか。自分が幾ら頑張っても意味がないとは、終わりと始まりを無限に繰り返す為か。
「改めて惚れ直しただけよ。彼の人間性、心の奥に秘めた貫く程の強さに」
「ッ……この女ぁぁ!!」
「これで計画における後顧の憂いは断たれた。後は──私自身の問題……か。意外と臆病者なのね、私」
サクヤの表情から焦りが無くなった為か、逆に苛立ちが募る闇納の顔には怒りが込み上げ。
鞭モードのガジェットを躾と称し、不満を相手にぶつけるが如く幾度も、黒紫色の鞭を執拗に振るう。
最初は威嚇と恐怖心を植え付ける為、彼女の周囲を打つ。それでも表情一つ変えない様子を見て激怒。
相手の左頬に向けて振るうが……左腕で防がれた際に巻き付き、自身を見向きもしない発言に怒りは募る。
……何故だろう?二人の感情や想いが、此方に伝わってくる。愛と恋、妥協・譲歩と固執・執着が。
「っ……貴女の気持ちも分かる。けれどそれはエゴであり、彼や周囲の事を全く考えていない」
「アンタに……突然現れては、私から彼を奪ったアンタに!!私の何が分かるって言うのよ!」
ある意味対極的な二人。サクヤは見返りを求めない大人の恋愛、闇納は見返りを求める子供の恋愛。
左腕に巻き付いた魔力の鞭を通して電撃を流され、激痛に耐えながら理解を求め、黒刀で鞭を切断。
鋭い刃の正論で相手の感情、思考を真っ向から否定し自身の正しさを押し付けるのはどうかと思う。
反対に、闇納の感情・思考も理解出来る。今まで隣に居た好きな相手の横に突如現れ、奪われる嫌悪感は。
が……好きな相手の物語を永遠に見たいが為、無限の物語に巻き込む辺り──グランドロクデナシ確定。
「同じ事を繰り返す孤独に耐え切れず、自身に反発する他者を求め叫ぶ貴女の声は、彼に届いた」
「……ッ」
「けれど魔皇の声が大きく、貴女の声を掻き消した。貴女は自身の声を聞ける彼を……同族にした」
ガジェットを剣モードに切り替え、サクヤの黒刀と黒紫の刃が互いを擦る様に交え、捌き合う。
俯瞰視点で視るそれはもう、時代劇の殺陣。刃を幾度か交わし、サクヤは切っ先を闇納に向け話す。
闇納の孤独を嘆き、助けを求める声は、魔皇の声に消されていたのか。ん?ちょっと待て……
早い話、不可抗力だけど自分が闇納の声を聞けたが為に、故郷は襲われて滅んだんじゃ?
「例え悪役を演じずとも、彼は受け入れてくれる!それは貴女が一番良く知ってる筈。なのにどうして」
「……自分達の罪さえ自身で拭えず、勝手に呼び出されて代わりに拭わされた挙げ句、私を悪者扱い!」
「ッ!!」
「その癖、世界平和を押し付けて来る!!けど!彼は既に『 』の境界に居て……」
魔神王は……闇納は桜花の居た世界で召喚され人類の罪と尻拭いを押し付けられ、融合で世界平和を実現。
したらどの世界へ行っても悪者扱い。悪役を演じずとも~と言えど、本人が願っているのではなく。
周囲が押し付けているに過ぎず、まさかの黒幕が被害者サイド。こ~れ~は、世界が一方的に悪い。
彼が自分だとしても、『 』の境界に居たってどう言う事?今現在なら兎も角、あの当時に到達は無理。
闇納は鍔迫り合いに持ち込み、サクヤを倉庫のシャッターへ押し込んで自身の心情を涙を流し吐露。
「『 』の境界!?万物全ての根源にして、到達出来るのは一つの惑星に最大でも一人と言う領域に?!」
「時の揺り籠、『 』の境界。あの子は魔皇や副王に気に入られた。それは不老不死も同然」
「ちょ……ちょっと待ちなさい!どうして、それが不老不死に繋がるの?」
どうやら自分は幼少期から、直視すれば即死する奴らにトンでもない領域へ置かれて居たらしい。
魔皇が眠る時の揺り籠……恐らく其処が『 』の境界。だとしても謎が残る。何故不老不死に繋がる?
サクヤは全身に霊力を込めるも闇納の力には敵わず、左手でシャッターに霊力をぶつけて破壊。
空っぽの倉庫内へ下がり。何故、どうして不老不死と繋がるのかを訊ねる。すると……
「だから!!私が彼を殺す為、アイツらや不老不死から救い出す為に取り込み、同族にした!」
「貴女、もしかして……」
「なのに!ドイツもコイツも私の計画と真逆を行い、彼を苦しめる副王達に協力する始末!!」
話を聞く程、自分のして来た行為や思考に疑問を抱く。何故副王は自分に闇納の討伐依頼を出した?
旅を通じて理解し、成長した本当の意味。実は……真逆だった?自分は、ゴールから逆走してたのでは?
語りながら空いてる左手で魔力弾を撃ち、サクヤやその周囲に命中させ、火花や爆発を引き起こす。
「こ……ここまで強いだなんて、予想外過ぎる……」
「勘違いしてる様だから言わせて貰うけど!!無限の物語を描いているのは奴ら!」
「終焉の闇……オメガゼロ──まさか!?」
「今更気付いても遅いのよ!彼を無限と言う物語へ落とした……重罪人が!」
最後に特大の魔力弾を放ち──倉庫を壊す程の連続大爆発。爆風で倉庫の外へ放り出され。
転がり受け身を取るも相当ダメージは大きく、黒いドレスが何ヵ所か焼けて破れている。
足を震わせながら起き上がるサクヤへゆっくり歩き、近付く闇納は勘違いを正す為に口を開く。
その内容と二つのワードから、何かを理解するも時既に遅し。重罪人には処罰を!
魔力の刃でサクヤの左脇腹から右肩までを切り上げ──体から力の抜けた彼女は自ら海へ転落。
(今更……気付くなんてね。私──周りの娘達にずっと嫉妬してた。肝心な時にも、姿を見せない程に……)
衝撃的な結果、後悔の無念が胸の奥を深く、容赦無く抉ると思ったのに──表情一つ変わらない。
以前までなら……みっともなく泣きわめいて、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃなのに。何も……感じない。
それから少しの間小さな気泡が幾つも浮いてたが、次第にその数は減り、遂には途絶えてしまった。
「闇納様。三騎士・ミミツ、指示通り救出隊を叩きのめして参りましたわ」
「ハァ、ハァ……ッ。ご苦労様。ミミツ、確か水落ちや崖からの転落は……生存フラグ、とか言ったわね?」
「はい。作者次第ですが、物語だと重要人物になる程、生存フラグは高くなります」
気泡が完全に消えたのを見届けた後、乱れた息を整えてから踵を翻し、立ち去る……と思いきや。
東側を向く闇納の影が盛り上がり、三騎士・ミミツが影から現れては跪き、ゆかり達を倒したと報告。
素っ気ない労いの言葉を伝えると、特撮系統の生存フラグを思い出した様で、ミミツに聞き返答を貰えば。
再度サクヤが転落した位置に戻り、右手を頭上に掲げ──黒紫色の氷柱を生成。四角形に撃ち込む。
「光届かぬ海の底で誰にも知られず、魚の腹の中で眠り続けなさい。さようなら……私を隠す黒き月」
撃ち込んだ箇所だけが凍り付き、まるで転落した場所を限定的な氷の墓標と化した。
発言から考察するに、恐らく氷柱は海底まで届いている。その上、四角形の内部は半分だけ凍っていない。
魚は柔らかい部分から捕食する為、人間で言えば……最も柔らかい部分。目玉から喰われるだろう。
逃げようにも四方八方は凍結、仮に海底魚が居なくても水圧と闇が心身を殺す……
『オマケ』
※完全な第三者視点からお送りします。
それはサクヤ達が救出作戦を実行に移す、一日前。エックスを十字架に捕らえた、港の倉庫内での事。
無月闇納は張り付けにされ、背後にある窓から降り注ぐ光を浴びながら気を失ったエックスの隣で。
木製の椅子に座り、『絶対必見!悪役特集』と書かれた一冊の漫画本を真剣に。
小さな声で音読・復習する形で繰り返し読す途中。途中で本から顔を離し、眼の休憩とばかりに上を向く。
「成る程。冷静な状態から狂人を演じる事で相手に強い恐怖心と嫌悪感を与えれる……コトハを真似るのも有りかしら?」
悪役を演じる為、密かに現代の漫画や設定から学ぶ闇納。右隣で眠るエックスに顔を向け、微笑みながら訊ねる。
其処へ鉄製のシャッターからノックする音が倉庫内へ響くと。直ぐ様緩んだ顔を引き締め、前を向く。
すると真正面に映る自身の影からミミツが現れ、主の前で礼儀正しく跪き、闇納から「よい」と言われ顔を上げる。
「闇納様。ご注文の品をお届けに参りました」
「御苦労様。任務を言い渡した他の面々は?」
「ハッ。各自、指定されたエリアにて警戒体制で見回っております」
これがご注文の品ですと、まるで金銀財宝を扱う様に両手でコンビニのビニール袋を差し出す。
闇納が左手を向ければ、袋は自ら意思がある様に浮かび、向けられた左手へと吸い込まれて行く。
両手で袋を開き、中身を確認して小さく頷き各地へ向かわせた面々の状態を聞けば。
警戒体制は緩めず、各々仕事を行っているとミミツから報告を受け、目を瞑り安堵の溜め息を吐く。
「あの……無月闇納様?もし、宜しければ……」
「えぇ、構わないわよ。此方へいらっしゃい?」
恐る恐る、自分の醜い・知られたくない部分を吐露する様に、心と体が拒絶反応を引き起こしつつも勇気を絞り。
俯きながら、次の言葉までの間を空けながら、全てを言い切る前に主から承諾を受けたミミツは。
顔を上げ、満面の笑みで眼を輝かせて闇納の左隣へ回り、取り出された注文の品を見た時──
「義理の家族で恋愛を!の新刊第十四巻──あぁ……この日を待ちわびていましたわ」
「前巻のラストは義姉と義弟の勘違い、擦れ違いで終わってしまったものね。さあ……私達を楽しませて頂戴!」
両手で頬を挟むと歓喜の余り漫画本のタイトルと巻数を言い、心待ちにしていたと満足げに胸の内を吐き出す。
闇納も愛読していたらしく、前巻のラストが辛い終わり方だった為、新刊でどう進展するのか?
興味津々に義姉弟が向かい合う表紙を捲り、目次や短いサブタイトルから物語を連想しつつ。
ページを一枚ずつ捲り、二人揃って感情のジェットコースターへ乗ったが如く表情を次々に切り替え……
その後──読書前に防音処置が施された倉庫内では、二人の黄色い歓喜の悲鳴が飛び交っていたそうな。




