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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
338/384

抹殺 -persona non grata-

 『前回のあらすじ』

 目が覚めると、十字架に張り付けられたエックスの眼前には少年姿の魔皇が立っていた。

 何故か自問自答の解答まで知っており、魔皇は副王同様に今回も理解出来ない内容を語る。

 俯瞰視点を使用し、オラシオンとシナナメの戦いを観戦。その戦いは双方本気を出してないが、予想以上の内容。

 最強のメイド隊とシナナメの勝負は……互いに足止めが任務だった為、ドロー扱いで終了と化した。



 俯瞰と過去視点で視る場所をアニマ達の方へ切り替えた途端──思わぬ光景に言葉を失う。

 終焉を食い止める為に立ち向かったメンバーは、元調律者の頭・桜花と元右腕・アルファに加え。

 ナイトメアゼノ勢力でも指折りの強敵、アニマ。駄目押しで生ける炎、紅瑠美も挑んだのだが……


persona(ペルソナ) non(ノン) grata(グラータ)──そンな奴らに、この俺が負ける訳がねぇ」


 右側の飲食店で仰向けに倒れ伏す桜花。右足で左顔面を踏まれ、仮面に幾つもの亀裂が入るアルファ。

 車道に放置された二階建てバスの二階側面に激突し、座席に寝込む形で俯き微動だにしないアニマ。

 紅瑠美だけは何故か某犬神家みたく、ピンッと伸ばした両足を天に向け、地面に突き刺さっており。

 衣服や体に熱を受けた痕跡はあれど、いずれも軽傷。知らない言語で自身が負けていない理由を話す。


「なん……だと……?」


「無知は一生の恥なれど、盾になる。貴様らは俺達、終焉の闇に勝てねぇって言ってンだよ」


 先程の言語を理解したアルファが聞き返す。意味は分かれど、意図が分からない発言を前提に出し。

 自身ら終焉の闇に、アルファ達が勝てる道理は無いと言い放てば。顔を踏む右足を離す──

 代わりに左足でアルファの腹を強く蹴り飛ばし、前方にある消火栓に背中から激突させられ。

 意識を失ったのか。俯せに倒れ伏したまま、動く気配が全くない。嘘だろ……滅茶苦茶強い連中を一人で!?


「フンッ!……ほう?まだやる気か、生ける炎」


「約束した……今度、少年に私が食べたい料理をリクエストする。……それに──(太陽)が闇を照らす!!」


「…………チッ」


 赤い炎が終焉の背後から襲い掛かるも。振り返り様に左手の甲で弾き、少し口角をつり上げながら。

 視線の先で自身に両手を向ける紅瑠美に向け言い放ち、面と向かい合えば彼女は……

 自分と交わした約束を果たす為にも、自身が闇を照らす発言をし、正面に出す赤い炎を完全に燃焼させ。

 青い炎が分裂後。紅瑠美の周囲へ円陣を描く様に浮かび、青炎のレーザーとして放った途端──

 終焉は微笑む表情から一転。好機から無表情へ変わり、左頬と口角だけをつり上げ舌打ちを一つ。


「何も……理解しちゃあ──いねぇンだな」


 ポツリと呟く終焉の右眼に細く鋭い──槍の様な青炎が迫り、今直ぐにでも抉り焼く直前。

 完全燃焼中の炎は跡形も無く消えた。いや、違う。炎を視た右眼に『飲まれた』と直感的に理解する。

 驚く彼女が構えを緩めた刹那。明るい晴天の下、全身が黒に染まった終焉の深く紅い眼が揺らめき。

 闇の炎を纏わせた左手で紅瑠美の頭部を左側面から掴み、地面へ強引に押し付けつつ滑り。

 身を翻し、桜花が倒れている飲食店が集うビルへ投げ込み……豪快に割れる硝子音と共に右向けに倒れた。


「愚者は群れて馬鹿に成り、賢者は一人を選び自我を得る。義弟(貴紀)──お前は何故その先まで行った?」


「取りました……の」


 愚者は群れて馬鹿に成る。子供や大人でも大抵は体験したり、第三者として見聞きする悪循環の一つ。

 誰かの発言に意見を出せなければ、仮に意見を出せたとしても。発言者が圧を掛け、潰せば意味がない。

 それは虐め(犯罪)が与える印象と同じ。止めれば今度は、その矛先が自身へ向かうかも知れない……

 不安・恐怖心が無言の圧力として視聴者を萎縮させ、哀れな愚者を鼠算で産む。

 空を眺めて語る終焉の背後を取り、小さく呟くアニマ。右手に持った日本刀で首を一刺し──


「──!?」


 する筈が……動かない。いや──動けない。主に従い、触れない様渦巻く黒龍が敵対者を睨み、見下す。

 まさしく蛇に睨まれた蛙。内側から際限の無い恐怖心が沸き上がり、心身を支配。動きや思考を奪う。

 ……違う。奪われたのは動きだけ、思考は無慈悲にも許された。不安と恐怖を掻き立てる調味料(スパイス)として。

 一、終焉に気付かれ対策を巡らす。二、自身へ視線が向き眼が合う。三、好意や友好すら微塵も無い。

 赤子へ向けられる人工的(無関心)微笑み(作り笑い)が──最大級の警報(死の予感)を心に鳴らす。


(駄目……死ぬ。私……今、彼に殺されてします……の)


「…………哀れだな。殺される価値すら、自ら失うとは」


(た……助かりました……の、ね……?)


 声は無い。それでも、表情から読み取れる。今死ぬんだ……今殺されるんだ!許された思考が死を悟り。

 彼女は恐怖の余り──その場へ座り込み、薄黄色く温かい液体を漏らし、円の面積を広げてしまう。

 そんな痴態を演じてしまったアニマを彼は、トイレに間に合わなかった子供を哀れむ眼で見下し。

 飲食店一階で倒れたままの桜花へと歩いて向かう。許された……助かったと認識し、安堵した瞬間。


「──」


 彼女の首が、無慈悲に高く飛ぶ。声は出ない、されど意識はある。回転しながら落ちる生首。

 視界に映る圧倒的強者。歓迎され(ペルソナ )ない人物(ノン グラータ)たる自身達は、絶対に勝てないと理解する。

 硬いコンクリートの上に頭が落ち、無惨に転がる。そう……自分の『左眼』とアニマは認識した。

 反面、第三者とも言える『右眼』──俯瞰視点は終焉が背を向けた後、自ら俯けに倒れる彼女を視認。

 レベル等と言う表現ではなく……ミジンコと宇宙で背比べをする程に実力や存在感も、次元が違う。


「俺の戦闘データ収集と応急処置は済ンだか?桜花」


「っ……それを見抜いてて、今まで見逃してたって訳?」


「必ず人類は罪を繰り返す。神々は怒り天界と下界にラッパの音が鳴り響き、天使が舞い降りる」


 倒れ伏した桜花の前に近付くと……彼女の狸寝入りと情報収集。その二つを既に看破済みらしく。

 話し掛け、返答され、また返す。第三者から見れば、会話のキャッチボールは成立──

 してる様に見えるだろう。けど違う。彼は押し付け、彼女が受け取り投げ返す……けれど。

 終焉は返されたボールを無表情のまま避け、『自分』に教え聞かせる様に独り言を呟く。


「神は知恵の実を食し悪魔と成った人間を忌み嫌い、楽園から追放。天使を下界へ送り込み、鏖殺する」


「独り……言?」


「しかし天使は一人の悪魔に惚れ、神々の怒りにより追放を受けた。奴は悪魔を求め、手を伸ばし眠る」


 何故か物語を語る言葉から耳を離せず……知恵の実、悪魔と成った人間、楽園追放、天使。

 気になるワードが幾つか出てきて……思わず、自身(オメガゼロ)を指した内容じゃないかと疑ってしまう。

 天使が悪魔を求め手を伸ばし、眠る。聖書にでも出そうな、禁忌を示しそうな言葉選び。

 少し間を空け、口を開き呟いた言葉──『sin again』。その意味(忌み)を理解した時、全てを察した。

 あぁ……この旅はOpen-(開かれた)ended(結末)、メリーバッドエンドなのだと。


「天使は人類を鏖殺し、悪魔の再臨を求む。それを阻止する為に──オメガゼロの抹殺が必要なンだよ」


「例えその話が本当だとしても……魔神王が目覚めれば、全てが融合されて終わるのよ!?」


 思い出した。ヨハネの黙示録やアバドンが現れる前の出来事も、天使が人類を鏖殺する為の……降臨。

 けれど、悪魔の再臨を求むって?何故人類鏖殺が悪魔再臨に繋がる?無教徒なら、そう考えるだろう。

 恐らく──キリスト教の再臨と掛け合わせている。世界終わりの日、キリストが再び世に現れるのを。

 キリスト教で言えば、オメガゼロ抹殺はイエス・キリストの抹殺。考察する中、桜花が起き上がり。

 真っ向から掴み掛かる……も、身長と腕の差で終焉の左手が彼女の顔を鷲掴み、強引に寝かし直す。


「魔神王は俺が義弟の序でに抹殺する。何故なら──報われない恋程燃え上がり……失恋(呪い)もまた、世界の全てを憎む程に深く大きい」


 ……圧倒的、一方的過ぎる決着だった。幼稚園の演劇に、プロが入り主役を喰い尽くす様な暴挙。

 瓦礫と言う寝心地は硬く、凹凸が酷く平らですらないベッドへ強引に寝かし付けられた桜花は──

 後頭部から赤く、粘液性のある液体を後方へ撒き散らし、手を離された顔に生気は無い。

 怒りと焦りを帯びた真剣な眼も……今や白目を向き、返答していた口も、硬直したまま動かない。

 何も知らない第三者が白目のビスク・ドール、アンティーク・ドールと言われれば……納得する程に。


「暗雲?それにアレは……石ころ(超巨大隕石)か。さて──説明して貰おうか?『シナナメ』」


「此処は……私は、あの隕石をぶつ切りに斬り刻んだ……筈」


「成る程。ルシファーとの戦いを切っ掛けに、腕は上がってる様だな」


 時刻的にオラシオンの琴音が超巨大隕石を召喚、シオリの転移陣で遥か遠方へ飛ばした辺りか。

 左手を横に伸ばし、横向き逆五亡星の魔方陣を展開。エレベーターの如く下から上へ移動すると。

 シナナメが左隣に転移され、説明を求め話を聞くが……シレッとあの隕石を斬ったと言う。

 彼女の成長を認めている所に、隕石落下の衝撃波が遅れて二人を襲うも──

 終焉が迫り来る衝撃波を睨んだ次の瞬間……文字通り消えた。車を容易く吹き飛ばす、あの衝撃波が。


「申し訳ない……足止めは成功したが、オラシオンは倒し損ねた」


「別にいい。寧ろあの連中を相手に足止め任務を任せれンのは、三騎士ではお前しか居ねぇ」


「……ハッ」


 跪き頭を下げ、任務達成・討伐失敗を報告。しかし討伐失敗は責められず、任務達成を褒められ。

 自身にしか任せられない。その発言から恐らくこれまでの単独、三人での任務を思い返す彼女は。

 どちらに高い成功率、安定性があるかの有無を問う。多分だが……前者だと、自分は思う。

 三騎士全員で襲われた時、連携する素振りすら無く。単独時の動きは良い意味で予想外なモノが多い。


「罪と過ちを絶えず繰り返す人類なンぞ……宇宙の闇に消し去る方が世の為だ」


 桜花達を倒し、立ち去る終焉と同行するシナナメ。義兄さんの言葉は正しく、同時に間違いでもある。

 とは言え……結末を理解した身としては、義兄さんの計画が一番救済の意味を成している事も事実。

 人は愚かで狡猾。息を吐く様に嘘を吐き、相手を利用して裏切り、切り捨てる。これが紛れもない現実。

 ならば、人類など滅ぼしてしまえば良い。いずれは当然の様に宇宙へ進出し、罪と過ちを広げるだけ。

 そんな事……端から分かってる。それでも護りたいんだ。大切な仲間や家族が居るこの世界に──救済を!



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