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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
337/384

視点 -oculis-

 『前回のあらすじ』

 エックスが目を覚ました場所は、例の映画館。上映されていたのは、彼が生前生きていた幼少期から大人の時期。

 けれどそれは華やかしい記録ではなく、苦痛と恥辱の泥にまみれた物。人が見れば、笑い話かも知れない。

 途中トイレで上映会から抜け出し、過去を折り返し見せられたストレスで便器に難度も吐き出す。

 真実を自ら理解して再三吐き、体力を酷く消耗し深く眠る中でも……過去の言葉に苦しめられるのであった。



「他人に理解を求めてはいけない。理解とは相手側と自身で問題の内容が違うから」


 目が覚めると目の前には──フードを深々と被り、コートを着た少年。改め、魔皇が居た。

 視線を動かし、周囲を見る。何処かの倉庫らしく、二階にある背後の窓から光が差し込む辺り。

 時刻は午前中と予想。光は差し込めど、周囲が凍り付き、一定温度に保つ冷凍庫状態。

 恐らく自分がエネルギーを取り戻し過ぎず、生存可能なギリギリの温度に調節されているのだろう。


「何を受け入れ、拒むかを決めろ。自分を偽らず、自身の気持ちには素直になるべし」


「……それを、どうして君が?」


「これは君が生前、瞑想で自己対話を繰り返して見付けた自分なりの答え」


 日常生活内で精神的に追い詰められ、押し潰されそうな時、瞑想を通じて見出だした答え。

 優しさ……違うな。自己犠牲と言う他者に自身の価値を求めた依存状態だった自分は、気付いた。

 選択する自由と責任、偽る苦痛と素直になる恐怖。恐れを抱いてでも前に進む、勇気の必要性を。

 身勝手な期待と失望、相手や自分の言動を受け流し許し無視する心、感情をコントロールする術を得た。

 何故彼がそれを知っているのか?と思い口にしたが多分、自分が交わした契約の一つだと自己解釈。


「泣かないで。君を助ける為、既にみんなが動いてる」


「もしかして……捕まる前に援軍が来なかったのは」


「うん。三騎士・シナナメやミミツが、個別に足止めしてたのが原因だね。正確には今も……かな」


 彼や夢現が何度も言う『泣かないで』とは、心折れて生前の泣き虫な頃を指して言っていたのか?

 続けて自分を助ける為、仲間達が行動してくれている様子。されど、三騎士の二名が妨害中との事。

 右眼で俯瞰視点を発動。仲間達の動きを視てみれば……オラシオン五名と戦うシナナメ。

 闇納はサクヤを。終焉がアニマ、桜花、アルファ、紅瑠美。ミミツもベビド、ゆかり、マキナと戦闘中。


「部下に丁度良い相手をぶつけてる辺り、終焉や闇納も頭がキレるみたいだね」


「確かに。ミミツの相手が物理型、シナナメは強者、残るトップ勢や上位勢を二人が受け持ってる」


 物理攻撃が決定打にならないミミツに物理組を、強者を求めるシナナメにはオラシオンを。

 残る厄介な桜花やアルファ、旧支配者の紅瑠美などは終焉、何か因縁のあるらしいサクヤと闇納。

 コトハが居ないのは疑問だが……待ち伏せと見るべきか?と言うか、合流したメンバー内で居ない人物も。

 少し、みんなの戦いを観戦してみよう。終焉達と戦う時の参考になるかも。先ずはオラシオン達から……


「もう一度言うわよ?迷子の痴れ者風情を道案内する暇は無いの……分を弁えて其処を退きなさい」


「……ルシファーと決着をつける前の修行には、もって来いの相手だ」


 現在地から北北東、五百メートル先にあるビル群のスクランブル交差点。その中心地で対面する二組。

 メイド長のアイを中心に、左右に並ぶオラシオン達。視線の先には身体中に掠り傷があるシナナメ。

 迷子、痴れ者扱いするアイの眼は彼女を敵とは捉えておらず、哀れみの視線を向け。

 それを理解しているか不明なシナナメは、ルシファーとの決着前に行う修行相手としか見ていない。

 地面へ斜め手前に突き刺した刀の柄を右手で掴んで引き抜き、六メートル先のオラシオンへ飛び込む。


「はいはい。迷子故に視界や思考も狭まった痴れ者をこれ以上彷徨わない様、此処で食い止めるわよ?」


『了解。皆様、対象は暴れ狂う為、お互いにサポートを心掛けましょう』


「それはそうよね。それじゃあ、前衛は任せましょうか──ねっ!!」


 全員の注意や視線を引く様に胸元で両手を叩き、戦闘方法を説明するアイ。

 トワイはスケッチブックを通した筆談で左右の仲間達に注意を促す──直後、横顔に刀身が刺さる。

 トワイだったモノは自壊。地に落ちる氷が音を立てて崩れ落ち、シナナメの左側面へ跳び出すシオリ。

 素早く左手に持つ弓を構え、右手で三本の矢と弦を纏めて引き……頭・胴・足の三点目掛けて放つ。


「その程度──」


「ウチかて読めるで!」


「えぇ、当然ながら私達も読めるわ。貴女の二手三手先位は」


 瞬時に後方へ跳び、矢が眼前を通り過ぎた直後……ヴァイスと琴音はシナナメの行動を規制する様。

 距離一メートルを維持しつつ左右を挟む形、ほぼ同じタイミングで後方へ跳んでおり。

 ヴァイスは背中から生やした二本の触手を肩から覗かせ、先端の甲殻が開き火焔球を生成。

 琴音も胸元で両手を合わせて火焔球を作り、シナナメを挟む形で同時に発射し、球は混ざり合う。

 爆発すると事前に知っていたらしく、混ざり膨れ上がる瞬間に二人は背後へ跳び、逃げ……球は爆発。


「……っ」


他人(ひと)の優しさを甘さと認識し、何をしても許されると思い込む。そんな馬鹿が増えている」


 爆煙の中から白縹(しろはだな)──淡い青みを含んだ白色の霊力を身に纏い、高く跳び上がるも。

 既に背後へ回り込まれており、アイに背後から肘から下と胴体へ抱き付かれ、拘束状態へ。

 跳躍の勢いも消え、重力に引かれ逆さまに落下し──シナナメを脳天から地面に叩きつけ土煙が舞う。


『やりましたか?』


「それはフラグだから止めなさい」


 俗に言う飯綱落としを決め、ヴァイスの側へ距離を取るアイ。トワイは隣の琴音に筆談で問い掛けるも。

 フラグだと注意され、頷いた──直後。煙の中から無数の白縹色斬撃波が五人を襲う。

 アイと琴音は踊る様に避け、シオリは円を描く様に跳び続けながら弓を引き、土煙の中へ矢を射ち続け。

 トワイが自身の能力で作った氷の薙刀、ヴァイスは触手を動かし斬撃波の側面を叩いて弾く。


「流石は最強を名乗る少数精鋭のメイド隊……修練には持ってこいの相手だ」


「なんや……色んな意味でやり難い相手やなぁ」


『同感です。私達五人でも、致命傷を一度も与えれていません』


 そよ風が吹き、土煙は晴れ姿を見せるシナナメに掠り傷以外の目立った外傷は無く、ダメージは軽微。

 やり難いやら致命傷云々と言っているが……双方共に相手を倒す気概が無く、本気ですらない。

 寧ろ足止めが目的と言われれば、逆に納得が行く。なら、オラシオン側が相手を足止めをする理由とは?

 此処で食い止めるより、倒した方が彼女達的にも負担は少ない。だとすれば、その目的は……


「何故……本気を出さない?」


「それはお互い様よ。生憎、私達の誰かが本気を出すと──この星を死の星に変えるか、壊すだけから」


「確かにな。だから……どうした!」


 思っていた疑問は相手も感じていたらしく、問い掛けるシナナメに琴音がとんでもない返答を返す。

 しかしよくよく考えてみたら、確かにそう。自分ですら本気を出す為には、環境と場所が悪過ぎる。

 なのだが……彼女自身には些事の様で、トワイに対し縦十メートル、幅五メートルの斬撃波を飛ばす。

 ヴァイスが前に出る瞬間、自ら前に出て迫り来る斬撃波を目前にしても表情一つ変えない。


『ライオンの牙に小鳥が止まる事は一生ありません。貴女達三騎士や、私達の様に』


 筆談でそう語り、正面へ軽く息を吐く。すると巨大な斬撃波は一瞬にして凍り付き、音を響かせ自壊。

 トワイの語りは恐らく、強過ぎる力は弱者を遠ざけ、利用を企む狡猾な者が好んで近付くと言う内容。

 強大な力とは抑止力や防衛力でもあり、同時に敵意や恐怖を抱かれ、孤立と孤独を招く毒。

 カバの牙に小鳥は止まれど、ライオンの牙には止まらない。よく耳にする、哀れな話だ。


『我々は運良くカバ(止まり木)を見付け、共存する小鳥。そして貴女達は──我々からカバを奪った略奪者』


「小鳥……か。その隠しきれぬ力で、よくぞ小鳥と名乗れるものだな」


「ッ!!」


 例え話で伝えた後、オラシオンの面々を小鳥と例えるべきではない。そう事実を遠回しに指摘され。

 弓を引くシオリの前にアイが出て左手で弓を納める様、言葉ではなく動作で制止され、渋々降ろす。

 恐らく挑発に乗って攻撃してくる。そう予想していたが、止められた一部始終を冷静に見るシナナメ。


「こんなバーゲンセール並みに安い挑発、わざわさ買う必要無い。それに──ねぇ、琴音?」


「えぇ。死にかけ相手に本気を出してあげれる程、我々に慈悲は無いわ」


 アイが買う必要云々と述べた後。視線を大太刀に向け、ほくそ笑み──琴音へ話を振り。

 振られた側も意味を即座に理解したらしく、事実か煽りだか分からないお返し発言をした琴音は……

 南南西──つまり自分が捕まっている方向に一度視線を向け……シナナメに視線を戻す。

 恐らく彼女の眼に宿る力。千里眼を使い、此方の位置や状態、無事を確認したのだろう。


「けど、貴女の相手も既に飽きてるし目障りなのよ。だから──消えなさい」


「これは……まだ斬った事はない……な」


 続けて琴音が右手を天に掲げれば、晴天の青空は突如発生した暗雲に覆われ、日光を遮り薄暗くなり。

 暗雲を突き破り現れるは、本来降り注いでも大気圏で燃え尽きる隕石。それが超巨大……

 例えるなら、都市一つ容易く押し潰せる程の質量で降下中。某最後の幻想で使う魔法言えば──メテオ。


「先に言っておくわ。本気の坊やはこんな石っころ程度じゃ留まらず、宇宙を照らす程の威力よ?」


「心中する気か……?」


「まさか。既に仕込みは終えてるわよ。シオリ」


「ハッ!範囲内限定転移陣、起動」


 琴音が注意を促すと、シナナメは自身と心中する気か問い掛けたが……アイが言葉を返し。

 シオリの名を呼び仕掛けを起動させれば、上空から真っ逆さまに落ちてくる超巨大隕石とシナナメ。

 その周囲だけが五角形に光り、数秒後……隕石諸共姿を消し。何処か遠くから立ち並ぶビルの硝子を割り。

 破片を含んだ強烈な衝撃波が迫るも──五人を護る、縦横合わせて五メートルはある光の壁が遮る。


「生きてるでしょうけど……私達の任務は完了。さあ、囚われた私達の主を迎えに行きましょうか」


『トワイ様、千里眼で確認されたのでは?』


「えぇ。ただ、千里眼をも妨害し歪める何かが施されているか──存在してるのは確かね」


 此方が囚われている南南西へ向け、歩き出す五人。アイはあの程度で死ぬ剣士ではないが……

 自身らオラシオンの任務は完了した為、自分を助けに向かっている様子。

 戦闘中のちょっとした動作から、千里眼の使用を見抜いたトワイが筆談で琴音に問い掛けると。

 使用を認めた上で、完全に視認出来なかった事。また妨害の術式なり存在が居ると語る。


「フュンフお姉様!あんな転移陣、間に作ったんや?」


「あぁ、アレ?相手が土煙に包まれてる時、事前に転移の護符を括り付けた矢を射ってただけよ」


「走りながら射てるんや!メッチャ凄いやん!!」


 ヴァイスはシオリの右隣へ駆け寄り、あの転移陣はいつ、どうやって仕掛けたのか?

 自分も不思議に思っていた疑問を投げ掛け、誰でも出来ると言わんばかりの苦笑いを浮かべ。

 自身が行った行動を説明するシオリ。いや……走って跳びながら相手の攻撃を回避しつつ。

 足を止めず弓矢で的確に射つとか、誰でも出来る訳ないのよ。改めて彼女達の凄さを思い知り。

 私はoculis(オクリース)──目を閉じ、別の場所で行われている戦闘へと視線を移す。



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