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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
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心傷 -unwished life-

 『前回のあらすじ』

 取り込まれた心情ゆかり、マキナを救出した上、ゼノスを三位一体キックで倒したエックス。

 消耗した時を狙い現れた二人の無月に、ゼロと霊華が拠点へ送り届けるまでの時間稼ぎで挑む。

 本気を出さなかったのもあり。勝負に負けて試合に勝ち、相手に精神的ダメージを与える事に成功。

 十字架に張り付けられ、全世界へ向けての公開処刑を行うべく準備が進められて行く。



 処刑と言う死の恐怖から逃れる為、今回は何故援護や救援が来なかったのか?別の事に思考を巡らす。

 考え過ぎたのか。いつの間に眠り、例の劇場にある赤い座席に座っていた。上映されていたんだが……

 内容は自分が生前に体験した過去の記憶。何故今更こんな悪夢を見なくてはならないのか?

 そう思いながら、二階・教室前の扉で廊下に背を向けて泣く小学二年生の自分が映る映像を見る。


『ひっく……ひっく……』


「これは──マスターに過去を受け入れろ。と言う遠回しな警告でしょうか?」


「……だとしたら、相当悪趣味とすら受け取れるぞ……?」


 座り込んだその小さな背中には……『イジメてください』と書かれた紙を他の子供達に貼られていた。

 大人の第三者らすれば子供の悪戯、些事。そう捉える頭の腐った阿呆や古い概念に囚われた石頭も多い。

 けれど──虐めとは大人子供問わず犯罪だ。被害者が不登校になるより、学校は風評を酷く恐れ。

 隠蔽したがる出来事。正直、加害者へ学校側が罰を与え転校させる方が、他の生徒達や環境にも良い。

 右側に絆、左側に静久が座っており各々感想を述べる。過去を云々と言われても、既に受け入れた後。


『なんで……ぼくばっかりイジメるの?』


『お前が一番イジメ易いから』


 当時の自分としては勇気を振り絞り、泣きながら訊ねた言葉。その返答は今の自分が聞けば──

 どうでもいい内容。寧ろ、虐めっ子達の人間性が余りにも可哀想で、惨めかつ哀れにさえ思う。

 仕事に上下関係はあれど、人間性と人生に上下や勝敗は無い。とは言うが……どうなんだか。

 虐めっ子から心無い返答を受け、また泣き続ける幼い自分。泣き虫なのは昔っから……だな。


「人間を愛するとは、人間を知ると言う事。人間の強さ・弱さ・美しさ・醜ささえも」


「その両方を知って漸く人間を、この星を愛すると言える。今の貴方は……どうかしら?」


「さあね。無関心な部分もあり、愛おしく思う部分も存在する。としか、今は他に言えない。ただ……」


「ただ……何?」


 後方左右の出入り口から、聞き覚えのある声が問い掛けてくる。右側からはサクヤが強さ弱さ云々……

 左側よりマジックが星を愛する云々と。二人を察知した絆と静久は席を譲る様に、左腕へ戻り。

 空いた席に二人が座ると、此方を挟む形で顔と視線を向けられ……少し、人間に価値があるのかどうか考え。

 個人的な解答は生きた人間に価値は無く、死んだ後、他者がどう評価するか?だと思う。

 故にその部分は置いておき、どう思っているかを話す。続けて語り出す時に少し目を閉じ間を開け──


「自分達は世界を護る英雄(ヒーロー)じゃない。子供達に明るい未来を見せ、青空の下で元気に走れる世界を築く為、最前線で背を向けて戦うだけだ」


 問い掛ける言葉に返答する様、これが自分自身の戦う理由や意味だと口にする。

 これから産まれてくる命、今を生きる子供達に対し。未来へ希望を持てる様、未知なる道を切り開く。

 醜い真剣な顔など見せず、ただ背中だけを見せて進む。それがオメガゼロとして再生したこの命の意味。

 それを聞いた二人は何故か優しく微笑み、視線を映画のモニターへと移す。……なんの微笑みだよ。


『お母さん。ぼくに妹か弟って、いないの?』


『妹はお母さんのお腹の中に居たんやけど。──の事もお父さんが産むな、堕せ!って言うてな?』


『えっ?』


『でも──は堕されへん位育ってたから、堕さずに産まれたんやで』


 当時の自分は素朴な疑問として聞き、予想外な事実を突き付けられた。家庭環境や家計的な面もある。

 そう言われればそうなのだが……ならば子作りなどしなければ良い。自分は望まれない命として産まれ。

 一人目の妹は望まれないが為に堕ろされ、自分が産まれたから妹は堕ろされたのでは?とさえ思った。


「王が霊華やゼロ、絆達を救ったのはこの一件があったが故か」


「正解。望まれない、産まれなかった命を少しでも救いたくて、分散した力をみんなに与えたんだ」


「ふむ。辛い体験や経験からその優しさが生まれ、敵味方問わず手を差し伸べているんだな」


 後ろ上の席からルシファーの質問が聞こえ、一度振り返り姿を確認してから返答を返す。

 孵化するずっと前、液体状時に卵を割られて死んだ絆。ヴィザール(オーディンの息子)に口を引き裂かれた愛。

 野良狐時代に群れからはぐれ、飢え死にした恋。スサノオに切り散らかされた静久。

 地獄へ落ち即死のルシファー。流産のゼロ、ゼロを産む為に命を賭け金に差し出した霊華。

 ぶっちゃけ、世界を見回る為に放浪してなけりゃ魂を助けれなかったレベル。


『パ~ス!』


『ほらほらコッチ~!』


『返して……返してよぉ……』


 場面は次々と切り替わり、今度は担任との交換日記ノート。これを同じクラスの男子に取られ。

 勝手に朗読された上、虐めっ子内で投げ渡し合い、弱々しく返却を求めながら追い掛ける小六の自分。

 この頃は全く知らない子に喧嘩の仕方を教えられたけど……暴力や武力を良しとしなかった為か。

 手は出さなかった。母からは「やられたらやり返せ!」と言われていたのに、我ながら情けない。


「確かに事実は小説より奇なりとは言うけれど……貴紀?」


「景品が全力ビンタは……王、災難だったな」


「人間の性格は家庭環境と周囲で決まるのに……サクヤ、彼は生前からこうなの?」


 次の場面は水泳の授業後に下着を荒らされ、それをネタに馬鹿にされる日々や小学校での文化祭時。

 店の景品で女子生徒からビンタを受け、ストレスから喘息が発症し病院送り。退院し学校へ戻れば……

 クラスメイトから、まだ帰って来なくて良いのに発言。不登校時、母の紹介で元キックボクサーと対談。

 売店でカステラを焼くヤクザのお兄さん、父の妹の彼氏である暴走族と知り合い。

 運悪く解放中のマンホールへ片足が落ち、父が乗るバイクやフォークリフトに追い掛けられる映像などへ。


「当時はこう言うのが世間一般の普通だと思ってたなぁ」


「ねぇ、マジック?普通……普通って、何かしら?」


「私達が知る、普通の概念が崩壊しそう……」


 父に包丁で刺されそうになる、仕事でミスをして叱られ、恐怖心からまたミスと叱責を繰り返す日々。

 自分の胸に包丁を突き立て自殺を図り、睡眠薬でオーバードーズ。結局はどれも自殺未遂で終わり。

 幼少期は父に家を追い出され、成人後は家出や自殺先を求めて山の自殺スポットへ行き。

 最終的には発達障害や鬱病と診断。死ぬ為に家出をする時──伏見稲荷様に救われた辺りを上映中。


「伏見稲荷様が助けてくれなきゃ、今此処にすら居なかったよ」


「伏見稲荷──豊作の神様よね?貴紀の前世とかで、何か繋がりがあったのかしら?」


「真夜……ゲリラ上映会、既に始まってる……」


「無茶な納期で右と左を究極のバランスで組もうとしてたら観遅れてんじゃねーですか!!」


 救われた……と言っても、来い!とばかりに脳内に映像を送られ、向かった程度だがな。

 前世か前々々々世にでも何かあったのだろうか?話す中、駆け込む足音が聞こえ視線を向ければ。

 生ける炎と這い寄る混沌が駆け込み乗車宜しく、下段の席へ横並びに座る。……何故自分の周りに?


『お爺ちゃんを焼いちゃヤダぁぁ!!』


『お婆ちゃん、今までご苦労様。お爺ちゃんの時とは違い泣かず、笑顔で見送るよ』


 幼少期に大好きなお爺ちゃんを、成人してから恩人のお婆ちゃんを亡くした頃の内容だな。

 温度差は激しいが……それだけ成長した証なのかも知れん。心に傷を負う位、辛かったのは事実だが。

 だからこそ、大切に思う存在は自己犠牲をしてでも護り、救いたい。悪く言えば依存も同然。


「少年……辛い生前を送ってた……」


「別に同情や哀れみは必要無いよ。多分、無知故に知らず知らず行った罪が罰として返って来ただけだし」


「……成る程。貴紀、貴方がsin・第三装甲を纏い自我を保てるのは、自身の罪を受け入れ許してるからなのね」


 紅瑠美に同情だか哀れみの言葉と感情を向けられ、我ながら失礼な返答を返したと思う。

 サクヤはサクヤで何か、自己解釈してるし。沢山経験した為か、第三者にどう思われるかも無関心。

 「少しトイレ」と言い上映中にも関わらず暗い劇場を後にして、明るい通路を歩き男子トイレの個室へ。


「うっ……おえぇぇぇ!!」


 左手を口に当て、少し堪えるも堪え切れずに吐いた。無関心・無表情を貫いていたが……

 それでも過去や生前の観賞はキツイ。自分が被る罪より、誰かへ迷惑を掛けた事実が精神に一番クル。

 自己犠牲──日本人の美徳とも取れるが、自身を愛せない奴が行う自己犠牲程、哀れなモノはない。

 何故ならそれは自身に価値を付けるのではなく、他者に価値を付けて貰う行為。即ち依存だから。


「…………ごめんなさい」


「さ、サクヤ──っ!?うっぷっ!!」


「貴紀!?」


 吐き気が収まった頃、戻って来ないのを心配してか。扉を軽く二回ノックする音が響き。

 サクヤの謝る声が聞こえた……直後、元友人とLINEで行ったやり取りが脳内再生され、再び便器へ吐く。

 『ごめんなさい』それがキーワード。喧嘩したくない、傷付くのも傷付けるのも嫌。だから先に謝った。

 その返答が……自身の保身で謝り、何が原因で何に対して謝っているのか内容が無いとの事。

 それからは全ての着信や通知音に恐怖を感じ……SNSや他者とのやり取りを拒み、携帯から音を消した。


「じゃ、じゃあ……アレは?あの時の出来事は……うっ!!」


 事実を理解し、己の弱さと醜さで再三便器へ吐き出す。記憶とは、思い出すのではない。

 自分に都合が良い様に作り替えるのだ。加害者が被害者ぶる様に。つまりそれは──

 伏見稲荷へ行き、終焉の闇に呑まれた時……自分は一人。無知は罪、知り過ぎれば歴史に消される。

 吐き過ぎたのか。体力を大幅に消耗し、自責の念で押し潰される前に床へ座り込み。

 扉に凭れ掛かり、力尽きて眠ってしまった。作るは難しく、壊すは容易い。それは心の傷も同様。


「ルシファー!貴紀が……貴紀が!」


「先ずは落ち着け、サクヤ。王がどうした!?」


 そんな二人の声が、沈んで行く意識でも聞こえる時ですら……元友人の言葉が、あの時の光景が。

 脳裏を過り、今も心を突き刺す。お互いの意見を言い合っていた時──私は理解した。

 他人は他人。他者の言動を理解しても、心の中にある真意までは完全に理解出来ない。

 故に、意見の言い合いから喧嘩へ発展しない様身を引いた際に言われた言葉『逃げんな』

 どう言われ思われ様と、私は争いを望まない。けれど……答えに迷い、苦しむ日々はただ虚しい。



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