無月 -natural result-
『前回のあらすじ』
霊華とゼロの切り替えバトルにより、過激派ゼノスを詰将棋の如く出される手段を確実に潰す。
最後は自ら退却を選んだゼノスに三位一体のトリニティ・キックで物理反射スキルを貫通し撃破。
ゆかりとマキナを救出、箱庭も自壊し元の空間に戻って来たエックスを待ち構える、二人の無月。
無月闇納と無月終焉を前に、エックスは霊華とゼロに救出した二人の搬送を託し、時間稼ぎとして挑むのであった。
ぶつかり合い、拮抗し合うお互いの拳……なのだが、徐々に此方が押され始め踏ん張り直す。
真っ直ぐ伸びた右腕が少しずつ押し戻され、肘を曲げた状態まで行くと終焉が踏み込み顔を近付ける。
歯を食いしばり、必死に押し返そうとするも全く動かず、逆に終焉の方は余裕で顔色一つ変えない。
「やはり、弱点はそのまま……か」
「弱て──んぉッ!?」
ボソッと呟いたと認識し、聞き返す途中。顔の左側に強烈な蹴りを受け、転げ飛ばされ。
自身を蹴ったのが誰か、逆さに転げた状態で視線を向ければ……無月闇納が此方を蹴ったであろう左脚を曲げ、右足一本だけで立ち。
不敵な笑みを浮かべている。そうだ。終焉にばかり目を向けていては、闇納への対象が遅れてしまう。
この二人は今まで戦って来た、一対ニの中でも別格。注意を一人に絞らず、二人を視界に捉えなければ!
「どうした?本気を出せば、俺達を倒す事位は出来るだろうに」
「きっと、終焉と和解出来る。そう心の隅で認識してるんじゃない?」
「…………」
体勢を正し、起き上がる此方に事実を突き付ける終焉。確かに、今からでも本気を出せば勝てる。
けれど……戦えば戦う程、あの学校生活が脳裏に過り行動に微妙な間を空け、隙を産んでしまう。
あの頃に戻りたい。大人が子供の頃に戻れたら……それに似た考えで、本気が出せない。もし可能なら──
和解して、終焉を味方に引き入れたい。闇納の言う通り心の隅でそう思う上。
先程蹴られた際に擦りむいたのか。額から左半分を覆う様に血が流れる為、両目を閉じる。
「…………」
「諦めたのかしら?それなら、お望み通り倒してあげ──」
脳裏を過る余計な思考を消す為。洞窟の中にある泉に水滴が落ち、波紋が広がる光景を思い浮かべた。
真っ暗な視界の中。黒く濁った紫色が右へ左へと跳躍しながら迫り、此方を撹乱している様子。
白い膜を纏った黒い人物は此方の動きを読んでいるのか、全く動かない。これは終焉か……用心深い奴め。
目を閉じたまま構え、動かない此方の懐へ踏み込んで来た闇納の左脚に対し、此方の右脚を踏み込ませ。
膝で右側へ押し込みバランスを崩し、踏ん張れない闇納の胸部へ──右肩からの体当たりを叩き込む。
「鉄山靠!!」
「るぅ……っ!?」
(ヨシ!!不意ヲ突イタ鉄山靠ノ直撃……何ッ?!)
ゼロが持つ野生の紋章を右肩に宿し、叩き込んだ一撃は肋骨に直撃。感触的に何本か砕く事に成功。
更に後方へ押し飛ばし距離も開けた。直後──黒い龍が頭を横にし、丸噛りとばかりに噛み付かれ。
ワニが獲物を噛み千切ろうと回転する様に、コイツも空中に昇りながら振り回しやがる!
幸いな事に、琴音とシオリが作ったコートは龍の牙さえ通さない為、今すぐ殺される心配はない。
「希少な黒き龍神族の無炎だ。喜べ、どうやら──お前を敵と認めた様だ」
(マズイ……コノママ全力ノ黒炎ヲ吐クツモリダ!)
「ルシファー、頼む!!」
が……両腕は左右から迫る牙を食い止めるのが精一杯なのに……右太股、左ふくらはぎに牙が刺さった。
拘束状態から抜け出すべく、歯を噛み締めつつ目を開けば、無炎と呼ばれた黒龍は赤い口内──
喉奥に黒炎を溜め、今まさに吐き出そうとする寸前。直感から直撃を受ければ流石に死ぬと予想。
ルシファーにサポートを丸投げ後。喉奥から迫る炎が此方へと迫り、飲み込まれ……
「……よく、あの状態から抜け出したな」
「はぁ、はぁ、は──あぁぁっ!?」
る寸前、ルシファーの瞬間移動が発動し終焉の前に転移。急激な魔力の消費に息を切らす中……
闇納に背後から後頭部を掴まれ、右頬を下になるよう地面へ押し付けられた上、背に乗られ動けない。
足で蹴り、退けようとするも。まるで熱したナイフで抉られている様な激痛が走り、動きが止まる。
「やってくれたわね……咄嗟の魔力障壁が間に合ってなお肋骨を五、六本折られたのは予想外よ」
「完全な直撃だったら、折れた骨が肺や臓器に刺さり即死か。人類の武術とやらも恐ろしいものだ」
頭を押さえ付けられ、周囲の確認が出来ない為俯瞰視点を使って見れば……愚痴る闇納も頭から血を流し。
右半分が血で覆われ、虚無・アインを発動した状態の右手が見え──ルシファーが再度瞬間移動を発動。
拘束から逃れ、二人から三メートル程距離を取った場所へ転移。とは言え、消耗が激しい。
息が切れて、貫かれた足も痛い。魔力不足で呼吸さえ苦しい。それでも……立ち上がって前を向かなきゃ。
「素人でも分かる程に瀕死の重症なんだがな。まだ、戦う気力があるか」
「へ……へへっ。この程度の痛み──過去に受けた虐めに比べれば、掠り傷もいいとこだ」
「…………そうか」
「ならその心、へし折ってあげるわ!」
疲労困憊、空元気、魔力不足、出血多量。それでも戦う意思を見せると、呆れた様子で訊ねられた。
何故立てて、戦おうとするのか?その理由は明白。生前を含む過去に体験した虐めや心ない言葉の数々。
それで受けた心の傷に比べれば、掠り傷も同然。それを聞いた終焉は何故か俯き、小さく呟く。
反対に闇納は此方に殺意と右手を向け、黒紫色の魔力弾を連射。咄嗟に両腕で顔を守る様に防ぐも……
怪我した足では踏ん張りが効かず、五発防いだ時に倒れ、腹に乗られて防ぐ両腕ごしに殴られる。
(コレ以上ハ王ノ体力、気力ガ……)
「貴方の技で終わらせてあげる。リボルビング──」
何度か顔を殴られてる時、ある事に気付く。相手の背や腹に乗りマウントを取る時、必須の行為。
両脚で相手の両腕を押さえ、抵抗の手段を潰す方法がされていない。その為、両腕が使える点に。
ルシファーが心配する様に、体力と気力もそろそろ限界が近い。それを知ってか知らずか……
闇納は此方の技でトドメを刺そうと、顔目掛け右拳を突き出す。牙を向くのはこの瞬間しかない!
「ツイン・インパクトォ!!」
「な──!?!?」
自分の右拳を闇納の右腕に横からカウンター気味に打ち込み、六連撃の衝撃で拳の軌道を逸らし。
がら空きの胸部へ左拳を叩き込めば、肋骨が折れ守る骨の無い臓器を車に衝突された様な衝撃が襲う。
それが一秒差で六回。流石の闇納も一発目で宙に浮き、残り五発で終焉の方へ弾き飛ばされた。
「う……お、おえぇぇぇ!!」
「流石に、今のが限界らしいな」
「終え……ンッ!?」
「っ、こ……こんにゃろおぉぉ!!」
血の混ざった嘔吐が聞こえる中。意識が朦朧とし背後へ倒れる時、終焉から羽交い締めにされる。
羽交い締めと表現したが、どちらかと言えば倒れない様支えてくれているに近く、気付けば夕暮れ。
太陽光からエネルギーを補給するには、余りにも光が弱々しい。そんな中──
此方に駆け寄り左拳で右頬を殴り、続け様に右拳と左足で順番に顔や腹を殴っては蹴るを繰り返す闇納。
終焉に支えられているのもあり、倒れる事すら出来ず。バックルから危険を知らす警告音が鳴り響く。
「……闇納、そこまでだ」
…………あれから、どれ程の時間が経ったんだろう?目が霞んで、殆んど何も見えない。
聞こえるのは闇納の怒気を孕んだ声と腹部に乗られる感覚、制止を呼び掛ける終焉の声。
痛み──はない。無いけど、視界が自分の意思に反して左右に動いてる辺り、まだ殴られているのか。
多分殺意もそうだし、相手に危害を加える行為に対し、自身が上だと優越感を覚えてるのだろう。
「……分かったわよ。だから──それ以上やったら私を殺すって明確な殺意、止めてくれない?」
「お前がその下衆い笑みと胸糞悪い行為を止めて、ソイツから離れるなら止めてやるよ」
声から察するに、闇納は先程までの元気は何処へやら。声のトーンも落ち、恐れさえ感じ。
対する終焉の声には静かな怒りが含まれており、なんと言うか……守ってくれている。そう感じた。
もう──体は動かない。けど、ゆかりとマキナは助けれた事が心を支えてくれて、寂しくない。
大切な存在を助けた。ただそれだけで前を向ける、向こうと思える。不思議と微笑んでしまう。
「……結局、最後まで心は折れなかったな」
「満足そうに笑って。本ッ……当にムカつく!」
例え勝てなくても、もう悔しくない。どれだけ傷付いても、笑っていられる。そう思えるだけで。
あぁ、また人間として成長出来たんだな。と……当たり前の日常で歩む成長に、顔が微笑んでると分かる。
まだ残ってる五感的に両手首足首、喉に鎖が巻き付けられた感覚と臭い。恐らく、既に磔状態だろう。
勝負には勝てなかったけど、試合には勝った。悔しそうな闇納の声を聞く程、そう思う。
「あぁ~……もう。勝った──のに、全然嬉しくない!!寧ろ悔しい!まるで子供が大人に負けて貰った様な」
「チッ、今回も俺の負けか。あの二人を逃がした時点でnatural resultとは」
「腹立たしいからふて寝してくる!後は予定通り、全世界への公開処刑を準備しといて!」
「あいよ。」
試合に勝つも勝負に負けて悔しい二人。闇納は負けて貰ったと思ってるらしく、その表現に……
子供の遊びを例えに出す。相手に全力を出されぬまま深手を負わされたんだ。そう思うだろうよ。
自身らの敗北がナチュラルリザルト……と言う辺り、終焉は今回以前の勝負に敗北を感じていたのか?
ふて寝すると言い、闇納の魔力が遠退いて行く。ある意味、一矢報いてやったと実感する。
「おい、サクヤ……こんな良い男を放って置いて、何処で何をしてるんだか」
不貞腐れる様に言う終焉。その言葉を聞いた後、頬や体に当たる風から自分を縛る十字架は上昇し。
何処かへ運んでいると判明。先程の会話から察するに、処刑場へ向かっているのだと理解。
今まで氷付けやブロンズ像化、消滅など色々体験はしたものの……物理的な処刑は初。
助けて欲しい反面。これは仲間達や家族を誘き寄せる罠と分かる為、来て欲しくないとさえ思う。
(ダガ、アイツ等ハ必ズ来ル。王ト紡イダ絆ガオ互イヲ引キ合ワセル様ニ)
((…………))
(どうしたんじゃ?恋に静久よ)
(いや……何。何故今回あの這い寄る混沌共は援護、または救援に来なかったのか?と気になってな……)
しかし、ルシファーの言う通りでもある。皆は来る、来てしまう。受けた恩を返す様に。
話の中、黙る恋と静久。二人が気になり、呼び掛ける愛に静久が自身の思う疑問を語る。
確かに、今まではその傾向が強かった。ピンチの時は、誰かしら援護なり救援へ駆け付ける事が多い。
逆に言えば、今回それが無かった理由は何かあったか……来れない事情があったのだろう。
処刑場へ運ばれ、最後の時を迎える時間まで──死の恐怖を疑問への答え合わせで紛らわす。




