同時 -trinity-
『前回のあらすじ』
必殺キックの激突によるエネルギー爆発に飲み込まれ、ゆかりの過去を垣間見るエックス。
彼女の記憶に寄生している過激派ゼノスを破王で引き剥がすも、白兎をジャックし黒兎へ。
マキナをも手中に納め攻め込む中、ゼノスの所業に怒るゼロと霊華は本気の許可をエックスに訊ね承諾を貰う。
霊華はコトハの母、カケハから教わった直伝の技でゼノスとゆかりを完全に引き剥がし、決着へ持ち込む。
霊華は空いている左手の指先をゼノスに向け、裏返し手のひらを上に向け手招きを行う。
下等と見下している人間に挑発され、頭に血が上ったのか。此方へ一直線に駆け出し、右拳で殴り込む。
それを霊華は右側へ身を翻しながら左手で受け流し、翻した体を左側へ捻り──
相手の首目掛け、右手に持った大幣をフルスイング。自身の加速も相まって、威力は絶大。
「あら?」
霊華の力か、相手の加速が原因かは兎も角。大幣が割り箸を手で折った様な音を鳴らしつつも折れ。
ゼノスはバランスを崩し、足を滑らせ仰向けに転倒。後頭部と背中を強打……常人なら病院送り。
直撃から三秒で折れた為、加速を殺せてはおらず、此方とは予想以上に離れた位置へ。
「まあ所詮は安物だし。一撃与えただけでも、お釣り分位はあるわね」
(そんな割り箸が折れたから新しいヤツを~……じゃねぇんだからよ)
安物とは言うが現代だと安くても一つ、九千円近くはする。人によっては一週間分の飯代だろう。
命中部位的な事も言えば人体の急所である首に直撃している為、常人だと呼吸困難は確定。
更に加速が付き盛大なスリップによる後頭部強打。これは最悪、命に関わる致命傷に成りえる。
微妙に繋がっている大幣を両手で完全に折る中──足下の影が急激に広くなる事に気付き上を見れば……
チェスに使われる白いクイーンの駒が、此方を踏み潰さんと頭上へ落ちてくる真っ最中。
「白いジャンクではない貴様はこの重量は防げまい。更に、先程のスリップは罠を仕掛ける為の動……さ」
「確かに、私にはゼロ程の力は無い。それを補う工夫と知恵、実現する技術は磨いて来たつもりよ?」
「イ……行け、ポーン・ソルジャー共!」
先程のスリップで範囲外へ出ていたゼノスの罠に嵌まるも──霊華は両手に持った大幣に霊力を流し。
地面と落下する駒の底に黄色い二本の柱を立て、巨大駒を停止。語りつつゼノス側へ歩み寄り。
自身の背後へ霊力の壁を作り、柱として放置した大幣への霊力供給を止め、落下した駒は轟音を鳴らし。
土煙を巻き上げれど霊華には届かない。痛む喉を右手で抑えながら叫べば。
黒いマキナが剣と盾を持つ白い駒──ゴブリンらしきポーンが四駒、一斉に真っ向から走って迫る。
「ある界隈だと私が慰みモノになる展開だけど──残念ながら、貞操観念は高い方なのよね」
(今ノ日本現代人ハ、貞操観念ガ低イ阿呆ガ増エテイルト聞クガナ)
(あぁ……パパ活とか自分達が罪悪感を感じ難い様、都合が良い発言してる擦れっ枯らしや卑婦か)
薄い本の界隈だと、確かにそう言う展開にはなる。が……草履を履いた右足の指で二回地面を小突き。
一駒目。右手に持った剣が縦に振り下ろされれば左側へ踊る様に身を翻し一回転後、後ろ首へ右肘打ち。
脆いのか一撃で首が砕け、頭部が落ちると同時に自壊。ニ、三駒目。休む暇無く左右から突き迫る。
身長差的に腰狙いの突きを真上へ跳んで避け──同時に両足で左右に居るポーンの首を蹴り飛ばす。
四駒目。三駒を犠牲に得た空中と言うチャンスで飛び込み、首を狙い剣を右側へ振り払う。
「ペッ!ハッ、残念だったな」
「クソッ……コロコロと代わりヤガっテ」
も、咄嗟にゼロが交代。首へ迫る刃に噛み付き、固い煎餅を噛み砕く様な音を鳴らして噛み千切る。
空中。それもポーンの頭を左手で鷲掴み、腰を深々と下ろすガニ股着地を利用し、地面へ押し付け粉砕。
噛み砕いたままの刀身を右側へ吐き捨て、ニヤリと笑うゼロに怒りを覚えたらしく、言葉がカタコトに。
「チェスは全く知らねぇが、テメェを取れば……終わりだろ?」
「キングを守る二駒目のビショップやナイト、クイーンを突破出来ればな!」
「あぁ……将棋と似た様な駒と数なの──か!」
錫杖を左手に持った若い僧侶、白馬に乗る騎士の白い駒は後ろ斜め左右から一気に迫り。
真正面に居るゼノスが左横へ退けば、奴の背後に隠れた冠を被る女王の白い駒が此方へ一直線に迫る。
確か僧侶と騎士の駒は距離や移動位置に微妙な違いこそあれ、基本斜め移動。
女王は四方斜め一歩に前後左右好きなだけ。各駒の特性を活用した同時攻撃が迫り……
「……ッ」
「直撃とはな。事前情報通り、力はあれど敏捷性の無い奴よ」
首を左右から挟む様に右側へ錫杖、左側に剣が食い込み、正面から心臓狙いの右手刀が胸部を抉る。
女王の背後から結果を見て話すゼノス。誤算と言うか、間違いがあるとするならば……
ゼロは複数戦が苦手な自身の弱点を知った上で、それを利用した戦法を使う。そう……今現在の様に。
「確かに、敏捷性は宿主様達に大きく劣るのは認める。だがな……テメェは俺と言う存在を理解してねぇ」
「フン。何を言うかと思えば、ただの負け惜しみ……何ッ?!」
「三駒全部──捕まえたぜ?」
即死確定に見えるゼロは瞬く間に全身が黒く染まり、溶ければ相手の武器や右手から全身へ這い寄る。
ホラーゲームである、人間かと思ったら小型軟体生物の群れだった……と言うオチを再現しており。
蛭や台所に現れる宿敵へ変身後。文字通り三つの駒を食い潰し、再び集結して元の姿へ。
流石は這い寄る混沌の『唾』を得て、精神寄生体になっただけはあるよ。
「マッ……ズ!!一週間放置した生ゴミにゲロをぶちまけた様な……やっぱコイツら、喰うに値しねぇわ」
(元から食用に向いた敵でも無いでしょうに)
食欲が失せる感想は兎も角、これで奴の使える駒は全滅。本気を出したマキナの能力には届いてない。
それだけ、即席で得た能力は使い難い。もう打てる手が無いのか、怖じ気付き背を向け逃げ出すゼノス。
流石に此処で倒さないと、再度見付けるのが面倒臭い。それもあり、ゼロから自分に主導権を渡され。
マナを脚に込め、ゆかりから教わった走り方で直ぐに追い掛け、遠目に背中を見付け──
「予想外過ぎる。これでは……」
『WILD ability、No.02!!Desutorakushon victory!』
「ッ……ま、魔神王様から頂いたスキル発動!物理反射!!」
バックルの左端を左手で一度引き戻し、稲妻の様なエネルギーが追い掛けて走る両足へ流れ込む。
此方に気付き、立ち止まり振り返ったゼノス目掛け飛び上がると──ヤツは銀色の液体を纏う。
既に跳躍中の為、攻撃は止められない。ならば、物理反射の許容を越えた一撃を叩き込む他無い。
自分の体から左側にゼロ、右側へ霊華が現れて三人同時の、一斉跳び蹴りを繰り出す。
「「「トリニティ・キック!!」」」
真正面の自分が両足跳び蹴り。霊華は右回転後の右足回し蹴り、ゼロが右回転後に後ろ回し蹴りを放つ。
頭部を左右から挟む回し蹴り、顔面へ蹴り込む跳び蹴りの直撃を叩き込めば──後方へぶっ飛ばした。
着地し、反射が無い事から許容を越えたと認識しつつ。起き上がる可能性を危惧し三人で奴を睨む。
「さ……流石は魔神王様。全く……痛く、な……」
「哀れな奴ね」
「宿主様。これが、俺達と奴等の明確な違いなんだな」
「あぁ。哀れなる愚か者に、終焉の破壊を」
大の字で仰向けに倒れ伏していたゼノスだったが……倒れたパネルを立てる様に起き上がり。
自身の両手を見る行動を取り、貰ったスキルで助かったと魔神王を褒め称えている。
んだがな──此方から見れば頭部は地面へ落ち、熟し切った柿が潰れた様な首無し死体。
哀れな事に、潰れた頭にはまだ意識があり喋る。自分が言葉を投げ掛け、背を向け歩く中。
ゼノスの頭と体に緋・青・黄の稲妻が走り、液体と化して端末の役目が終わった。
「おっ?マキナの能力も解けたみたいだぜ」
「場所は街中のまま、だけどね。貴紀、二人共ちゃんと息はあるわよ」
「そうか……よし。予期せぬ決着と対決だったが、帰ろ──ッ!!」
模造ビルが溶け、硝子の割れた音と共に箱庭も解除された様子。場所が街中なのは恐らく……
裏路地を跳んでいる時、箱庭を発動した為だろう。よくよく思い返せば、彼女の一手目は裏路地だ。
何故此処にマキナも居るのか?は──ゼノスが能力使用と人質で連れて来たからと見る。
霊華曰く眠る二人の命に別状はなく、帰ろうとした瞬間……二つの膨大な魔力が圧となって自分達を襲う。
「やはり所詮は端末風情──と言う訳か」
「それでも、最低限の仕事はしてくれたんじゃない?ねぇ……終焉?」
最悪なタイミングに、今一番遭遇・戦闘したくない相手が二人もやって来た。いや、待ち伏せか。
マキナを抱き上げるゼロ、ゆかりを背負う霊華と共に溶けたゼノスが居る、背後へと振り返ると……
無月終焉と無月闇納が居て、此処から視線を離さない。と言うより……確実に殺りに来たのだろう。
二人の眼は真剣そのもの。静寂なのに獲物を狩る、そんな雰囲気・気迫・圧が肌に突き刺さる程。
「見逃してくれそうには……ないよな」
「当然だ。消耗した手負いの獲物を狩る時程、慎重かつ一気に仕留める。違うか?」
見逃してくれるかも知れない。そんな微かな可能性に期待せず、確認も含め訊ねれば……
当然見逃さんと言い、窮鼠猫を噛む。のことわざを狩りの例えにして言い返された為。
臨戦態勢──二人の無月に向けて身構え、霊華へチラッと視線を向け、再度正面へ視線を向け。
「行け!」
「ゼロ、行くわよ」
「……すまねぇ、宿主様!」
「逃がすと思って?って……終焉?!」
振り向かずに一言だけ呼び掛け、意識を失ったゆかり達を抱えるゼロと霊華をこの場から逃がす。
跳び去って行く二人すらも逃がさない。追い掛け様とした闇納の前に──終焉が右手を出し阻止。
何故追跡を阻止するのか?その意図が理解出来ず強く呼び掛ける闇納と、此方を見据える終焉。
「今追わずとも、エックスを倒せば奴らは必ず助けようとして自らやって来る。違うか?」
「…………フッ。貴方も随分、闇側に染まって来たみたいね」
視線を此方から離さず、闇納と合わそうとしないまま理由を伝え、遮る右手を下ろす。
その考え方・思考・行動から闇の勢力に染まり切った。と嬉しげに話し、左手で終焉の右頬を撫でる。
二人のやり取りを見て、何か違和感を感じつつも集中力を研ぎ澄まし、手足にマナを纏う。
「行くぞ、オメガゼロ・エックス。オメガゼロ抹殺計画──これより始動開始する」
以前みたく名前では呼ぶ事は無く、オメガゼロ・エックスと言い放った上。
終焉達一部が掲げる救済計画。オメガゼロ抹殺計画の始動を宣言しながら身構え、飛び出し。
鋭い左拳が真っ直ぐ突き出されて迫り、咄嗟に右拳を繰り出し──激突。ゆかりの時と同様……
行き場を無くしたエネルギーが炸裂。緋色と黒色の稲妻が周囲に飛び散り、天地とビルを抉る。




