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ワールドロード  作者: オメガ
七章・ferita che non si chiude
333/384

家族 -jack-

 『前回のあらすじ』

 ゆかりとのバトルが始まり、仲間達の介入を求めない二人は裏路地へ飛び込む。

 マキナの乱入を受け、2対1の戦いへ。チェスの駒名を使った戦法・ゆかりの援護に四苦八苦。

 お互いに必殺キックを叩き込み合う二人。天から伸びる手に押され、地面へ押し込まれる。

 辛うじて被害を逃れ、状況を利用し脱出するも。ゆかりには見破られ、双方の必殺キックが激突するのであった。



 エネルギー爆発に飲まれた為か……過去を見た。優しそうなご両親に挟まれ、笑顔の幼いゆかり。

 何処かの花畑でピクニックをし、一家団欒な光景。ある意味、羨ましいとさえ思う程に仲睦まじい家庭。

 そんな幸せに誘き寄せられたのか。黒い人型の存在が、ゆかりの父親を鋭い爪で引き裂き殺害。

 幼いゆかりを抱き抱え、逃げ出す母親も背中を引き裂かれ絶命。黒い人物は理解の追い付かない幼子を見て……

 人間で言えば耳まで裂けた口で不気味な笑みを浮かべ、何処かへと跳び去って行く。


『ぱぱ……まま……うごいて?うごいてよ……』


 理解が及ばないが故の、精一杯な発言。何故こんなモノを見せられているのかさえ、分からない。

 けど……幾つか理解した。あの黒い存在は過激派のゼノスで、恐らく殺人者の顔を数人奪った後だろう。

 終焉やサクヤの依り代となった器の子、その両親や親族などを襲い殺害したのも奴だ。

 肉塊と化した両親の肩を揺すり、起こそうとするゆかりの姿は……胸の奥が締め付けられて見てられない。


「人類、弱イ生き物。コの世界に不要。コレ、こノ星の政治家、言っテタ」


「……御託はそれだけか?」


 そして最後。コイツはゆかりの記憶──トラウマに寄生し、あわよくば乗っ取ろうと画策していた。

 煽る様に自分の前に酷い猫背で下から現れ、ケタケタと笑いながら御託を並べるゼノス。

 昔の自分ならブチ切れていただろう。されど不思議と冷静に返し、右手に破王を召喚。

 愛刀を目にし大層驚いた隙を突いて右肩から左脇腹まで切り裂き、記憶から引き剥がす事に成功。


「チッ……まだ感覚を取り戻し切れてねぇか」


「三ツのムゲン、宿シた武器……ダが、完全に扱い切れてイナイ。スキル発動──jack(ジャック)


 現実に戻り、発生した爆発に弾かれる中。ゆかりの背後に黒い人物と、二人を繋ぐ粘膜を視認。

 その点から、完全な切り離しは失敗と判断。どうやら相手も三つのムゲンに関して知識があるらしく。

 破王を脅威と認識し、かつ自分がまだ完全に扱えていないと知るや否や。引っ張った輪ゴムが戻る様に。

 ゆかりへとへばり付き、白兎と言う鎧を背後から徐々に黒く染め上げて行く。


「コレはイイ。唯一無二の邪魔者タるエックスの戦闘情報ガ、事細カに流れテくる」


「貴紀君!──」


「……ゆかり!?」


 恐怖と不安を与える様に下半身、上半身と順番に乗っ取るゼノス。此方へ呼び掛け右手を伸ばすゆかり。

 名前を呼んだ辺りで喉を乗っ取られ、声を奪われるも、口パクで発音の無い言葉を送った内容は……

 「私に構わず、コイツを倒して」だった。重力に引かれ落ちる中、声を聞いた。とても悲しげな声。

 その声は「助けて欲しい。私達の愛娘を、一人残してしまったゆかりを……」とバイザーに文字を送る。


「こノ娘、何度モ貴様の就寝中に口付ケをシテイたトハな。我らが王ノ救済ヲ受ケ入れレば済むものヲ」


「……哀れな」


 此方が地面へ着地した直後、宙に浮くゼノスはジャックしてから記憶を読み取った様で。

 ゆかりの秘密を暴露した上で、聞き飽きた救済云々と話す為、真顔で哀れみを込めて口に出す。

 すると哀れみに反応したらしく、口角を大きくつり上げる。ふむ……自身の都合が良い様に捉えたか。


「ソウだろウそうダロう!なんと哀レでミットもない──」


「一つの巨大な脳を全員で共有してなお、他者を卑下しなくては優位に立てんとは……余りにも哀れ過ぎる」


「きっ……貴様ァァ!!」


「前頭葉は鍛えているか?萎縮した脳は元には戻らず、前頭葉が衰えれば感情の制御さえままならんぞ?」


 気分良く笑みを浮かべ、卑下する言葉を遮る様に事実を突き──首を横に振り、哀れむ。

 先程の言葉が自身らに向けられたモノと理解するや否や、吠え叫びながら此方へと突っ込んで来る。

 白兎改め、黒兎と化したゼノスは此方を黙らせ様と、両手両足を使ったラッシュを繰り出すも。

 それら全てを同じく両手両足を使って捌き、武力ではなく言葉による反撃で切り返す。

 脳と腰は一生モノ。特に脳は萎縮はすれど、元には戻らない。それが魔神王最大の弱点。


「そして我々大人とは──未来へ進む子供達に祝福を与え、支え導き、見守るべき存在。それが呪いを与えようなどと」


「呪いではない!!救済であり、祝福だ!」


「一つと成る事が?それが選択肢を奪う愚行愚策だと何故気付かず、間違いを認めず、己を許させない?」


 真っ直ぐ顔に迫る右拳を右手で左側面へ払い退け、我々と子供達の在り方を説き。

 左手で腹部へ掌底を打ち込み二歩後退させれば、自身が行っているのは呪いではなく祝福だと断言。

 心身や魂の統一化。確かに争いや不平等などは無くなるだろう。反面、自由が無くなり不自由になる。

 幾ら指摘し、間違いに気付かせようとしても……魔神王の端末は気付かす、認めず、それを許さない。


「むっ?これはイカン……ゼロ、私から主導権を奪い取れ!」


(あいよ!って、通常の主導権交代は無理……なら、乗っ取る(ジャックする)までよ!)


 話し、思考している途中に気付く。魔神王の端末と接触している為か、半分覚醒状態に入っている。

 本気モードはまだ早い上、自分と言う自我が乗っ取られてしまう。なのでゼロに頼み、強制交代。

 同時に第二装甲まで後退したが……やむを得まい。後は二人からの主導権譲渡があるまで、任せよう。

 交代したタイミングで、頭上から黒い右拳が降り注ぎ──命中。周囲に大量の土煙が舞い上がる。


「ジャックしたノがこの娘ダケだと、いつから錯覚シテイた?コノ箱庭を操る娘モ、既に我が手中」


「…………なあ、宿主様の負担にならねぇし。そろそろ俺達も本気、出しても良いよなぁ?」


 土煙が舞う此方に向け、何が起きたのかを教えたがる風に語るゼノスの言葉を聞くゼロは、機嫌が悪い。

 要はゆかり、マキナを人質兼戦力として手中に納めた。これで自身が優位だ!とでも言いたいのだろう。

 確かに数だけで見れば、それはそう。身内でも余程の事が無い限り怒らないゼロが……キレている。

 声に出さないが、霊華もキレてる。此処で止める理由も無い為、深く一度だけ頷き肯定。


「幾ら交代シようト。エックス……いや、ジャンクの実力から測れば、貴様らなど敵では──ない!」


 吹き抜ける風が土煙を払い退け、頭上に向けた左手一本で巨大な右拳を受け止め俯くゼロが見える中。

 ゼノスが此方へ飛び込むや否や。先程同様にラッシュを叩き込むと模造ビルへ蹴り飛ばし。

 追い打ちとばかりに召喚したポーン達の自爆特効、黒紫色をした光弾の連射。いわゆるグミ撃ちを行う。

 再び舞い上がる土煙と爆煙。アニメでもそうだが、グミ撃ちは視界を悪くする上、倒せてない事が大半。


「宿主様はよぉ……根っからの平和主義者でな。本当は俺達が前線に出て経験値を与える側だったんだよ」


「まだ生きテイルか。しぶトイ奴め!」


「なのに俺達や仲間、家族が傷付くのが嫌だっつって自ら前線に出て、心で泣きながら戦うんだ」


「ば……馬鹿な!?」


 ゼロは猫背のまま俯き、両腕を力無くぶら下げながら呟く。確かに……最初はゼロの言う通りだった。

 呟きが聞こえたのか。チラリと見えたゼロの顔面目掛けて飛び込み、右膝蹴りを繰り出すゼノス。

 それを左手で容易く受け止め、続きを話しつつも来た方へ軽く放り投げ返す。

 恐らく渾身の一撃が簡単に止められて驚いたのか。声から信じられん!と言いたげな恐怖心を感じる。


「処分する前に言っとくぜ?マジで本気になった宿主様は──俺達の手が届かねぇ遥か高みに居る」


「有り得ん!有り得ん有り得ん有り得ん有り得ん有り得ん有り得ん……有り得んッ!!」


(家族)を潰さねぇ為、他者の協力を得て封印する程に心優しい。俺達はそんな宿主様の心を護る……護衛だ」


 倒すなどの言語では無く、処分と言いながら一歩ずつ近付いて行くゼロを目の前にして。

 続けて話した内容が信じられず、同じ言葉を繰り返し吠え叫びつつ、来るなとばかりに光弾を投げる。

 強い力にはそれ相応の対価が必要だが。ジャンクと呼ばれる程に落ち、沢山の仲間や家族に恵まれ。

 心折れそうな時は、ゼロ達が助けてくれた。身体中に光弾を受けても微動だにせず歩みを止めない。

 ゼノスは白兎の武器・チェーンソーを右手に召喚し、一気に振り下ろそうとするも……


「ありがとう、ゼロ。この距離なら、先ず外さないわ」


「な、何故……こんな華奢な女に!?」


「人間、舐めんじゃないわよ!カケハ(コトハの母親)直伝──秘技・閃光自解掌(せんこうじかいしょう)!」


 途中、ゼロは霊華と交代。力任せに振るう右腕を左手で優しく受け止め、逃がさない様力強く掴む。

 多分奴は何故止められ、掴まれた右腕が万力で挟んだ様に動かないのか?と言う疑問で一杯だろう。

 逆に考えれば、何故人間よりも遥かに強い龍神が人間の巫女と添い遂げ、共に居るか……が答えだ。

 凄みを感じる怒気を孕んだ顔でそう叫び、黄色に輝く愛情の紋章が浮かぶ右手を──胸部へ打ち込む。

 するとゼノスがゆかりから押し出され、後方へ剥がれる。カケハはコレで娘を救う気だったんだな。


「剥がサレ……タ?!」


「私が剥がしたんじゃない。アンタが無意識に自ら解いたのよ」


 突然の予想外な出来事に、理解が追い付かないゼノス。霊華に指摘されてなお、理解が及ばない様子。

 恐らく閃光自解掌を打ち込まれた相手の概念は狂い、憑依や乗っ取り行為を保てず自ら解くのだろう。

 相手から見れば解除技であり、今まさに再びゼノスが倒れ伏したゆかりをジャックしようと近付く。

 も……文字通り取り付く行為すら出来ず、更に困惑。狼狽える姿は親とはぐれた子供の様。

 姿は黒兎のままだが、乗っ取りを解いた以上無問題(もーまんたい)。残るはマキナの救出と野郎の撃破だ。


「神へのお祈りは済んだ?祓われる覚悟は?アンタが犯した罪を裁く時は今。judgment(判決)──kill(殺す)!!」


 歩きながら笑顔で近付き、懺悔や祈りは済んだか?と聞いた後、真顔でゼノスの罪を裁く云々述べ。

 右手に光を集め御払い棒改め大幣(おおぬさ)を召喚。それを右肩へ乗せ、ゼノスの判決を処刑と断言。

 光源を背にし長い黒髪の為、前面が影となり眼と口が紅く光って見えるのは……気のせいだろうか?


(気ノ所為デハナイ。俺ニモ、王ト同ジ様ニ見エテイルカラナ)


(当然だろ。何せ俺達──家族を怒らせたんだからよ)


 素朴な疑問に答えるルシファー。気の所為や幻覚ではなく、怒気と気迫だけでそう見せている訳か。

 何故そう見せるのか?ふと過る疑問にはゼロが答え、自身ら家族を怒らせたからだ。と主張。

 個人的にもゼノスの罪を許す気はない。コイツに反省の色はなく、当たり前と認識しているからだ。



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