別視点 -bezeleburu-
『前回のあらすじ』
シナナメや更なる強敵に備え、根源の力を使える様になろうとするエックス。
ムゲン世界に侵入したゼノス達を全滅させた後、何者かがゲームに鍵を差し込んだ様子。
しかしムゲン世界を構成するドームが邪魔な為、エックスは融合技でこれを破壊する事に成功。
自身のあり方を再認識し、七番目の幕が開いた際の衝撃波を受け……旅立つのであった。
「…………」
また眉をひそめ始めた。小難しい事や反省・改善する時によくする顔付き……
その顔や行動を、幻想の地で何度視て来た事か。何かをやると理解しても──
お前はその上を何度も飛び越えて行き、常に私の心を掻き立てる。今もそうだ。もしその顔や思考が!
私を倒す方向へ向いているのだとすれば、どれ程楽しませてくれるのだろう!!と心が高ぶってしまう。
だが……現実は三騎士・シナナメ対策。それ位は私にも分かる。今回はその思考を諦めるしかない。
「今は考え事を控えろ。ゾークが倒されたとは言え、危機的状況なのは変わらん」
「お……おう」
考えに集中し過ぎている為、呼び掛けて現実へ引き戻す。良くも悪くも、一直線なのは変わらんか。
一度は理解を示したが、何かに気付いた様でまた眉をひそめ始めた。が……先程と違って表情は明るく。
アニメで言う閃き──頭上に電球やら頭を電流、閃光が走ったかの様子。
こう言う時は下手に口を出さず、様子見をするのが一番だ。親はその逆をやって子供を叱るが……
我が友はその逆。仮定を最悪の状態から始め、反省改善試行を頭の中で何度も繰り返す。
「……やはり、王の素質を持つ者だな」
「ん?何か言った?」
「いや。どうやらゼノス達は中央、ヴォール城を目指している様だ」
「国王の姿を盗んで国を乗っ取る気か?何にしても、チェックメイトには早すぎんだろ」
思わず漏れた、友へ対する言葉。小さな呟きだったのもあり、聞こえてないのが救いか……
話題をゼノス達へ逸らせば、国王の姿を~と言うが、アイツがそう簡単に姿を乗っ取らせる訳がない。
あの心の中を見透かす様な鋭い瞳には、後生敵うとも思わん。敵でない事が最大の救いとすら言える。
城前へ駆け込む友が腕を交差している。事前動作を先に済ませてのサーキュラーブレードか。
「サーキュラーブレード!」
間髪入れず両手を左右に払い、緋色の刃を飛ばした。が……刃はボロボロな上。
横回転してもはやブーメラン。それでも群がるゼノス達を切断する強度はあれど、綻んで自壊。
魔力を込める量を間違えた?と思って魔力感知を行うと……魔力の他に霊力も感じ、違和感を覚える。
いや、違う。多分新しい何かを試しているのだ。常識と言う知恵の枠組みを、空想で包み込む様に。
「新たな知識……新たな技術……永遠の命ぃぃ」
「ゼノス共を理解する程、奴らの残念さが浮き彫りになるな」
「まあな。奴らは強欲派と怠惰派に分かれてる」
住民共の避難先である城を目指し、門目掛けノロノロと集まるゼノス共。
奴らは自ら新規を作る事は無く、ただ怠惰に己の強欲を満たそうとする愚かな侵略者。
永遠の命など永遠の地獄に変わり無い。先立つ愛する者、親しき者を見送るしか……出来ぬこの苛立ち。
なんと辛く、苦しい事か。求め奪い乗っ取る奴らには飽きれを通り越して、最早哀れみすら覚える。
我が友も私と同じく、奴らに哀れみを覚えている様……表情が明るくなった?フフッ……成る程な。
「……クックックッ」
「……どうしたんだよ?」
ある事を理解した途端──咄嗟に笑ってしまうのを堪え切れず、笑い声が漏れ出した。
また、私を楽しませてくれる何かを思い付いたのだろう。その事実・我が友の存在だけが今や……
巴の成長と幸せを見る以外で、私の心を満たしてくれる。しかめっ面で話し掛ける我が友に対し。
「失敬失敬」と笑みを浮かべながら、そう言い返す私を見て呆れる我が友に、真剣な表情で口を開く。
「勇者物語なんぞ、全盛期と良い部分だけ切り貼りした著者に都合の良い駄作に過ぎん。そう思わんか?」
「さあな。今はそんな事よりも──この模造品共を倒さねぇとな……俺達の世界にまで侵略してくるぞ」
こう言う場面は勇者物語で切り抜かれるシーンだろう。誰も勇者の苦悩や悪しき心情は求めぬ。
同意を求めるも、適当に返答された。我が友を勇者とは思わん。寧ろ、勇者で無い方が望ましい。
勇者などと言うちっぽけな存在、枠組みに居て欲しくないのだ。自由気ままな旅人に──
世界を救う命運など必要無い。私が心許した唯一無二の親友、世界を自由気ままに巡る旅人には……な。
「確かに……このムゲン世界は望みを全て叶えてくれる。けれど、それは人間の心と精神を腐敗させる毒」
「コイツらと同じになるだけ。それは火を見るより確実だろう」
「偽りの世界が壊れ、暴走していると言うのなら──破壊するしかねぇよなぁ!!」
三つのムゲンを手にした者の望みを叶える、ムゲン世界。それは人類やゼノス達にも極上の甘い誘惑。
怠けとは、生物学的にエネルギーの消耗を抑える生存本能。とは言え、怠け過ぎれば……ゼノス共と同じ。
私が此方側へ飛ばされた際、初めて喰った勇者の様にな。現実とゲームを同一視するド阿呆め。
等と思考する内に友は真剣な表情で力を右手に集め、真っ黒いお面を作るとそれを被る。
友と背を向け合わせ、素体の黒いゼノス達を爪で引き裂く。……その泣いているお面が、本心なんだな。
「コイツで──ラストォォォッ!!」
「私が三百十七体。そちらが三百十六体で私の勝ちだな」
「……二、三体程サバ読んでるだろ?」
「フッ……バレたか」
友が最後の一体を頭から縦に裂き、黒い体液が上に噴き出す。体感的に五分だが……
左腕の腕時計を見るに、一時間戦っていた様子。今は亡き妻の白いハンカチを右ポケットから取り出し。
返り血……ならぬ墨?を拭い友を見れば、お面の内側から零れ落ちる涙が眼に止まった。やはり本心か。
自身に優位なサバを読んだスコアを語り、哀れみを感じ涙を流す親友のツッコミを引き出す事に成功。
終わりを告げる様な風が吹き、風に吹かれたお面は自壊し消えた。あのお面も気になるが、これは……
「この感じ……誰かがゲートに鍵を差し込んだらしい」
「分かるのか?」
「少なくとも、ゲートに関わりがある。が……このムゲン世界をドーム状に構成する膜が邪魔をしている」
「なら──」
この感じ──マジックか?あの鍵を親友の使用を待たず使うとは……何か切羽詰まった状態に陥ったか?!
幸いにも我が友は感知しておらず、私の呟きを聞き返答。七番目の幕が開く準備が出来たが問題がある。
ドーム状のムゲン世界が次の幕開けの邪魔している。そう伝えたら……言葉に詰まった様子。
もしや、自身の幸せを願い此処へ残る気か?だが、それも一つの選択だろう。誰も文句は言わない。
「破壊するっきゃねぇよなぁ!」
と思った矢先──己の幸せを蹴った。いや、幸せならば既に抱え切れない程貰っていたな。
どうやら副王が幻想の地でループさせ行わせた、度重なる旅は無駄ではなかった。
友の満足げなその表情はこの世界の破壊を口にし──組んだ両手を偽りの空目掛けて突き出し。
前方に虹色の玉を六つ円形に展開。その後、徐々に速く回転し始めた。アレは……シリンダーの回転?
「リボルビングインパクトと、ライトニングラディウスを融合!」
「近接技と中距離技を……融合?」
「幻想の空まで届け!!恋想・夢想スパーク!」
高速の余り虹色の輪。その中心で描かれる陰陽図。融合技に選んだ技は全て、最大威力が零距離の技。
疑問より好奇心が勝り、心を踊らせる。誕生日やクリスマスに、幼い子供がプレゼントを開ける様に。
何故なら──幻想の地で私を打ち倒した技の融合。ワクワクが止まらない、何を見せてくれるのかと!
技名を叫び、放つ虹色の極太レーザー。その背中にとある巫女と人間の魔女を見て懐かしく思う。
「貫け──誰よりも速く、深く、強く、熱く!!」
「……フッ」
偽りの空へ一直線に駆け昇る虹は、地から天へ昇る龍にも見え……天井へぶつかり、雷鳴が如き音を轟かす。
我が友の貫く心情。その叫びに応じ、数秒も待たず天井に亀裂を入れた直後貫き、細まり消えた。
初使用故用心深さの余り、最低出力で放っただろうが……これは完全版・緋想の足下にすら届かない。
割れた天井が粒子となり、煌めき降る。巴にも見せてやりたいと思い、スマホを取り出し撮影。
「到着が遅れてしまい誠に申し訳ありません。我らが主」
「いや、構わない。君達が防衛戦を維持してくれたお陰で、妨害無くゼノスの大群を処理出来た」
「勿体なきお言葉」
正面の北門が開き、急ぎ駆け付け跪くオラシオン。這い寄る混沌が到着の遅れを謝罪。
しかし防衛戦維持は侵入済みのゼノスを妨害無く処理するには、必要不可欠だったと伝えれられ。
這い寄る混沌は言葉と共に一同全員で頭を下げ、謝罪と感謝を示す珍しい場面。
写真を一枚撮ってやろうと思った直後──「撮ったら殺す」と思念を送られ、断念。
「して、次の任務は?」
「……魔神王軍と戦い、奴らのオメガゼロ抹殺計画を阻止する。各々、何か異論は?」
跪いたまま次の任務を聞き、魔神王軍との決戦を伝える。内心、慣れぬ事で不安だろうに。
異論の有無を訊ねるも、誰一人として意見を上げない。上げる訳があるまいて。
何も言わないのは、異論や意見が無いのだ。オラシオンは全員、我が友を信頼しているのだから。
「魔神王軍を倒した後は魔神王オメガゼロ・ワールドロードを叩き──この旅を終わせる!!」
「Yes,my lord!」
遂に此処まで来た。来てくれた。後は修行相手の三騎士共や終焉達と決着をつけ、魔神王を倒すのみ。
我が友の言葉を聞き一斉に立ち上がるオラシオンは右腕を曲げ、Vの字にして左胸へ当てる。
ヴォール王国でその行動を行う意味は──我が命、全て貴方に捧げます!と言う覚悟。
刹那……時間が止まりやがった。世界の色が白黒に染まり、風に吹かれ舞う小さな土埃も停止。
敢えて私も停止している振りを行い、耳を澄ませ魔力感知を研ぎ澄ます。背後に誰か居るな?
「もう……旅を止めよう。幾ら頑張っても世界は変わらないし、君の消滅も免れない」
その声は夢現──いや、違うな。我が友にネバーランドで喰われ、破王・夢現と共存中の無月闇納か。
我が友は思い出した名前が微妙に間違っており、ハーゼンベルギアではなくハーデンベルギア。
花言葉は『出会えて良かった』や『運命的な出会い』……此処に居ると言う事は、そう言う事か。
「努力が常に実るとは限らない、運命は変えられない。どうして貴方は……そんな無茶を行うのよ」
「無茶かも知れないけど、無理じゃない。諦めは一瞬あれば出来る。けど──諦めたくないんだ。私は」
「私……そう。もう、後戻り出来ない所まで来てるのね」
現実を突き付けるも親友は歩みは止めない。理由は他を思いやる優しさと、傷付き嫌われる勇気。
過去にも守りたい人間の為だけに全人類の敵を成し遂げ、今もまた……その条件を満たし世界を救う。
繰り返し戦う内に、私は知った。我が友の心は泣きながら相手と戦い、成長している事実に。
「私は人間だ。人間だからこそ、やり遂げなければならない事が沢山ある」
オメガゼロに生まれ変わっても、彼は今も昔も人間であり続けている。それは不変の事実。
人間だからこそ悩み、苦しみ、嫌われてでも掲げる目標の為に駆け抜ける。それが彼の生き様。
挑戦と失敗を繰り返し、何度も絶望した。その度に反省・改善し何度だって立ち上がって来た。
あぁ……世界中の誰もが太鼓判を押さずとも、私が押すとも。君は立派な人間だと。
「…………死ぬ気?」
「生き残る気さ。だから──来いよ。一緒にまだ見ぬ未来へ駆け抜けようぜ?」
今までの、これから潜り抜ける数々の死線激戦で、我が友の命は風前の灯火だろう。
暫し沈黙を続け、決意を表し握った右手を胸に吐き出した、ベルギアの弱気な一言。
我が友は死ぬ気が無い事を伝えた上、迎え入れるに左手を差し出し、共に走る事を求めた。
夢現は笑顔で、ベルギアは過去に置いて行かれた事を思い出したのだろう。だが……
今度は一緒に行ける。笑顔のまま涙を流し、我が友の手を取れば一本の刀へ。
「最後まで残り短いが……頼むぞ、相棒」
破王は光となり左腕へ吸収され、それを見届け呼び掛ける。直後、時間停止は解除。
北門の遥か彼方から届く、白い衝撃波。ムゲン世界の幕が降り、最後の試練が幕を開ける。
次の舞台へ立てば、我々はまた敵同士の役。最後の試練として、立ちはだからせて貰うぞ!




