破王 -Ich bin menschlich-
『前回のあらすじ』
場内へ侵入したゼノス達を倒すべく探す中、エックスの前に姿を表すナイトメアゼノ・ゾーク。
主以外を抹殺するゾークの任務から身を守るべく、自己防衛で襲い掛かるシナナメ。
侍と忍者の戦いはシナナメが征し、終焉の掲げるオメガゼロ抹殺計画が近々始動すると話す。
それはルシファーとの決着をつける為、次会う時は戦う時だと言う宣言でもあった。
「…………」
ふと思った。本気のシナナメに勝つには、何が必要なのかと。力、スピード、テクニック、戦略。
そのどれもが必要で、ならばその力はどうすれば出せるのか?自分が使える魔力や霊力は量こそ多い反面。
いざ使うと他の人より無駄と消耗が多く、ガス欠になり易い。それは何故か?疑問と憶測が浮かぶ。
もしや魔力と霊力が力の起源だと勝手に枠に嵌め、使い分けているのでは?もし、根源を使えれば……
「今は考え事を控えろ。ゾークが倒されたとは言え、危機的状況なのは変わらん」
「お……おう」
考えに思考を集中していた為か、言われるまで現状をすっかり忘れていた。……待てよ?
オメガゼロの力って、魔力や霊力ではない。より純粋で、混じりっ気の無いエネルギー。
『根源』の産み出す力こそが、オメガゼロの力。それを百パーセント使えれば──だがどうやって?
……そうか。そんな普段通りやってる、無意識にも近い行動を意識して行えば良いのか。それは盲点。
此処からは俺個人で行う、秘密の特訓。取って置きの切り札──最後までに完成すれば良いんだが。
「……やはり、王の素質を持つ者だな」
「ん?何か言った?」
「いや。どうやらゼノス達は中央、ヴォール城を目指している様だ」
「国王の姿を盗んで国を乗っ取る気か?何にしても、チェックメイトには早すぎんだろ」
何やら小さな呟きを聞いた気がするも、ベーゼレブルはゼノス達が城へ集まっていると言う。
戦争や侵略は、王を討ち取れば大概終わる。が……残念ながらウチの国はそうじゃない。
モンゴルが日本を二度襲撃し、撤退させられた鎌倉時代から室町時代と同じく、全滅しないと終わらん。
みんな……国王と国を愛してる奴らばっかり。考えながら、両腕を交差させたまま城門を背に滑り込み。
「サーキュラーブレード!」
間髪入れず両手を左右に払い、緋色の刃を飛ばす。のだが……飛翔する刃は刃がボロボロ。
真っ直ぐ飛ぶ筈がスピンしており、群がるゼノス達の胴や首などを切断する度に綻び自壊。
突発的に魔力と霊力を雑に混ぜ合わせは駄目か。もっと意識を力の根源に集中して引き出す?
いや、違う。多分新しい何かを試すのは間違いだと直感が訴える。では現状?それも違う。なら……
「新たな知識……新たな技術……永遠の命ぃぃ」
「ゼノス共を理解する程、奴らの残念さが浮き彫りになるな」
「まあな。奴らは強欲派と怠惰派に分かれてる」
住民の避難先となっている城を目指し、門へとぞろぞろ集まるゼノス達。
新たらしい何か、永遠の命を求め奪い乗っ取る奴らにはベーゼレブル同様、最早哀れみすら覚える。
自ら発見・発展するのではなく、奪い乗っ取って自らの物とする強欲性と怠惰には反吐が……そうか。
戻れば良いんだ。あの頃を、幻想の地で戦っていた頃を取り戻す。きっとそれが答えなんだ!
「……クックックッ」
「……どうしたんだよ?」
そう理解した途端……突然ベーゼレブルは笑うのを堪え切れず、声が漏れ出す。
不気味と言うよりも気持ち悪さが勝ち、大群のゼノス達が迫る中、しかめっ面で話し掛けると。
「失敬失敬」と口元だけが笑みを浮かべながら、そう言った。そんな様子を見て呆れていたら……
「勇者物語なんぞ、全盛期と良い部分だけ切り貼りした著者に都合の良い駄作に過ぎん。そう思わんか?」
「さあな。今はそんな事よりも──この模造品共を倒さねぇとな……俺達の世界にまで侵略してくるぞ」
この場面を勇者物語と重ねているのだろう。けれど確かに勇者が現れる物語は、その傾向が高い。
同意を求められたが、駄作と受け取るかどうかは……読み手次第と思う。だからか、適当に返答し。
何処から涌き出てるのかも分からない上、大量のゼノスが行う侵略行為を阻止するのが最優先だ。
「確かに……このムゲン世界は望みを全て叶えてくれる。けれど、それは人間の心と精神を腐敗させる毒」
「コイツらと同じになるだけ。それは火を見るより確実だろう」
「偽りの世界が壊れ、暴走していると言うのなら──破壊するしかねぇよなぁ!!」
甘い誘惑・幻惑に対し、人間は溺れ易い。それは生物学的な生存本能。とは言え、浸り過ぎるのは毒。
ゼノスと同じ、誰かの成果や結果を横から奪う腐れ外道に成り果てる。ならば、自分がやる事は一つ。
例え全人類を敵に回そうとも──吐き気を覚える甘い誘惑の世界を破壊する。それが自分の役目。
まだ命名は無い根源の力を右手に集め、お面を作っては被り、ベーゼレブルと二人でゼノスの大群へ。
宿敵と背を向け合い、まだ誰の姿も奪えておらず真っ黒なゼノス達の胴や首を爪で引き裂き進む。
「コイツで──ラストォォォッ!!」
「私が三百十七体。そちらが三百十六体で私の勝ちだな」
「……二、三体程サバ読んでるだろ?」
「フッ……バレたか」
最後の一体を頭から縦に裂き、黒い液体が噴き出す。何時間戦っていたのだろう?
漸く倒し切り、ベーゼレブルの方を見れば白いハンカチで返り血……墨?を拭いつつ。
お互いのスコアを語り、自身の方が多く仕留めたと言う為、お面を付けたまま鎌を掛けてみると──
サバ読みが的中。戦いの終わりを告げる様に風が吹き、風を浴びたお面は自ら自壊し粒子となって消えた。
「この感じ……誰かがゲートに鍵を差し込んだらしい」
「分かるのか?」
「少なくとも、ゲートに関わりがある。が……このムゲン世界をドーム状に構成する膜が邪魔をしている」
「なら──」
それと同時に、何か気配を感じ取った様子。ベーゼレブルが言うには……
あの鍵を自分達の誰かがゲートに差し込んだ様で、七番目の幕が開くのだろうとの予想は容易い。
だが──ドーム状になっているムゲン世界。これが次の幕開けを邪魔していると言う。
次が始まらなければ……この旅は終わらない。その響きと意味を理解すればする程、言葉が詰まる。
此処なら……息子・娘に父親で居られる時間がある。自分の幸せと世界を天秤に乗せた結果。
「破壊するっきゃねぇよなぁ!」
自分の幸せを棄てた。いや──幸せなら、既に抱え切れない程貰っている。ならば進む他ない。
後に産まれて来る息子・娘の為。未来と言う継承やバトンを渡す為、改めてこの世界の破壊を口にし──
組んだ両手を空目掛けて突き出し、前方に虹色の玉を六つ円形に展開後、徐々に速く回転し始める。
「リボルビングインパクトと、ライトニングラディウスを融合!」
「近接技と中距離技を……融合?」
「幻想の空まで届け!!恋想・夢想スパーク!」
高速の余り虹色の輪に見える中心には、陰陽図が浮かび上がる。融合する技の選択に疑問を持つのも解る。
ほぼほぼ零距離用のリボルビングインパクトに、最大威力が近距離のライトニングラディウス。
どう考えても近接技になると思うだろう。けれど違う。技名を叫び、放つは極太の虹色レーザー。
「貫け──誰よりも速く、深く、強く、熱く!!」
「……フッ」
偽りの空へ駆け昇る虹は何かへぶつかり、雷鳴轟く様な……耳を塞ぎたくなる程の轟音を鳴らす。
自分の叫びに応じてか。数秒も待たず透明な天井に亀裂を作り、貫いて何処かへと飛んで行った。
初めて故、用心深さもあり出力調整を最低値で放ったが……これは未完成の緋想にも劣らない威力だろう。
割れた透明の天井が粒子となり、煌めき降るこの光景は──幻想の地に居る彼女達にも見せてやりたい。
「到着が遅れてしまい誠に申し訳ありません。我らが主」
「いや、構わない。君達が防衛戦を維持してくれたお陰で、妨害無くゼノスの大群を処理出来た」
「勿体なきお言葉」
正面にある北門が開き、急いで駆け付け跪くオラシオンの六名。アイが到着の遅れを謝罪するも。
防衛戦の維持は侵入したゼノスの処理を妨害無く行うには、必要不可欠だったと伝えれば。
アイの言葉と共にオラシオン一同頭を下げ、謝罪と感謝を示す。……やっぱり主従関係って苦手だな。
「して、次の任務は?」
「……魔神王軍と戦い、奴らのオメガゼロ抹殺計画を阻止する。各々、何か異論は?」
跪いたまま次の任務を問われた際、シナナメの言葉を思い返し──魔神王軍との決戦を伝える。
何か異論はあるかな?と思い訊ねてみるも、誰一人として何も意見を上げない。
何も言わないのは異論や意見が無いのか。それとも、恐怖政治的に思われてるのだろうか?
「魔神王軍を倒した後は魔神王オメガゼロ・ワールドロードを叩き──この旅を終わせる!!」
「Yes,my lord!」
遂に此処まで来た。三騎士を退け、終焉やマジックとも決着をつけた上、魔神王を倒す。
その宣言を下す日が。自分の言葉を聞き、一斉に立ち上がると右腕を曲げ──
Vの字にして左胸へ当てるオラシオン。その行動の意味は不明だが、覚悟を決めてくれたのだと判断。
刹那……時間が止まる。何故分かったのか?それは、世界の色が白黒に見えるからだ。
多分、光も止まる為色が視認出来ないのを、無理矢理視ている為だと自己解釈し、後ろを振り返る。
「もう……旅を止めよう。幾ら頑張っても世界は変わらないし、君の消滅も免れない」
其処には旅を、冒険を辞める様に諭す……深々とローブを被った少女の姿、夢現──いや。
我が愛刀、破王・夢現……と共存している無月闇納こと、ハーゼンベルギアの姿が。
何故か共存と認識した自分に、違和感を覚える。それを問おうと口を開く瞬間。
「努力が常に実るとは限らない、運命は変えられない。どうして貴方は……そんな無茶を行うのよ」
「無茶かも知れないけど、無理じゃない。諦めは一瞬あれば出来る。けど──諦めたくないんだ。私は」
「私……そう。もう、後戻り出来ない所まで来てるのね」
現実を突き付けられ、そう言われても……歩みは止めないし、止められない。
私は優しい世界に背を向けた。全人類の敵になってもおかしくない事を、私はやり遂げた。
昔なら孤立や嫌われるのが恐ろしく、怖くて足踏みだけして何も成し遂げられなかっただろう。
けれど──沢山の世界を巡り、旅を続けて経験を積んだ今は違う。嫌われても良い、孤独でも良い。
何故なら誰しも十人十色、千差万別。誰かと同じである必要は無く、自分自身を貫けば良いから。
「私は人間だ。人間だからこそ、やり遂げなければならない事が沢山ある」
オメガゼロに生まれ変わっても、私は今も昔も人間であり続けている。それは不変の事実。
人間だからこそ悩み、苦しみ、嫌われてでも掲げる目標の為に駆け抜ける。これが私の生き方。
当然失敗もする、打ちのめされて絶望だってする。その度に反省し、改善して何度だって立ち上がる。
人類の夢は終わらない。叶えたい夢の為に、人間は短い生涯を一生懸命燃やし生きて行く。
その努力はきっと……定められた運命すら狂わせ、敷かれた天井さえ突き破り続けると信じてるから。
「…………死ぬ気?」
「生き残る気さ。だから──来いよ。一緒にまだ見ぬ未来へ駆け抜けようぜ?」
命短い人間故、この先に待ち受ける数々の死線激戦で命尽きると思ったんだろうな。
少し沈黙を続け、決意を表すかの如く握った右手を胸に、吐き出した弱気な一言に対し。
死ぬ気は毛頭無い事を伝え、迎える様に左手を差し出し、最後の最後まで一緒に走る事を求めた。
夢現は笑顔で。闇納は何かを思い出したらしく、笑顔のまま涙を流し、此方の手を取れば一本の刀へ。
「最後まで残り短いが……頼むぞ、相棒」
破王は光となって左腕に吸収され、それを見届けてから呼び掛ける。直後、時間停止は解除され。
北門の遥か彼方から届く、白い衝撃波。それはムゲン世界の幕が降り、最後の試練の幕開けだと……
誰にも言われずとも、不思議な程理解していた。此処からは──生きるか死ぬかの二択。
Ich bin menschlich……最後の最後まで、この言葉と仲間達との思い出を胸に走り抜こう。




