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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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戦略 -strategy-

 『前回のあらすじ』

 大きくなったシオリはヴォール王国にある禁書と真実を求め、オラシオンへ入隊。

 自分勝手な解釈をし、アイに注意されるシオリ。突然四方から襲い来る魔物の群れ、防衛へ向かう一同。

 エリネとの会話で何かを察し、第二波を処理せぬまま森へ。ベーゼレブルが受け持ち、エックスも森へ。

 紆余曲折経て、電車内で無月闇納と対話。ゼノスの侵略作戦が近いと言われ、話を断ち切り車外へ。


 電車内から飛び出した先は──ヴォール王国西門の空中。重力に引かれ、落下する最中。

 東西南北の四方を手短に確認。魔物だかナイトメアが大勢集う北部を除き、防衛戦は終わっている様子。

 確認に注意を割き過ぎて着地を忘れるも、下に居たベーゼレブルに受け止められ、地面に降ろされる。


「……ありがとう。それで、戦局は?」


「北門を防衛中のアインスを除き、他は防衛成功した。が、ゼノスの大群が場内へ侵入した」


「ちょっ……言ってる場合かよ!父さんや住民を助けに行かなきゃ!」


 感謝を告げ戦局を訊ねれば、やはり北門へ集中している様子。相当ナイア姉に動かれたくないと見た。

 ゼノスの大群が場内に侵入したのも、恐らく奴らの作戦だろう。国王や住民と入れ替わる為に。

 愛着ある自国を救う為場内へと駆け出せば、ベーゼレブルも付いて来た。同伴する約束……だな。

 人気のない場内を探してると、ゼノスの一体を発見。倒そうと駆け出す時──奴が目の前に現れた。


「貴様さえ倒せば……我らが王の計画を邪魔出来る者は、この世から消える」


「ナイトメアゼノ・ゾーク──っ!!」


 ナイトメアゼノ・ゾーク。無月闇納のペットにして、ゼノスの王たる魔神王の僕……の筈。

 空間転移で目の前に現れ、自分が計画を邪魔出来る唯一無二の存在故、此処で倒すと宣言。

 フュージョン・フォンを破壊された今、変身やsin・第三装甲の呼び出しが出来ない。

 ベーゼレブルも身構えてはいるが……二人掛かりでも、完璧に倒せるかどうか怪しい。

 そんな時。身に覚えのある気配を感じ、隠す気も無い魔力が近付いてくる方向へ振り向く。


「見付けたぞ……異形の(しのび)


「三騎士・シナナメか。今貴様に付き合ってる暇は無い。とっとと失せるが良──!?」


 損壊した一軒家の角から姿を表す三騎士・シナナメ。首に巻くタイプの灰色マントを纏っている。

 てっきり二対一になると思いきや、彼女の狙いはゾーク。しかし標的にされた当人は興味がないのか。

 彼女へ向いていた視線を此方へ戻す。優先順位は、オメガゼロ・エックスの討伐が最優先らしい。

 だが……そんな事は彼女に関係無く、ひとっ跳びでゾークへ接近し、大太刀の突きを繰り出すも。

 咄嗟に身を引かれ、三本ある右手の中指に掠る程度。改めて敵意があると見て向き合う双方。


「それ程消滅したければ、先ずは貴様の存在・歴史から抹消してくれる」


「…………」


「なんで……味方同士で戦うんだ?」


「自己防衛だ。タキオンとゾークは王以外の抹消が任務。つまり、三騎士も抹消対象」


 一度距離を取り、会話を交えてから交戦に入る。余りにも突然過ぎる展開に頭が空っぽになり。

 呟いた言葉にベーゼレブルが返答し、我を取り戻した頭がフル回転。ミミツとの共闘経緯を思い出す。

 恥ずかしさの余り何度か頷いて返し、改めて双方の戦いに視線を向ける。が……

 シナナメの斬撃が全く当たらない。全て紙一重で避けられ、森や今回の奇襲以外掠りもしない!


「フッ。貴様の動きは全て把握済み。良くも悪くも古臭い剣術の延長せ──!?」


「惜しい!」


「…………ほう。学習しているのか」


 振り下ろし、切り上げ、薙ぎ払いの連続攻撃を全て巧みに避ける。代わりに切断される住宅街の民家。

 冥刀とシナナメの腕の長さ、足運びなどを発言通り、完全に把握している事が動きに出ている。

 最後の薙ぎ払いを一歩大きく下がり、彼女の剣術を蔑む途中……ゾークの左腕を冥刀が掠り、驚く。

 見切った筈の剣術が何故当たったのか?疑問が浮かぶも思考の暇を許さぬ五月雨突きが、奴を襲う。


「な……何故だ。見切った筈の動きが、徐々に見切れなくなって行く」


「当たり前だ。私は過去を模倣した世界でルシファーとの戦いを経て、奴の動きを学んだ」


(……良ク視テ、逆ニ学ブ時ダ、王ヨ。アノ足運ビ、体ノ動キヲ)


 紙一重で避けられた太刀筋は全て、見切られなくなった。それはゾーク自身も不思議に思い訊ねる程。

 それに対し、シナナメは隠す必要もないとばかりに話す。以前の戦いで、対戦相手の動きを学んだと。

 正直、驚いた。学んだ事もそうだが、自分達が苦戦したタキオンの相方を、一人で追い詰める姿に。

 ルシファーの言葉もあり、自分はますますこの戦い……侍と忍者の対決から目が離せない。


「仕方ない。ならば──本気を出すまで」


「……来い」


 本気を出す。その言葉に間違いなく、奴が放出する魔力で瓦礫が飛ばされる辺り、相当なもの。

 それを間近で浴び、頬に欠片を受けても顔色一つ変えないシナナメは閉じていた目を開き、刀を構える。

 暫しお互い見合い、どちらが先に動くか待ち──先にシナナメの右足が距離を詰めようと僅かに動く。


「斬る」


「忍法・変わり身の術!」


 右足に力を込め、一歩の跳躍で懐まで飛び込み刀で横へ振り切る。確かに斬りはしたものの……

 それは忍者系の漫画でよく見る、木造の身代わり。何処へ行ったのか周りを見渡す中。

 シナナメは即時に左側──残ってる民家の屋根上へ視線を向け、飛び出し刀を振り下ろす。

 其処へ先程消えたゾークが現れ、慌てて右へ跳び避けるも……下の民家は真っ二つ。


「ならば、分身の術!」


「…………」


「ハッハッハ。行くぞ!」


 地面に降りると手を合わせて印を組み、白い煙に包まれ消えた。と思いきや、シナナメの四方を囲う。

 慌てる様子は無く、ただ冷静に四体のゾークへチラッと視線を向ける。正直、どれが本物か分からん。

 分身の間を通る本体は見えるんだが……移動速度が速過ぎて、攻撃してもハズレを引く可能性が高い。


「食らえ!吸収自爆型十字手裏剣」


「…………」


「我が分身の術、貴様程度には破れまい」


 四方から中央に居るシナナメ目掛け、突き出した右手から撃ち込まれ続ける、あの厄介な自爆手裏剣。

 簡易誘導もする為、それを知らず避けた彼女もマントに引っ付かれ……爆発に飲まれ。

 一発が切っ掛けとなり、手裏剣は爆煙の中に自ら飛び込んでは自爆を繰り返す。

 何十度目の爆発を終え、様子を見ようと撃つ手を止め煙が収まったその場に──シナナメは居ない。


「……何処へ行った?」


「お前の分身はもう、見破った」


 何処へ行ったのか、四体のゾークは警戒しながら辺りを見回すも、彼女の姿が見当たらない時。

 自分から視て正面……分身した時、シナナメの前に居たゾークの後ろから彼女の声が聞こえる。

 奴らが振り向く先で、退屈そうに瓦礫へ座ったシナナメを発見。自身に気付いた事を確かめると。

 瓦礫から立ち上がり。右手に持った刀の峰を右肩に乗せ、空いた左手人差し指を奴らに向け曲げる。

 そう、掛かって来いよのジェスチャー。つまり彼女は奴を自身より下。と態度で伝えているのだ。


「乗る必要もない、つまらない挑発だ。……だが、敢えて乗ってやろう。分身の術!」


「アイツ、分身まで分身の術が使えるのか!?」


「合計十三体か。まあ──結果が既に見えているのは、残念だがな」


 つまらない挑発と知りつつ、その挑発行為が二度と取れない様、恐怖を植え付ける気なのだろう。

 十三体となったゾークが、一斉に目標目掛けて飛び込む。鋭い目付きで奴らを見定め──

 迎え打つ様に彼女も飛び込み、電柱の上で止まる。奴らは我先に!と襲い掛かる……も。

 すり抜けて後方へ降り、撹乱の如く飛び跳ね続ける中、振り返り動いていないゾークへ向かう。


「…………やはりな」


「き──きさ、まぁぁ!」


 分身達も本体を救出すべく、彼女の背後へ飛び掛かる。しかし分身は実体を持たず、すり抜けるだけ。

 意味の無い行動。そう思った次の瞬間。シナナメの纏うマントの左側、それも肋骨スレスレを──

 冥刀の切っ先が貫き、背後へ迫る分身達の一体へ命中。左脇腹を突き刺し、残る分身は全て消失。

 恐るべき戦術だ。だが何故背後に居る分身、その中に紛れた本体を的確に狙えた上。

 身の丈を越える大太刀で、背後へ鋭く力強い突きが繰り出せたのかが……疑問だった。


「お前は背後を取る癖があり、分身との視覚共有がない上、動きに僅かなズレがある」


「ふっ……我が貴様の動きを把握した様に。貴様も我の動きを把握した……訳か。雷遁・放電の術!」


 此方の心が読まれてる?!と思う程、攻略した方法を駄目出しの如く吐き捨てる彼女。

 動きを事前把握した者と、実戦の中で癖等を見抜き把握した者。では突きの謎は?と思ったら……

 ルシファー曰く。クロスボウを射つ機構を魔力の糸で再現し、弓の逆さ射ちで行ったと言う。

 決着はついた。と思ったのは自分だけだった様で、ゾークは太刀が刺さったまま自ら電気を放出。

 刀を通して流れて来る電流を回避すべく、冥刀の柄から手を離し距離を取るシナナメ。


「火遁・蜥蜴這い大文字!」


「っ……!」


「剣士が武器を手放しては、何も出来ま……い」


 そのチャンスを突き、口から次々と炎を吐くゾークだが……吐き出した炎は地を這い蜥蜴の如く。

 目標たるシナナメへ向けて走る。当然当たらなければ良い。即ち、跳んで避けた瞬間──

 炎蜥蜴は大の字に燃え広がり、高々と舞い上がり空中で逃げ場の無い彼女を包む。

 他の炎蜥蜴も同様に燃え広がり、ゾークへの接近を阻む。奴の言う通り、冥刀が無ければ……


「確かに……な。なら──取り戻せば良いだけの事」


「貴様……恐れは無いのか!?」


「無い。そんなもの、遥か昔に切り捨てた」


 普通は焼け死ぬ恐れや恐怖心で近付けない。されど彼女に恐怖心と言ったモノは無い。

 自ら燃え盛る炎へ飛び込み、ゾークへ突き刺した冥刀の柄を右手で掴み──答えながら左肩へ切り裂く。

 緑色の液体が次々と溢れ出し、致命傷と理解するのは容易い。そもそも傷口がデカ過ぎる。

 彼女もこれ以上戦う気は無いのか。刀を左手に持つ鞘に納め、背を向けて離れて行く。


「火と──」


「井の中の蛙、大海を知らず。お前は井戸から見える青空さえ……知らなかった様だな」


 慈悲……ではない。戦う価値はないと判断したんだ。なのにゾークはまだ戦う気で……

 火遁と言う寸前。振り向き、抜き放った大太刀による居合いをモロに受け、首と胴が離れ離れに。

 死体は徐々に枯れ、最終的に塵となって何処からか吹く風に文字通り──消されてしまった。


「……ルシファーに伝えておけ。近々オメガゼロ抹殺計画が始動する。その時こそ……決着の時だ、と」


「……分かった。伝えておくよ」


「さらばだ、異形の忍者よ。お前のお陰で……私は、よりルシファーとの決着を楽しめる」


 それを見届けた後。此方へ振り返り、計画の開始が近い事を教えてくれた。まあ正確には……宣言。

 自身らが決着をつける時は近いと。伝言を受け取れば、彼女は空を見上げ──対戦相手に別れを告げる。

 彼女なりの別れ方かと思ったら、ルシファーと決着をつける前の準備運動相手、ご苦労様。 的な発言をし、懐から取り出した小型転移装置で何処かへと消え……漸く緊張の糸が弛む。




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