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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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人柱 -victim-

 『前回のあらすじ』

 幼いシオリを連れて森を脱出し、エルフ長の下へ向かうも警戒されてしまう。

 ベーゼレブルが対応している時、森に呼ばれ現れたライチと再び森の中へ戻るエックス。

 ゾークが時間軸を歪めた間を利用した対応で、過去と未来にも影響を与える。

 再びエックスの前に現れるもシナナメの奇襲の受け撤退。テラー化を抑え、抹殺計画が近い事を知るのであった。



 場面は切り替わり、森の中からヴォール王国・オラシオン専用休憩室へ。

 この場にはアイ・アインスと琴音・ドライ、エリネ・フィーアやトワイ・ゼクスが各々休憩しており。

 其処へ木造扉を開け、入室する長い金髪メイド姿の女性。当然ながら、一同の視線を一点に受ける。

 何故ならその部屋は、オラシオン専用。入室出来るのは国王の紅心と、祈りの空席に座る新人のみ。


「ふ~ん……此処がオラシオン専用の休憩室?」


『新人の方でしょうか?』


「新人ね。貴女、名前と与えられた冠数は?」


 新入りの彼女は部屋を見渡し、挨拶も何も無いままポツリと興味無さげに呟く。

 そんな彼女を見たトワイがスケッチブックに文字を書き、訊ねられたアイは即答で返し。

 現在居るオラシオンの四名を視る彼女へ訊ねる。すると右手を四人に向けて広げ、五と示す。


「シオリ・フュンフ。前狼の森、現エルフの森に起きた問題を知りたくて此処へ入隊したの」


『問題?何かあったのですか?』


「トワイ、貴女が来る前にね。森全体に不完全な死者蘇生を掛けた馬鹿が起こした事件よ」


 手で数字を伝えた上、自身の名前と何故オラシオンへ入隊したのかを自ら伝え。

 不服そうな顔で四人とは離れた席へ座る。その表情を見て何が起き、あったのかと訊ね。

 最古参であるアイが話すその内容は……なんとコトハがやってくれた呪術の一件。

 アイ……改め真夜も当然現地に居たのだから、当事者として語る事も出来る。今回は語らなかったが。


「そう。それで何処かの誰かがエルフ族の一人を浄化薬に、大樹へ巫女として捧げたの!」


『人柱と言う訳ですか。それの何が問題だと?』


「人柱にされたのは、私の従姉(いとこ)!!久し振りに逢おうとしたら人柱にされてるし」


 イライラしているのを隠す様子もなく、苛立ちと怒気を含んだ声で入隊理由を追加で話すシオリ。

 人柱などは神を信仰する時代から行われており、下手すりゃ現代でも行われている地域もある程。

 トワイの言う通り、それの何が問題か?と言う人物も居るだろう。が……自分が人柱にしたライチ。

 彼女はシオリの従姉らしく。恐らく切り替わる前に会った幼いシオリは、ライチへ逢いに来たのだろう。

 ……この事実を知った後だと、シオリになんて顔をして会えば良いのか。会うのが気まずくなる。


「はぁ…………シオリ。貴女、従姉を人柱にされた事、した相手を恨んでるの?」


「当たり前でしょ!!きっと犯人は、姉さんを無理矢理人柱にしたんだわ!」


 それを聞き終え、深い溜め息を吐くアイはシオリの名前を呼び。人柱にした奴を恨んでるのかと聞けば。

 傍にある小さなテーブルを力強く、怒りを表す様に右手で叩き、自分勝手な推測を口にし更に苛立つ。

 右親指の爪を噛む様子は、自分が知るシオリとは百八十度も違う印象の為か、驚きが強い。

 序でに言うなら、双方合意の上です。仲間を無理矢理人柱に出来る性格なら、今の仲間達は居ません。


「貴女ねぇ……根拠も無く憶測で物事を考えて行動すると、後々痛い目を見るわよ?」


「だから真相を知るべくオラシオンに入ったのよ。立ち入り禁止の書庫にあるんでしょ?事実を書いた本が」


「えぇ。あの書庫には貴女の望む事実がある。勿論、巫女の役割を投げ棄てて此処に居る事実もね」


「うっ!!」


 それは事実無根な言い掛かりだと窘め、そんな考え方をしていると痛い目を見ると言うアイに対し。

 真実・真相を知る為、様々な情報を記載されている王国の立ち入り禁止区域の書庫へ入りたい様子。

 シオリの問い掛けに、アイは望む事実があると断言。その言葉に思わず微笑むも……

 アイに手痛い図星を突かれ、シオリは顔を背け沈黙を続ける。う~ん……親近感を感じる。


「話の途中失礼。アインス、王国へ近付く魔物の大群が接近中」


「……そう。フュンフ。貴女がどう思おうが、彼らが森を救わなければ貴女は此処に居ない。さあ、出るわよ」


「ドライ、了解。フィーア、貴女は救護班を連れて必ず複数人で見回り。いいわね?」


「畏まりでしゅ!」


 そんな中。琴音が小さく挙手し断りを入れつつ、魔物達の接近を感知した為報告を行う。

 このまま話していても進展はない。そう判断してか、釘を刺してから休憩室を出て行く。

 無言無表情で退出するトワイ、琴音はエリネと作戦を話ながら出て行き……一人残されるシオリ。


「っ……分かってるわよ!!そんな事!それでも、森の巫女なんてシステムを作った事は怒りたいのよ!!」


 誰も居なくなった休憩室で拳が震える程強く握り、大声で叫び部屋を出て行く。

 多分──分かっているんだ。ライチが人柱になったお陰で、自身やエルフ達があの森に住めていると。

 それでも……従姉を人柱に使われた事実や使った相手に対する憤りは、また別の話なんだろうよ。

 ……待てよ。森の巫女とか言うシステム、自分は作ってないぞ?そもそもな話、人柱はライチ一人で十分。

 注いだ自分の魔力と霊力を調整して貰うだけだし。寧ろ余計に人柱を足せば、栄養過多で森が腐る。


「ふぅ……西部門側、討伐完了。これで全部?」


「はいでしゅ。あの~……一つ、聞いても良いでしゅか?」


 四方ある門の内、地空の混成魔物隊を到達前に狙撃で全滅させ、シオリは門前の段差に腰を下ろす。

 右手には折れた身の丈程もある黒い大弓があり、射つ矢も通常より一回り大きく長い。

 溜め息混じりにこれで全部かと。見回りに来ていたエリネに訊ね、肯定する言葉に胸を撫で下ろす。

 その様子を見てか。エリネは断りを入れつつ聞いても良いかと訊ねる。


「良いけど……何?」


「あたち、フュンフさん達の森へ行った事があるんでちゅが……なんであんな事、ちてるんでしゅ?」


「あんな事?」


「森の巫女ってシステムでしゅ。大樹を視た感じ、もう人柱は不要そうでちたが」


 防衛をやり切って機嫌が良いのか。快く承諾し、何を聞きたいのかと聞き返す。

 エリネは自身がエルフの森へ行った際、覚えた疑問をあの地に住んでいたエルフのシオリに訊ねる。

 あんな事……即ち、森の巫女システム。人柱を不要としているのに、何故人柱を捧げているのかと。

 それを聞いた瞬間──シオリの顔や雰囲気が一転。まるで何も知らされていない事実を知った様に目を見開く。


「それ……どう言う事?」


「どうも何も……言葉の通りでしゅ。大樹の内側から大地に流れる魔力、霊力で十分浄化は進んでまちゅ」


「…………もしかして!」


 エリネの両肩を力強く掴み、言葉の意味を訊ねる。が……自身の知る、聞いた話と噛み合わないのか。

 掴んでいた手を離し、何やら考え込み始めたシオリだが──何かに気付いたらしく。

 背中に携帯していた木弓、傍らに置いておいた矢筒を手に取り持ち場を離れ、何処かへ飛び出す。


「ちょっ、まだ防衛任務は終わってまちぇんよ!?」


 突然の行動に気付き、言い止めるよりも速く立ち去ってしまったシオリにオロオロするエリネ。

 そのタイミングを見計らってか、ナイトメアゼノ達の第二波が西側の門へと迫る。シオリを追いたいが……

 そうすると、西門を突破されてしまう。今は時間軸が歪み、元の時代にも影響が出易い為尚更だ。


「此処は私が受け持とう。丁度小腹が空いているのでな」


「……頼む」


 するとエリネの前に歩み出て、この場を受け持つからお前は追い掛けろ。と言うベーゼレブル。

 その申し出を有り難く受け取り、魔力感知とハイジャンプを使ってシオリの後を追うべく、跳躍を繰り返す。

 魔力の痕跡を追って辿り着いた先は──エルフの森。邪気を浄化している筈なのに、妙な邪気を感じ。

 急いで森の中へ飛び込み原因の下へ走れば、姦姦蛇螺(かんかんだら)に首を絞められているシオリを発見。


「どうジテ……?」


「パ……パ。ママ……どう、して」


「止めろ!」


 シオリが足掻こうにも、左右合わせて残り四本の腕に四肢を掴まれ、身動きが取れない。

 素早く右手を突き出し、牽制技(ハンドショット)を撃ち顔に命中させ、大声で呼び掛け注意を引く。

 ジロリと此方を視るその瞳は蛇を連想させ、金縛りにあったかの如く体の自由が奪われ、此方に近付く。

 最初に会った時は分からなかったが……コイツの声、顔もシオリの両親だ!それにこの感じ。

 ナイトメアゼノス達の手で妖怪に改造されている。その上娘を両親に殺させようとは……悪趣味な。


「ダレ……(らく)……に、して、欲シい?」


「…………それが、望みなら」


 大蛇の下半身を此方に巻き付け、六本の手で頭が動かない様固定し、左右の眼を順番に覗き込んでくる。

 続けて放たれたのが……誰か、私達を楽にして欲しい。と言う内容に、思わず涙が零れ頬を伝う。

 その言葉に応え様と、自然に両手が動き姦姦蛇螺の両頬へ触れ──目を閉じて力を両手に集めれば。

 両手から溢れ出した虹色の光が姦姦蛇螺の全身を包み……シオリの両親は呪縛から解放され、天に召された。


「シオ……ッ!?」


「とても酷い傷。これを飲むと良いわ」


「無月闇納!!」


 倒れ伏したシオリに駆け寄ろうとした瞬間、目に見えない壁に激突し、手探りで壁の無い箇所を探す。

 その間に突如現れた無月闇納がシオリを介抱し始め、意識が朦朧としている彼女の口へと。

 試験管に入った黒い液体を注ぐ。それは彼女が怒った時限定でダークエルフ化する原因の代物。

 止めようにも四方を透明な壁が阻む。深呼吸をし、壁に触れ、寸勁を打ち込み破壊し駆け寄ると──


「成る程。流石の成長率と言う訳ね」


「場面が……変わった!?」


 突然場面が森から夕焼けの電車内へ切り替わり、気付けばお互い向かい合う形で座席に座っている。

 電車は動いている訳でもなく、線路の途中で停車中。突然の事過ぎて、正直頭が付いてこない。

 自分は驚いている反面。闇納は終始冷静な表情を崩さず、相も変わらず自己完結した発言を行う。


「……無月闇納。君が魔神王で無いのなら、一体何がしたいんだ?」


「邪神達から聞いてない?私達は、貴方を限界以上に鍛え上げるのが計画だと」


「その為にわざわざオラシオンのみんなや色んな時代、住民達に被害を与えていたと?」


「yes」


 目を閉じ、再度深呼吸をして精神を落ち着けて質問を投げ掛ける。何が狙いで、何をしたいのかと。

 意外にも簡単に此方が望む回答を返し、コイツも真夜達と同じ計画に参加しているのだと理解。

 ただ自分の限界を越え、鍛え上げる為だけに様々な時代や住民達に被害を与えたと認めた。

 淡々と返される回答に許せない!と燃える心と、そうせざるを得ない理由は何か?と冷静な頭がある。


「少なくとも、此処で悠長に話している暇は無い筈よ。そろそろ、ゼノス達による侵略作戦が始まる頃」


「っ……!!」


 副王と話している時同様、時間が止まっていれば全て聞き出してやろう。と思っていたが……

 闇納の背後にある車窓から見える夕暮れ雲が動いている辺り、時間経過はあるのだろう。

 ナイトメアゼノスの侵略作戦がそろそろ始まる。そう言われ、席を立ち開いている出入り口へ駆け出す。


「一つ伝えるのなら……貴方は魔皇に選ばれ、貴方もそれを無意識に承諾した。ただそれだけ」


「…………」


 扉から出ようとした瞬間。此方の背中に向けて放たれた言葉は、遠い昔を思い出させる。

 オメガゼロになるずっと前。幼少期に聞いた宇宙からの呼び声……アレがそうだったんじゃないかと。

 少し足を止めて考え込んだ後。考えを振り払う様に車内の外へと飛び出す。


「ナイトメアキラー。盲目白知故眠り続ける魔皇の為に戦う、悪夢を狩る者……か」




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