前兆 -terror-
『前回のあらすじ』
ゲートを通り抜け、金髪幼女時代のシオリを襲うゾークへsin・フュージョンをしつつ蹴り込む恋。
その場に現れるUFOは、惑星ワールドを侵略しに来た侵略宇宙人・ナイトメアゼノス。エックスが狙うヒトだった。
奴らはシオリの両親から顔を奪い、姿も奪う。その上ヒト達の王が魔神王で、光と闇に誤認を与え争わせたとも。
ベーゼレブル達はその誤認すら認識しており、エックスの修行に利用していたと話す。
過去の様に森から襲われる事無く外へ出て、シオリの案内でエルフの集落へと案内して貰った。
当然警戒されたし、知らない人間を連れてくるな!とシオリを怒る大人に、苛立ちすら覚える。
一歩前へ出ようとしたが……ベーゼレブルに左肩を掴まれ、顔だけ振り返れば首を横に振り。
無言で今は止せと言っていた。行動や判断は全て任すんじゃなかったのか!?と怒りは募るばかり。
「突然の訪問、失礼する。我々はとある者達を追ってこの付近へ足を運んだ際、彼女の両親が……」
「ふむ。だが、その様な者達は……」
長と思われるエルフに対応するライバル。破壊者……戦う事でしか、自らの存在意義を示せない愚か者。
自身に向けた沸き上がる怒りは憤怒を越え、不思議と思考が落ち着き──左手に違和感を覚える。
左手に視線を向ければ誰かに手を握られており、その誰かを確かめるべく視線を上げれば……
「ライチ?どうして此処に」
「森に呼ばれた気がしたんだ。助けて……時間軸が歪んでいる今の打ちに!って」
「…………分かった。連れてってくれ、君を呼ぶ声の下へ」
何故かライチが居た。それも、出会った頃の茶色いGに似せた衣装を纏った姿で。
森に呼ばれた……それは自分が星に呼ばれるのと同じ現象と考え、声がしたと言う方へ案内を頼む。
前を走るライチを追い掛けながら、右手で不安と夢想を抱く服の胸元を掴む。
結果は変わらないかも知れない。それでも可能性が微かにあるのなら、それに賭けたい。
そんな時──異常を見付ける。黒くて鋭い、自分の右腕と比べて二倍はある左腕と、顔の右側に硬い感触。
「これは……」
(お面……かしら?)
右手で顔に触れ、硬い異物を取って見る。それは──真っ白な目が緋色の涙を流す真っ黒なお面。
ただこのお面を付けてると……制御不能な激しい怒りや悲痛、恐怖心を煽られ不安な気持ちになる。
何かの前兆だろうか?霊華も分からない様子で、顔から外したお面と変化した左腕は光となり消えた。
「オメガゼロ・エックスさ~ん?」
「あ……あぁ、悪い悪い。今行く」
(不安、恐怖心……決めた!さっきの現象は『テラー化』と名付けようぜ)
(言ッテル場合カ。……ダガマア、症状ヤ現象ニ名称ガアレバ、呼ビ易イノハ確カカ)
離れた場所から右手を大きく振り、此方を呼ぶライチの声に気付き、返事をし駆け足で向かう。
精神世界でゼロが先程の現象に対し名付けを行い、ルシファーに突っ込まれた訳だが……
当人が言う通り、名称があるのは助かる。発症した都度、症状を言うのが省けるしな。
考えながら案内され辿り着いた場所は──森の外。怨み辛みを強く感じ、魔力感知した結果。
「陣が描かれてからそう時間は経ってない……時間軸の歪みを利用して、助けろって話か」
「そんな、乱暴な言い方じゃなかったけどね」
この辺りだけ、三千三百年に戻っている。桜花が核だけとなったヴルトゥームにトドメを刺し。
コトハが不完全版の死者蘇生の奇跡を使ったあの頃に。確かにこれなら、未来は変えられる。
ライチの命を使うと言う過程は変わらん。が……結果は変わる。森の浄化に必要な時間が最短化にな。
それが分かってか。少し口角が上がり、細かい訂正を受けつつも右足に破壊の力を込めて陣を強く踏む。
すると火が着いた導火線宜しく。エネルギーが走り出し、小さな爆発音と共に森から呪いが消失。
「先ずはこれで良し。後はこの森と土地を浄化すれば完了だが、中心となる場所は……」
「こっちです!」
(心ガ強ク、行動力ヤ覚悟モアル。実ニ良イ女ダ)
不完全な死者蘇生の呪術を破り、この地で死んだ者達の眠りを妨げる要因は無くなった。
今度は微弱とは言え穢れ、ヴルトゥームに吸われた土地を浄化・休ませなくてはならない。
畑仕事風に言えば連作。森を救うには中心部へ行く必要がある中、ライチは自ら中心部へ案内へ向かう。
過程・結果も見えているのに嫌な顔一つ見せない彼女を追い、森の中心──大樹の下へ。
「此処が森の中心地です」
「……覚悟は、良いんだな?」
ヴルトゥームと決着をつけ、遥か未来ではライチと再会した印象深い場所……森の大樹へ到着。
改めて自分が行う行為の過程、結果を知っているライチに覚悟の有無を訊ねると。
彼女は力強く頷く。そして逆に、覚悟を決めていないのが自分自身だと気付かされ。
強く握り拳を作り、覚悟を決め腹を括れば両手を彼女に向け、霊力で作った半透明の青い結晶体の中へ。
「これから君はこの森と共に何百、何千年の眠りにつく。……また逢おう、いつの日か」
まだ聞こえているのか分からない彼女へ。気が遠くなる先の未来へ眠る彼女に向け、約束をする。
約束と言えど、守れる自信はない。魔神王との決着が早く着けば、自分は──
そんな不安を抱えつつ、大樹は内部へとライチを迎え入れ……終わると青白い光が森を包む。
「…………意外だな。律儀に待ってくれるとは」
「我らが最大の脅威は貴様だけ。そして貴様を完全に倒せば、我らが王は全てを手に入れる」
「そうかい。ただ一つ言わせて貰うなら──お前、死ぬより酷い目にあうぞ?」
「そんなもの、ただの戯れ言──!!」
作業を終え、この場に居る誰かに対し言葉を吐いてから後ろを振り返れば、ゾークが其処に居た。
俺を最大の脅威とゼノス達は認識し、俺を倒せば全てが手に入る。と思っている様だから。
時既に遅い警告を含め、注意した。が、視界・認識が狭いのか、戯れ言と受け止めた直後──
木々の陰から飛び出し、縦一閃で奇襲するシナナメ。間一髪気付き、ゾークは突然消えて回避に成功。
「……切っ先が掠った程度か」
「恐竜面の癖に手裏剣やら分身って……忍者か!お前は」
「その通り。我は人類に記録され、空想で産み出された忍びと融合した悪夢なり!」
「間に合え。変し──!?」
目の前に着地後、手応えを口にしつつ此方と背を密着するか否か程に合わせ、警戒するシナナメ。
姿を消したとは言え、相手はあのナイトメアゼノ・ゾーク。ミミツと協力して倒したタキオンの相方。
シナナメと互いに周囲へ注意を払いながら、ゾークへ呼び掛ける。予想外の返答に加え……
地中から飛び込みの奇襲を受け、フュージョン・フォンを手に変身する瞬間──
携帯電話が奴のドリル化した右手に砕かれ、sin・第三装甲が呼び出せなくなってしまった!
「第三任務完了。フフッ、これで貴様は罪を背負えまい」
「くそっ……逃げられた」
任務を終え、擦れ違う形で空へ飛んで行く。右手をコートの内側へ入れ、朔月を取り出し照準を合わすも。
空間転移された後で姿形どころか魔力の残留もなく、追跡出来ない/地獄の果てまで追い掛けてやる。
悔しさの余り、握り拳を作る/殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
心臓が大きく脈打ち、背を前に曲げ、左手で喉元まで沸き上がっているドス黒い感情と言葉を抑える。
それでも抑え切れず溢れ出す恐怖に、何処までも深く、黒よりも更に黒い闇が俺の体を染めて行く。
「あ……ぐぅっ!!うあぁぁぁぁ!!」
(宿主様、呑まれるなぁ!)
(全員、ソノママ王ノ意識ヲ引ッ張レ!!コノ闇ハ原初ノソレト同ジモノダ!)
憤怒・悲痛・絶望・無力感・喪失感が心を強く・酷く締め付け、それらが全身を包み込む。
意識が闇に蝕まれ、呑み込まれて行くのをゼロ達や絆達が引っ張り、闇へ染まるのを食い止めている。
踏み止まっている内、顔から一つのお面が落ちる。そう……あの緋色の涙を流す、真っ黒いお面が。
「ルシファーに伝えておけ。オメガゼロ抹殺計画の実行日は近い……その時こそ、決着をつけると」
「なん……だと……?」
俺に起きた一部始終を見届けた後、シナナメは重大な情報を口にした。それと同時に……
ナイア姉さんやベーゼレブルの言葉を思い出す。七番目の幕が開けば、走り切るまで立ち止まれず。
怒濤の展開が降り注ぐ……と。今のテラー化現象は、終焉の計画が近い事への前兆──か?
(…………シナナメ)
(それより宿主様の事だ!大丈夫か!?体力と精神力を滅茶苦茶消耗してるみたいだが)
(一応、その二つの消耗だけで済んでるわ。でもどうする気?フュージョン・フォン、壊されたわよ?)
懐から小型の転移装置を取り出し、操作して姿を消すシナナメ。決着の時が近いと言われた為か。
ルシファーは何処か悲しげに、思いに耽る。ゼロは近い決着よりも今が大事だと言わんばかりに。
此方の状態を心配してくれる。霊華も内部から検査をし、体力と精神力の消耗だけで済んだと言い。
一番の問題点は壊されたフュージョン・フォンで、今後どう戦う気かと聞かれるが……どうしたもんか。
「兎に角、ベーゼレブルと合流しよう。相談……は無理にしても、何かしら変化はある筈だ」
(そうね。今襲われたら貴紀の体力や精神力が底を尽きそうで心配だし、速く行きましょ)
今此処で悩んでも仕方がないと判断し、今も森の外でエルフの長と話しているであろう。
ベーゼレブルとの合流を提示すれば、霊華もそれに同意。今襲われるのはマジで勘弁。
チラッと真っ黒いお面に視線を向ける。……もし他の誰かにもテラー化現象が発生したら?
闇に蝕まれ、呑まれて怪物になるのか?仮にテラー化状態の相手と戦ったら……今は勝てるか怪しい。
「こんな所に居たのか。物音一つ立てず、フラフラと一人で何処かへ行く癖も変わらんな」
「なんでソレまで知ってんだよ」
「イライラには香味野菜が良いぞ。喰うか?」
「喰えるかぁぁ!!」
最悪の展開を集中して考えていたら、此方を探しに来たベーゼレブルから声を掛けれたのだが……
誰にも言ってない癖を言い当てられ、イライラに良いから食え。と差し出された、生の香味野菜。
流石に生セロリ単品は食えねぇ!とツッコミの勢いで手渡されたをベーゼレブルに叩き返す。
「育ってきた環境が違うと、好き嫌いは否めない。セロリが好きだったりな」
「すげぇな……生セロリを丸噛りかよ」
「それはそうと──場面が変わるぞ?」
どっかで聴いた曲を歌いつつ、シャクシャクと左手に持ったセロリに噛り付くライバル。
本音をポロリと呟いていると、真面目な顔付きで咀嚼しながら重要な事を教えてくれた。
場面が変わる。此処での役目を終えたと捉えるべきなんだろうが……さっきから隣の咀嚼音がうるせぇ!




