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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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ゼクス -The past is in the past-

 『前回のあらすじ』

 二体の悪夢に取り憑かれたトワイを救うべく、エックスのスキル、ワールドロードを使用する絆。

 解答を見付けるまでの間、時間を稼ぐ白兎とアニマ。遂に答えへと辿り着き実行に移す為、闇納とトワイへ挑む。

 数の不利をものともせず、実力者相手に善戦する絆。白兎達も頼まれた作戦。フェイクと悠の救助を完遂。

 フェイクとアニマの助力もあり、絆はトワイを救助。更に傀儡とは言え、闇納を撃破してみせるのであった。



 戦闘が終わり、今の場面は雪が溶けるかの如く切り替わって行き……抱き締めていたトワイも消えた。

 油が切れ、錆び付いたロボットアームの様に地面を向く両手。足に限界が迫り、膝を曲げて屈む。

 改めて──他人と自身の違いから産まれる違和感。吐き気を催す人の愚かさ、醜さ・残虐性を痛感した。

 他人を受け入れられぬ心の狭さが、余りにも酷い。それが自身に回ってくれば、被害者面をする事にも。


「……緊急任務完了。これより撤収する」


「救援、助かった。ありがとう、──」


「──っ!?…………撤収する」


 隣を通り抜け、此方に振り向き任務完了と立ち去る旨を言う白兎に感謝の言葉を伝え、名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれる事は予想外だったのか。少し間を空け、背を向けるや否や何処かへと転移。

 それを見届ける中、先程の猛吹雪が吹き荒ぶ雪山から、吹雪は止み晴天の空と日差しが差し込む雪山へ。


「今は……さようなら。また、此処に戻って来るから」


 雪山から出て来ては屈んだ状態の此方を通り抜け、足を止めると半歩だけ振り向き……呟く。

 その言葉は自分に向けたものではない。理解しているのに、そう受け止めたくないのは……何故だろう。

 遠ざかる足音でこの場から立ち去ったんだ。と理解しつつ……俯いた顔を上げ、雪山を見る。


「動かないけど、どうかしたのか?」


「…………さっきトワイが泣いた為か、両肩と背中が若干凍っちゃって動けないのよ。誰か助けて……」


 晴天の空を前に堂々と存在感を示す雪山を見ていたら、横から覗き込む形でフェイクが訊ねて来たので。

 シリアスな場面かつ、恋愛映画とか小説なら良い場面だっただけに本当の事を言い出し難かったが……

 恥を覚悟で動かない理由を話し、フェイクに助けを求め、霊力照射による解凍を行ってくれている中。


「砂糖恐るべし!砂糖恐るべし!砂糖恐るべしぃぃぃっ!!」


「白砂糖の摂取量……控えないと……鬱病などになっちゃう」


 突然雪山から大きな声が響き、視線を合わすと……真夜が紅瑠美をスノーボード代わりにし。

 白砂糖が危険だと叫びつつ、直立姿勢で乗り物にされてる紅瑠美が白砂糖は摂取量を控えなければ。

 鬱病や精神にも異常を起こすと注意を促す。よくよく見たら真夜が左腕に抱えてるのは──和太鼓だ。

 右手でそれを子供のお仕置きで行うお尻ペンペンの感覚で叩き、リズミカルに音を鳴らしている。


「貴紀さん。シリアスってもんは──真剣な場面で崩すと、場がしらけてしまいますよ?」


「その通り……少年。今のは自分で徐々に解凍するのが正解」


「…………」


 目の前へと滑り紅瑠美の背中から降りたと思えば、地面にスプーンの持ち手を刺しながらこの発言。

 乗られてた本人は起き上がり、屈むと同じ様に銀のフォークとナイフを刺しこの言い様。

 何故銀食器を地面に植えるのか?まだ割り箸なら、別の意味で理解出来たかも知れんが……

 植え終わった後に真夜は和太鼓を立て、マスカラを持った紅瑠美と奴隷を解放しそうなドラムの音を鳴らす。


「ルシファー?」


「Yes,your highness」


「お前らが──それを、言うかぁぁぁッ!!」


「「仰る通りぃ~!!」」


 解凍が済んだので右肘を曲げ、名を呼べば左腕から紫色の光が右手に吸い込まれる様跳び。

 ハリセンと化したルシファーを掴み、身を捻って繰り出すフルスイングで邪神共を空の彼方へ飛ばし。

 役目を終えたハリセンは再び光と化し、左腕に戻って行くと……場面は雪山から見知った城下町へ。


「大きな力を感じて来てみれば──こんな雪とは縁の無い場所に雪女とは珍しい」


「…………」


「成る程。強過ぎる力を制御し切れず、下手に喋ると冷気の息が出てしまう。となれば……」


 見知った城下町とは──ヴォール王国、四方ある内の南方門へ辿り着いたトワイ。

 大きな力の正体を確かめるべく、直接現場へと足を運ぶ国王の紅シン。

 話し掛けれど返事はなく、そっぽを向いて何も語ろうとしないトワイを見て、理由を察し……

 携帯用の小さな鞄から洋紙と羽ペンを取り出すや否や、これに理由を書きなさいとばかりに手渡す。


「…………?」


「あぁ、これはね。こう使うんだ」


 されど、一度も見聞きしたり使った事の無い物を渡されたところで、どうすれば良いのか分からない。

 首を傾げ、不思議そうな顔でシンを見るトワイ。視線を向けられた当人も意味を理解した様子で。

 書き方や使い方を目の前で教え、改めて手渡す。が、今度は文字の書き方が分からず筆が進まない。


「う~ん……困ったなぁ。そうだ。今丁度オラシオンのメンバーを募集してるんだが、興味はあるかい?」


「おらしおん?」


「そう。来るべき最悪の時に備え、最後の希望と共に歩み、祈る六人の精鋭メイド隊の名前さ」


 対話が成立せず、どうしたものかと頭を軽く掻くシンを見て注意を払い、小さな声で聞き返すトワイ。

 初めて対話が成立した嬉しさからか、オラシオンがどう言ったモノかを嬉々として話す。

 興味があったのか。彼女は冷気を吐かない様気を使いつつ、注意を払いながら会話を続け。

 自らゼクス(六番目)の試験を受ける旨を伝え、試験日の一ヶ月後までに読み書きを学ぶ。

 ……そうか。トワイはここから、文字で表現し始めたのな。ヴァイス(イリス)も含め、努力家だなぁ。


「おめでとう。今日から君は晴れてオラシオン第六の冠、ゼクスを名乗る事を許される」


『名乗る事を許されると、何かメリットが?』


「立ち入り禁止エリア・歴史の書庫への入室、及び書物が読める。問題が起きたら自己責任だけどね」


 城の二階にある王の間で行われる、オラシオン第六冠の表彰式。とは言っても、その場に居るのは……

 既に合格しているアイ・アインス、琴音・ドライと、今回合格したトワイ。国王たるシンの四名だけ。

 オラシオンを名乗れる事にどんなメリットがあるのか?をスケッチブックに書き訪ねたところ。

 立ち入り禁止の書庫へ入る許可証であり、書物も読めると言う。すると場面が捻れ、話に出た書庫へ。


「宇宙に残された最後の希望、オメガゼロ・エックス」


 木製の椅子に座り、茶色いカバーの本をアイ・アインスに音読して貰っているトワイ。

 時の揺り籠から零れ落ちた命~だの、未知数の危険性と可能性を孕んだ存在~とか書いてあるらしい。

 聴くだけではなく、直接文字を見ようとしたのだが……いつの時代、どの種族に使われていたのか不明。

 少なくとも、超古代の時代より更に前。多分──オメガゼロ・アダムが肉体を得る時代か?


「彼の者に限界は無い。故に我々は彼をエックスと名付け、原初の闇にぶつけた……と書いてあるわ」


『ありがとうございます。私には、この文字が全く読めなかったので』


「当然よ。この文字は宇宙からの来訪者にして支配者、旧き神々が使っていた文字だもの」


 淡々と音読し続け、最後のページを読み終えると本を閉じ、これで終わりだと伝える。

 それに対してスケッチブックへ感謝と、アイに読んで貰った理由を書く。

 すると──アイは文字が読めないのは当然だと言い、この星で使われている如何なる文字では無いと話す。

 旧支配者や旧神が使っていた文字……か。確かに宇宙で使われてる文字は読めねぇわ。


『何故、オメガゼロ・エックスが最後の希望と言われているのですが?』


「原初の闇に挑める存在が、方舟たる彼だけ。私達じゃ、アレに飲み込まれて終わる」


 トワイが問い掛けた疑問は、自分も抱えていた疑問。何故自分じゃなきゃ、駄目なのか?

 副王や真夜達が挑めばもっと速く、最短ルートでこの旅や物語も終わるのに……と、何度思った事か。

 アイは「何も知らないのね……」と言いたげに右中指と薬指を額に当て、首を横に振り。

 開いた口から出た言葉は至ってシンプルで、分かり易い内容。表現から察するに──

 神話で見た、ノアの方舟を連想した自分がいた。神の大洪水、選ばれた者を乗せた方舟と。


「ただ……彼は戦い続け過ぎて活動出来る時間が少ない。人類は彼に全てを任せ過ぎなのよ」


『今、漸く理解しました。オラシオンとは、彼の者と共に戦う人類の代表。なのですね』


「半分はね。もう半分は──彼を眠らせてあげる事。それが、オラシオンとして選ばれた私達の使命」


 続けて語り始めるアイの表情は何処か……悲しげで、人類が頼り、任せ切ったのが原因だと言う。

 その言葉から、トワイはオラシオンが人類代表の戦友だと理解するも、半分正解の半分ハズレらしく。

 残る半分は……自分を眠らせる事。表現を優しくしているが、本当の意味は──オメガゼロ・エックス。

 即ち、自分の完全なる抹殺。二度と誰かに利用されたり束縛されず、夢として消してあげると言う意味。


『そう言う割りには、納得していない様に見えますが?』


「惚れた相手を殺す事に、誰が納得するものですか。あの子は宇宙(そら)へ飛び出す筈だったのに」


『だったのに……?』


「人類が彼を縛った。まだ必要だから、まだ居て欲しい、行かないで欲しい。我が儘ばっかり言ってね」


 トワイもアイの悲しげな表情に気付いていたそうで、指摘すると納得の理由が返された。

 好いた惚れた。身勝手な感情とは言え、好意を向ける対象を抹消するなど、大抵は拒む。

 宇宙へ飛び出す。確かに、オメガゼロへと成る前は宇宙から呼ぶ声の主に会いたくて、そう言った。

 オメガゼロと成った後はアイの言う通り、身勝手な我が儘で退去を妨げられ続けられたのもしばしば。


『でしたら、私が採用された点にも納得が行きます。私は──人類が滅びようとも、気にしませんので』


「あら?意外な部分が合うわね。私も、人類が滅亡しても気にしない派だから」


 話を聞き終えた後、目を閉じて何かを考えているのか?突然目を瞑り、何故採用されたかを納得。

 そう……トワイやアイ(ナイア)、自分すら人類が滅び、滅亡しようとも……気にしない。

 気にするのは、大切に思う存在のみ。そう言う点は、人類とそう変わらないだろう。

 意見が合致した二人は握手をし、何かを誓い合う。……やっぱり、長生きし過ぎるもんじゃないな。


「…………あの……さ。許してくれたけど、やっぱり、俺──」


「許した事を、わざわざ掘り返すもんじゃねぇよ。それに……ジャンクで良かった。とも思えるしな」


 二人の会話を聞き、言うか言うまいか。此方を視ては目を逸らすを繰り返し。

 フェイクは意を決して口を開き、話す。相手に許されても、自身が許せないのだろう。よくある話だ。

 故にそれを指摘し、悪口やら貶す意味で使われた、ジャンクで良かったと告白。

 原初の闇の『ジャンク』だからこそ、アイツに挑める。ジャンク故に、他の部品(絆達との融合素材)になれる。

 贋作やジャンク品が、真作やら正規品に勝てない道理はないと──知らしめてやらないとな。



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