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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
320/384

『 』 -heart of darkness-

「マイマスター!全ての負担を私達で受け持ちますので、どうか……あのスキルの使用許可を!!」


 対応・対策が思い付かず切羽詰まった時、絆からあのスキルの使用許可を求められ、思い出す。

 スキル・ワールドロード。直感が個人用に覚醒進化したスキルで、効果は可能性世界(パラレルワールド)を体験する力。

 とは言っても、当然限度や想像を絶する副作用もある。負担を絆達が受け持つなら……

 自分個人が本気で戦える残り回数は減らない。悩む暇も無い為、頷いて承諾し左腕の装備を解除。


「スキル発動、ワールドロード──ッ!?」


「何をしても無駄……?」


「時間は稼ぐ。だから、解決策を!」


 スキルを発動する絆。だが……やはり負担はキツい様子。仮面で表情は見えないが、激痛に顔を歪め。

 耐え続ける中。悪夢憑きトワイの呟きからの踏み出しを防ぐべく、白兎が近接戦を挑む。

 右手が持つ氷の槍は物理的、射線上で直撃を貰えば凍り付き、溶岩石の左腕で殴られ熔解される為。

 槍の先端に注意を払い。繰り出される怒涛の連続突きは身を捻り、屈み、跳んだりして巧みに避け。

 途中、左腕が下から振り上げられる時。アニマの従える髑髏が自ら左拳へ飛び込み、下がる隙を作り砕け散る。


「ありがとう。助かった」


「構いませんの。ですが……防げても、後一回が限度」


「残り一回もあるなら十分。後は──奴の動きを全て見切って避ければ済む話」


 九死に一生を得、隣のアニマへ振り向かず感謝の言葉を投げ掛け、言われた側も顔を向ける事無く。

 淡々と返事を返し、防ぐのは後一回が限度と言えば……某赤い彗星みたいな台詞で言い返し。

 再び近接戦を挑み──有言実行。素早い突きもボクシングを思わせるステップ、体捌きで避けて見せる上。

 魔力を纏った右足蹴りで右腕の氷を砕き、反撃に迫る左拳も臆せず真っ正面へ飛び込み紙一重で回避。


「知ってる?兎の視覚は三百六十度、鼻は人間の十倍、短距離走が得意で跳躍力とキック力が高いんだ」


「ちょこまかと……」


 白兎の近接戦法は相手の動きを見切り、最小限の行動で回避し攻撃を叩き込む、攻守一体型。

 敵対種族次第では会心の一撃(クリティカル)の連発が期待出来る反面、トリッキーな相手は苦手と見た。

 余所見をしてる間。絆は仮面ごしに口から血を吐き出し、首筋を伝って三本の赤い液体が流れ落ちる。

 左右の細い血は血涙、中央は吐血。それだけの反動を、自分の代わりに受け持っている訳だが……


「見付けた。この方法なら、救助と攻略を同時に行えます」


 スキル使用中に受ける反動を耐え抜き、漸く見付けた解決法。その内容に目を通す……

 確かにこの方法なら、トワイを確実に救う事が出来る。反面、一歩間違えれば此方が全滅する可能性も。

 だが──そんな些事にも等しい不安や可能性などに気を病み、悩む方が余りにも馬鹿馬鹿しい。

 「やるぞ。みんな」そう遥達に伝えると各々頷き、絆は距離を取ったばかりの白兎達の隣へ降下。


「お二方、バトンタッチです。その代わり、頼みたい事が──」


「……分かった。武運を祈る」


「分かりました……の」


 作戦内容を手短に伝え、理解を示した二人は悪夢憑きトワイから離れ、積もった雪の中の何かを探す。

 そしてまだ空中に居る闇納と地上に居るトワイを視界に入れ──右手人差し指で来いよ。と挑発。

 此方の意図が分かっているのか。闇納はクスッと微笑み、地に降りて右手を横に払う。

 すると前方の降り積もった雪が此方へと吹き飛ばされ、吹雪も止み空は晴れ、緑残る大地が顔を出す。


「これで地形・天候・温度で負けた……の言い訳は出来なくなったわよ?」


「此方としては好都合です。それに言い訳が出来なくなったのは、そちらもでは?」


 第二回戦開幕の合図に、お互い煽り合いながら手の届く距離へと歩み寄る二人。

 主人……母が煽られてか、闇納の三歩後ろで悪夢憑きトワイの意識・睨み付ける視線も此方へ向く。

 互いに魔力を体外へ放出。紅と黒紫の雷が激しくぶつかり合い、炸裂する──次の瞬間。


「は……母様!!」


 右肩の半面の王冠が右手へ自ら飛び、先端を腕側に装着された状態で繰り出す絆の鋭い拳。

 応じる様に左拳を繰り出し激突──した途端。紅と黒紫の雷は逃げ場を求めて暴れ出し。

 少しの間、触れ合った二人の拳の隙間から溢れ出しては闇納側の天と地を裂き、雲を穿つ。

 出力的に押し負ける母に危機感を覚え、呼び掛ける悪夢達。すると相手側の出力が上がったのか……

 二人の拳は電気が炸裂する様な音を立て、双方腕ごと体も大きく後ろへと弾かれ、距離が空く。


「…………久し振りよ。こんなにも左腕が痺れるのは」


「そうですか。これでも出力は控えめなのですが」


「死角からの攻撃を……避ける?!」


 視線を自身の小刻みに震える左腕に向け、一言呟いた後。此方に視線を戻し、嬉しそうに喋る。

 淡々と返し王冠が右肩へ戻る……直後、背後から装甲の無い首を狙い、素早く突き出された氷槍。

 直撃すれば致命傷は免れない。そう……命中すればの話。氷槍の先端が捉えたのは──消え行く残像。


「それは既に三百回程体験済み。回避する為の感知すら必要ありません」


「三百回?!一体何を言ってい──るぅぅっ!?」


 既に悪夢憑きトワイの背後に居り、回避出来た理由を話し、此方へ右側へ身を捻り左腕で殴り掛かる。

 刹那──絆は両手で受け流しつつ、左手で手首を強く掴み、そのまま自身の左肩へと回して身を屈め。

 屈んだ足をバネに、背後へ共に低く跳び倒れ込む。昔、霊華から教わった橦木捕(しゅもくど)りと言う技。

 背中へダメージを叩き込み、倒れたまま背後へ一回転。立ち上がる前、屈んだ姿勢の時……


「良い判断です。これが初見であれば、首の骨がやられていたでしょう」


 真っ正面から、鋭く素早い右回し蹴りが左頬へ迫る。のだが……絆は慌てる様子も無く姿勢を正座に変え。

 上半身を少し後ろへ倒すと同時に、右足を両手で右側へ受け流しつつ引き倒し。

 このまま右足を捻り、捕まえようとしたのだが……咄嗟の魔力放出で発生した風圧に押し出された。


「居捕り……日本人が編み出した、正座状態を構えとする武術。まさか、修得していたとはね」


「私が修得した訳ではありません。これは、マイマスターが血の滲む思いで会得した努力の結晶です」


「ふふっ。あくまでも化け物ではなく、人間として異形・悪夢・恐怖へ挑む──か」


 自身が受けた技を一発で見抜き、起き上がるや否や此方へ飛び込み、先程同様掴ませぬ為。

 鋭い連続左足蹴りが繰り出される。これは掴めない上、屈んだ状態で姿勢が悪いと判断し。

 素早い右拳の連続突きを迎撃に行い、機関銃が発砲され続けている様な……そんな激突音が鳴り響く。

 ぶっちゃけた話。よくこんなにも音が響く中で、お互い話せるものだと感心してしまう。


「私の蹴りを迎撃するのに夢中になってると」


「背後が隙だらけよ」


 蹴りのゲリラ豪雨は止まず、右拳による(迎撃)は手離せない上、屈んだ状態では満足に動けない。

 悠々と歩いて背後へ回り込まれ、氷槍を棄てると両手の指を絡み合わせ──此方に照準を合わせる。

 またあの相反エネルギーを撃つ気だ。回避の二文字が浮かぶも、今は身動きを殆んど封じられた状態。

 シールドウイングでも、流石にアレは防ぎ切れない。阻止しに動かそうにも、時間が足りない。


「確かに──これはほぼチェックメイトでしょうね。これが……私の作戦でなければ」


「汝を捕らえるは光の鎖!汝を捕らえるは光の鎖!!汝を捕らえるは──光の鎖ぃぃ!!」


「何ッ!?」


 最悪の状態を前に、自ら『ほぼ』チェックメイトだと認める絆の発言に口角をつり上げる二人。

 しかし……続く言葉に一瞬の疑問が浮かばせ、意味を理解するまでの隙を作り、注目を集め。

 改めて位置を確認。前方に無月闇納、後方に悪夢憑きトワイ。そして──まだ雪が積もる外側エリア。

 その右側で広げた両手を二人に向け、全力の捕縛魔法を三連続詠唱するフェイク。

 闇納とトワイを光の鎖三本で厳重に縛り、両肩の王冠が自動的に両手へ装着されながら闇納へ突撃。


「喰らいなさい!これが私の──Stellar(ステラ)Stellar(ステラ)!!」


「これ……は……ッ!?」


 懐へ潜り込むと同時に、闇納は鎖を力尽くで引き千切るも……タッチの差で遅く、左拳は腹部を捉え。

 重く・深く・回転を加えた鋭い拳が闇納の腹を直撃。青白い龍が腹部を貫き、凍結。

 続けて右拳と紅の龍が左頬に命中するが……全身に魔力を込めて踏ん張られ、殴り飛ばすには至らない。

 が──身を捻り寸勁(すんけい)。要は接近戦より更に距離を詰めた状態、超接近戦での力の出し方を行い。

 今度こそ完全に殴り飛ばし、食い止められた紅の龍が相手の顔面を咥えながら上空へ打ち上げる。


「ふふ……傀儡とは言え、この私を倒せる程に成長するとは。やはり私が──私達が認めた人間ね」


「安心しなさい。本体の貴女と決着をつけ、勝利するのは……マイマスター(我らが主様)ですから」


 首が取れ、胴体が真っ二つになりながらも自らが傀儡だと話す闇納。絆は背を向け、俺が勝つと断言。

 すると宙を舞う紅と青白い龍が左右から傀儡へ迫り──龍同士が激突した瞬間、白い閃光を放ち無に返す。

 相反するエネルギーは、此方も使える。その為の紅と青き龍神を宿した、sin・第三装甲。


「いつまでも、捕縛出来ると思う……っ!?」


「魔法だけで不十分なら……悪夢による捕縛も、追加……ですのよ」


 その裏で、悪夢憑きトワイも自力で鎖を引き千切らんとするも。アニマも骸骨の眼や口から光の鞭を放ち。

 捕縛をより厳重なものへとする。絆はトワイへと飛び込む勢いを利用して押し倒し。

 両手でトワイの頬を包む。これだけ接触出来れば、相手の精神へ接触するのは可能。

 内部へのダイブは成功したが、俺の接触を拒む様に精神球から放たれる、硝子の破片にも似た氷の刃。

 可能な限り避けても、幾らか全身を掠る。精神球へ辿り着くと、闇の力を利用し優しく抱き締めた。


「馬鹿な!我らが……悪夢が……夢に、軟弱な夢風情に取り込まれるなどと!」


「あぁ……でもこの夢はとても温かくて、母様の温もりにも似た優しさで、孤独の氷を溶かしてくれますわ」


 彼女の闇を受け入れ、絆の中へ戻る最中。悪夢達の声を聞いた……様な気がする。

 外の景色が見えたのだが、二人の捕縛魔法を破り、絆に抱き締める形で捕らえられていた。

 帰還と同時に融合は解け、トワイに憑いていた悪夢の両腕も徐々に消えて行く。


「…………ありがとう……ござい、ます」


「もう──悪い夢(許せない過去)は終わったから。少なくとも自分は、トワイの行動を肯定してるから」


 少し間を空けて途切れ、抱き締めていて顔は見えずも、泣き堪えながら伝えてくれた感謝の言葉。

 それに対し自分は……トラウマとも言える悪い夢が終わった事、自分は彼女の行動を肯定ていると話す。

 人々から拒絶された彼女(雪女)が、心から受け入れてくれた存在と事実を、その冷たい心身に染み込み。

 心を守る()は春を迎え、溶けて行く。それを表す様に──トワイは大きな声で泣き叫ぶのであった。

 全ての根元は『 』()だ。heart() of() darknes()だって、使い方次第で善にもなる。



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