龍騎 -trinity-
『前回のあらすじ』
炎と氷。相反する二体の悪夢と対峙すべく、完成した絆のsin・第三装甲を纏い挑むエックス達。
その力と第三装甲に秘められた能力は、悪夢達の攻撃をモノともしない防御力を見せつける。が……
純粋種に近付いた炎のナイトメアゼノは挽回を使用。巨大化するも、援護要請を受けたアニマ達に押される。
二体の悪夢は更に融合まで使い、相反する力を持つ存在へ。その一撃は、ベヒーモスの左前足を消し飛ばした。
遂には右手を出した瞬間、カウンターで左掌底の直撃を右頬に貰ってしまう。
それでも攻撃の手は止まらず、手が駄目なら足。足が駄目なら頭と、持ち得る手札を次々に切る。
だが……左足が蹴ろうと動く刹那、闇納の右足に膝を踏まれ、足技の発生そのものが潰され不発。
旧第三装甲からある頭部の刃で頭突きをすれば──右手で顎下を掴み、軌道を変えられる。
『接触を確認。赤い靴システム・逆鱗モード、起動』
「単純な話。貴女の打撃は初速を殺せば、絶大的な破壊力を失う。……こんな風にね」
「絆!聞こえないのですか、絆!!」
こんな時に……半ば暴走とも言える赤い靴システムが起動。逆鱗モードは恐らく、絆専用だろう。
眼が紅く発光し、猛吹雪の中で無月闇納へ先程より数段速い打撃を繰り出せど……加速が乗る前。
右拳を突き出す瞬間に左手で押さえられ。足を振り上げる直前、動く先の脛に足裏を置かれ止められる。
手本の様に行われ、絆は怒りのボルテージが上昇。遥の声すら届かない程、我を忘れている様子。
「悪魔や邪神と相乗りし、乗りこなす騎手無き龍神には破滅の未来しかない。そう──貴女の一族が滅びた様に」
「ギザマァァァァ!!」
「怒れ怒れ、もっと怒れ!!人間同様怒りで自ら脳を傷付けて馬鹿になる様にね!」
全ての打撃を封殺し続け、事実と絆だけではなく、紅一族の滅亡を嘲笑った表情と言葉で煽る無月闇納。
その言動から狙いは見えた。何故攻撃せず、相反する悪夢をぶつけたのか?何を狙っているのかさえ。
疑問は残るが、絆を通した視界から自分の視界へ戻す。檻──いや、鳥籠と言うべきか。
四人とsin・フュージョンをすると、毎度この真っ暗な牢獄へ投獄されるんだが……鉄格子の扉が開いた。
「いつの世も心無き力が蔓延り、人々は怒りや己が正義の為、心を棄てて暴力を振るう」
「貴方は──アインス……オメガゼロ・アダム」
「生命はその心に、幾つもの獣を宿している。しかし……その大半が獣の影響を受け、暴力を振るう」
鳥籠の中へ入って来たのは……体が白く発光しているオメガゼロ・アダム。人間時の名を、アインス。
確かに、世の中は余りにも悪い心が蔓延っている。それが正義だと、盲目的に信じて。
アインスが言う、心に宿す幾つもの獣。獣から影響を受ける精神、行動に出る欲望は時に恐ろしい。
「その両手に憤怒の獣を宿す君は、憤怒をどう対処するつもりだい?」
「…………どうするも何も、これまでと変わらない。全てを受け入れ、全てを繋ぐ」
「成る程。全てを破壊し、全てを繋ぐ君の旅らしい答えだ。行きたまえ。君がアレに勝てれば──運命は変わる」
両手に憤怒の獣を宿すと言われ、自分の両手を見る。人間のソレではなく、絆や愛と限定融合の頭状態。
思い返せば、二人に与えられたsin・第三装甲の罪は憤怒。どう対象するかと訊ねられ、顔を上げ……
軽く微笑み、両手を広げて答えた。支配・服従・屈伏させる訳でもなく、闇の如く深く受け入れるだけ。
返答に満足したのか。アインスは鳥籠の中に黒い鎖を残し、闇の中へと消えると──手は元に戻り。
割れて高さ五十センチ、横幅五十センチの紅い卵が出現。中には赤子の紅い龍がおり、キーキーと鳴き叫ぶ。
「……その猛々しい怒りも、滅びた同族への嘆きも全部──正しいものだから。悔やまなくても良いんだよ」
「ま……すた──マスター。マイ、マスター……」
ゆっくりと歩いて卵へ近付き、屈んで憤怒を受け入れる言葉と右手を紅い龍に差し伸べる。
すると──紅い小龍は鳴くのを止め、小さな目に大粒の涙を浮かべて泣き。
卵の殻から出ながら次第に成長。此方の右手を自身の両手で包み、貴方こそが私のご主人様──と俯く。
紅絆。彼女はゼロと同じく産声をあげる前に命を落とすも、分割した紅い光の力を授かり生き返った。
『っ!!炎と氷のナイトメアゼノって、こんなにも厄介なのかよ!』
『相反する力から発生する、直撃すれば即死級のエネルギー。これが一番厄介極まりない……ですの』
『くふふふふ。頼みの綱の裏切り者は魔力切れで戦闘不能。残る裏切り者達も、始末するとしよう』
前方周囲に観ろと言わんばかりの映像。復帰したフェイクや応戦中のアニマが戦う様子が広がり。
暴走して無月闇納と戦っていた絆の体は雪の中へ沈み、降り続く猛吹雪で埋まっている始末。
どっかの地獄博士に蘇生された、男女半々な男爵宜しく嘲笑いながら喋る融合ナイトメアゼノ。
ふう……もう少し、絆の心と寄り添ってやりたかったんだがなぁ。俺の仲間を嘲笑うか──良い度胸だ。
「絆、行こう。自分達が手を取り合えば、限界知らずに強く、最果てにも飛んで行けるさ」
「勿論です、マイマスター!!」
黒い鎖を拾い上げると龍形態へ変身した絆の背に乗り、鳥籠の外へ飛び出す。
最近は──いや、殆んど姿を見せないこの鎖は多分……そう言う事なのだろう。
鎖に成り、存在の維持を行える程の願望・執念・呪い。仲間達の願いもあるがある種、独占欲にも等しい。
そうこう考えながら暗闇を飛ぶ中。白き龍と十二枚の羽を持つ悪魔が後ろから追い付き並走。
『Wake Up!!trinity fusion!change……Seven Deadly Sins・Dragon Sin!!』
「……来た。全てのsinを乗りこなす龍騎が」
『Unchain your heart !Destroyer of worlds!!』
覚醒を伝える様に電子音が鳴り響けば、魔力切れで光を失った仮面の眼に再び光が戻る。
右が真紅、左は青白、新たらしく虹色の瞳孔が発生。この現象を待っていたと微笑む闇納。
普段と違う追加音声が流れ、起き上がる絆。魔力経路も両眼と同じく左右別の配色へ。
「……突き刺す様な怒りを感じない?まあ、試してみれば分かる事ね。量産型トリック、ジャッジ」
「おいおいおい!資料にあった、滅茶苦茶苦戦した幹部級を量産出来るのかよ!?」
「えぇ。ノイエ・ヘァツ。ナイトメアゼノが吸収した存在なら、性能を落とさず量産化が可能──!!」
言われる通り、復活した絆に明確な憤怒は感じない。それが不思議だった闇納は、此方へ刺客を送る。
全身黒色のトリックとジャッジだ。幹部級の量産と言う行為をやってのけ、驚きを隠せないフェイク。
確かに、幹部級の実力を完全再現した量産型は厄介極まりない。量産ジャッジは此方へ全力疾走しつつ。
大斧を目一杯振り上げる瞬間──絆の方から懐へ飛び込み、胸部装甲を左拳で軽く小突く。
それだけで奴の胸部装甲は全壊し、更に内部のノイエ・ヘァツも砕けて自壊。流石の闇納も言葉を失う。
「幾ら姿形を真似ようと。心無き人形に遅れを取る程、私達は落ちぶれてはいません」
「へぇ……噴火する憤怒を彼の闇で飲み込み、最高出力と冷静さを維持しているとはね」
「母様!!ジャッジメント・フォトン!」
闇納に視線を向けたまま話す。その隙を狙って背後から飛び込むトリックだが……
尻尾にある真紅の先端が高速回転し、迫るトリックの湾曲空間を貫き、顔を掠め。白兎の鋭い手刀が胸を貫く。
融合悪夢の放つ白い光線。悠君の左腕を消し飛ばした閃光に対し、左手を向け──デコピンで相殺。
「あ……あり得ん!触れた存在を消滅させるエネルギーを」
「あり得ますよ。同じエネルギーを、同じ量ぶつければ良い話ですから」
受け入れられない現実を前に、思わず後退りしながら口を開く融合悪夢。
その発言に対し、理由を話す遥。サラッと言うが、そう簡単に出来る事ではない。
自身に向けられる消滅と言う恐怖心、焦りで同じエネルギーをぶつける等は容易くないのが現実。
それを理解している為か、悪夢は震えて怯えている。俺も同じ立場なら、恐怖心は覚えるだろう。
「知恵には限界がある。されど、想像力は全てを包む。確か、そんな名言を言う偉人が居たよな?」
「アインシュタインだな。さて、我らが王の偉業を邪魔する愚か者よ。我らが──迎えに来たぞ?」
「な、何故だ!?貴様らに圧倒的不利な条件下で素早い動き……いや。この期に及んで罪を重ねる気か!」
「罪を重ねる?罪を重ねると言うのは──こう言う事を言うのですわ」
偉人の名言をうろ覚えで言い、ルシファーに確認を取るゼロ。聞かれた当人は名前を答えた後。
自身ら地獄が迎えに来たと発言。狼狽える融合悪夢は疑問をぶつけつつも、母への罪──反逆行為。
それを重ねる気か?と問い掛けて来る。絆が左手を横に伸ばせば、愛の限定融合形態である狼頭が飛来。
左腕へ装着後、追い掛けて来た龍の頭が狼頭に重なる形で装着。白龍の顔が完成し銃口を闇納へ向ける。
「黒き王、デトラが使っていたテール・ツールの再現、発展系……成る程ね」
「──!!ハッ、畏まりました」
闇納は右手の指を擦り合わせて音を鳴らす。その意味を理解した融合悪夢は返事を返すと……
帯状のまま分離し、宙を素早く駆け抜けトワイへ。雪に隠れた足を僅かに浮かし、白兎と共に追い掛ける。
帯の最後部を掴むべく手を伸ばす──が、双方空を掴むに終わり、二体の悪夢はトワイの両腕に宿った。
「trinity──仲間を相手に、あなた達はどんな戦いを見せてくれるのかしら?」
「そんな……アレは、貴紀と同じ……!?」
氷の悪夢コンゲラートが宿り、氷の鎧が守る右腕。その手には青白い氷の槍を持ち。
炎の悪夢デフェールを宿した左腕は武具こそ持っていないが……腕全体を守る手甲が武器と言える。
ナイトメアゼノが三位一体融合を使うなど、一切思わなかった。アニマも驚きを隠せず、一歩後ろへ。
刹那──トワイが槍を横に薙ぐ。と同じタイミングで跳ぶ絆とアニマ、白兎。フェイクは走り出し。
倒れた悠君の前で屈み、白い結界で自身も包む。すると、雪の上に荒ぶる津波の様な氷が張られた。
「槍を振るった際の衝撃波で、大気中の水分を凍り付かせた。あの直撃を受けたら……」
「十中八九。溶岩石の左腕に殴られて熔解か、即死でしょう。何かしら対策が欲しいところですね」
「それもありますが……攻撃、出来ますの?」
先の一撃から攻撃方法や能力を考察するアニマと絆。だが……一番の問題を言われ、黙ってしまう。
ナイトメアゼノを屠る力を、仲間に向ける。奴らを追い出す為には、この力で対抗するしかない。
トワイに攻撃は当てず、二体の悪夢だけを倒す。そんなの──恋のsin・第三装甲でしか攻略出来ないぞ!?




