純粋種 -Dangerous-
『前回のあらすじ』
見聞きした事実を伝えるべきか迷う遥とフェイク。されど其処は記憶世界、過去を変えても今は変わらない。
また来たいと言うトレイターに、トワイは吹雪対策のお守りを渡す。それは友情か、はたまた愛情か?
トレイターが住む村に現れた無月闇納。雪女を雪山から追い出したい村人に予言をしていた彼女。
最悪の時を迎え、凍らされた村人達と深く絶望するトワイ。双方の心を素材に誕生した二体の悪夢にエックスが挑む。
絆と主導権を切り替え、アークバックルが赤色に光り先に第二装甲を装着──した直後。
悪夢達は口内や両手の間に溜めた炎と吹雪を此方に向けて放つ。第三装甲はまだ、呼び出したばかり。
装着しなくては効力を発揮しない。されど絆は微動だにせず、避ける素振りも無くただ立ち尽くすのみ。
迫る炎と吹雪が直撃まで後二秒──すると空を飛び、宙に浮かんで回転する六角形が守ってくれていた。
「戻りなさい。シールドウイング」
「──!?」
六角形の何かをシールドウイングと呼べば、指示に従い縦に割れ背中へ飛んで来ては。
次々とsin・第三装甲が全身に装着され、眼が赤く光る。不完全版との違いは装甲が二重構造で。
背中に六角形が縦に割れた盾の翼、龍の尾、両肩へ付いた深紅と青白で一対の王冠。胸に龍の顔。
左腕と脚はパッと見はただの装甲だけど、よく見れば龍の鱗を参考にした小さな集合体型装甲。
「あれが、龍神の憤怒を納めた鎧」
「──っ」
「ま……まずい!」
此方を視た無月闇納が呟いた直後。絆は大きく息を吸い、その行動から察したフェイクは両手で耳を塞ぎ。
同時に膝まで積もった雪へ逃げる様に飛び込んだ。次の瞬間──その意味を敵味方問わず知る。
「※※※※※※※※※※!!」言葉にならぬ咆哮が衝撃波と化し、無差別に周囲へ襲い掛かり──
雪と一緒にフェイクを吹き飛ばす中、悪夢二体は踏ん張り、無月闇納は涼しい顔で此方を注目中。
「此方を警戒している暇が、今の貴女にあるかしら?」
「──っ、小賢しい!!」
見下ろしているだけで何もしてこない。それが逆に怪しくて、警戒心を強め無月闇納を睨む絆。
お返しとばかりに忠告を受けた直後。猛吹雪に紛れて無数の氷柱が襲い来るも、先程の咆哮でこれを粉砕。
猛吹雪も消し飛ばし視界が晴れると、身を丸めたデフェールが回転しながら此方へ突進中。
押し止める様に両手で受け止めた──次の瞬間。両側面から岩石の手が伸び、絆の両腕を強く掴む。
「我が命に従え火の精土の精!大地の血流浄化の涙、汝の熱き叫びを我が叫びに」
「例え両腕を封じられたとしても」
「あら?拙の存在をお忘れ?」
続けて詠唱を開始。至近距離、完全詠唱、防御・回避不能な場面を同時に作る辺り……相当賢い。
なれど、此方も数多の死線を潜り抜け、最悪の状況に対する装備は可能な限り揃えている。
腕を掴まれているのを利用し、引っ張りながら左右の膝で順番に蹴るも、手は離れず回転も止まらず。
詠唱も止まらないが故に右足で蹴り、引き離す最中。コンゲラートが背後に現れ、抱き付かれる。
「っ……這い寄る混沌。片方の相手を──居ない!?」
「多少低温に適応出来るみたいだけど。これなら……どうかしら?凍結爆破」
「その血と涙は世界に対する怒りと嘆き故に……溶岩噴火!」
氷の彫刻を引き剥がして貰うべく、真夜の名を呼べどその姿は何処にもなく。
前後で発動された冷気とマグマ、正反対の技と魔法。その間に挟まれ、直撃と水蒸気爆発に飲まれた。
同じ電磁極の磁石が反発し合う様、白い爆煙の中から弾き出されて雪の上を転げ、震える腕で立ち上がる。
相反する属性、存在の癖に……コンビネーションやタイミングはバッチリ。これは流石にキツい相手だな。
「ほう。俺様の身勝手な噴火と」
「拙の氷結──更には水蒸気爆発にすら耐え切るその防御力。まさしく感服致しますわぁ」
バイザーに被弾ダメージや損害箇所が表示されるも、これと言って目立った被害は無い。
その上、高熱や寒さを微塵も感じず、動きも普段と変わらない。防御力の高さは相手も認める程……か。
しかし、余裕綽々な笑みで言われては嬉しさ半減。何はともあれ、バイザーを視て武装を確認中──
「アイシクルボム!」
「ラヴァ・ボミット!」
「アレは……いけません!」
猛吹雪の中、三人に増えた彫刻悪夢が此方へ氷柱を放ち迫り来る刹那。遥の声が何処からか響く。
背中のシールドウイングが自発的に分離すると高速で正面へ飛び、左右が合わさり六角形に成り。
高速横回転を行つつ上下にブレながら氷柱とデフェールが口から吐く溶岩を四方に弾き。
終えると回転が止まり、分離して再び背中に装着された。動きからして、誰かの意思がある様に思える……
「助かりました。遥」
「返答は後です。先ずは行動を!」
「今までの戦闘データを参考にデュアルシステムを開発。……想定よりも百年の遅延ね」
誰かに感謝の言葉を述べた。と思いきや、話し相手は青の龍神族・大空遥。されど姿は何処にもない。
返す言葉はsin・第三装甲から聞こえる。恐らく静久の時に話していた、詠土弥を第三装甲に──
と同じ。バイザーにデュアルシステムと表示され、疑似的な融合・同調・補助が目的と書いてある。
要するに副操縦士。戦闘中に扱えない装備を別の者に使わせ、戦局を覆す。
MALICE MIZERで行ったリンク機能と三百六十度視界、グラッジとの戦闘データから開発するとは……
「さあ──デフェール。純粋種に近付いたナイトメアゼノの本能、彼に見せてあげなさい」
「挽・回!!う……おぉぉぉぉ!」
「あぁ……本能の解放、羨ましい限りですわ」
「な、なんですか。この禍々しい魔力は──」
純粋種・本能・挽回のワードを耳にした瞬間。溶岩の悪夢は激しい雄叫びと共に、全身が変形。
溢れ出す異常な魔力、蜥蜴型に巨大化し再度吼えるデフェール。彫刻の悪夢は羨ましいげに微笑む。
遥も自分達と同じく違和感を覚える。威圧感を与える感覚は何度も体験したが……これは全く違う。
心に響く全身をオーブンで焼かれる様な熱や痛み、怒気を孕んだ咆哮が突き刺さる。
「何も挽回は──あなた方だけの力ではありませんわ」
「……丁度良い。あの時勝てなかった鬱憤を晴らすサンドバッグが欲しかったところです」
衝撃の事実を言い放たれる中、デフェールの接合部分の隙間から溶岩が噴き出し。
辺り周辺へ飛び散り、懐へ潜り込もうとするも──膝まで積もった雪が動きを抑制され動けない中。
足を誰かに掴まれた感覚を覚える。すると周辺に落ちた溶岩の熱で雪が一気に蒸発し、見えたのは……
二人のコンゲラート。そう言えば、一度三人に増えていつの間にか消えていたが……潜伏していたとは!
「幾ら高温低温に耐性を持とうとも、それが命取り」
「この低温の中では気体や液体にしろ、水分が凍る事実は変わらない」
「や……やられましたわ!!」
話し掛けられる内に、足から胴体目掛けて凍り行く体。強い耐性を得たが故に気付けぬ罠。
雪が蒸発し発生した水分が体に付着し、コンゲラートの冷気で水蒸気を瞬間凍結と言う。
相反する属性故のコンボを受け、思い出す。これはMALICE MIZERで無垢の道化に使った手だと。
胴体から胸部へ進む凍結。するとバイザーに額の眼が赤く明滅し、信号送信中と表示された。
「拙が作り出す悪夢の氷に包まれて、永遠の孤独を味わうがいい」
「流石に、これは……」
遂には首まで届き、これは抜け出し難い。そう覚悟した時──上空から怒濤の勢いで降り注ぐ光の雨。
その正体は空から降りて来た戦闘機・ナイチンゲールと白兎、アニマが放ったもの。
コンゲラートが作り出した氷の分身は粉々に砕け、此方を踏み潰さんと右足を上げるデフェールには。
ベヒーモスに変身した夢見悠が横っ腹へ頭から体当たりを繰り出し、見事横転させて阻止。
「アレが……純粋種の、ナイトメアゼノ」
「ボクでも分かる。アレは……良くも悪くも、純粋過ぎる」
「おやおや。我らが母を裏切った面々がぞろぞろと……」
白兎がこの体を包む氷を外側から魔力を通し、砕く最中──二体の悪夢を視て語る、悪夢の二人。
双方のナイトメアゼノを視て、改めて違うと感じた点は……魂の有無。アニマや悠君に魂はあれど。
コンゲラート、デフェールに魂は無く、二つ名が示す意味しか、心として持っていない。
純粋種──とは恐らく。その時に出た心だけを素材に使用し産まれた、純度100%の悪夢。
「コンゲラート、デフェール?」
「「ハッ!我らが偉大なる母」」
「融合の使用を許可します。新しく現れた目障りな小蝿を叩きのめしなさい。私は──少し遊びます」
一切手を出さず、此方の戦いを眺めていた無月闇納が自身の産み出した悪夢へ呼び掛け、応じる二体。
彼・彼女に融合を許可し、白兎達の相手をする様伝え……此方に向き直り少し遊ぶと発言後。
降り積もった雪の上へ降り、絆を見下ろす。まさか、記憶世界でコイツと戦うハメになるとはな。
許可が降りた二体の悪夢は、互いを吸収する形で融合。炎と氷が捻れ合った悪夢へと変貌。
「お兄ちゃ──ッ!?」
「おや?頭を狙ったが、照準や威力もブレてしまった様だ」
口を開く悠君の左前足が……白い一撃を受けて消滅。噴き出す紫色の血で、想像を絶する痛みの余りに転げ。
白い雪が徐々に紫色へ染まって行く中、デフェールとコンゲラート。男女の声が同時に聞こえる。
先の一撃が何なのか?それさえ分からない。が……今は眼前に居る無月闇納へと視線を移す。
「……フェニックスを装着しなさい。それで、少しはマシに戦える筈よ」
「敵に塩を送る程、実力に差があると?」
「私は遊ぶと言ったの。遊ぶのなら最低限、楽しむのがマナーでしょう?」
雪で機動力が落ちた此方を視て、突然助言を言い出す無月闇納。絆は寧達にコール信号を送りつつ。
言葉を使い、何か情報が引き出せないかとするも。相手はそれを知ってか知らずか、遊ぶマナーと発言。
確かに遊ぶのなら、最低限双方楽しみたい。要するに、手汗握る戦いがしたいと?
話している内に飛行用ユニット・フェニックスが背中に装着され、同じ視線の高さまで浮く。
「成る程。確かに、その通りです──ね!!」
「絆!?先ずその怒りを落ち着けなくては……此方の動きが見切られていますわ!」
「無駄よ、青き龍神の姫君。憤怒の鎧は装着者に激しい怒りを与える。寧ろ、よく抑え込んでる方よ」
言葉の意味に納得し、飛び込む形で殴り込む絆だが……遥の言う通り、動きが見切られて当たらない。
両腕による激しいラッシュを幾ら繰り出そうとも、手を出した瞬間には避けられており。
更に言えば、遥に対し憤怒の鎧と絆が行っている努力を、息を切らさず説明するだけの余裕すらある。
怒りの力を引き出す第三装甲。その弱点、此方の動きを見抜く実力は──確実に今の自分達より上だ。




