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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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トレイター -trauma-

 『前回のあらすじ』

 エックスは仲間達に自身の抱える問題・情報を伝え、改めて魔神王討伐の協力を得て、フェイクとも和解。

 目が覚めると其処はトワイの記憶世界であり、猛吹雪の中で遭難者を見付けるも、トワイに凍らされるエックス。

 ノエルとデルタに救われ、トワイの過去を見るそれは……トレイターと雪女の物語。

 トレイターに心を許す姿を見て、一瞬殺気を覚える程の怒りを出してしまうエックス。はたして、その理由とは?



「それで……どうするんだ?雪女に今見聞きした事、伝えるのか?」


 どう対処すれば良いのか困り、此方へ指示を求める様に訊ねるフェイク。遥も悩んでいる様子。

 とは言え、此処は記憶世界。仮に過去の時代に飛び未来を変えても、決まった結末は変わらない。

 どちらにせよ変化はせず、これを見聞きした自分達が何をどう思うか?が大切だと伝えた後。

 もし伝えたとしても、心許した相手とほぼ初対面の相手が言う言葉では、前者が優位過ぎるとも話す。


「そう……だよな。知らない奴が語る真実より、気心許した相手の言葉を信じるよな。普通は」


「辛く、悔しいですね……例え真実を語っても、信じて貰えないと言うのは」


「…………」


 悔しがり、俯く二人。人とは、自身にとって都合の良い解釈しかしないor取らない。

 それは何故か?ほぼ確定した悪い結果より、ワンチャン運が良い・都合が良い結果を求めるからだ。

 幼い頃や大人になってから失敗は悪く、やってはいけない事。と教育・洗脳されているのもある。

 失敗とは成功だ。間違いを見付け、改善する為の解答にして、沢山の経験値を積む為の成功なのだ。

 何故か人類は失敗に対し叱り、怒るだけで解決策を共に考え・何が悪かったのかを伝えない傾向だが。


「まあ、ただ……連中の目論みは、最初から失敗しいてる事に気付いてないみたいだけどな」


「それは──どう言う意味でしょうか?」


「確かにトワイは心を開き、許しているかも知れん。が──アレは恋愛的ではなく、友情的な信頼と思う」


 その自身に都合が良い解釈を好む点が失敗や間違いを考えず、更に言えば集団意識が悪い方へ。

 人は群れると判断力・思考力を失い、馬鹿になり易く、あの村人達もその傾向が非常に強い。

 それを指摘すると。遥は途中で右手をそっと自身の唇に当て、少し考える素振りを見せてから訊ねた。

 解答としては……愛情と友情、そのどちらから来る信頼か?反応を見て感じる限りでは、多分後者だと回答。


「また会いに来たいんだけどさ。大丈夫かな?」


「……なら、これを」


 雪山内部の二人に視線を戻せば、男が村へ戻るのだろう。また此処、トワイへ会いに来たいと発言。

 されど、また来るなら猛吹雪が問題になる。そこで自身の力で作った氷の缶バッジらしき物を渡す。

 受け取った男の反応から察するに、冷たさは無い様子。珍しげに表面と裏面を見比べている。


「それを持っていれば……外の吹雪から守って貰える」


「大切に使うよ!いつか他の村人達も連れて、事実を教えてやるんだ」


 渡した当人は純粋に、新しく出来た友達へのプレゼント感覚で渡したのかも知れない。

 村の連中が彼女に、トワイに対しどんな感情を持つのか理解していると……

 満面の笑みを浮かべる男に対し怒りを覚え、虫酸が走る。同じ位、何も出来ない自分に対しても。

 過去にユウキは言った。思考は自ら不安と不幸を産む為、一歩前へ踏み出す時は考えるより行動せよ……と。

 雪山の内部から、猛吹雪が吹き荒ぶ外へ出て行く男を見送るトワイを見ていると──心苦しくなる。


「…………トワイ(雪女)に恋心でも抱いてるのか?自分は」


 ポツリと小さく呟いた言葉に、誰からの返答はない。寧ろあったら気恥ずかしくて困るんだがな。

 記憶世界の時間は何十倍速の早送りが如く進み、男は何度もトワイの住む雪山内部へと赴く。

 それを沈黙しながら眺める。その先にある、目に見えた結末を理解しながら指を咥えて待つしかない。

 針でも刺された様な痛みを左胸に感じつつ、最悪の結果を待っていると……過去視の方に変化が。


『おぉ……予言者様。あなた様が予言してくださった通り、あの雪山には雪女がおりましただ』


『我々の命にも関わる猛吹雪を止ませる為、雪女を追放する策を行っておりまする』


『そう。けれど、信用しては駄目よ。彼女を必ず、確実にこの雪山から追い出すまでは』


 若者が出払った村に立ち寄った、予言者様と呼ぶ大人へ老人達が救世主とばかりに拝み。

 白い雪が降り積もる村に、黒いローブを深々と被り口元しか見えない予言者へ報告を行う。

 報告を聞いた予言者──いや。声から察するに無月闇納は、トワイを雪山から追い出したい様子。

 何故、どうして、理由は?色々と脳内で思考してみるも、疑問や納得出来ないモノが多い。


「最悪の予想とはその大半が当たらず、予期せぬ結果が当たると言いますよ。オメガゼロ・バーガーキ○グ」


「誰が直火焼き100%ビーフパティのハンバーガー店じゃい」


「追放物はよくありますが、大抵は節穴眼の阿呆か土地狙いが多いですね。オメガゼロ・ネットスーパー」


「巻き込まれ勇者でもなけりゃ従魔にスライムも居ねーよ。……フェンリルとドラゴンは居るけど」


 アレコレと考えている内に、聞き慣れた真夜の声と共に右隣へ現れ、真面目な話──と思った矢先。

 某ハンバーガー店やら某スーパー等がスポンサーのアニメを連想させるワードを、名前に絡ませやがる。

 癖でネタにツッコミを入れてしまうが、う~む……これは生活病のカテゴリーに入れて良いだろうか?


「…………正直、我々旧支配者勢や外なる神々が貴方へアレに関して言える事実は──今はありません」


「……いつになく真面目だな」


「我々のみならず、終焉の闇勢の計画も──あなた達の予想を酷く、大きく上回っているんですよ」


 ボケに走った。と思えば悲しげながらも真面目な顔付きになり『アレ』……と言う意味深な言葉を残す。

 少し間を開けて聞くが、返って来た返答はますます分からない内容。何故終焉の闇勢も、なのか?

 予想を大きく上回っている。だけなら多分、気にもとめなかったが……酷く、が付いていた。

 無月闇納を倒すなり封印すれば任務完了じゃないのか?まあ──単にそれが難しいってだけかも知れんが。

 話している内に村では男が御守り(缶バッジ)を手に厚着の防寒服を着て、村人達を連れ雪山へ赴く。


『憧れ・崇拝・集団。それは理解から離れ、思考力を棄て、馬鹿へ成り下がる愚行とも知らずに』


 その後ろ姿を眺めながら、無月闇納は呟く。確かに、その三つは理解と言う意味からは遠ざかるもの。

 憧れや崇拝は相手の良い部分だけフォーカスされ、集団行動は集団意識・生存本能が働き思考を放棄する。

 思考とは不安を産むが、智恵で困難は乗り越えれる。それを棄てるのは、馬鹿や愚行と言われても当然。

 ……時々、思う事がある。無月闇納は本当に倒すべき相手?手を取り合える存在では──と。


「この感じ。トレイ……ター?」


「あぁ。約束通りまた来たよ。トワイ」


 男に与えた御守りの魔力を感じ取り、雪山内部から猛吹雪が吹き荒ぶ外へ出迎えに行くトワイ。

 其処で見たものは──村人達全員を連れて来て、吹雪の中で不敵な笑みを浮かべ答えるトレイター。

 その姿はとても友好的には思えず、背後に居る松明を持つ村人達もおり、近付ける雰囲気でもない。


「約束通り──他の村人達も連れて事実を教えに来たよ」


「事……実?」


 男が口を開き、村人達にトワイが伝承に伝わる恐ろしい雪女ではない。と事実を伝える約束……

 ではなく。他の村人達を連れてきて、トワイへ近付いた理由・事実を教えに来た──が正しい。

 漸く言える。そう言いたげな笑みを浮かべ、閉じていた目を見開き、口を開く。


「誰がお前なんかを好きになるかよ。俺は人間なんだ、お前みたいな化け物は異物なんだよ!」


「──!?」


「これは……」


 吠えて叫んだ内部は、一方的な拒絶。言葉の内容もそうだが、恐らくトワイにとって一番辛いのは……

 漸く出来た・出来たと思っていた友人に手を払われ、拒絶された事ではないだろうか。

 慣れた孤独に漬け込んだ、友人と言う甘美な罠。そして言い放つ事実が、彼女を再び孤独へ突き落とす。

 フェイクは握り拳を作る自分の左隣でトワイと此方を見比べ、反応を確認している様子。


「この雪山から出て行け、雪女!」


「そうじゃそうじゃ!こんなにも吹雪を吹かせて、ワシらを凍死させる気か、化け物め!」


「ち……違っ……」


「何が違うって言うんだ。この──化け物めが!!」


 身勝手な罵詈雑言を、自分勝手な解釈で言い放つ村人達。トワイは向けられる言葉を弱々しく否定するも。

 言い訳なんて聞きたくない!と言わんばかりの勢い・怒号で続く言葉を遮り、一方的に追い打ちを加える。

 器の小さい連中によくある行動だ。自分の意見こそ正しく、他は間違い。己の間違いを認めない……等々。

 雪女・化け物と言った差別的発言。心許した相手からの心無い言葉が、相当効いたのだろう。

 座り込む様に膝から崩れ落ちると口を紡ぎ、溢れ出しては次々とビー玉と同じ形になる涙。


「私は……化け物なんかじゃ──ない!!」


 猛吹雪で見えない天を仰ぎ、心の奥底にある感情を、力強く泣き叫ぶ形で解放するトワイ。

 されどその叫びを聞いた者は、自分達以外にいない。何故なら彼女の吐き出した本心、言葉は……

 周囲に絶対零度の冷気として放出され、熱く喚いていた村人達を自身の渡した御守りごと完全凍結。

 其処で──記憶世界の時間は止まった。疑問が浮かぶよりも早く、異質な魔力に気付き空を見上げる。


「身勝手に燃え上がる炎、誰も信用出来ぬ冷徹な氷よ。汝らに新たなる命を授けましょう」


「無月闇納!」


「さぁ──オメガゼロ・エックス。貴方にこの相反する悪夢が倒せて?」


 視線の先には宙に浮く無月闇納の姿が。右手を凍り付いた村人達に、左手は泣き叫んだトワイへ向け。

 右手に吸い寄せられる赤い炎、左手には青い氷が吸い寄せられ……そこにノイエ・ヘァツが飛び付く。

 そして空から落ちて来る二つの新たなる命。異なる異形の悪夢が地に足を下ろし、此方を視る。


「俺様は偏袒扼腕(へんたんやくわん)、ナイトメアゼノ・デフェール」


(せつ)孤影悄然(こえいしょうぜん)、ナイトメアゼノ・コンゲラート」


「炎と氷。二つの悪夢が相手か」


 デフェールと名乗る悪夢はまるで、二足歩行の溶岩怪獣。牙も無い岩の口に見えるが……

 猛吹雪の中でも凍らず、吐息や背中の突起が積もった雪を放熱だけで瞬く間に溶かし。

 岩石の尻尾も直撃を貰えば、常人など焼け石に水。どう見ても接近戦は此方に分が悪い。

 コンゲラートと名乗った悪夢は氷の彫刻。見た目こそ女性だが、溢れ出す冷気は周囲を凍らせている。

 猛吹雪も奴にとっては、心地好いシャワーだろう。冷気に弱い自分達には、相性が悪すぎる相手だ。


(マイマスター!今先程完成した私専用のsin第三装甲なら……行けます!)


「……迷ってる暇は無さそうだ。よし、頼むぞ」


(はい!!)


 左薬指にある虹の指輪から、この場に居ない絆の声が頭に響く。念話の類いだろうか?

 それはともかく。絆専用のsin第三装甲が性能100%で完成したと言い、現状を打破可能と断言。

 目の前では二つの悪夢が、片や口から溢れんばかりの灼熱を。片や両手の間に吹雪を集めている始末。

 迷う暇があるのなら、可能性に賭けるしかない。指輪を通して絆の帰還を確認後、主導権交代。


「コール。第二装甲及び第三装甲・ドラゴンエンペラー……変身」


sin(シン)fusion(フュージョン)




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