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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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雪女 -Blizzard-

 『前回のあらすじ』

 桜花の案内もあり、第六の遺跡にワープしたエックス達。其処の壁画には、魔神王に関する記述が。

 第六遺跡の担当者からの歓迎?嫌がらせ?どちらとも取れるモンスターハウスは、静久の一撃で呆気なく終わる。

 第六の博士・コフィンはエックスを相当嫌っており、パワーアップアイテムを渡さぬまま、マジックに消され。

 マジックは意味深な言葉とパワーアップ用設計図を残し、何処かへと消えてしまうのであった。



 あの後、仲間達に自分が抱えている秘密を打ち明けた。現世に居られる時間が残り少ない点や。

 倒してきたトリック、ジャッジの他にホライゾンとの関係。自分がこの世界の住人ではないと言った時は──

 当然驚かれたし、怒られもした。何故今まで打ち明けてくれなかったのか?と……

 それに関しては謝り、再度魔神王の討伐・封印の協力を求めたら──あっさり了承してくれた。


「…………悪かった。ジャンクなんて言って」


「ん──別に気にしてない。事実だし、嫌われるのにも慣れてるから」


 みんなが解散した後。台所に居るとフェイクが一人で来て、少し間が空いてから謝罪をされるも。

 自分としては気にする程でもなく、嫌味や嫌悪を向けられるのには慣れていると返す。

 するとフェイクは右手で自身の頭を乱暴に擦り、何かを言おうと意を決し、口を開く。


「俺はお前に憧れてた。親の七光りでもない、自分の力で前に進むお前の姿に!けど……」


「うん。まあ、分かるよ。自分と他人を比較して、自身の出来てない部分が全部悪く思えたんだよね」


「っ……ごめん。本っ当──にごめん!」


 己の意思・行動で前へ進む姿に憧れ、反対に位置する自身と向き合えず反発したのだろう。

 自分と他人は才能や思考すら違う。それを理解し受け入れなければ、人は自ら苦しむだけ。

 深々と頭を下げて謝罪するフェイク。絆達に食べさせるハンバーグの種を作りながら、自分は思う。

 互いを許し合い、違いを受け入れる心が人間には必要なのだろうと考え。


「いいよ。それだけ後悔して苦しんだのなら、自分から追い打ちをする必要もないし」


 許した。よくある話で例えると、失敗して怒られる。ここまでは在り来たりにして普通の出来事。

 失敗と怒るの間に自責・後悔・反省があればどうだ?やってしまった……と自身を責め、悔やむ人に対し。

 追加で責め立てる必要はあるだろうか?個人的には反省し、改善案があり行えるなら責めはしない。


「良かっ……た」


「フェイク!?どうし──」


 練っていたハンバーグを冷蔵庫へ入れながら言った、此方の言葉に安堵した途端。

 フェイクは突然何の前触れも無く意識を失って床に倒れた。慌てて駆け寄ると──妙な寒気を覚え。

 異常な寒さに意識を奪われ、自分までもが床へと倒れ込んでしまった。そして目が覚めると…… 


「あ……目が覚めました?」


「遥?他のみんなと一緒に居た君が、どうして……」


 其処は適応出来ぬ生命を猛吹雪が拒み、星も見えぬ程薄暗い灰色の雲が空を覆う。

 辺りを見渡せど見えるのは積もった雪と氷山、遠くに豆粒程度に見える明かり。

 それと何故か、フェイクまで一緒。首に触れ脈を計ると……生きてる。安堵の溜め息を吐けば白い息が昇る。

 けれど、目に映る景色程寒くはない。ほんのりと白い膜が見え、遥を見て結界だと判明。


「分かりません。ただ、絆様に呼ばれた気がしたら、此処に」


「絆に?それも気になるが──吹雪が酷くて殆んど見えん」


「寒ッ!って雪山か……おい。あれ、遭難者じゃねぇか?」


 絆に呼ばれた気がしたらこの雪山に居たと言う、寒さに強い青き龍神──青空遥。

 彼女が張る結界のお陰か。猛吹雪や想像を絶する寒さも寄せ付けず、改めて周囲を見るも視界は不良。

 外の寒さは防げても、結界内の積もった雪の冷たさは防げない様で、起き上がるフェイク。

 すると目を細め、視界不良かつ悪天候の中遭難者を見付けたと言い、指差す方へ視線を向ければ……

 確かに居る、雪へ俯けに倒れた人物が。助け様にも雪は膝下まであり、足が重くロクに動けない。


「…………」


「白い着物を着た、青白い髪の女?」


「トワイだ。となると、此処はトワイの──ッ!?」


 猛吹雪で周囲が殆んど見えない中、遭難者へ近付く足下まで届く青白い三つ編みの女性。

 フェイクが言う通り白い着物を着て、歩行を阻む雪や風さえも関係ないと言わんばかりに歩み寄り。

 遭難者の側へ近付けば、両手で抱き上げ何処かへと歩いて行く。追い掛けようとするのだが……

 トワイが此方に息を吹き掛けると──吹き荒ぶ吹雪は更に強くなり、足を止めてその場に踏み止まる。

 結界から出てしまったらしく、命の灯火を吹き消す零下の風を直に浴びて真正面から凍って行く。


「貴紀様!!」


「駄目だ!この猛吹雪じゃ、下手に近付けねぇ」


 遥に名前を呼ばれ、フェイクが注意を呼び掛けた……まで覚えている。それが正しい選択とも理解する。

 故に、恨みも何もない。死に近付いて行く中で幻を──いや、父親になる可能性の未来を見た。

 何処かの病室の窓際、差し込む日差しは相手の顔や髪すらも見えない程に眩しくも。

 彼女の腕の中で安らかな寝息をたて、眠る我が子。彼女が口を開き話す言葉を聞いた時──


「ま……マジかよ」


「はぁ、はぁ……また──ノエルとデルタに救われたか」


 気付けば全身を包んでいた氷は砕け散り、ドン引くフェイクとホッとする遥。そして……

 自分の眼にしか映らない青いベレー帽に金髪を纏めた少女、ノエル・ライトニングと。

 背に届く白銀の髪を靡かせる少女、デルタの二人が此方へ優しく微笑み──粒子と成って消えた。

 彼女達はイヴ=サクヤのクローン(失敗作)。人見知りなノエルとは共に戦い、デルタとは殺し合った仲。

 結末は二人共イヴとして自分を庇い、命を落として魂はこの身に宿った。ある意味、加護かも知れんな。


「ところで……トワイと遭難者は?」


「貴紀様を凍らせた後、吹雪の中へと消えていきました」


「そうか。なら、そろそろ場面が変わりそうだな」


 辺りを見渡せば猛吹雪は止み、二人の姿が見えない。どれ程の間凍らされていたのか?

 と言う疑問もあれど、先ずは情報収集で遥に訊ねる。帰ってきた返答は凍り付く前の情報と同じ。

 これまでの記憶世界がそうだった様に、場面が切り替わる頃合いと言った矢先に変化し氷の部屋へ。


「あ……貴方が、俺を助けてくれた……のか?」


「…………」


 今は此方を認識出来ないらしく、遭難者の問い掛けに対し、トワイが首を縦に振る様子が見れる。

 何故喋らないのか?と考えたが──トリック(無垢なる道化)と初めて戦った時を思い出す。

 雪女たる彼女の息は恐るべき冷気。しかし……意識すれば制御出来る異能だと思うが、違うのか?

 疑問が浮かぶ中。一方通行の問い掛けと喋らず首を振るだけの会話が続いていた。


「まさか、村の伝承に伝わる雪女に助けられるとはな」


「……?」


 遭難者が村の伝承云々と話した時、両眼の異能が勝手に起動し二人を視る自分の背後に過去が映る。

 当の本人は自身が伝承になっているとはつゆ知らず、理解が及ばず首を横に傾げる始末。

 それとは反対に、後ろを振り向き干渉した過去視の俯瞰視点を見る。老若男女が民家へ集まり、会議中。


『この猛吹雪や若い男連中が戻って来んのもきっと、雪山に住む雪女の仕業じゃ!』


『んだんだ!!けれど雪女の居場所が分からん上に、ワシら人間に勝てるかも怪しい』


『熱い物が弱点だと思うけど、見付けるまでに冷めるし、仮に遭遇しても凍らされちまう』


 老婆は自然現象を雪女の所為だと責任転嫁をし、老人もそれに賛同しつつも現実を理解している様子。

 高校生らしき青年は弱点を考えるも、遭遇場所や能力から考えうる対策は無理だと思考。

 そもそも、山の天気が変わり易いのは当然。山の上の風向きが変われば、天候も変わる。

 もっと言ってしまえばこんな寒冷地に村を作り、出て行こうともしないなら順応するしかない。


「……なんか、自分が悪いって思えなかった頃の俺を見てる様で、気持ち悪い」


「辛く苦しいからこそ、逃げ場を求めて責任転嫁を行う。我々龍神族も、他種族の事は言えませんね」


 隣で一緒に見ているフェイクは過去の自身を思い返し、気持ち悪さを覚えていた。

 遥もフォー・シーズンズの一件を思い出した様で、責任から逃げずみんなで解決する。

 その必要性を痛感したと言いたげな、悲しい横顔を見せる。そう思えるなら、心が成長してる証拠だ。

 他人の振り見て我が振り直せ。自分の振るまいは無自覚に正当化してしまうが、他人の振りは違う。

 行動・発言・思考。悪いと思った部分は反面教師にし、少しずつ改善して行けば心も成長する。


『そうだ。雪女に恋をさせよう!』


『恋?……成る程、それは良い考えじゃ』


『となれば、後は数を送るだけじゃな』


 青年が何かを閃き、雪女──トワイに恋をさせようと言い出した。老婆は最初こそ疑問符だったが……

 何かを理解したらしく、良い考えだと言い同じく理解した老人の思考が読めたのだが──やはりそうだ。

 人はどんな悪魔よりも、醜悪な悪魔だと二重の意味で痛感。コイツら、この星を襲った侵略者連中か!


「なあ、もっと教えてくれないか?君の事」


「…………」


 知的好奇心故か。遭難者はトワイに話し掛け続け、当の本人もそれを不快に思う様子は一切見せず。

 優しく微笑み──頷く。雪女の種族だからこう言う生態系と性格!なんて、誰が決めたのだろう?

 自分と違うモノを拒み続け、数多くの同じを求めるのが人類と言う種。

 一人で生き続けた彼女にとって、遭難者に興味を持って話し掛けられるのは嬉しいんだと思うのだが。


「じゃあ……先ずは名前から。俺はトレイター、君の名前は?」


「…………トワイ」


「そうか、トワイって言うのか。いい名前な上に、滅茶苦茶良い声だな!」


 グイグイと話し掛け、自己紹介から行う。遭難者の男は自らの名前をトレイターと言ったが……お前。

 それに対して少しどうしようか?と目を背ける形で悩んだ後、恐る恐る自身の名を告げる。

 端から見れば、お見合いか一方的なナンパにすら思える程、男側からどんどん攻めて行く。

 雪女故、自分達の様な声のボリュームでは下手に喋れず弱々しく聞こえるが、良い声なのは確か。


「あり……がとう」


「…………」


 日焼け出来ぬ白い肌、その頬をほんのり朱色に赤らめ感謝の返事を返すトワイと笑顔のトレイター。

 その光景を見て……思わず握り拳を作ると緋色と青白、二種類の稲妻が怒気を表す様に拳から溢れ出す。

 嫉妬──ではない。それでも、見ただけで分かる。トワイがトレイターに心を許し始めた事が。

 同時に奴の笑顔が命乞いへ変わる位、殴りたいと今にも噴火する程込み上げる怒りを受け入れ、飲み込む。


「貴紀……様」


「な、何をしたんだ?一瞬、心臓を鷲掴みにされたかと勘違いしたぞ!?」


 飲み込むのが少し遅れたっぽい。遥は此方に呼び掛ける最中、行動を理解し続く言葉を言い留まる。

 自身に向けられたモノでは無いにしろ、フェイクも殺されると錯覚する程の恐怖を感じた様で。

 此方に訊ねて来たが……敢えて何も答えず、笑顔で何でもない。と──左手を小さく振って応えた。




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