慈烏反哺 -Testament-
『前回のあらすじ』
ミミツとの共闘が始まるも、三勢力の技術を詰め込まれたナイトメアゼノ・タキオンの実力は強く。
エックスが現人類に命を狙われる理由、オメガファイルに関する話をしながらでも攻撃の手を緩めない。
紅い靴システムの学習機能で食らい付き、ミミツの奇襲で致命傷を与えど、過去の時間への跳躍でダメージを無視。
リバイバーが見付けた攻略法を試すべく、静久専用のsin・第三装甲を纏えば、タキオンも本気を出すのであった。
仮面を外したナイトメアゼノ・タキオンの素顔は……皮膚が熱や酸などで溶け、鼻の骨が砕けた人面。
口が鳥類のクチバシとワニの口を連想させる凶悪なモノに。目付きも鋭く尖り、濁った緑色の瞳へ。
背中の黒い翼は翼竜のプテラノドンに近くなり、頭の左右に新しく刃物の様な角へ。
足はより鋭く鷹の様な形。全身が鱗と思わしき物に覆われ、体の色は元の白黒から焦げ茶色に。
「生者必滅、ナイトメアゼノ・タキオン。裏切り者よ、我と共に滅びて死ぬがいい!」
「ハッ……慈烏反哺で己が命まで投げ出す阿呆に付き合う程……私も暇ではない」
宙に浮き、力強く羽ばたきながら自身に与えられた四文字熟語を言葉にし、此方へ共に死ねと叫ぶ。
それに対し、静久は親孝行を尽くす為に命を投げ出す奴と共に死ぬ気など無い。と吐き捨てる。
一般的に親としても、子供が自ら命を投げ捨ててまで行う親孝行に何の意味があるのか?とすら思う。
そう考えている内にタキオンは青空を高速で飛び回り、空から川や海の魚を狙う鳥の如く襲い来る。
「弱い奴程よく吠え、飛び回る……弱い自身を強く見せる為に。その弱さ、ある意味嫉妬すら覚える……」
「我らが母への裏切り行為!!その命を捧げて償え、オメガゼロ・エックス!」
「フッ……頭に血が登り過ぎて、貴様の大好きな母とやらの使命……忘れたか?」
「──!!」
されど正確な機械の如く一直線に、両肩だけを足で掴まんと狙って襲い来る為。
足下の水を右人差し指に吸い上げ、高圧水鉄砲として発射し、蜘蛛の子を散らすように払う。
何せ狙いが丸分かりなので、撃つ場所も自動的に決まる。繰り返し迫り来るタキオンだが……
静久の言葉にハッとした瞬間。水流に揺らぐ影から無数の黒い手が伸び、迎撃にと口から火炎弾を連射。
「っ……流石はあのお方のペット。反応速度や判断も即断即決かつ的確ですわ」
「貴紀さん、静久!大丈夫……かぁっ!?」
水面に何発も着水し、次々と水柱が昇っては落ちるのを繰り返す中。ミミツはタキオンの行動力に驚き。
橋の上から此方を心配するリバイバーにも火炎弾が降り注ぐ──が、ドーム状の青白いバリアが防ぐ。
十中八九、マジックのバリアだが……先程から戦闘に参加する気配はない。何か様子見だろうか?
「…………」
「フン……視線で訴えずとも、その程度分かっている……」
「ッ──永久にっ、平和な未来の為に!!我が命の炎で、裏切り者を討つ!」
橋の上から無言で此方を見下ろすマジック。視線が「この程度に勝てないなら未来はない」と訴える。
静久もそれを理解しており、タキオンを無視してまで睨み返す。それに気付いてか、歯を噛み締め。
自らの命を燃やして炎を纏い、口から火炎弾を連続で吐き出しながら此方へ急降下。
四方八方に着弾直後、火柱が燃え上がり逃げ場を遮ると──此方へ体当たりを繰り出す。
「天叢雲剣……なッ!?」
「我の跳躍は過去へ跳ぶだけではない。未来へも跳べるのだ」
「今度は背後!?目が追い付きませんわ!」
緑色の光が右手に集まり、握れば剣になり迎撃で縦に振るう──が、タキオンは目の前で揺れ動き消滅。
背後に爆竹的な連続爆発を受け、思わず前へ押し出され振り返れば、辻斬り紛いの翼が首に直撃。
仰向けに押し倒され、立ち上がれば今度は背中に足爪が直撃し、今度は水面へ俯けに転倒。
発言から察するに、天叢雲剣が直撃する瞬間未来へ跳び、回避と反撃を繰り出していたのだろう。
「成る程。最大加速を利用して一秒後へ時間跳躍、自身のデメリットを最小限に抑えて攻撃に移してるのね」
「どう言う事だ?」
「加速で一秒間の移動速度を上げ未来へ跳び、ダメージまでの時差を最小限に抑えてるのよ」
マジックも此方の予想と同じらしく、時間跳躍前に受けたダメージが時差で刻一刻と迫るデメリット。
加速と頑強な鱗で攻撃力を更に向上。戦闘用に改造された反射神経を利用し、一秒後へ時間跳躍。
徒歩とF―1の一秒で進む距離は異なる。つまり、時間差で自壊する時間を無理矢理伸ばしている。
「あぁ~……もう!速すぎて当たりませんし、苦しいですわぁ!」
「ならば──大気の水よ……邪悪を絡め取る糸となり、射抜き切り裂き殲滅せよ。水蜘蛛の巣」
足下の影から細い砲身を幾つも出し、対空射撃さながら撃てど当たる気配は微塵も無い。
その間に立ち上がり、背中の八岐大蛇ユニットを含むパーツをパージ。重々しい音を立てて川に水没。
詠唱中に川の水を集め、四方八方へ永続的に撃ち、蜘蛛の巣さながら張り巡らす水の陣。
トリック相手に通用した罠を張る。後は此方の思惑通りになってくれれば、勝機はある……
「その程度の罠、見抜き破れぬと思ったか」
「チッ……また最大加速による時間跳躍か。面倒な能力め……」
「魔力の無駄と知りミミツが対空射撃を止めている今現在、太陽光で水の蜘蛛の巣など丸見えだ」
「クソッ!貴紀さんのエネルギー補給になる太陽光が、こんな形で裏目に出るのかよ!」
空中に防御迎撃の意味も込め、高圧水で何重にも張り巡らせた蜘蛛の巣。なのだが──
青空より照らす太陽光を受けた水が煌めき、自らの位置を周囲に知らしめてしまう。
加速・跳躍の繰り返し、仕掛けた罠を容易く潜り抜け、影の対空砲も動くだけで発砲はしない。
更に上流から流れる川の水が泥水へ変わり、静久の周囲だけ綺麗な水として残っている状態。
「ふふっ。自然も全て、我に裏切り者を討てと言っている様ではないか」
「言ってろ……」
「ど、どどどどうすんだよ!!天候や大自然までもが貴紀さんと静久の行動を裏目にさせてばっかりだぞ!?」
「この最悪な状況、あなた達はどう乗り越える気かしら?」
泥水も操れるが、静久は好まない。足下以外の川は視認性が悪く、底など到底見えず。
挑発気味な台詞と加速&時間跳躍コンボで四方八方から体当たりや火炎弾を繰り出すタキオン。
橋の上ではパニックになり、慌てふためくリバイバーと冷静に此方の出方を見るマジック。
影の対空砲は徐々に形が崩れ、水に濡れたパンも同然状態。物理攻撃を受ければ簡単に崩れるだろう。
「ミミツも限界そうではないか」
「ハッ……この砲台が、いつからミミツだと錯覚していた?」
「も~無理。俺は生物しか上手く化けられねぇ上にミミツのお嬢様口調とか、どんな罰ゲームだよ」
「馬鹿な。では、ミミツは一体何処に」
四方八方から繰り出す攻撃の手を緩めず、その様子を見て勝敗が決まりそうだ、と言いたげな口振り。
……に対し。静久は失笑から入り、種明かしと言わんばかりの言葉と現実を突き付ける。
そう。影は途中からゼロに代わり、声真似口真似でミミツは此処に居ると欺き続けており。
溶けて影に戻った驚愕の現状を見て、タキオンは思わず動きを止めて辺りを見渡す。
「思う存分やれ。ミミツ……」
「あら、わたくしをお探し?でも、気付くのが遅すぎます──わっ!!」
「ば……馬鹿な。いつの間に、背後へ」
ポツリと呟く静久の言葉を聞いてか。太陽光に照らされ、宙に煌めく張り巡らせた水の糸。
その一本から巨大なミミツが現れ、両手を左右に伸ばし、蚊を手で叩き潰すかの如く。
理解が追い付かぬタキオンを叩く。しかし負けぬと行動で示す様に、影の手を貫き外へ脱出。
改めてミミツの位置、何故自身に気付かせず背後を取れたのか?それを口にする中。
「……『詠土弥』」
「な、何故だ。ソイツは……貴様らの旅から、リタイア──した、者の名前」
タイミングを見計らい、詠土弥の名を呼ぶ。すると──水の糸を高速で泳ぎ。
タキオンの首や翼へ噛み付く五匹の蛇達。それは静久が脱ぎ捨てた八岐大蛇ユニットの蛇であり。
内二匹はミミツに影を提供すべく太陽光が降り注ぎ、影を作る為に上下の位置を合わせていた。
「リタイア、してない。まだ、静久に恩返し、出来てないから」
「……余りにも言うんでな。sin・第三装甲のナイトメアゼノ製エイド・マシンと融合させてやった……」
底が見えない泥水の中から、螺旋回転させた泥水を真上に噴射し、宙を飛ぶタキオンを墜落させ。
水面から顔だけを出し。自身はリタイアしておらず、その理由を語る詠土弥と過去に起きた出来事。
コトハによる、詠土弥の人工ナイトメアゼノ化。これを利用し、静久専用sin・第三装甲に組み込んだ。
アニマや桜花が居なきゃ完成しなかったと言うんだから……末恐ろしい技術だよ。
「だが、それがどうした。我の時間跳躍は未だ健ざ──ッ!?」
「タイムリミット。現在時刻は七時十二分、わたくしが貴方の胴体を貫いた時間ですわ」
「……詠土弥、アレで決めるぞ」
「了解。アレで決めるなら、地上に撃つのは危険。空中へ運ぶ」
かなりダメージが蓄積したのか。千鳥足で立ち上がり、再びコンボで有利を掴もうとした矢先──
突然奴の胴体に穴が空き、紫色の血が吹き出る。それは過去の時間に跳び、先送りにした致命傷。
それを指摘するミミツと、アレで決めると詠土弥に語る静久。アレは……白刃の一振りより被害がヤバい。
それもあり、話を聞いていたミミツが奴の影から巨大な手を伸ばし、鷲掴みにすると天高く投擲。
「ドッキング、完了。四肢関節魔力増幅機、起動。ブラスター、展開完了」
「影の魔女たる力、見せてあげますわ!シャドウ・ハロウィン!」
「原子レベルで消し飛ばす……ブラスター・ビッグバン!!」
外した背中のsin・第三装甲は詠土弥を受け入れ、彼女の意思に従い静久の背中へ再度合体。
両肩の装甲が上に開き、両手の甲にある開閉口を解放。四肢関節部左右にある増幅機が青白く光る。
それと同時に辺り一面が真夜中同然に暗くなり、タキオンへリング状の光が集束する中。
様々な形の黒い悪霊が擦れ違い様に奴へ攻撃を仕掛け、トドメが重なり大爆発と衝撃波が周囲を揺るがす。
「チッ……同時だったか」
「違いますわ!わたくしの方が一瞬、トドメは速かったんですよの!?」
どちらが先に仕留めるか、競争でもしていたのか?勝敗が決まらなかったと舌打ちをする静久に対し。
自身の方が一瞬だけ速かったと、子供のように駄々をこねるミミツ。詠土弥は疲れたのか、話さない。
何はともあれ。ゼロミッションを実行する刺客の一人、ナイトメアゼノ・タキオンは倒せた。
「い、今の爆発って、まさか……」
「宇宙創造の爆発──ビッグバン。それを惑星上で使える用、小型・弱体化させた一撃ね」
「あれが……貴紀さんと静久、詠土弥の三人が力を合わせた一撃」
(個人的には、ミミツのシャドウ・ハロウィンも相当危険な技なんだけどね)
強烈な衝撃波を受け、二人が居る箇所を除いて橋は倒壊。流石マジック、一目見ただけで見抜くとは。
リバイバーは三人分の力を合わせた一撃と言っているが、正確にはルシファーも含めた四人分。
そして何となく……マジックが何を考えているのか、読めた。シャドウ・ハロウィン……
今のねじ曲げられたハロウィンでは無く、本当のハロウィンを影で再現する辺り、確かに危険な技だ。
「我らが主……母上様──我ら、先に逝きまする故……」
運良く……いや、悪くか?消し飛ばし損なった頭部が落下しながら自身を産み出した母。
無月闇納へと言葉を述べ、光に包まれて完全消滅。……母や父の為、親孝行をするとしても。
己や誰かの命を賭けたり、両親を悲しませる事をするんじゃないよ。
そう心の中で──ナイトメアゼノ・タキオンの遺言に対し届かず、返って来る筈もない言葉を送った。




