契約 -nightmare killer-
『前回のあらすじ』
暗闇の中へ引き込まれたエックスを救ったのは、ヴァイスの記憶世界に現れた白いお面の子供。
自らを夢現と名乗り、記憶世界を辿るのが寄り道かと訊ね、何かを理解させようとする。
リバイバーも現れ、残る記憶世界が三つだと知る切っ掛けを与え、Me and youの意味を話す。
次の記憶世界に同行すると言うリバイバーを連れ、エックスは真っ白い部屋から出るのであった。
改めて、真っ白な部屋にある木造扉を通り次の記憶世界へと向かう自分達の目に飛び込んで来たのは……
横向きの渦潮トンネル……っぽい空間。此処を直進すれば、奥でビー玉サイズに見える雪山へ辿り着くのか?
奥へ渦巻きながら吸い込まれる沢山の球体。一つ一つがこの星の記憶らしく、様々な映像が映っている。
「これが夢現さんから聞いた、星の記憶へ続く道……貴紀さん、どうかしたのか?」
「──ッ!?駄目だ。今から来るコイツは、確実に自分達を全滅させに来る!」
物珍しさの余り、辺りを何度も見渡し先々行くリバイバー。二メートル程離れたが、走れば十分追い付く。
未知の出来事に対する好奇心を打ち砕くかの如く、直感が無数の近未来を見せる。
そう……数秒後に二匹の怪物が現れ、自分達は為す術も無く急所を貫かれて死ぬ。
この直感を利用して反撃し倒す未来も見えているのだが……ソイツは一秒後に再び現れ、此方を殺す。
『緊急事態発生。システム・赤い靴を強制的に起動』
「──!!」
数秒後の、どうしようもない未来。それに反旗を翻す様に、バックルが突然腰に現れシステムを起動。
右足が勝手に動き出し、後方へ鋭い蹴りを繰り出す。一秒、黒い鳥人が転移で現れ右腕で防ぐ。
二秒。破壊のエネルギーが相手の右腕へ走ると同時に、自分の右足に十字手裏剣が二枚刺さる。
三秒。手裏剣が足からエネルギーを吸い、爆発。鳥人も左手刀で右腕を根元から切断し此方の胸を掴む。
「貴紀さ──」
「しまっ──」
四秒。恐竜顔の怪物がリバイバーの正面に出現直後、三人へ分身し正面、後方左右へ陣取り。
右手をナイフに変化させ、その行為がさも当然の如く、頭・喉・左胸を一斉に刺す。
五秒。此方の胸から命に関わる虹の球体を取り出し、握り潰そうと指に力を込める。
六秒。殺られた……そう核心した刹那、胸元で黒い光が輝けば、燕顔鳥人は風に吹かれ全身八つ裂きに。
「開幕早々チェックメイトとか、ルールブレイカーですか!!ハスター君、早く二人を次の記憶世界に!」
「分かっている。俺と戦う前に消滅されては、困るからな」
「倒しても経験値が少ない……完全攻略出来ていない証拠……しょぼん」
間一髪現れ黄衣の王姿のハスターが八つ裂きにし、這い寄る混沌の真夜と生ける炎・紅瑠美が黒と青の炎で焼却。
急ぎ殺られたリバイバーを見れば、不気味な笑みを浮かべ神父姿のベーゼレブル・ツヴァイに変貌。
正面に居る怪物の頭を両手で叩き、蚊を潰す様に粉砕。残る奴らも融合四天王・マジックが空間ごと捻り消滅。
「夢を握り潰そうなんて、毒親やゴミ屑な連中と同じ事をするとはね」
「無月闇納、遂に本気を出して来たな。ペット風情でこのレベル──人類に知恵を与えた結果か」
「た……助かった。ありがとう、ございます」
胸元で輝く黒い光が収まり、子供の頃埋め込まれたトラペゾヘドロンに救われたと理解。
いつの間にかマジックは燕野郎から虹の球体を奪い、此方の胸元へ人差し指で押し戻してくれた。
無月闇納のペット発言も驚きだが……人類に知恵を与えた結果とは、どう言う意味だろう?
中指と親指を擦り合わせ音を鳴らすと、リバイバーの姿が現れた。透明化で保護してい……?
「──ッ……」
頼れる仲間が来て……一瞬、気──抜いちゃった。限界を越えた反動で目から血涙が溢れて、吐血まで……
それにみんなが反応した結果──自分達にとって悪い未来を引き寄せてしまった。
一番早く気付いたハスターが風を操り、何かを切り裂くのだが……それは忍者アニメで見る短めの丸太。
俗に言う変わり身の術。他の面々も何かに気付き、拳なり炎なりで攻めるも奴らには当たらない。
「瞬間的な時間移動……石仮面を被ったボスが使う、背後霊的な能力の領域……」
「馬鹿ね。時間なんて概念、私達には関係ないのよ」
それもその筈。覚える能力が自動発動し、教えてくれた……あのペット二匹は命中する直前。
燕野郎改め、ナイトメアゼノ・タキオンの能力で時間移動を行い、別の場所へ移動を繰り返している。
恐竜野郎こと、ナイトメアゼノ・ゾーク。恐竜と翼竜の能力・容姿を人間サイズで持つ上。
忍者の真似事までやる異形。されど、マジックの時間停止には対処出来ず、硬直状態。
「貴紀さん、今の内に!」
「あ、あぁ……助かる。眼が……見えない、から……さ」
『赤い靴システム、機能停止』
あぁ……もう、何も見えない。何も──感じない。僅かに聞こえる声を頼りに返事を返し、歩を進める。
多分、虹の球体に力を込めて握られたのが原因。人間で言えば、爪が伸びた手で心臓を鷲掴むも同然。
あぁ……何処へ──行くのだろう?人は死後、天国や地獄へ行くと聞くが、既に死人・夢人の俺達は?
次第に足から全身が消失して行き、意識さえ手放す。覚えているのは其処まで……それが限界だった。
「やあ。こうして会うのは、久し振りだね」
「…………あぁ。久し振りだ」
死んだ、消滅した筈だった。なのに、星が煌めく夜空──違う。宇宙の何処かにある玉座の前に居る。
話し掛ける声に気付き、少し顔を上げてフード付きの黒いロングコートを着た少年に返事を返す。
夢現が自分に理解すなと言った、あの少年に。ただ、不思議と心が落ち着くのは何故だろう?
「結婚。とても幸せなイメージがあるけど、女は男に変化を求め、男は女に不変を求める。実に面白いよね」
「……自分に都合の良い事を相手に押し付け、受け入れさせる為に、女は男に変化を求める」
「そう。人間──君で言う人は、言葉・事象・出来事の全てを自身に都合が良い様に受け取り易い」
退屈を紛らわす様に此方へ話し掛け、何と答えるのが正解か?と少し考えてから答えると。
返答に肯定し、補足を付け足す。このやり取りに、一体何の意味があるのだろうか?
持てる知識を振り絞っても分からない。故に考え方を変えてみる。彼に何のメリットがあるのかを。
意味は無い、ただ話がしたいだけ。意味はある、されど此方に理解させる気は毛頭無い。後は……
「僕にもね?沢山の家族が居るんだ。みんな、自分勝手好き勝手にやってるよ」
「家族が多いって言うのも……大変だな。第三者からすれば、賑やかって言われたりするけど」
「そうだね。けど、君もそうだろう?一人が嫌で、家族を沢山生み出した」
「…………かもな。一人ではいずれ、確実に限界が来る。頼れる仲間が多ければ、互いに支え合えるから」
続く他愛の無い話。共感こそすれど基本的に人は、他人の家庭環境や話などに興味はない。
自分が守りたい人間は大変だと知りつつも、親身になって他人の話を聞いてくれるだろう。
紅き光が自分と言う意識・存在かは不明だが……闇の欠片の監視として仲間を生み出したのは間違いない。
ただ……一緒に旅をしてくれるかは、不確定要素だった。運が良かった、としか言いようがない程に。
「君を襲ったあの二匹。君達が戦った三つの勢力の技術を集めて作られたみたいだね」
「自分は……一体、何者なんだろう?」
時間を跳ぶ強敵、タキオンとゾーク。そんな奴らを作ってまで、無月闇納は何を狙う?
色々と考える内、自分と言う存在が何なのか……分からなくなって、思わず訊ねてしまった。
彼が教えてくれるとは限らない、返答が真実かも怪しい。「いや、答えなくていい」と言った時──
「君は生前、終焉の闇に飲まれ命を落とした。正確には、命・記憶・魂の全てを統合された」
「…………」
「その際、君は偶然にも運命に導かれて魔皇と接触し、とある契約を交わしてオメガゼロとして再誕した」
あの劇場で観て、思い出した内容を話したのも驚きではあったが……心が落ち込んでいて、反応しない。
此方が沈黙を続ける中、少年は構わず言葉を続ける。その内容は……思い出せていないもの。
魔皇と対面して、契約を交わした?それが、オメガゼロへ生まれ変わった理由?
「君は──悪夢を狩る者。故に君だけが、悪夢にトドメを刺せる」
「ナイトメアキラー……自分が、魔皇と交わした契約の結果。でも、悪夢は──」
「そう。夢を見続ける限り、悪夢は終わらないけれど……君が交わした契約は、永遠じゃない」
「…………超ド級の悪夢、無月闇納を倒せ。か……」
魔皇と契約を交わし、手に入れた力──ナイトメアキラー。されど、悪夢は夢見る限り続くもの。
永遠に戦い続ける契約を、自分は交わしたのだろうか?そう思い込む疑問を、彼は否定。
口元に握り拳の指を当てて少し考え、口に出した結論を彼は頷いて肯定した。
成る程。確かにそれは、自分と魔皇の共通する利点。ただ理解する程、一つの謎が深まる。
「魔皇はよく、自分と対話出来たな」
「ふふっ。言った筈だよ?君は偶然にも運命に導かれ、魔皇と契約を交わした……と」
そう。悪夢の処理を求めた魔皇は何故、自分と会話が出来たのか?その返答に少年は小さく笑う。
そして、偶然・運命・導かれた──を強く主張。はぁ……夢現が理解するな、と言った意味が分かった。
でも──これで良かった。無月闇納の最終目的、その結果がもたらす最悪の未来も見えたしな。
「決まった過去の結末は変えられない。でも、不確定な未来は変えられる」
「そうだな。最悪の未来なんて、変えて見せるよ。悪夢に魘されない様にな」
「無月闇納を倒せば、君が魔皇と交わした契約は終わり──君は、長い悪夢から漸く解放される」
「……少なくとも、悪夢ばかりではなかった。自分自身を見つめ直す、いい機会だったよ」
よく聞く言葉を、少年は言った。終わった過去にすがり付かず、前を向いて歩め──と。
一人では叶わない未来も、誰かと手を取り合い行動を続ければ、変わるかも知れない。
無月闇納を倒せば、この長い旅も終わる。悪夢と言うには些か……為になる勉強だったけどな。
「それじゃあ。行ってくるよ」
「うん。頑張れ、僕達のヒーロー」
右手で小さく手を振り、また行ってくると伝えると……少年も同じく右手を小さく振り、言葉を返す。
顔は深々と被ったフードで見えないけれど。その嬉しそうな応援、ヒーローと言う単語を背に受け。
自分は──玉座の間から自ら離れ、宇宙に白く輝く一筋の階段を駆け出す様に降りて行く。
今の自分はオメガゼロ・エックス。終焉の未来を打ち砕き、未知なる可能性を示す者だ!
「頑張れ。僕に勇気と優しさを示し、自ら契約を持ち掛けた、未知なる存在」




