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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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光 -Lucifer-

 『前回のあらすじ』

 記憶世界の違和感を感じ取り、何か変化が起きているのでは?と動くエックスを引っ張り戻すルシファー。

 漸く悪魔と剣士の再戦が始まり、常人の目には止まらぬ速度でぶつかり合う二人。

 シナナメは虚無の紋章を発動させ、互いに持ち技を繰り出しては、無傷のまま捌き合う。

 二手三手先を読み致命傷を与えるも、なんとシナナメは超回復型の不老不死。与えた傷も修復されてしまう難敵。



 体力切れに見えるルシファーを見て、ふと疑問が浮かぶ。幾ら高い集中力を維持し続けているとしても。

 簡単に息を切らし、肩で息をするだろうか?そんな見え透いた行動をするとは思えない。

 ただ見守るしかない。そう理解していても、一緒に戦えない自分が歯痒くて、悔しくて……

 今直ぐ駆け出して、隣に立って戦いたい。そんな想いを抑えるべく作った握り拳から、血が滴り落ちる。


「はぁ……やはり──エースを使うしかないか」


「エース……切り札か」


 溜め息を吐き、乱した息を整えてシナナメと向き合ってこの言葉。エースって何だ?

 ハッタリ?にしては真剣な眼差しで、何をするのかと息を飲んで動き出すのを待つばかり。

 両腕に装備した盾を光に分解すれば、白刃を納めた黒刃が自らルシファーの前へ飛来し。

 端を下に向けたまま浮遊。白刃の柄を掴めば円錐形の槍は鞘へ再構築され、双方の色が入れ替わった。


「王や俺にとっても、この刀は大切な絆。強力過ぎるのもあって、余り使いたくはないんだが……」


「確かに。アレは何気ない一振りすら、断末魔さえ許さぬ破壊力を秘めている」


「流石は直撃を浴びた本人。言葉の重みが違うな」


 喋りながら白い鞘から黒い刀を抜けば、根元から先端まで動脈の様に赤い線が伸びている。

 ルシファーの発言に肯定し、直撃を受けた感想を述べるベーゼレブル。使った本人としても……

 あの姉妹刀は易々と使って良い物じゃない。それに、自分とルシファー以外が使える物でもない。


「この姉妹がシナナメ、お前を救いたいと俺に訴える。故に──幾ばくか、本気を出す」


「望むところ。先の程度では、満足するには物足りぬ──!!」


 右手に刀と成った黒刃、左手には鞘へ再構築された白刃。彼女達が救いたいと求め訴えた事もあり。

 普段は全く見せない本気を、幾らか出すと言う。その発言から更に刺激的な戦いが出来るかも知れない。

 無表情のままシナナメが言い返す中、ルシファーは息を吐きつつ自身の体から魔力を放出。すると……

 場の空気が一瞬にして冷たく、全身に重圧として一気にのし掛かり、踏ん張らないと立てない程。


「ほう。全力ではなく、我々へ向けられていないにしろ、悪くない魔力量だ」


「な、なんで……平然としていられるんだよ」


「本気時の貴公から受ける重圧に比べれば、この程度はそよ風も同然」


 常人なら地べたを這いつくばる程の重圧の中、涼しげな表情で感想を語るベーゼレブルへ訊ねると。

 自分が完全に本気を出した時と比較すれば、此方へ視線を向けぬまま、そよ風程度と言いやがった。

 そんな話をしている間に、動きがあった。最初に動いたのはルシファー……なんだが、ゆっくりと歩く。


「高速の動きが出来る相手に歩きって……あれ?」


「気付いた?相手が動けない事に」


 普通なら先制攻撃を許してしまう移動速度。されどその様子は見られず、シナナメは全く動かない。

 警戒しているのか?両手で握り締めた冥刀を真っ直ぐ構え、白兎の言葉から理由を考えてみる。

 薄暗い夜の林で気温は少し肌寒く、相手の重圧で通常時より動き難く、此方と同じか上回る速度で動く。

 成る程。そう考えれば下手に動くより、眼前の敵に集中し身構える方が無難かも知れない。


「かなり久し振りだからな。加減を間違えたらスマン……と言っておこう」


「手加減など不要」


「そちらは不要でも、この星──ワールドの生命を絶滅させる訳にはいかなくてな」


 双方の距離が約二メートルの辺りで歩みを止め、再度戦いを始める前に一言謝罪。

 それを自身への言葉と受け取り、返答するも……半分正解で半分ハズレ。続けて話す理由と規模に驚愕。

 真剣そのものな眼差しや表情、堂々とした発言と態度が嘘偽り無い事実だと訴え掛ける。


「斬れ」


「──!!」


「穿て、射て、刺せ」


「これは……!」


 雰囲気・態度・発言から来る緊張感。最悪、一撃ノックダウンもあり得るかも知れない。

 そんな空気の中、発せられる一言。直後、何かが音や予備動作も無くシナナメの全身に切り傷を与え。

 全く反応出来ない事実に驚けば、続けて放たれる言葉に応え、暗闇から次々と黒い槍が襲い来る。

 一本槍だけかと思えば矢の様に細く軽い物、トラップで見る竹槍を束ねた物等種類は様々。


「何故、種族別固有スキルがあると思う?それは概念や固有能力を生かし、操る為だ」


「ならば、この冥刀で概念を斬れば良い──?!」


「阿呆。紋章の力は心の力。お前が強く動揺した事で、冷静さ・虚しさを生む虚無の力が解けていると気付け」


 四方八方から時差・同時等で迫り続ける闇と言う概念。相手の声に気付き、視線を向けるも……

 姿は闇に溶けて見えず、概念を斬れる冥刀で横に凪ぎ払う瞬間──首と指摘する声で気付く。

 目の前には自身の首を挟む、黒いブーツの爪先。視認し理解した直後、視界は後ろへと半回転。

 放り投げられ、林の木に冥刀ごと激突し地面に落ちた。これがルシファーの使う……足を使った投げ技。


「例え幾ら戦闘技術を磨こうと、毎度同じ事しかしないなら、機械と何一つ変わらない」


「アドリブの多さ、対応力こそ実戦に求められる。奴は斬擊と打撃を繰り返し、投げはしないと印象付けた」


 隣の二人に言われて気付く。基礎は良くも悪くも反復練習を繰り返し、習得するもの。

 ルシファーはそれを応用し、攻撃の手を絞って見せる事で攻撃手段の印象を植え付けた後。

 全く異なる動き・戦法を行い、慣れをリセット。今までの戦法は、投げ技を決める為の囮だったのか……


「剣士が脚技の投げ……とはな!」


「いつ俺が剣士だと言った。俺は王と同じく、オールマイティー。故に、あれこれと技術を混ぜる」


 ゆっくりと起き上がると冥刀を構え、話し掛けながら飛び込み横一閃を繰り出す。

 切り裂いた風に見えたが、それは闇が作り出した幻影。更に闇自ら概念斬りの軌跡を避けた結果、素通り。

 自分もルシファーを見失った矢先。シナナメが突然バランスを崩し、膝から崩れ落ちのを踏ん張る瞬間……

 右足で背中を蹴り飛ばして地面に伏せさせ、立ち上がりと振り返り様に斬り掛かるもそれすら幻影。


「俺は悪魔の王。使えるモノは何でも使う主義でな。我らが王に敵対する存在には、容赦などせん」


「しかし、アレが姉妹刀の求める結果に繋がるんでしょうか?」


「自身に都合が良い事実だけを見て誤認する。それ即ち、自ら弱者と告白しているも同然だ」


 あそこまで強いルシファーは……初めて見る。シナナメが手玉に取られ、幾ら切り込んでも。

 動きを見切って屈み、足払い。相手を飛び越え、例え冥刀の刀身で防がれても蹴りを叩き込む。

 言葉・動き・戦法。使えるモノ全てを使って惑わし、焦りを生ませ、自身の術中で絡め取る。

 救う者には思えない行動だと白兎は言うが、ベーゼレブルは肯定や否定もせず、助言だけを呟く。


「真の強者とは自らの不都合を受け入れ、可能な限り対策を打つ者。私が唯一認めた男の戦法だ」


「…………次戦う時は文字通り、全身全霊で行かせて貰う」


「是非ともそうしてくれたまえ。死に物狂いの君程手強く、戦っていて楽しい相手はいないのでね」


 本当に強い者は、自分自身に都合の良い事実ではなく、不都合を予測した上で受け入れ。

 今の自身が出来る対策を打つ者だと、こちらを見て続く言葉を発した。それはつまり──

 それ程高い評価をしてくれている証拠。それもあり、次の戦いに向けて約束を交わす。


「ふぅ……落ち着いた。これでまた、虚無の紋章の力が使える。それに、月明かりも出てきた」


「月──明かり?」


 呼吸を整え、自身の状況・状態を理解し、冷静さと心の落ち着きを取り戻したシナナメ。

 虚無の紋章は心が落ち着いている状態でなければ、力の恩恵が得られない。

 突然周囲が僅かな明かりに照らされ、闇の恩恵を最大限得られなくなったルシファー。

 勇気の紋章が反応し、緋色に輝く。慌てて夜空に光る存在を見上げれば、疑問が浮かぶ。


「星よ、走れ──Stellar(ステラ)!」


「ステラ……星か」


 その疑問は直ぐ、(真実)に照らされる。夜空に浮かぶ光はシナナメへと流星の如く降り注ぎ。

 冥刀の概念斬りで、星と呼ばれた光を縦に切り裂いた。刹那、視界に飛び込んでくる相手。

 驚くべき反応速度で冥刀の刃を返し、振り上げて迎撃。したのだが……ルシファーは既に後方へ着地済み。

 斬られたと思うも、当人達に切り傷は無い。寧ろ、白刃・黒刃──鞘と刀身が真ん中から折れている。


「勝負、あったな」


「……あぁ。ドローでな」


「何──ッ!?」


 相手の武器が折れ、自身の冥刀は無事。勝負は決まったと理解し、振り返って言葉を掛けるも。

 少し間を空けて引き分けだと言われ、言っている意味が分からず聞き返そうとした時。

 突然シナナメは左手で頭を抱え始め、膝と頭を地面に着け悶え苦しむ。


「これは……どうなってるんだ?」


「俺が持つ光の紋章。コイツは闇を照らし、嘘すら暴く。当然──虚無に置いた記憶すらも」


「興味深い。即ち、シナナメは最も思い出したくない・見たくない記憶を見ている。と言う訳か」


「正確にはフラッシュバックや走馬灯を垣間見る、と言う表現が正しい」


 ルシファーの足元で折れた刀身と鞘を拾いつつ、第三者では判断出来ない部分を訊ねると。

 彼の持つ光の紋章が及ぼす効果の一つで、過去から現在までの軌跡を垣間見ているらしい。

 光……人類史的には正義と言う立場に立ち易い概念。だけど、使い方次第では滅びの微笑にも成り得るか。

 話している内にシナナメは過去の記憶から逃げ出す様に、この場から暗闇の中へと走り去って行った。


「王よ、すまない。大切にしていた刀を」


「……仕方ないよ。彼女達が望んだ事だし、また打ち直せば済む話だからさ」


 それを見届けた後、此方に向き直り深々と頭を下げるルシファーから謝罪の言葉と態度を受けるも。

 白刃と黒刃が、シナナメを助けたいと求めた結果。文句を言うのはお門違いってもんだ。

 もっと言えば、彼女達からは折れてもなお戦おうとする意思を感じる。打ち直せば済む云々はそれが理由。


「次で奴と決着をつける。その為の仕込みも漸く、先程終えたところだしな」


 Lucifer(ルシファー)──明けの明星を指すラテン語にして、光を掲げる者の意味を持つ悪魔であり堕天使。

 彼の紋章が光なのは、多分そう言う意味もあるのだろう。その上、悪魔として闇を操れるとはね。

 にしても、一番不可解なのはこの折れた刀と鞘だ。冥刀に斬られた、と言うよりは……

 勝負を引き分けに持ち込んだ技。Stellarの威力に耐え切れなかった、と見るべきか?




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