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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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不老不死 -loneliness-

 『前回のあらすじ』

 記憶世界のシナナメは殿との間に子供を産み、姫に悪い影響を与えながら十二年の時が過ぎた。

 二人の欲望と我が儘に振り回されて戦場へ赴き、望むモノを奪う日々。次のターゲットになったのは妖刀。

 山城に封印された妖刀は概念を斬る力を持ち、それで不老不死になろうとする殿と姫。

 侍女の向日葵と伝達係の忍、当時のシナナメとが話し合い、今で言う秋田から京都へと向かうのであった。



 カモフラージュ込みや戦国時代とは言え、乗り物は木製樽に長い木の棒が付いた物。

 男二人が樽の前後で棒を担ぎ、移動する。相当頑張ってくれたのもあり、一週間ちょっとで京都へ到着。

 樽の側面が押戸の如く開き、中から顔が見えぬ程橙色の布を被った人物が出て来る。


「……お前さん、このままあの二人に付き合う気かい?」


「……?」


 樽を担いでいた、頭に鉢巻きを巻いた男性がシナナメを少し見つめ、意味深な内容を訊ねるも。

 言葉に込められた意味を理解出来ず、不思議そうに首を傾げる。

 その様子を見て、肩を落とす鉢巻き男。慰める様に相方のスキンヘッドが肩に手を置き、代わりに話す。


「あっし等はこの仕事を終えたら高跳びするんでっさぁ。あの殿様と姫様が治める国はもう、限界なんでね」


「城や城下町の連中も愚痴っててな。多分、下剋上なり反乱は確実に起きるだろうよ」


「貴女はどちらを選びます?最悪の未来と可能性の未来。どちらにせよ、血で血を洗う戦ですが」


 運搬してくれた二人の言葉を無言かつ真顔で聞くシナナメ。内心どう思ってるかなんて分からない。

 それでも、我が子たる姫の心配位はしてるんじゃないだろうか?例えば仮に──

 下剋上や反乱が成功・失敗しても、国としては終わっているし、どちらの道も血塗られた結果。


「まあ、都合の良い操り人形たるアンタには関係の無い話だったな。悪い、忘れてくれ」


「…………」


 暫く様子を見ていたが……考えている素振りは見えど、二者択一の答えは一向に出て来ない。

 改めてシナナメが自分で考える・思考する事を如何に放棄していたか?を知った。

 都合の良い操り人形。その言葉が的確に的を射ても、心無い人形の様に表情一つ変えない。


「貴方は……全部、自分で考えて来たの?どう生きるのか、何をするのかさえも」


「……差し迫られた選択の中から考えて、生きてきた。今はそう──思いたい」


「そうだね。確かに貴方は二者択一を早急に求められ、悩む暇なんて五秒となかった」


 突然記憶世界に白いお面を被る子供が、再び目の前に現れた。前に姿を現したのは確か……

 ヴァイスこと、イリスの記憶世界。そんな子供から問われて俯き、少し間が空いてから答える。

 助ける・見捨てる、戦う・逃げる。いずれかの二者択一を即座に求められ続けたのもあり。

 本当に自分自身で考えたのか?と聞かれても自信は無く断言も出来ず、フォローが逆に辛い。


「これが山城の地図だ。俺達は山城の外で待ってるから、済ませたら印の場所に来い」


「分かった。探索を済ませてから、城に攻め込む」


 運び屋から手渡される地図を受け取ると、自身らは巻き込まれない為、近隣へ避難すると言われ。

 それを承諾。探索……即ち攻め込むにしろ退避するにしろ、地図と見比べて相違が無いか。

 抜け道はないか?等々、少しでもリスクを減らす。例え一騎当千の実力者でも、これは必要不可欠。

 地形・天気・気温・湿度。その全てが悪い方向へ向けば、どんな強者でも負ける可能性が浮き上がる。


「でも、貴方と彼女の違いは明白。勇気を持って自ら考えて進むか、言われたままに何も考えず進むか」


「確かにな。我らが王は時に悩み苦しみ、泣きながら進む。しかし、シナナメは……」


「そう、今の彼女はただの人形。魔神王軍に入った後は、任務に従い強者を求める不老不死者」


 探索しに行ったシナナメを見送った後、白いお面の子供は言った。自分と彼女は違う……と。

 心に勇気があるか否か、勇気と無謀の違い。知恵と力と勇気を持つか、知恵と力だけを振るうか。

 不老不死になったが故に、強者と戦うしか生き甲斐が無くなった。もしそうなら、悲しい話だ。


「戦姫だ!!戦姫が現れたぞぉ!」


「防衛線に人員を向かわせろ!絶対に突破させるな!」


「あの妖刀だけは死守せよ!でなければ世界中に危機が及ぶ!」


 白いお面の子供が突然消えたと思いきや。周囲が騒がしく、人の行き来が激しくなり。

 戦姫の襲来、指示を叫ぶ声に混じり、逃げ惑う民間人達の悲鳴や赤子の鳴き声すらも響く。

 防衛線と呼ばれる方角に城があり、其処へ向かう兵士達。自分達も向かうべく、屋根の上を跳び進む。


「…………どれ程持ちそうだ?」


「さあね。みんなから貰った呪縛も残り少ないから直接的な戦闘は多分、後五回出来るかどうか」


「そうなると、俺達がメインで戦うのが良さそうだな」


「終焉やマジック、無月闇納にドゥーム。その四名に全力を注ぎたいから──後は頼むよ、ダチ公」


 そんな中、此方を見て訊ねるルシファー。視線の先は……透け始めている自分の右腕。

 仲間達から受け取った呪縛は多く存在維持に必要な反面、戦う際には力の解放を邪魔する拘束具。

 強敵と戦う程呪縛の鎖は砕け、不老不死のオメガゼロへと近付く。故に必要外な戦闘は仲間達が。

 必要な戦闘は自分が戦う。残り一回は──自分の計画達成に必要不可欠。だからダチ公に後は任せる。


「此処に殿が求める妖刀、冥刀・久泉があると聞いた」


「戦姫……貴殿が久泉に引き寄せられたにせよ、アレは誰の手に納まってはならぬ。特に欲深き者には!」


 辿り着いた場所は城の最上階──ではなく、城の領土内にある小さなお寺のお社。

 月夜に照らされた城からは黒煙が立ち、内部で火も回っている様子。

 寺の周囲には物言わぬ屍となった兵士達が倒れ伏し、最後の砦と思われるお坊さんが立ち塞がり。

 シナナメに刀の切っ先を向けられつつも、絶対に渡さないと言葉で対抗する。しかし……


「冥刀・久泉。確かに頂いた」


 邪魔だと行動で示すに首を跳ねられ、倒れ屍と化したお坊さんを跨ぎ、社を開き妖刀を右手で掴み取る。

 命令を達成し社から少し離れると振り返り、血の池に倒れる返事もない死体に向け言葉を放つ。


「……この刀、私に語り掛けてくる。自身が如何なる力を持つのかを」


 運び屋が待つエリアまで戻る途中、本人曰く刀がどんな存在かを語り掛けて来たそうだが、それは……

 主と認められた証なのかも知れない。現代で言う秋田へ帰還後、運び屋は前に話した通り高跳び。

 シナナメは城へ戻り、殿に冥刀を持って行くが──欲深き殿と我が儘な姫の間で問題は起きた。


「不老不死になるのは私だ!!他に不老不死者など要らぬ!」


「不老不死になるのは姫だし!父上はもう時代遅れも甚だしいし!」


「アホらしい。醜い欲望のぶつかり合いか」


 不老不死に成るのはどちらか?と言う問題。両方ともなれば良いじゃない。と思うかも知れんが……

 深く醜い欲望ってのは、虐めっ子と同じく自己中心的だ。認められたい、餓えと渇きを満たしたい。

 されどそれを一時的に共有しても、最終的には独り占め。不老不死者が二人居てはそれも叶わぬ夢。

 故に二人は言い争い、城内でもどちらに付くか分かれる程。その二者択一は当然……


「──!!お前は私の側に来い!」


「母上は姫の方に来るし!」


「…………」


 二人に言い迫られるシナナメ。父に売られ、殿の為に生きる事を強いられ続ける人生か。

 それとも、非常に我が儘な我が子たる姫を選ぶのか?その瀬戸際に立たされ……

 言いなりの彼女には苦しい選択と言うのが、顔に出る程。苛立つ殿を姫が見た時、何かを思い付く。


「母上の住んでた村や道場、祖父を焼いたのは父上だし!父上が母上欲しさにやったと言ってたし!」


「貴様!!それは──」


 咄嗟に出た言葉。それは殿にとって極めて都合が悪く、闇の中に隠し続けるべき真実。

 それが明るみに出され、本来なら動揺や真偽に思考を割くだろう。だがそれすら無く……

 シナナメは殿の首を久泉で跳ね、とある概念を斬った。お望み通り『死』の概念の他に、生の概念を。

 死と生の概念を斬られたらどうなるか?不老不死に成ると思うだろうが、実は違う。


「哀れな。概念斬りのタイミングを微妙にずらされたか」


「今回のケースだと……肉体が死に魂が外へ出た状況だと、どうなるんだ?」


「未来永劫輪廻転生も出来ず、怨霊や異形達の餌として苦しみ続ける。この星が滅びた後も……な」


 ルシファーから聞いた話では思った以上に残酷で、自己中心的過ぎる殿には適した結末だった。

 死んでもいないから輪廻転生は当然出来ず、生きてもいない。魂だけの不老不死状態は特に……

 怨霊や自分達が戦う異形達にとって、絶好の御馳走。言わば、飽きはしても味の失くならないガム。


「……姫」


「無し無し!やはり不老不死などやめじゃやめじゃ!」


 本人的には、普通に視線を下に向けただけだろうが……姫からは睨み付けられていると思ったんだろう。

 父たる殿の死を目の当たりにし興が冷め、姫は一国の主に。シナナメは久泉の主かつ右腕になった。

 が──姫だけでは城を支える事など到底叶わず、内部崩壊が発生。下剋上が発生する始末。


「悪逆姫を討てぇぇ!!」


「──から妖刀を奪え!」


「は、母上……家臣達が」


 一国を支える力や知恵も足りず、家臣達からの信頼も崩壊し姫から離れる他。

 妖刀の魅力に取り憑かれ、奪おうとする者も現れる。そんな奴等を斬り伏せ、城門まで逃げると。

 其処には侍女の向日葵が立っており、思わず身構えるシナナメに両手をあげ降参を示す。


「これを使いな。代わりに、アンタのお古を貰って目印を付けるよ?」


「……そんな事をしたら」


「丁度今の人生に飽き飽きしてた頃さね。来世で会えた時は……アンタの良い男、紹介してくれよ?」


 向日葵は背負い式の樽に姫を隠し、短刀を渡す。続けて衣服を差し出す代わり。

 今着ている着物と普通の刀を奪い自ら着て、シナナメの右頬に目印と言い短刀で縦に傷を付け。

 その上で来世と言う概念に全てを託し、叶うかどうかも分からない約束を一方的に交わし送り出す。

 用意された物を背負い、城門から逃げ出した少し後。向日葵の悲鳴が轟き、林まで逃亡に成功。


「……この衣服、大切にする」


 その日の夜。貰った衣服を着ると……明るい紺色の胸当て、暗い紺色の動き易さ重点の短めなスカート。

 黒に近い紺のレザーブーツを履き、髪型はポニーテールで青白い着物を着た、見知った姿へ。

 成る程。あの衣装は、当時良くしてくれていた侍女から貰った目印にして、遺品だったとは。

 それはそうと、姫の姿が見えない。冥刀は持ち去られた様子はない為、トイレだろうか?


「…………!!」


「夜襲を仕掛ける賊か……!?」


 突如茂みが揺れ、小さいながらも音が鳴る。それでも動かないシナナメを確認し、ソイツは飛び込む。

 ただ、それは自身を囮にしたテクニックであり、相手が使う得物は短刀。

 此方は刀。リーチの差は歴然で刺される前に易々と切り捨てた。何故なら、賊にしては動きが遅い。

 その理由も、退いて行く雲から顔を出す月光に照らされ判明する。そう、賊と思った相手は……


「やっぱ……り。あき、らめ……きれ……」


「……このまま、私も死ぬべきだろうか?」


 薄暗い視界でも右脇腹から左肩までを斬り、姫は死ぬ前に不老不死を諦め切れなかった事を告白。

 真実を知り、全てを失い絶望するシナナメ。自らの命をも断ち、死ぬべきかと思った矢先。

 視界に映ったのは──右手に握る姫の血が滴る冥刀・久泉。例え此処で死んでも……

 人は妖刀を求め奪い合い、悲劇が繰り返される事を案じ──自らの死や過去・記憶・疼く心を斬った。


「これで……私は不老不死。妖刀の主、シナナメ」


 そうか……こうして冥刀・久泉の主、シナナメと成った訳か。その場面を視るのも、辛いものがあるな。




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