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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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救済 -Aletta-

 『前回のあらすじ』

 場面が切り替わると人類衰退の歴史が始まり、理由の一つが曖昧な言葉と伝えずとも理解を求める部分や虐めと指摘。

 ストレスが人体へ与える影響へと移り、改めて身近過ぎる感情を第一、第二感情に細かくして宿題に出す。

 エリネと生徒会長、イチハツが職員室に鍵の返却へ来た時。此方に居るイチハツは偽者と言う話を耳にする。

 しかし当人は闇に落ちており、無月闇納の使者として二人に対し、闇の誘惑を仕掛けるのであった。



 無月闇納の使者・イチハツの瞳を直視してしまっていたエリネ、ヒペリカムの二人。

 課外授業担当の先生も居ると思ったが、他に誰もいない。受話器のスピーカーランプが点滅中で。

 通話していただけだと判明。そんな中、闇の誘惑を受けた二人の内一人が動く。


「我らが(あるじ)、無月闇納様。何なりとご指示を」


「ヒペリカム!?」


「先ずは一人。最高の騎士長と言えど、生徒一人の心すら導けないとはね」


 その場でイチハツに対し跪き、深々と頭を下げ指示を求めるヒペリカム。

 天使を象徴すると言ってもいい、背中から生えた純白の翼は根元から黒く染め上げられて行く中。

 驚き、名前を呼ぶマイゼル先生に対して皮肉を飛ばし、満足げなイチハツはもう一人へ視線を向ける。 


「なんでちゅか?今のは」


「何?この子……心に傷を抱えてるのに欲望が光属性で、誘惑や服従が効かない!?」


「あ、あはははは……流石はエリネ。私の予想を大きく上回りますね」


 が……全く効果がなく、けろっとした様子で此方も含め、逆に唖然としたりで驚かされ。

 良くも悪くも、双方の予想を大きく、それでいて斜め上に上回る結果を見せるエリネ。

 心に干渉する闇の誘惑すら受け付けぬとは、天然もここまで来ると感心すら覚える。

 それはマイゼル先生も同じらしく、飽きれの混じった笑い声と感想を洩らす。


「何はともあれ……逃げなさい、エリネ!彼女の狙いは貴女です!」


「で、でちゅが!ヒペリカム生徒会長が」


「彼女なら後で救えます!貴方までもが魔の手に落ちては、救済すら叶わないのですよ!?」


 されど直ぐ我に返り、真剣な表情で狙われているエリネを今すぐ逃がそうと叫ぶ。

 しかし豹変した生徒会長が気掛かりな余り、受けた指示を行動に移せず、涙目で先生と生徒会長を見。

 何か根拠があるのか、それとも行動させる為の方便か。エリネの側に駆け寄ると背にし。

 右手に持った竹刀をイチハツと生徒会長に向け、救済する為にも逃げろと促す。


「は……はいでしゅ!」


「ちょ、エリネぇぇ!?」


 いつもはニコニコと笑顔や微笑みを向けるマイゼル先生が、背後にいるエリネに振り向き。

 真剣な眼差し・表情で訴える姿を見て覚悟を決めた瞬間──直ぐ隣の窓ガラスを開け……

 飛び降りた。流石にこの行動はその場に居た全員予想外で、先生の呼び掛けるツッコミが響き。

 イチハツ達も度肝を抜かれた様で、唖然として追い掛けると言う選択・思考も浮かばない程。


「アグレッシブと言うか、何と言うか……行動力の化身だな」


「良くも悪くもね。だからなのかな?患者を助けようって、奇跡を直ぐに使おうとするのは」


 ……アグレッシブ、行動力の化身、良くも悪くも。ルシファーとルージュの言葉を聞き、立ち止まる。

 自分は……何故終焉の闇の頂点である無月闇納や、己の望み・願望を賭けて行動する者達と戦うのか?

 ふとそう思い、俯き、心の中で歩いて来た道を振り返りながら自問自答を繰り返し考える。

 何故?どうして?そう思う程思考は絡まり、以前出した答えすら間違っている様な気がしていた。


「そろそろじゃないかしら?」


「……何がです?」


「この学園の崩壊、そして全生徒達の確保。何故私が使者を使って、貴方を此処に足止めしたと思う?」


「──ッ!!」


 突然イチハツの口角がニヤリとつり上がり、口に出した言葉は……マイゼル先生の気を引き。

 疑問を投げ掛ける言葉に、余裕綽々と言わん態度でゆっくりと、丁寧に伝えた上で。

 自身は足止めされていると気付かせた瞬間。突如学園の校舎が大きく揺れ動き。

 双方の合間を太く、巨大な木の根が絡み合いながら床や天井を貫いて高く成長して行く。


「これは……!!」


「この実が負の感情を栄養分として吸い取り、成長し切った大樹。その名も──ヴェレーノ」


 独り言の呟きが聞こえてか、それとも双方の発言が偶然タイミング良く合い、会話になったのか。

 それは定かではないが……とんでもない台詞が聞こえた。今目の前で成長してる大樹は……ヴェレーノ。

 トリスティス大陸で問題を引き起こした、麻薬の樹。とは言え、サイズがあの時の非じゃない!


「この学園の生徒達はほぼ全て、負の感情を持っていたわ。貴方に対する嫉妬や妬み、苛立ちを強くね」


「……知っていますよ、その位は。理解されない者の苦しみは、痛い程体験していますので」


「っ!?」


 衝撃の発言──ではない。どんな命にも、負の感情はある。それが内部的か、外部的な問題かはあるが。

 そんな事は周知の事実だと言い返し、悲しみと苦しみが入り交じった表情で胸元の服を掴む先生。

 その言葉に反応してか。左眼に針を刺された様な、熱く鋭い痛みが襲い……周囲の光景にノイズが走り。

 灰色の雲に遮られた茜色の光が、崩壊した学園に巻き込まれ、倒れ伏す先生・生徒達を照らす光景へ。


「まさか天界がこうなっているとは。どうりでフォー・シーズンズの時、天界に行けなかった訳だ」


「貴紀!?」


「脈拍・心拍数上昇、呼吸も酷く乱れてる……緊急用だけど、この鎮静剤で!」


 その場面を見た瞬間、思い出した。戦争やテロが残す結果と……様々な地獄絵図を。

 綺麗事を並べて正当性を主張する首謀者や国のトップ、それを支持すると騒ぐ国民達と。

 家や街、社会性すら崩壊した国・場所に残され社会に苦痛を訴えるべく、プラカードを掲げる者達。

 左眼は過去を映し吐き気すら覚えるも。ニーアが注射を左腕に打ってくれて、少し落ち着く。


「助かった……ありがとう、ニーア」


「……うん」


 感謝の言葉を伝え、名前を呼んだが……呼ばれた本人の表情は俯いていて何処か暗く、申し訳なさそう。

 自分とニーアの左手の甲で紋章が淡く光った時、不思議とその理由が伝わってきた。

 奇跡と言う超常の力を使えないが故。現代医学では救い切れない症状に、無力感を感じていると。


「…………探そう。エリネを」


 誰も口を開かず、目を合わせようともしない為、重い空気が場を漂い支配する。

 故に口を開き、行動しようと促す。瓦礫の上を歩き、物言わぬ肉と化した存在を見下ろす。

 これこそ──目を逸らしては通れない、人類の歴史。同時に、自分が通る道でもある。

 目の前から一歩ずつ、ゆっくりと近付く男子生徒は助けを求め、右手を伸ばすも……指先から溶解して消えた。


「ヴェレーノが与える毒素。それを内部に取り込むのではなく、外部から受けた影響だな」


「煙草や薬に混ぜ込めば、人類の大半が異形化する。そんな恐ろしい物を、無月闇納は……!」


「誰かが何かを救済するよりも早く、他の誰かが別の何かを傷付けて壊す。お父さんがよく言ってた……」


 ルシファー、ルージュ、ニーア。三人の呟きを聞いている内に、ヴェレーノの毒素に仮説が浮かぶ。

 あの実が与える毒素とは体内に取り込めば強い快楽と苦痛、つまり飴と鞭の関係性を与え、異形に。

 外部からだと遺伝子や構成する核を分解する程の強い苦痛を与えられ、溶解してしまうのではないか?

 確かに、創造より破壊の方が必要な時間は短い。特に、外部から力を加える際は無機物・有機物問わず。


「王よ、あそこに居たぞ。同時に、相当厄介な状態だがな」


「エリネ!」


「無駄だよ!!今のボク達は、彼女の記憶には触れられないんだから」


 考えながら歩いている内に、ルシファーがエリネを発見。だけどその状況はもう、袋の鼠。

 学園を支える大浮遊石の端も端。文字通りの崖っぷちにエリネは追い込まれ……

 正面はイチハツの姿に己の幻影を被せる無月闇納、その背後と逃げ場を断つ様に囲う闇落ちした生徒達。

 ルージュの呼び掛けも無視して駆け出し、生徒達を飛び越えてエリネを背に、無月闇納の前に立つ。


「例え触れられなくても、思いが伝えられなくても……見過ごしたら、絶対に後悔する。そんなのは嫌だ!」


「救えない命に心を痛め後悔をする位なら一層──最初から救わない方が精神的にもいいと思わない?」


 吐き出した言葉は、ルージュ達に向けたモノなのに、タイミングと会話が噛み合ったのか。

 返答とばかりに帰ってくる台詞はエリネに向けられたものだと、少し遅れて理解こそするものの。

 何故か……自分に言われていると錯覚。現実と言う棘になって、理想を抱く胸に深々と突き刺さる。


「確かに……そうかもちれまちぇん。きっと、それが正しい選択なんだと思いまちゅ」


「そう思うのなら、私達と!!闇納様の下へ一緒に来なさい、エリネ!」


「生徒会長……」


「無月闇納様の救済計画に乗れば、文字通り全ての世界を救える!!不治の病も無くなり平和になるのよ!?」


 突き付けられる現実。されどその言葉は相手ではなく、自身が傷付く事から身を守る風にも思う。

 俯きつつ肯定すれば、闇に落ちた生徒会長が闇納の背後から現れ、力強く誘い掛ける。

 共に世界を救済しようと。ただ……無月闇納様の~と言い切った時点でエリネは顔を上げ。

 心優しい彼女なりに鋭く、憧れる相手に反発の意思を込め、生徒会長を睨み──


「でちゅが!!無月闇納ちゃまの救済計画は、あたちが望む救済ではありまちぇん!」


「文句を言うんじゃないわよ、エリネ!!」


「全部一つになっちゃ、誰かを助ける救済も何も無いでちゅ!そんなの……救済でも何でもないでちゅ!!」


 叫んだ。闇納の救済計画は確かに、全世界を救済出来る計画かも知れない。いや、恐らく出来るだろう。

 それでも──自分やエリネ達が望み・求め・実行しようとする救済ではない。

 文句を言うんじゃないと言われても、自分の叶えたい夢を妥協しろ!と強制されて納得するか?

 答えは否。全てが一つになっては、助ける相手もいない。ただ一人となった世界で、誰を救済する?


「……そう、残念だわ」


「にゃ──!!」


「さようなら。Aletta(アレッタ)


 残念そうに一度俯き、再度上げるとエリネに左人差し指を向け、見えない何かを撃つ。

 自分の体をすり抜け、彼女の額に命中した直後。後ろに大きく仰け反り、生徒会長は顔を背ける。

 無月闇納は大浮遊石から転落し、雲の中へ落ちたのを確認後、背を向けボソッと何かを呟き歩き出す。




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