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ワールドロード  作者: オメガ
序章・our first step
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旅立ち

 薄暗い夜空を朝日が優しく照らし、朝の到来を知らせる。学生寮で目を覚ました三人は起床し、木造ベッドから起き上がる。

 昨晩の内に寮を出て行く可能性を考え、準備した大きな鞄と荷物を見る。もしかしたら今日で、この寮とお別れかも知れない。

 いつもより早く寮を出ては魔物が襲って来ない様、魔除けの奇跡が守る商店街を通り、結城中学校へと向かった三人。

 やはりと言うか、予想通り。校庭での話が終わった後、校長先生から三人揃って呼び出しを受け、一時限目の授業を諦めた。


「お邪魔します」


 木製の扉を軽く三回ノックする。軽い音が少し響いた後に「どうぞ」と言われ、扉を開けて校長室へ入る。

 当たり障りのない最低限の挨拶をすれば、白い髪や髭、厚そうなレンズの眼鏡をつけた校長と対面し、礼儀正しく一礼。

「わざわざ呼び出してすまないね。さ、座って」言われたまま、座ると吸い込まれる程に柔らかいソファーへ座り。

 言われるであろう。退学の二文字をただ待つ。建前とも思える長く、遠回しな話が続き三人の顔はうんざりしていた。


「これらを踏まえ、君達三人には残念ながら、退学して貰います」


「うっし。さっさと此処から出るぞ」


「そうだね。長居する必要……ある?」


 校長先生の眠たくなる様な長々とした話しも終わり、漸く退学の二文字を聞けば、話が終わったと席を立つ男子二人。

 自身らはこの学校で友人関係など全くなかったし、気の合う友人もいなかったので作らなかった。 

 たが、サクヤはこの学校でも人気者。友人関係も多かっただろう。自分達の都合、考えだけで長居の必要はない。

 そう決め付ける前に言い留まり、理解していたけれど退学の事実に落ち込み、まだ立っていないサクヤへ問い掛ける。


「ううん。別に構わないわ。ありがとう」


「ってな訳だ。俺らは自由にさせて貰うぜ」


 心配し気遣ってくれた事へ笑顔で感謝し、席を立つ。退学処分を受けた今、自分達はもう学校生活どころではない。

 今後の事や学生寮から荷物を持ち出す作業もある為、足早に校長室を立ち去る。誰も何も話さず、廊下を歩く三人。

 一度教室へ置いてある鞄や荷物を取る為、各々自分の組へと入って行く。


「やっぱり。退学処分を受けたんだろうな」


「校長先生の孫だってのに、思いっきりぶん殴ったもんな」


「しかもあの落ちこぼれジャンク野郎。無月(むつき)さんなら兎も角、新月(しんげつ)さんを自分の女宣言したんだってさ」


「マジか。やっぱ、落ちこぼれって言うか、自惚れって言うか」


 席が一番奥の隅っこ、窓側であり。近くを通るだけでも、否が応にもひそひそ話は聞こえる。無月終焉(むつきしゅうえん)――義兄ならば義姉、新月(しんげつ)サクヤを己の女と言ってもいい。

 誰も自身を紅貴紀(くれないたかのり)だとは見ない。『落ちこぼれジャンク野郎』と見る。

 昨日の出来事はもう、学校中に広まっているらしい。幸いなのは、昔の友人がこの学校にいない事と聞き慣れた悪口、自身を馬鹿にする耳障りな笑い声、哀れみよりも侮辱する視線しか目や耳に入って来ない事位か。


「早いね。何か言われた?」


「いや。お前の行動が噂になってた位だ」


 自惚れ、自己中心的。そんな視線を背に、クラスを出ると、自分より早く待っており。自身同様、何か言われたのではないか? 自分の心配より他人を心配する。

 元々親しい友人関係を持たなかった為、何も悪口等は言われなかった反面。あの落ちこぼれが~、金魚のふんが~等。噂だけが飛び交っている様子。


「お待たせ。ちょっと、質問攻めされてて」


「質問攻め?」


「大方。あの公開宣言とも取れる件だろ」


「あはは……うん。みんなから訊かれて」


 廊下で少し待つと三組からサクヤが出て来たのだが……何やら女性陣の黄色い声が廊下まで聞こえて来る。

 訊ねるよりも早く、自ら時間が掛かった簡単な理由、続けて意味を教えられ。言われた側は照れる一方。

 言った側は再度昨日の出来事を思い出し、恥ずかしさと後悔の余り、硬直してしまう。


「ククッ……相も変わらず分かり易い奴だな」


 硬直した義弟の腕を左右から二人で掴み、分かり易いリアクション、反応を見せる事へ笑いつつ。足を引きずらせながら、結城高校より出て行く。

 正門を出た所で見送りに来た三組の女子からは「結婚式を挙げる時には、招待してね」なんて声もあった。





 午前の間に戻って来た学生寮、各々は部屋で準備していた荷物、大きな鞄を見つめ気持ちを落ち着ける。

 貴紀は灰色狼と紅い鱗に包まれた小龍、白狐や白蛇。計4匹の家族を連れ、大きな荷物を背負い寮を出て行く。

 この寮に思い出は余りない。精々誰かの部屋に三兄弟が集まり、勉強会やご飯をご馳走になったりした程度。

 それでも振り返っては今まで過ごしてきた寮に向け、頭を下げて短い学校生活に別れを告げ、学生服のまま隣町へ向かい始める。


「隣町って、どんな所?」


「魔法使いが少ない今。機械製作に特化した機械仕掛けの町、機都(きと)・エントヴィッケルンよ」


「そうは言うが確かあの辺り、家賃や電車代も高いし、相当の距離がある筈だぞ?」


「えぇ。だから……」


 住んでいた町より出ては移り住む予定の隣町、機都・エントヴィッケルンへ向かう。本来別の都へ移動する際は、魔導列車へ乗るのだが。

 道案内の為に先頭を歩くサクヤは方角的に駅へは向かっていない。仮に乗るとしても、一般的な学生が気軽に乗れる金額ではない。

 片道一人だけで洋風の杯が描かれた硬貨、聖杯(グラール)金貨二枚分。

 足を止めた其処は――夕暮れが照らす広大な草原。様々な魔獣や屈強な魔族が徘徊し、何種類かの野生動物も見える。


「行くわよ。少しでも実戦を積みましょ」


「今後の事を考えれば、その方が良い……か」


 徒歩でエントヴィッケルンへ向かうべく、歩み出すと……膝程まで伸びた雑草と脚が擦れる音が響き。

 獣の魔物や棍棒を持った小鬼(ゴブリン)、鋭利な一本角を突き出して来る兎までもが、自身らの領域へ踏み込んだ愚か者達へ。

 身の程を知らしめてやろう。または孕み袋、餌にしか認識していないのか、一行を囲う。

 三人も無抵抗で殺られる気は微塵も無く、鞄から各々得物を取り出し、構え、生きる為互いに背を預け挑む。


「おい、あの魔猪(まちょ)。調理出来そうか?」


「あぁ。早速下処理をしよう。直ぐにやらないと、獣臭さが酷くて喰えないからな」


「ふふっ。もうご飯の相談?」


 紫毛の猪、魔猪(まちょ)の力強い猛突進。危険を感じ左右へ散ると、連れて来た4匹の内2匹、灰色狼と白い狐が魔猪へ駆け出し。

 急停止した魔猪(まちょ)目掛け飛び付き、勢いで押し倒しせば狼は鋭い牙で喉元へ噛み付き、狐が前足で頭を押さえ付け――見事仕留めた。

 その光景を見て、夕食の相談へと移りつつ下処理を始める辺り。4匹の家族、誓い合った義兄弟を信頼している。

 鞄から包丁と2リットル用ペットボトルを取り出し、魔猪の血抜き作業と同時に、抜いた血をペットボトルへ移す。


「フッ。学校の連中や先公共、貴紀を落ちこぼれ。と馬鹿にしていたが」


「えぇ。彼、成績は落第点だけど。好きな事へは大した実力を持つのよねぇ」


 どんな人にも得意分野がある様に、落ちこぼれにも、何らかの得意分野は存在する。

 生き生きと、楽しげに魔猪の下処理を施す様は、大好きな玩具で遊ぶ子供そのもの。


「さぁ~ってと。護衛しつつ、追い払うとするかね」


「あ、小鬼(ゴブリン)は必ず仕留めてね。後々が面倒だから」


「はいはい。本当、得意分野に関しては、記憶力が良いわね。終焉?」


「あいよ。魔法を使って、手っ取り早く終わらせるぞ」


「我が身に纏うは、戦神の祝福!」


 自らの獲物だと主張する様に、次から次へと襲い来る魔物や下級魔族の眼は血眼で、己の欲に飢えている。二人は白い光を纏い、体の耐久力や力を強化。

 同時に近い敵から叩き伏せ、斬り倒して行く二人。中には倒した屍に紛れ、二人に奇襲を仕掛ける小鬼(ゴブリン)や下処理中で無防備な貴紀を狙う魔物もいる。

 が……白蛇はそれを感知し、狼と狐、紅き小龍へ威嚇音を出して気付かせ、三匹が奇襲を仕掛けて来た敵へ、奇襲をし返す連携を見せる。それはもう、種族違いを越え。

 絆を紡き、共に過ごしてきた結果なのかも知れない。日が暮れた頃、襲撃は終わり、漸く落ち着けた一行は……


魔猪(まちょ)の唐揚げと大根の味噌汁、出来たよ」


「おぉっ、待ってました!」


 円形に草を刈り、背負っていた荷物からテントを取り出しては組み立て、燃やす薪が無い為。

 刈った草と倒した小鬼(ゴブリン)を薪代わりに油を掛け、魔法で燃やす。貴紀の持ち出した荷物はほぼ全て、料理関係や食材のみ。

 調理器具や中華鍋を使い、出来上がった晩御飯を全員へ渡し、食べ始める。


「んん~っ。また腕を上げたんじゃない?」


「俺も同意見だ。最初の頃は、両極端な味だったからな」


「もう……その話は止めてよ。ほら、ご飯だよ」


 木製箸を使い唐揚げを食べる。サクッと心地よい衣の音と柔らかな肉を噛む度溢れ出てくる肉汁に思わず頬が緩み、上達を称賛する二人は初めて食べた当時の味を懐かしみ。

 酷い出来の料理を思い返しては互いに顔を向け、笑う。褒め言葉へ対し微笑み、助けてくれた4匹の家族へ、褒美も兼ねて焼いた肉を与えれば、嬉しそうに食べ始めた。


「二人が羨ましいよ。魔法が使えるだなんて」


 初歩的な魔法で水を出し、使った食器や調理器具を洗うサクヤの隣で洗った物を拭いつつ、ポツリと呟く。

 手を動かしながらも「何を言っているのよ」と言い、洗い物を全て終わらせ、白く手触りの良い柔らかなタオルで手を拭う。


「私達魔法使いや神官等は、確かに神秘が使えるわ。でもその対価として回数制限もあるし、異能へ派生すると片方か、両方が使えないの」


「まあ、俺みたいなもんだな。だが魔法と奇跡、異能の三種を合わせ持つ者は絶対に存在しない」


「どうして?」


「料理で例えるなら……魔法は油、奇跡は水。異能はその中間。故にこの三種全ては獲得出来ない」


 魔法と奇跡は互いを弾き、異能はどちらか片方か両方を失い、得る事が出来る。

 故に中間であり、三種全てを持てない理由。終焉は黒い(ほのう)を右手に出して見せ、興味津々な貴紀に微笑む。


「魔法は攻撃系が多く、奇跡は回復や守備系が多いんだったよね」


「あぁ。魔法と奇跡は水と油の関係だが……混ぜて時間を置き、馴染ませる事で異能と言う能力が開花する場合も存在する」


「異能は魔法と奇跡。そのどちらにも当てはまらず、詠唱無しで使える反面、使える力は一つだけになるのよねぇ」


 男子二人は焚き火を囲いつつ、周囲を警戒。サクヤは草を刈り取った範囲を周りながら、宙に筆で結界の文字が書かれた御札を貼り。

 半透明の結界を張る。すると魔物や魔族は突然一行を見失ったらしく、慌てて辺りを見回す。

 魔法や奇跡は確かに強力。反面詠唱中は無防備、回数制限もある、使えば精神的消耗もする。


「もし、戦場で魔法や奇跡を使い切っちゃったら……どうなる?」


「丸腰で心身共に疲弊した状態へ陥る。正直、足手まといもいいところだ」


 万が一……いや、これからはあり得る可能性が高くなるであろう現状で、最悪の結末を知ろうと。

 使い切った場合を訊ねると、二人は想像もしたくない最悪の結末を思い浮かべ、苦虫を噛み潰したような表情で話す。


「異能へ変化すれば、精神的な消耗も、幾らか減るんだけれど……」


「魔法奇跡異能。三種の共通点は、精神力を消費して発動させる。って事だな」


「そうなると、回数制限って言うのは」


「えぇ。精神力の強さ次第で決まるわ。強弱に限らず、ね」


「異能は消耗が低いから、連発し易い反面。調子に乗って使うと……消耗して逆転され易い」


 異能だけは魔法、奇跡に比べて精神力の消耗が低く、レアな反面初心者に優しい。

 とは言い切れず、消耗が低いが為に自身が何回使ったのか、冷静な判断も求められる。

 もしも判断を誤り、冷静さを欠けば、幾ら相手を追い詰めていても、逆転される可能性は高く、自滅への道を辿ってしまう。


「その回数制限って、どうやって判るの?」


「魔法や奇跡、異能が使える様になれば、自然と判ったな。俺は魔法を三回、異能は六回だ」


「えぇ。私は魔法と奇跡、合わせて五回が限度ね。精神状態が回復すれば、また使えるわ」


 二人の回数制限を青い手帳にメモする。今後、最悪の結末にならない、させない為にも。

 貴紀は何度も質問をしてはそれを書き込み、目で書き間違いが無いか読み返し。

 念の為にもう一度聞き返す。それが終わった後、一行は明日に備えて取り出した寝袋に入り、目蓋を閉じて眠りについた。





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