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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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比較 -Envy-

 『前回のあらすじ』

 続く課外授業、独りぼっちで採取を続けるエリネに襲い掛かる爆風。一行はエリネの後を追い、爆心地へ。

 パニックになる生徒、次々起こる問題、再び襲う爆風と爆発音。原因はマリス・ライムが誕生した方角と言うルシファー。

 医学生達を戦場こと──治療現場へと連れて行き、各々役割分担する先生方。

 奇跡を使えない現場医師の言葉を受けつつ、学べる事を学ぼうと努めるエリネとニーアであった。



 仮拠点こと、仮設テントでの治療は全て終わり、負傷者は全員生存。外の戦闘も終結を迎えた様で……

 全身の衣服にだけ汚れや切り傷を作り、直接的な傷は全く無いマイゼル先生が生還。

 可能であれば戦闘場面も見たかったが、此処はエリネの記憶世界。彼女が知らない部分は見れない仕様。

 また場面が切り代わり、再度教室へ。教壇に立つマイゼル先生に呼ばれ、プリントを受け取る生徒達。


「次、イチハツ!」


「はい」


「八十点。ケアレスミスが多いですね。焦りは冷静さを欠き、大きなミスにも繋がりますので気を付けて」


「分かりました~」


 イチハツと呼ばれた黒髪女子は教壇の前に向かい、先生からテスト用紙とアドバイスを笑顔で受ける。

 ただ……なんと言えばいい?この教室に充満する妙な気配は。多分一言で言うなら──闇。

 比較・悪意・憎悪・嫉妬……学校生活のみならず、社会に出て死後までも付き纏うモノ。

 それらが肌に唐辛子でも塗ったかの如く、痛みと言う刺激を与えてくる。


「次、エリネ!」


「はいでしゅ!」


「今回も百点満点。引っ掛け問題もあった中、よくぞ満点を取れましたね」


 名を呼ばれ、教壇の前にエリネが出て受け取る時。ソレが誰に向けたものかが、ハッキリと分かった。

 クラスの全員とは言わないが、今回も満点と言う言葉に半数が反応し、嫉妬や憎悪を向けている。

 残る半数は賞賛・尊敬・無反応・呆れと言った反応。満足げな彼女は、そんな視線や感情に気付いていない。


「次、ヒペリカム!」


「……はい」


「三十五点。寝不足ですか?生徒会長も忙しいのは理解しますが、睡眠は我々天使にも必要ですよ?」


 エリネを除き、珍しい名前の生徒が多い。呼ばれる名前を聞きながら、ふとそう思う。

 そんな中、ヒペリカムと言う普段ですら聞かない名前で呼ばれ、何処か元気のない女学生。

 それに応じてか、返されたテストの点数は他の生徒に比べて低い。万年赤点の自分が言えた義理ではないがな。


「…………はい」


「全員にテストが返りましたね。それでは皆さん、家に帰って今回の反省や予習復習を行いましょうね」


 余程ショックだった様で、俯いたまま返事を返し、エリネの席から右後ろ側へ戻って行く。

 言い終わると同時にチャイムが鳴り、教室から出て行くマイゼル先生。

 言われた通り生徒達は身支度を行い、思い思いの場所へと分かれて行き……夕方。


「ほう。放課後も学園に残り、勉強とは」


「少なくとも、ボク達には真似出来ないね」


 なんだが……エリネだけは一人教室に残り、席に座ったまま予習だか復習をしている様子。

 勉強熱心な姿勢に感心するルシファー、自分の左隣で苦笑いをしながら言うルージュ。

 そのボク達に、自分も入っているのだろう。……その通りだから何も言い返せんがな。

 すると教室の扉が少し開き、中の様子を覗き込む人物が数人。此処の生徒みたいだが……?


「何よアイツ。満点取った上に、先生からの期待や信頼まで勝ち取っちゃつて」


「生意気にも程がありますよね~。ちょっと、懲らしめてやります?」


「……ッ!!」


 エリネの記憶世界では物に触れられない点を利用して、扉の向こう側で覗き込んでいる相手を見に行くと。

 ヒペリカムとイチハツ、後は名前すら覚えていない・知らない男子生徒が二人。

 よく見るとこの愚痴ってるヒペリカムってヤツ。課外授業で爆心地に居て、パニックってた娘だ。

 みっともない嫉妬混じりの愚痴を吐き、イチハツの言葉に三人は顔を見合う。


「いや……俺はパス。確かに嫉妬はするけど、アイツはそれだけの努力を続けてる訳だし」


「オレもパ~ス。生徒会長がマイゼル先生に好意があって、一方的にあのチビを妬んでるだけっしょ」


 が……男子生徒達はこの誘惑を蹴った。それは誰かと比較して闇を抱く者と、認め受け入れる者の違い。

 今回はそれにプラスして、生徒会長(ヒペリカム)の事情を知っているのもあるっぽい。

 未来ある若者に希望を求めるマイゼル先生、それに応えようとするエリネ。

 多分……家庭環境的な問題も含め先生に救済を求め、慕い憧れている生徒会長──ってところかねぇ?


「それに……生徒会長。まだ生徒会の仕事も残ってるんですから、早く済ませないと」


「そうそう。現状生徒会長がチビに勝ってるのって、体と金銭面含む家柄って位だしぃ?」


「──ッ!!」


 図星を突かれた上、現実も突き付けられて何も言い返せず、内心怒りが噴き出してもおかしくない程。

 それを表すかの如くそっぽを向きながら歯を噛み締め、感情に任せて吐き出したい言葉を飲み込む。

 正直な話、感情任せの言葉を飲み込めた点は褒めたい。普通なら吐き出して喧嘩沙汰もおかしくないし。


「…………」


「生徒会長?」


 黙り込んだと思いきや突然立ち上がり、疑問符で呼び掛ける男子生徒の言葉も聞かぬまま。

 教室の扉を勢い良く開け、エリネが音と生徒会長の存在に気付き戸惑っていると。

 彼女は勉強の手が止まったエリネと机越しに正面へ立ち、音が鳴る程机に両手を強く叩き付ける。


「エリネさん、貴女!!」


「な……なんでしゅか?」


「もう下校時間はとっくに過ぎてるわよ。予習や復習をするなら、早く帰って家でやりなさい!」


 顔を近付け、今にも噛み付く勢いで呼び掛け相手を怯えさせたと思えば──

 至極真っ当な理由を告げ、続きは帰ってやる様促す。色々と思う事はあるが……この娘、実はえぇ子?

 注意されてノートや教科書を学生鞄に入れて行くも。慌てていたからか、ノートを落としてしまう。

 拾おうと席を立つエリネよりも早く生徒会長は屈み、ノートを手に取り向き合って手渡す。


「はい、ありがとうございましゅ!」


「分かったなら早く帰りなさい。でなきゃ、私達も帰れないのよ」


「分かりましゅた。あたちも生徒会長みたく、立派な天使になれるよう、精一杯頑張って行きましゅ」


 受け取り、理解した旨と感謝の言葉を返せば胸元で腕を組み、漫画でありそうなツンデレ?を見せる。

 素直なだけか、それとも天然なのか。エリネは言葉をそのまま受け取り、理解を示し。

 生徒会長を天使としての最終目標にしているのだろう。それを本人に直接伝えるのもどうかと思うが。

 それを伝えると受け取ったノートを今度は落とさない様鞄に詰め、教室から駆け足で出て行く。


「やっぱ馬鹿正直と言うか素直って言うか……嫌みすら効いてねぇ」


「多分、アレが俺達との決定的な比較すべき点だろうな。馬鹿みたく真っ直ぐ突っ走れるってのは」


 終始気付かれなかった男子生徒二人はエリネの後ろ姿を見送り、素直な感想を口に出す。

 個人的には馬鹿正直や素直って部分は共感する。根本的に心優しくてえぇ子なんやけどね。

 嫌みやら愚痴すらプラス方面に捉えて、真っ直ぐ突っ走れるのも本当に才能だよ。


「それで、生徒会長?」


「…………貴方達も、今日は帰ってもいいわよ」


「悪いッスけど断るッス。生徒会長、そうやって自分だけで負担を背負っちまうんッスから」


 教室に入り、俯く生徒会長に呼び掛ける男子生徒。少し間が空いてから涙声で帰宅を勧めるも。

 もう一人の男子生徒が続いて教室へ入り、その勧めを拒否。理由を言われ、制服の袖で涙を拭う。

 この娘もえぇ子なんだろう。ただ、家庭環境か何かが原因で心の属性が闇に寄ってしまっているのか?


「あの娘……恐らく家庭環境が原因だな」


「うん。家柄の階級が高そうだし、そう言うのは拘りが変に強かったりするから」


「親に比較されながら育ったんだろうな。だからこそ、良い成績を出すエリネと比較され嫉妬したんだろう」


「比較された子供が大きくなって子供を産み、同じく比較して育てる。まさしく負の連鎖だ」


 教室から立ち去って行く三人を見届け、ルシファーとルージュが口を開き各々の感想を述べる。

 家庭環境・家柄・階級・親族。結局は差別であり、一人暮らしも出来ない・し難い子供時代に。

 親から比較され続け、本人も無意識に誰かと自身を比較する癖があるんだと思う。

 どの世代で、どんな風に何をされたか?それすらも負の連鎖として、未来へ続いて行くとは……


「……あれ?もう一人、居なかったっけ?」


「居たな。今はもう、俺達の眼には見えても、手は届かないがな」


「まさか、こんな所にまで潜り込んでるとは思わなかったよ。そう言う意味では、予想を裏切られた」


 ふとした疑問が浮かび、ルシファー達に訊ねてみた。すると、居た……と言う点だけは肯定するも

 眼には見えても手は届かないと言われ、尚更ちんぷんかんぷんで意味すら理解出来ない。

 続けてルージュが潜り込んでる、予想を裏切られたと発言するんだけど、全く分からず頭を悩ます。


「さっきの……イチハツって人。無月闇納と同じ心の色をしてた。何処までも深く、暗い心の持ち主」


「…………えっ?」


 それを察してニーアは自分が着ている黒コートの裾を引っ張り、意識が自身に向いたのを確認後。

 口を開き、イチハツと呼ぶ女子学生が無月闇納の関係者だと。三人が言いたい事をハッキリ理解した。

 確かに、何故天界へ来たのか?そう思えど、旅を振り返ると殆んど奴に関わる痕跡が残っている。

 現在のオラシオンが集結する前から、何かしら直接接点を作っている様にも思える。それは何故だ?


「比較。もしかしてあの生徒会長さんの心にある闇を育てて、堕天使にする気なんじゃ……」


「内側──心の中からナイトメアゼノにされたら、ボク達には倒すしか助ける手段は……」


「自軍の戦力増強、脅威となる芽は若い内に摘む。そう考えれば他の面々との関わりも納得が行くぞ、王!」


 ニーアの語るあり得る推測、ルージュが言う苦しい事実、ルシファーの予想と高いと思える可能性。

 敵側に優秀な回復役が増えるのは、断固阻止したい。されど、相手の心が浸食されては救えない事実。

 直接ではないにしろ、使途を送り込み偵察や増援の阻止までするとは……やはり無月闇納、恐ろしい奴。

 だが、疑問が幾つか残る。増援阻止で動いてるとしても何故、オラシオンや他の面々は生還してるんだ?


「…………Envy(エンビー)……か」


 取り戻しつつある、人間性とも呼ぶべき七つの大罪。静久が持つ嫉妬の罪、サーペント・シン。

 この嫉妬は、自他を燃やし尽くす炎なのだろうか?それとも、全てを飲み込む闇?

 過去に持っていた、当たり前の感情。それと今一度、向き合う必要性があるのではないのか?

 ふと……そう思ってしまう。感情のままに振る舞うべきか、理性で縛り付けるべきなのかと。




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