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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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戦場 -ira vehementi-

 『前回のあらすじ』

 場面が飛ぶと同時に始まった、課外授業。先生は担任のマイゼルと、課外授業担当のベゴニア。

 中立的場所の森で行われる擬似的なサバイバル。他の生徒達がチームを組む中、エリネだけはハブられとしまう。

 それでも一人で採取を頑張るエリネ。エックスとルシファーは改めて、マイゼルの凄さと異質さに気付く。

 能力が勝手に発動している感覚を覚えるエックス。元の時代では、マイゼルは行方不明だとニーアは言う。



 課外授業で採取を続けるエリネを見守りながら、ふと考え事をしていた時。

 突然耳をつんざく様な爆音、木々の合間をすり抜けて迫り来る爆風と衝撃波が襲い来る。

 最初こそ踏ん張れていたが……彼女の左側面から吹き付けられ、あっと言う間に吹き飛ばされてしまう。

 背負っていた竹籠は古かったのか。落下位置が悪く押し潰され、中身の採取物が飛び散り転げて行く。


「な……何事でしゅか!?」


「この感じ──使用者と心の間で起こる、属性の拒絶反応だね」


「あぁ。生徒の中に闇属性の心を持った奴が居たと見る。ソイツが光属性の奇跡でも使ったか?」


 突然過ぎる出来事に言葉は出ず、エリネ・自分・ニーアの三人は起きたのかすら理解出来ていない。

 そんな中。ルージュとルシファーだけは爆風と衝撃波が迫って来た方角へ顔を向け、話し合う。

 その内容は、自分が聞き出せなかったもの。とは言え、こう言う形で答え合わせしなくてもいいのに。


「属性の拒絶反応って……何?」


「魔力と霊力が水と油の関係と言うのは、知っているな?」


「魔力が油で、水が霊力だよな。それは流石に自分とニーアも知ってるよ」


 会話に疑問を覚え、恐る恐る訊くニーアに、魔力と霊力の関係性を理解しているか聞くルシファー。

 水と油の関係故に魔法使い・僧侶と分かれ、稀に一部が融け合った場合は異能として力が現れる。

 自分やゼロ、絆・愛達は異能。霊華や恋達は僧侶、ルシファー・静久達は魔法使い。

 相反する二つを融合させて使う時はあれど。アレはゼロ達のサポートありの方法で、本来は禁忌レベル。


「詠唱はどんな効果なのかイメージを強く持ち、言霊を増幅装置とする為に唱えるんだよ」


「だが今の爆発は先も言った通り、相反する属性が原因。簡単に言えば、ガソリンに火を近付けるモンだな」


 詠唱に関しては、割りと知っていた。イメージ、言霊……限りなく身近にあり、余り意識されないもの。

 相反する属性の説明も分かり易く、納得もし易い。引火物に火種を近付ければ、結果など容易。

 もし今の爆発が、誰かを助けようとした結果だとしたら?個人的にはトラウマものだろう。


「ふむ。話している内にエリネは移動しているが……王よ、どうする?」


「分かりきった答えだけど、行くよ。何が起きたのか、この眼で見ないと。行こう、みんな!」


「了解した。各自集団行動を意識して動け。記憶の中で意識だけ迷子になると、肉体に戻れなくなるからな」


 何か少し考える様子を見せ、現状の説明をしつつ次の行動はどうするか?を訊いてきた。

 長い付き合い故、此方の答えなど分かり切っている。されど訊ねると言うのは、試している証拠。

 自分の意思・言葉・行動で示すと、それに満足したルシファーは言葉足らずな部分を補足した上。

 注意喚起をしつつ、誰もはぐれない様に一番後ろで殿を務めながら現場まで進む。


「誰か、現状を説明出来るもんはおらんのか!?」


「わ、私……私私私私私ぃ!!」


「パニック状態になっている。ベゴニア先生、周辺の状態確認を!」


「分かった。マイゼル先生は生徒達を落ち着けておいてくれ!」


 爆心地と思わしきエリアに到着するも……其処は木々に火が回り、地面は黒く焼け焦げ。

 爆発の中心に居る女子生徒は視線が合わず、焼ける木々を見てパニック状態。

 声と顔は恐怖を孕み、体は座り込んで動かない。先生達は正確に互い声を掛け合い、役割をこなす。


「てんてー!あたちが気を静めましゅ」


「頼む。しかし使うのは還光(かんこう)ではなく、天使の唄にして欲しい」


「分かりまちた。スキル・天使(てんち)の唄」


「「全員、耳を塞げ!!」」


 パニック状態の女学生を落ち着かせる為、自らが沈静化するとマイゼル先生の前へ申し出るエリネ。

 彼女のスキルを把握しているのか。使用するスキルを指定し、納得した矢先──スキルを発動。

 偶然にもマイゼル先生とルシファーの判断・発言が一致し、パニック状態の女学生以外は耳を塞ぐ。

 一生懸命唄うエリネには申し訳ないが、音は聴こえない様に魔力・霊力で耳栓もしている。


「にぁあぁぁぁぁっ!?」


「今のは……まさか!」


 天使の唄を妨害するかの如く。少し離れた木々に命中して鳴り響く爆発音と、吹き付ける爆風。

 余りにも突然・唐突な出来事にエリネは唄えず悲鳴を上げ、何かを察したマイゼル先生は天を見上げる。

 自分達も見上げてみると、胸当てや機動力に支障を出さない武具を身に付けた天使達が飛んで行く。

 その方角は森の奥。ルシファーなら何か知っているだろうか?そんな期待を持ち視線を向けたら……


「あの方角……昔と変わりなければ、マリス・ライムが誕生した辺りじゃないか?」


「倒したんじゃないの?」


「当時のは倒したんだがなぁ……また悪意を吸って増殖でもした可能性も否めんねぇ」


 意外や意外。とんでもない奴が誕生した原因の場所が近く、それを聞いて内心ビックリ。

 過去のレポートも読んでいるニーアから、倒したのでは?と訊かれたが、あくまでも当時のは倒した。

 そう、悪意の塊と化した部分は倒した。残りのスライムは当時や後の世代に宿題として残し……放置。

 したのが悪かったのか?まあ何はともあれ、此処が戦場になる可能性も高そうだ。


「マイゼル、緊急事態だ!!騎士団の(おさ)が意識を失って、指揮系統が麻痺しとる!」


「それはマズイですね。ベゴニア先生、騎士団の被害は?」


「幾らか命に関わる被害を受けとる。可能なら応急手当を施したいそうだ」


「…………」


 周辺の状態確認を終えて戻って来たベゴニア先生。先程飛んでいた天使達は騎士団らしいのだが……

 騎士長がやられ、指揮する存在が居なくなり向こう側もパニック状態。冷静に分析し、被害を問う。

 命に関わるレベルの負傷者が幾らかおり、応急手当が必要だと言われ、暗い顔で考え込むマイゼル先生。


「仕方ありません。生徒達を連れ、戦場へ行きましょう。指揮は私が執りますので──」


「おう、生徒達は元守護騎士のワシが護る。だから思う存分暴れて来い、歴代最高の騎士長」


 思考時間二秒で生徒達と騎士団、更には学園や天界を救う最適解を導き出し、顔を上げ話し出す。

 すると全てを言い切る前にベゴニア先生は理解し、元守護騎士である自身が生徒達を護ると断言。

 更にはマイゼル先生を騎士長と言う。それに対し「私も貴方と同じく、元が付きますよ」と言い返す。


「生徒の皆さん。私達は戦場へ向かいます。私達の行動が負傷者の命を左右すると理解し、動く様に」


「当然だが団員の命を救えず死亡したら、遺族に恨まれる事も十分に有り得るからな!」


 言い方的にはやんわりと、しかし危機感を持たせる言葉遣いで話すマイゼル先生と。

 救えなかった場合の、最悪な展開も有り得るが故に心構えをしろ!と言うベゴニア先生。

 そんな先生二人の後ろを二列で並び、医療を志す・歩む者達としての戦場へと進んで行く。


「早く、奇跡で傷を癒さないと……」


「奇跡の前に消毒、症状の確認!こんな初歩的な事も学園で学ばなかったのか!!」


「──ッ!!」


「傷口の消毒、終わりまちた!症状とちまちては、神経毒による麻痺だと認識ちておりましゅ!」


 初めての戦場。初めて目の前で視る負傷者の……欠損した手足や大きく開いた腹などの痛々しい姿。

 吐き気を催す、血の独特な臭いが充満するテント内。痛みを訴え死を拒み、生を求め手を伸ばす。

 そんな姿を見て、生徒達は怖じ気づき早急に傷口を塞がないと……そう口に出すも、それは間違い。

 現場の戦場医師に怒鳴られ、畏縮する女学生とは対照的に、慣れた様子で消毒や症状確認を済ますエリネ。


「確かにこの症状は、神経毒の麻痺だと判断出来る」


「何故神経毒による麻痺だと判断した?」


「体の細かい痙攣具合や、呂律が回っていない発音からでしゅ!」


「確かにその通りだ。しかし、この患者は頭部からの落下によるくも膜下出血の後遺症から来る麻痺だ」


 そんな彼女に何故そう判断したのかを問う現場医師。それに自身の知識を総動員して答えれば……

 似た症状としては肯定しつつも、その負傷者は以前の墜落によりくも膜下出血を引き起こした。

 その後遺症の麻痺だと、机の上に乗ったカルテを手に取りエリネと覗き込むニーアに見せて伝える。


「我々は他者の命を預かる身。患者の状態や症状、私生活を含めた過去を調べ、初めて分かる事もあると知れ!」


「っ……はいでしゅ!!」


「迂闊だった……うん。この経験を次に繋げないと!」


 自分は医者ではないが、知る限り世界一の医師と弟子を仲間にして旅を続けていた頃。

 医師の彼女に言われた事がある。相手を知り己を知らなければ、救える命も救えない……と。

 つまり患者の経歴などを知り、自身の実力を知らなければ、誰かの命など救えない。

 病や患者の症状も千差万別。きっとこの苦き思いを胸に秘めつつ、エリネとニーアは成長して行くだろう。


「あの……奇跡は使わないんでしゅか?」


「オレは奇跡が使えない天使でな。下界の医学を学び、奇跡では救えない命を救うと決めている」


「凄い……左右の手が別の生き物みたく次に必要な物を取って行く。私も、これを出来る様に」


 現場医師は次から次へと器具を持ち代え、水を張った容器に入れて行く。……水だよな?

 その光景を見て浮かんだ疑問を訊ねるエリネに、天使でありながらも奇跡が使えないと告白しつつも。

 瞬間的な治療の奇跡では救えない命を、下界の医学で救う天使になる。自らの目標を言い放つ。

 この方は自身と他人の比較を辞め、出来る事を精一杯努力したんだろう。ニーアに良い影響をくれている。


「命を救う、助けるのに種族やら人種の壁など不要だ。俺は──それを、(お前)から学んだ」


「……そっか。自分は出来る事を出来るだけやっただけだよ。その結果、辛い事は沢山あったけどね」


ira(イラベー) vehementi(ヘメティ)……か。ある意味、ボク達全員、そうなのかもね」


 現場医師の手術を、隣に立ち指示された器具を渡したりしてサポートするエリネ。

 その光景や手術の方法や症状などを、事細かにメモするニーア──彼・彼女らの姿を見つつ。

 ルシファーは自らの思いを口にし、自分は自らが最善と思った行動で、苦い経験もしたと話す。

 ルージュが発した言葉は英語……だろうか?それに続けて、自身を含む全員がそうなのだろうと言った。




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