授業 -element-
『前回のあらすじ』
運命と言うタイトルの、エックス自身がオメガゼロへと成った経緯を映画としえ見せられた。
続く物語は天使とあり、これまでの流れからエリネの記憶だと察すると。スクリーンから眩い光に包まれ記憶世界へ。
マイゼルと名乗る先生は、生徒達に医学や歴史を教える。その生徒の中にエリネの姿が。
ニーアも家庭教師として来るマイゼルの生徒だったと言い、互いに正反対な二人の不思議な関係性が見えたのである。
場所が切り替わり、今度は野外へ。辺りを見渡すと木々が生えた、中継地点らしき場所。
二年三組の生徒達が整列し、担当するマイゼル先生と課外授業の先生と思わしき人物も居るが……
服装は何故か大きなリュックを背負った警官で─眉毛がクッソ太くガタイが良い男の天使。
ギャグ漫画世界の住人だと言われたら、すんなり納得してしまいそうだ。
「今回の授業では、この学園外に在る森林で医療用に使える物を集めて貰います」
「マイゼル先生と課外授業担当のワシ、ベゴニアが皆の集めてきた物を鑑定するぞ」
話から察するに現地調達のコツや、医療関係の知識を培おうと言う内容らしい。
医療用サバイバルと言う訳か。確かに現地調達が出来れば、治療薬や消耗品の代用品も作れる。
普通の学校で言えば、期末テストや学級テストの類い。チームか個人かで、結果も変わるだろう。
「先に言いますが、この辺りは中立エリア。我々と仲の悪い悪魔・魔族も動いています」
「いいか?お前達の感情的・迂闊な言動一つで此処は戦場になる。そうなれば、ワシらは犯人を処罰する予定だ」
「処罰って、どうするんです?」
中立エリア。良く言えば敵対行動禁止区域、悪く言えば挑発からの一触即発エリア。
天使と悪魔……考え方が異なるが故に、命の奪い合いなり互いの妨害行動を取り合う関係。
それは人も同じで、自身と少し違うだけで差別や拒絶をする余りにも愚かしく、度し難い生命体。
ベゴニアの言葉に疑問を抱いた生徒が、処罰の内容について訊ねる。先生二人は顔を見合わせ……
「知らない方が幸せな事は、世の中には腐る程ある。知らぬが仏だと、ワシらは思うぞ?」
知るのを諦めて無知になるのではなく、知り過ぎてそれを良しとしない者達に狙われる訳でもない。
その中間こそ仏であり幸せだと、真剣な表情で語るベゴニア。マイゼルも真剣な様子で、生徒達を見る。
その眼差しに語られる言葉が真実かつ、今の生活を保つ為の境界線だと知り、ざわつく生徒達。
「医療に携わる者として、常に冷静であれ。難しいと言う事は理解しているが、後悔無き言動を意識せよ」
「マイゼル先生からの助言は以上、制限時間は一時間。それじゃあ各自、行動開始!」
一歩前へ出ると。真剣な表情のまま生徒達全員に向け助言を送り、一歩後ろへ下がる。
下がったのを見届けた後。ベゴニアが口を開き、調達可能時間を伝えれば開始を宣言。
各々単独で動いたり、チームを組んだりして動き出す。そんな中、エリネは……
「他の生徒達、エリネを避けて……る?」
「…………エリネ……」
「…………」
「所詮天使や龍神族の大多数もクズの集まりと言う、丁度良い証明になったな」
ルージュの発言通り、他の生徒達はエリネを避けて行動し始め──避けられている本人は俯くばかり。
助けたくても、声を掛けたくても……此処はエリネの記憶世界。教室の扉をすり抜けた件もあり。
今回ばかりは──少しの干渉も出来ない。呟く自分、悲しげな顔で共感の眼差しを向けるニーア。
天使や龍神族も、所詮は下劣な人と何一つ変わらない。そんな解答を得るルシファー。
「…………例え一人でも、やり遂げましゅ。てんてーの為にも、あたちの願いを叶える為にも」
「ふむ──いいのか?二千年使って、お主が見出だした切り札であろうに」
「えぇ。あの娘が強大な力を扱う為には、沢山の経験を積ませる事が大切なので」
そんな中。エリネは俯いていた顔を上げ、何か決意に満ちた顔でグッと胸元で握り拳を作り。
紐の付いた竹籠を背負い、中継地点から駆け出して行く。姿が見えなくなるまで見送る二人の先生。
ベゴニアはマイゼル先生に質問するが、沢山の経験を積ませたいと語り、中継地点から動かない。
「強い力は孤独を産む。孤独は闇を産み、闇は心を貪り何処までも大きく、強大に膨れ上がる」
「悪魔王?」
「幾ら自らを光側の存在と名乗ろうと、行動と結果が全てを示す。自らが闇側だと」
他人と違う才能・人種・肌色・眼色・金銭・知能。ありとあらゆる全てが、孤独を産み出す。
力は孤独を、孤独は闇を産む。悪魔王・ルシファーは光と闇を知る為、その危うさも知っている。
疑問を抱き、聞き返すルージュに言葉を続ける。幾ら自己申告をしても、結果と行動が全てだと。
「結果、心のあり方が自身の得意とする属性。エレメントになる。そう言う意味では……エリネは光属性だ」
「強い光は濃い影を生む……か。難儀なもんだよね、エレメントって言うのも」
何はともあれ。場面移動する様子もない為、話ながらエリネが向かった先へと進んで行く。
心のあり方がその人物の属性となる。らしい……が、もし自身の属性と合わない奇跡や魔法を使ったら?
反発作用や拒絶反応があるのだろうか。それとも、使えないだけ?喋りながらも次々と浮かぶ疑問。
たらればの不安が脳裏を過り、好奇心は猫をも殺す。そんな言葉は思えど、口に出して聞けず終い。
「この実は磨り潰ちて、こっちの毒草やつくちと合わちぇれば、麻酔の薬になるでしゅ」
「ニーア。麻薬と麻酔の違いに関して、教えてくれないか?」
「麻薬は医療目的外で使って、禁断症状を引き起こす物。麻酔は一時的に運動や感覚を取り除く為の物」
「おおざっぱに言うと──医療や薬に使うのが麻酔、それ以外が麻薬ってところかな」
自生している稲穂に形の似た植物を見付け、屈んでは右手で実を優しく摘み取る。
そんなエリネの左手には薄紫色の毒々しい草と、白いつくしがある。これらを調合すれば麻酔薬らしい。
麻酔と麻薬。似た物なのに、印象が対照的なこの二つ。その違いをニーア達に訊いた結果……
マイゼル先生が言っていた言葉、授業に込めた想いと意味を理解し──納得した。
「本当にあのマイゼルって先生、何者?」
「それには同感だな。種族は天使で間違いないが、発想力は大多数の天使や神と違うのは確かだな」
理解し、納得したからこそ──あのマイゼルと言う天使であり、先生としての考え方が。
他の天使や神とは違うものだと、ハッキリと分かる。多分、あの先生は自分達側の人材だろう。
まだご存命であれば、仲間に引き入れたい。こりゃあ、エリネやニーアが尊敬する訳だわ。
「っ……」
「どうしたの?頭痛い?」
「あぁ、ちょっとした頭痛だ。気にする程でもない」
採取している様子を見ていると……突然頭の両側面が痛みに襲われ、思わず屈む。
それを見たルージュが自分の肩に手を置き、心配するも──それが切っ掛けなのか。
先程まであった頭痛は鳴りを潜め、幾らかマシになった。……この感覚、能力が勝手に発動してる?
「頭痛ならストレスや鉄分不足の可能性もあるから、これを食べて少し休んで」
「これ……は?」
「豆乳と素焼きしたかぼちゃの種に、ドライフルーツ」
小さな布の包みと白い水筒を渡され、これを食べて休めと言われ中身を見てみると……
乾燥させた様々な果物と、何処かで見た覚えのある白い種。水筒の中身も何やら白い液体。
これが何かを聞けば、納得の行く解答が帰ってきた。……かぼちゃの種って、食えるんだ。
ニーア曰く、マイゼル先生から身近で栄養のある食材を個人授業で教わったらしい。
「先生が授業で言ってた。人体が太陽なら、体内は小宇宙。太陽が異変に気付く時は大抵、手遅れだって」
「確かにな。痛みに慣れると、他人の痛みに鈍化するのと似たようなものだな」
「何それ?」
「体が知らせるアラーム。痛みや違和感に耳を澄ませ、本心に身を委ねるべし」
話を聞き、昔を思い出す。異形を産み出す負の感情を燃料に求め、外宇宙から来訪した太陽の化身を。
奴は自身の宇宙に居る生命を救う為、遠路はるばるやって来た。が、ソイツは気付かなかった。
自身の持つ影響力、燃料に負の感情を絞られる人達の痛み、周囲の変化へ眼を向けていない事を。
結果、自分達は奴を倒した。太陽の温度が少し下がるとは、周辺の星々には壊滅的な影響なのだと。
「頭痛・便秘・筋肉痛・糖尿病。まだ沢山あるけど、体は常に私達へ異常を伝えているの」
「痛みとしてな。それにどうアクションを取るか、それをどう受け止め、認識するか次第で生存も左右する」
「腸内は菌の天国とは言うが……こうして聞いてると、無理は禁物なんだなって改めて思うよ」
生理現象・ストレス・偏った食生活・過度な運動。それらが合わさって、病気が生まれるんだな。
体内では毎日、戦いが起きている。それを助けるも、放置するのも自分達の自由。
世の中にあるありとあらゆるモノは純粋な力の塊。それをどう使うかが、心を持つ我々に与えられた選択。
心無き力は暴力に過ぎず、力無き心は無力。マイゼル先生が授業を通して伝えたいのは、そう言う事。
「ニーア。マイゼル先生は今、ご存命なのか?もし生きているなら、是非ともお会いしたいんだが」
「うんうん。ボク達の旅が終わった後、授業を通して心を持つ意味や考え方を伝え広めて欲しいよね!」
知れば知る程凄く興味が沸き、是非とも直接お会いしたい。話がしてみたいと強く思う!
生徒の一人であるニーアに、マイゼル先生が現在どうしているのかを、溢れんばかりの好奇心で訊ねる。
それに同乗し、旅が終わった後の出来事を頼みたいと、満面の笑顔で話すルージュ。
ルシファーも微笑み、胸元で腕を組みながら頷く中──暗い表情のニーアが、重い口を開く。
「マイゼル先生は……行方不明なの。天界で大事件が起きたとかで、それっきり現れなくて」
「天界で大事件だと?……改めて訊く、ニーア・プレスティディジタシオン。当時の西暦は何年だ?」
「えっ?六千九年だけど」
行方不明。天界で起きた大事件に巻き込まれてか、はたまた戦死なり暗殺でもされた可能性もある。
何か思うところでもあったのか。ルシファーは彼女をフルネームで呼び、当時の西暦を問う。
そう言えば、彼女と初めて出会った西暦は三千三百年。ヴルトゥームを倒した辺り。
なのだが……ニーアは予想外過ぎる解答を口に出し、確信を得たルシファーを除く面々を驚かす。
「そもそも、私は西暦五千九百九十二年生まれの十六歳だから」
出会った西暦・生まれた西暦・旅をしている現在の西暦が全く異なる為、頭が混乱しそう。
これも時間すら飛び越えるゲートが何か、関係しているのかも知れない。
そもそも自分達は、ゲートは超古代人が作った物と言う認識しかないまま使っている。
……今使っている力がどんな影響力を持つのか、改めて考え・知る必要がありそうだ。




