善意 -road to hell-
『前回のあらすじ』
静久のsin・第三装甲を纏い、心鬼の能力を真実の紋章の力で無効化しつつ、戦いを優勢に進める一行。
戦闘面・言葉でも正論をぶつけて押し込むも、決定打にはなり得ない。そんな中、心鬼はある者に狙いを定める。
静久・エックスと戦う気になったベーゼレブル。その実力は新たなsin・第三装甲に負けず劣らぬもの。
力と言葉をぶつけ合う中で、彼にも計画があると判明。しかもそれは、エックス達にも深い関係があると言う。
「たっ、助けて!!」
「「──!?」」
生死を分ける戦いの最中、突如響く巴の声。お互いに同じタイミングで振り返ると、其処には……
心鬼の蛇化した両腕に巻き付かれ、引き寄せられている姿があった。何故巴を狙うのか?
そんな疑問より助けに向かおうとするも、残った巨大な蛸足の触手が地面から生え、邪魔をする。
「奥義……神無月」
「な──っ、貴様!いつの間に!?」
大鎌から三日月斧へ即変形させ、大木を切り裂くが如く一撃で巨大な触手を切断し霧散した直後。
ベーゼレブルは既に心鬼の両腕を付け根から切り落とし終え、巴をお姫様抱っこ状態で抱えていた。
時間にして、一秒未満の出来事が見えた。蛇の如く滑る様に飛び込み、手刀で両腕を切り裂く姿が。
目視出来ぬ移動・攻撃速度・結果に心鬼は気付くのに遅れ、いつの間に行動したのか問い掛ける程。
「この程度すら見切れぬ餓鬼が魔王を名乗るなど片腹痛く、おこがましい」
「何故だ!?何故我らが下等種や骨董品風情に押される!」
「貴様……父親の八つ当たりを受け、丸腰で家を追い出され行き場を失くし、泣き喚いた経験はあるか?」
抱えた巴を降ろし、後ろへと避難させながら魔王・クイーンを名乗る心鬼を罵倒。
言われた本人は自身より遥か下に位置し、言わば蟻以下と認識する相手に手酷くやられている現状を叫ぶ。
何故?どうして?そんな疑問に、ベーゼレブルは謎の問い掛けで返す。何を言いたいのか、正直分からない。
「な、何を言っている」
「バイクで追い掛けられ、車に轢かれ、電車が来る中線路に押し出され、惚れた人を誘拐され孕まされた経験は?」
「あ……ある訳なかろう!!我らは負の感情を武器に使う事はあれど、その様な体験は不必要!」
「だろうな。私が親友はそれらに加え、虐めや犯罪を何度も受け心を病むも、その都度立ち上がった」
心鬼の言葉に同意する中、続くベーゼレブルの言葉を聞いて自分の事を話していると確信を持つ。
聞かれた心鬼は先程生まれたばかり。そんな経験は微塵もないし、今後も無いだろう。
つまらんと言った顔を見せた後、此方の経験の極一部を話ながらゆっくりと目を開く。
「人間をなめるな。貴様らの様に歩みを止めた者風情が、我が親友に勝てる訳がなかろう」
「想起・悪夢!!これでも、我らが勝てぬと言い切るか!」
奴は──ベーゼレブルは何度も自分とパートナー達を相手に繰り返し戦う中で、人間を認めていた。
力は弱く、知恵も勇気も足りない。それでも持てる力を集結させ、格上にすら挑み、勝利する。
全てを一つに統合させる魔神王とその子供達を、歩みを止めた者と言い捨て、自分達には勝てぬと断言。
それに腹を立てたのか。心鬼は纏うモヤを集結させ、五つの存在を生み出して叫ぶ。
「あ……アレは!旅の記録に書いてあった、各世界で倒した旅先のボス達!?」
「俗に言うボスラッシュ──いや、劇場版で観るやられ役の再生ボス怪人か」
「ふん……そんなザコを真面目に相手してやる必要など無い……一気に蹴散らす!!」
一つはボロい黒紫色ドレスを纏う異形。闇の魔神にして、嫉妬を司るナイトメアゼノ・イブリース。
二つ目はMALICE MIZERで倒した上半身は人型、下半身と髪は触手のゲミュート・ディフォート。
三つ目、火星からの来訪者・ヴルトゥーム。四つ目、狂気を司る無垢なる道化。
五つ目。憤怒を司り世界を裂きし者・ジャッジ。複製とは言え、闇の欠片が三体……だが!!
「これ……は──!!」
『融合・同調レベル、限界のセプテットを突破。ファイナルフュージョン、起動!!』
自分達全員の心が、負けない!!そう一致した時──スーツの身体中にある魔力経路が虹の七色に輝き。
バックルから電子音が流れ、心身の融合係数値・同調率が規定値を越え……最後の融合が自動的に起動。
赤・青・緑の光る帯がバックルのランプより溢れ出し、三色の光が重なり合いながら自分達を包み卵型へ。
「な……何!?この、酷く気持ち悪い光は!!」
「凄い。心まで温かくて、心地いい光……」
「遂に来たか。究極にして、窮極の到達点へ」
卵型の繭が放つ光を心鬼は嫌い、巴は心地よく感じる中。ベーゼレブルは何か知っている様な発言。
光の繭の天辺から、まるで逆さに雨が降る様に剥がれて行き──今の姿を改めて知る。
純白の鎧に黒い体と金の縁。龍の頭を連想させる紅い右腕、狼の頭を思わせる青い左腕。
内側が紅く外側の黒いマントが背中に付き、虹の瞳が敵を捉え、白い頭部ブレードが光を弾く。
「二重の意味でキュウキョクを極めたその姿……まさに、オメガアーマー!!」
「何がオメガアーマーか!!そんな醜いモノ、今すぐ叩き潰せ!」
歓喜の余り説明口調のまま、勝手に命名まで……まあ良い。どうせ挑んで来るのも眼に見えている。
前方から複製ジャッジ、右側よりヴルトゥーム、左側はイブリース、後方が無垢なる道化。
跳躍して頭上よりゲミュート、足下から心鬼の触手が三秒のズレを生じて襲い来る。
足下・右側・左側・後方・頭上・前方の順番か。ならば……足下は無視して右側からだ。
「ぬおっ!?」
「触手が足に触れた瞬間……焼けた?」
触手が両足に巻き付くも、即自ら大急ぎで離れ心鬼の元へ帰還したその両腕は、融解中。
右腕を右側へ向けると龍頭が口開き、緋色の爆炎球が放たれ──右手を伸ばすヴルトゥームに直撃。
続けて左側へ左腕を向ければ狼の口が開き、屈む三人を見てから爆音波を放射し、一回転して一掃。
最後に頭上へ右腕を向ければ光輪が展開され、集束した光を照射し五体全てを撃破。
「たった五秒で……撃破、した?」
「流石は究極にして窮極!!それでこそ、私が首を長くして待ち望んだ甲斐があると言──」
「…………五月蝿い。それに、俺の名は……」
絶望的な現実に言葉を失う心鬼、余りの圧倒的結果を見て理解が追い付かない巴。
それらを理解した上で自身の望む結果に歓喜し、飛び掛かる様に左側から襲い来るベーゼレブル。
左腕の狼頭は自らを分解。左肩の青い追加鎧と化し、紋様のある金の腕輪を付けた黒い左腕が現れると。
「──!?」
「オメガゼロ・エックス。終焉を始まりに繋げ、新たなる道を示す者」
左手の人差し指は既に動き、無数の光弾がベーゼレブルの頭上と足下に展開された魔方陣から。
奴の全身を高速で撃ち貫き続けた結果。その体は三秒と持たず、今や存在した跡形すら残っていない。
倒す前に居た場所へ向け、訂正と言わんばかりに辿り着いた自身の名前と意味を告げる。
「むっ──」
「あっ……」
直後。体が再び白い光に包まれたと思いきや……光が弾け、強制的にフュージョンが全て解けた。
同時にパワードスーツやsin・第三装甲も強制送還され、静久達も各々光を纏い左腕に帰還。
前にも何度かあった、強い力を持てば持つ程短くなるタイムリミット。それを見た心鬼はニヤリと笑う。
「くふふふ……もう、限界かぁ!」
「っ……」
再生した両腕と頭の蛇眼を此方に向けると赤く光り、それを視た瞬間……胸の奥に鋭い痛みを覚えた。
それは例えるなら──信じる者に裏切られた時や、自分自身が持つ善悪の葛藤に苦しむような痛み。
思わず両膝を地面に着け、両手で左胸を二重の意味でおさえ奴の言う通り、もう限界……かも知れん。
「母上様が微笑む相手は貴様の様な裏切り者ではなく、我らだ!!我らであるべきなのだ!」
「貴紀さん!」
「全ての世界から負の感情を無くす!!貧困や差別を無くす!その為にも、我らは絶対に負けられぬ!」
赤い瞳を光らせ、両腕を蛇の尻尾に変化させると叫びながら鞭を打つ様に打ち付けてくる。
助けに行きたくても勇気が出ず、足がすくんで飛び出す事も出来なくて、大きな声で呼ぶしか出来ない巴。
心鬼の攻撃と言葉からは、深い怒りと悲痛な悲しみを感じた。アイツは、ハーゼンベルギアは……
本当に──心から、全世界を救いたいと願っていた。その為の行動も、こうして行い続けている。
「近衛流──ッ!?」
「我らは!!全ての世界を救い、平和をもたらすのだ!全ての命に等しく幸せを、幸福を与える為に!」
左側の茂みから飛び出し、右手に持った鉄の剣を振り上げて蛇の尾を斬ろうとした時。
地面から伸びる細い触手が近衛琴音の足に絡み、上半身や首を徐々に強く締め付ける。
今奴に対抗出来る者は、もう居ない。それもあってか、自身らが目指す世界を、理想郷を力強く叫ぶ。
「誰が喜ぶと言うの?!こんなにも不平等で不公平な世界を!誰しもが願う!幸せになりたい、夢を叶えたいと!」
「それ……は……」
打ち付ける手は緩めず、締め付ける力も緩めない。奴の叫ぶ言葉はどれも、共感出来る。
不平等・不公平が無くなれば、男女の結婚率が上がるかも知れないし、上がらないかも知れない。
幸せになりたい、夢を叶えたい。それは殆んどの人が思い、願うだろう。
故に、不平等・不公平な世界を喜ぶ者はそう多くない。心当たりのある巴は、何も言い返せない。
「故に、我らが叶える!全ての世界や命と一つになり、永遠の公平・平等・平和・幸福を!!」
「一方的な善意程、地獄への道を舗装する。それを破壊すべく、俺達はお前達に反旗を翻した」
「その声──ぐあぁぁっ!?」
誰にも叶えられない、誰にも出来ない願い。故に融合して、全ての壁や偏見を取っ払う気だろう。
そんな時、聞き覚えのある声が──「地獄への道は善意で舗装されている」と、遠回しに言う。
すると心鬼の周りを薄暗い球体が包み、激痛の余り悲鳴をあげる中。自分の背後から近付く足音が一つ。
奴を包む球体。それは自分が静久の紋章を借りて使う、破壊の力。目の前に立つ黒いローブの彼は……
「近衛琴音!」
「近衛一刀流──オラシオン!!」
気付けば鞭打つ手は止まり、近衛琴音に絡み付く触手も自ら解けて行くのを見て、呼び掛けると。
左手で剣の表面を根元から撫で払い、魔力を付与。緋色に光る剣で心鬼を球体ごと八回斬って離れる。
結果……再生の効果を破壊の力で無効化された上、切り裂かれてバラバラになった体が灰化。
今度と言う今度こそ、復活も出来ず決着がついた。彼の──ディストラクションのお陰で。




