嫉妬 -serpent-
『前回のあらすじ』
始まった、新たな悪夢・心鬼との戦い。されど直感が読み間違えたり、エックス自身が既に消耗し切った状態。
ゼロの心鬼に対する容姿が自身の視る姿とは違う事や、過去視点で本体を見付けるも攻撃が追い付かない。
その原因を破ったのは──大斧に姿を変えたジャッジ。本物の魔王・クイーンに近衛琴音と協力して挑む。
静久とベーゼレブルの機転で魔王の本体を掴まえ、倒すべく静久が自身専用のsin・第三装甲を呼び出す。
静久の腰に円形のアークバックルが現れ、ランプが緑色に光りsin・フュージョンを発動。
修復された第二装甲を身に纏い、バックルの左右端に見知らぬ部品が自動で装着。
sin・第三装甲の亀の甲羅かと思う装甲が飛来しては開き、変形し重厚な胸部・背部・肩部・脚部パーツへ。
八岐大蛇ユニットの頭が分離し、頭部・両肩・両肘・両膝・背部。腰に尻尾パーツが装着され完成。
『change……Seven Deadly Sins・serpent Sin』
「これが……完全版のsin・第三装甲。龍や狐、狼が使っていた未完成版と同じとは……思うなよ?」
「例えどの様な姿になろうとも!!完全体となりし我に敵うと思うてか!」
各部の蛇眼が紅く光り、敵を視認。静久の言う通り、完全版と言うのは伊達ではなく。
大幅に消耗した魔力・霊力が限界を超えて尚充電され、正・副・予備のエナジーメーターすら満タンな上。
バイザーにはover-chargeの表記。相手も完全体へ成り、鬼の姿を真似た巨大な黒いモヤを纏う。
物理判定があるのか。そのモヤの右手を振り上げ、此方に向けて力強く振り下ろす。
「負の感情でブーストされた鬼の力だ!貴様に我らが正義を受け止められる訳が……っ?!」
「指一本で──受け止めた?」
「……こんな子供の遊びに付き合う気は毛頭ない。それに、正義とは……感情任せの怒りだ」
自信満々に、声高に説明混じりで繰り出す一撃も、左人差し指一本で巨大な右拳をあっさり受け止め。
軽く右側へ流し、重装甲とは思えぬ高速移動を見せ、心鬼の右腕を道にして懐へ潜り込み。
正義が何かを返答した上で胸部に左手の掌底を打ち込み、三歩程距離を空ける様に飛ばした。
次の瞬間──右手に持った大斧の刃や柄が伸び、三日月斧へ変形。そのまま縦に振り下ろす。
「そんな阿呆でも分かる事を叫ぶその愚かさ・幼稚さにある意味……嫉妬すら覚える……」
「正義が──感情、任せの怒り……だとぉ!?」
「個人では知識不足、集団なら思考放棄……身勝手な当たり前や常識を振りかざす、糞餓鬼の所業も同然……」
頭から真っ二つになる心鬼だが、その赤眼は此方の言葉へ反応する様に動き、射殺すかの如く睨む。
上手く呂律が回らないながらも問い返した。刹那──蛇首が横一閃を受けて左右の地面に落下。
語り、右側へと振り切った静久の右手には三日月斧から大鎌へと変形した、ジャッジが握られていた。
「……ならば問う。何故相手の発言を根拠も無く身勝手に否定・批判し、悪と決め付ける……?」
「あ……っ」
俗に言うヤンキー座りをし、心鬼の頭を見下ろしながら問い掛ける静久。
その言葉に近衛琴音は自身らが魔王と呼んだ人間を、自分達や勇者パイソンの言動を思い出して悔やむ。
その間にも心鬼の切断された体は、蜥蜴の尻尾やミミズが如く蠢き、一つに戻ろうと細胞分裂を行う。
「正義の反対は悪……?阿呆、正義の反対はもう一つの正義。でなければ、戦争なぞ起きん……」
「う、裏切り者の貴様に──世界の、人の心の何が分かる!?」
「その認識が愚かだと、何故分からん……人が他人を百%理解など出来ん。寧ろそんな理解など不要……」
体が全て結合して行くのを見つつ、正義の反対はもう一つの正義。故に意見の衝突が生まれ──
軽くて喧嘩、酷くて戦争が起きる。そう諭す様に語れど、心鬼は首が引っ付くと同時に。
起き上がり感情的になり裏切り者云々と食って掛かるも、同じく立ち上がる静久が一蹴。
完全な相互理解は絶対的に無理。逆にしてはならないと、呆れ果てた様に気だるげな態度で返す。
「知った様な口を──スキル発動・爆心地!」
「知っているさ……故に、私は──」
心鬼は距離を大きく空け、蛇の両腕で四角形の枠を作り、此方を枠の範囲内に収めると。
スキル発動を宣言。スキルの使用に必要となるキーワード・心が付く言葉を唱えれば。
話す途中で突然足下から次々と爆竹同然に。なれど威力は断然その比ではない爆発が起き、煙に飲まれる。
「母神イザナミと天照大御神の怒りを買い、オオゲツヒメを殺した阿呆……スサノオに殺された……」
「な……!?異心、悪心、寒心!」
だが──球状のバリアに阻まれ無傷。淡々と語る姿を見て再び両腕で枠を作りスキル発動。
裏切りを企む心、吐き気、不安や恐れの念。それぞれを黒・緑・青の衝撃波で作った枠から放つも。
全く受け付けない。負の感情の集合体故か、はたまたそう言う性格なのかは兎も角、感情的になり。
此方に意識を集中させ、視野を狭めてまで一撃の威力を上げて撃ち込み続ける。
「だからこそ。私は視野を広げるべく……結末を知った上で旅に同行した。お前とは何もかもが違う……」
「近衛流槍術──雷光・五月雨突き!」
「──っ!?」
全く通じない中、静久から放たれる言葉。視野を広げるべく、覚悟を決め旅立った者と。
周囲の心だけを知り、全てを知ったつもりの者。覚悟・決意・行動力、その何もかもが違い過ぎる。
同時に視野を正面に狭めた為、左側面から繰り出される雷を纏った槍の連続突き。
その直撃を受け、奴が纏っているモヤ諸共穴だらけに。されどまた穿たれた箇所が蠢き、再生を始める。
「再生速度に変化無し。弱点を突くしか、攻略法は無さそうね」
「我に弱点など存在せぬ!当然攻略法と言ったモノもなぁ!!」
「成る程。文字通り、実体を持った幻影か……だが。テール・ツール……」
追撃に再度雷光・五月雨突きを繰り出した近衛琴音。しかし手応えはあれど、倒せない。
体が修復されている間も、自身には弱点や攻略法は無いと声高に叫び、傲慢な笑い声が混じる。
その様子を見届け、無いと言われる攻略法でも思い付いたのか。八本ある尾の一つを分離。
左手に純白の銃・恋月が白い光に包まれて現れ、銃身に緑色の尾が装着。尾は自ら変形しロングバレルに。
「直撃寸前に被弾箇所を霧散させ……無敵になる。しかしそれも、霧散した部分が残っていれば……の話」
「──ッ!?スキル発動・嫉妬心、好奇心、闘志!」
電磁砲に似た形状と成った銃口を奴に向け、真実の眼で見抜いた内容を話す。
言われた内容が的を射ていた。そう判断出来るが如く一歩下がり、両腕を此方に向けて蛇眼を光らせ。
自分達の四方から、紫色の巨大な蛸らしき触手を四本生やし、叩き潰さんと襲い掛かって来る。
「図星か……。せめてもう少し、隠す努力をしろ……」
「サポートはいる?」
「頼む。とは言っても、心鬼の相手を……な。私は厄介な黒蛇の相手をする……」
「成る程……。そちらは因縁のある相手みたいだし、承知したわ」
銃口にエネルギーを溜めつつ、呆れた様子で愚痴る静久に援護はいるか?と訊ねる近衛琴音。
その質問に答え、心鬼の相手を全て任す。どうやら、静久も感じ取っていたらしい。
現れてからずっと大人しかったベーゼレブルの魔力が高まり、獲物を狙うが如く此方を視ているのを。
それに納得した近衛琴音は此方と背中を合わせ、話終えると共に地面から生える前方の触手二本へ挑む。
「嫉妬心、好奇心、闘志。此方への攻撃と思っていたら……お前を焚き付ける為の行為とはな」
「元々、戦おうと思っていたのだよ。ただそれが──早まったに過ぎない」
「お前相手に手加減は出来ん……が、速攻で倒してやる……」
「随分とデカい口を叩くではないか。八岐大蛇風情が」
心鬼の発動したスキルの狙いは、ベーゼレブルを焚き付け、此方にぶつける算段。
どの道、遅かれ早かれコイツと戦うのは避けては通れない。それは静久も分かっている。故に──
触手の合間から歩いてくる人型の奴に銃口を向け、速攻で倒すと言う言葉を引き金に電磁砲を発射。
奴が左腕を右側から大きく振るった結果。弾丸は弾かれ、隣に居た触手を穿ち消滅させるに終わった。
「ほう。破壊者が持つ雷属性の魔力を利用し、電磁砲として弾を放つ。なかなか良いアイディアだ」
「チッ……お前、今度は何を喰った……?」
「処刑された優男。そう言えば、お前達なら分かるのではないか?」
先の一撃で今のがどう言うモノかを理解し、消滅して行く触手が消え、影に隠れていた姿が見える。
その姿を見るや否や、静久は舌打ちをした後に今回の捕食対象を訊ねたら……
処刑された優男と言う。十中八九、勇者パイソン。その為か、陽の光に照らされた容姿は──
全身右半分が白、左半分が黒。短髪で神父服なのは、此方と戦い易い格好なのかも知れない。
「何度倒しても切りがない上、煮ても焼いても食えない奴め……っ!!」
「私にも成すべき計画がある。その計画を遂行する為にも、暢気に死んでいる暇は無いのだよ」
ベーゼレブルが走り出した、と思った瞬間。奴はスケートリンクで滑るが如く、縦横無尽に動き回り。
正面へ現れ、立てた両指で素早く何度も突き出す。何度倒しても復活する、厄介極まりない難敵。
静久も負けじと両手で素早く横に捌き、流れる様に屈んで足払いを仕掛けるも、軽く跳ばれて当たらない。
「いい加減……思い出の中でじっとしていろ!」
「お前達が何と言おうと。私は計画を果たさぬ限り、思い出にはならないさ」
避けられた直後、右手に持った大鎌を横に振るい追撃を打つも、空中で仰け反って回避する始末。
両手で着地しバク転に繋げて距離を空け、苛立ちながら言われた言葉に真剣な表情で言い返す。
戦う度、動きや読みも自分達に追い付く……違うな。成長に合わせて実力を解放しているとすら思う。
ある意味、本心を見せない部分も含めて不気味な奴。ベーゼレブルの計画とやらも気になるが……
「だが──喜べ。私の計画は完遂に限りなく近付いている。終焉の時は近いのだよ」
「言ってろ……私達には関係無い」
「大いに関係あるのだよ!我々が、共に終焉を迎える為にも」
追撃はまだ終わらない。そう言う様に電磁砲を向け、弾丸を連射する静久と──
奴は両手で掴んでは受け流しつつ、誇らしげに自身の計画が終わりに近付いていると話す。
自分達に関係無い。そう言い返せど、ベーゼレブルは深く関わっていると怒鳴る。奴は……何を知っている?




