魔王 -queen-
『前回のあらすじ』
過去の記憶とバックルが映す悲劇の記憶。それは、広島へ落とされた原爆から繋がるモノ。
近衛琴音を追い掛けた先では、魔物の街に住む者達から魔王と呼ばれる人物と出会うも、その人はただの人間。
話し合いで終わるかと思えたが、無月闇納が介入し話し相手を殺害。そのまま近衛琴音の身体を乗っ取り、街へ。
後手になりながらも街へ戻った先で、黒いモヤから闇納の子供・心鬼が誕生する場面に立ち会うエックス達であった。
此方へ飛び掛かって来る心鬼が金棒を振り上げ、奴の眼を見た瞬間。
妙な寒気を覚え、直感からイメージが届く。金棒で殴るのではなく。
先端を此方の顔面目掛けて投げ、直撃すれば頭部が消し飛ぶ。即死攻撃が来る、急いで避けろ……と。
つまり、奴の物理攻撃は見た目以上に殺傷力が高いが……投擲は直線。タイミングさえ合えば避け易い。
「何──ッ!?」
「何……?」
確かに丸太の如く太く、棘の生えた金属質な金棒は直線的に投擲された。だが……
右へ一歩ずれて避けた刹那、金棒は霧散する様に黒い霧となって消えた。直後、奴の姿は正面に居らず。
慌てた様に直感が働き、前方へ飛び込み前転した。すると背後から重々しい金属音と砕く音が鳴り響く。
「クソッ……一体、何が起こった!?」
「今のを──避けた?一撃で仕留める予定だったのだが……」
「貴紀さん……?」
前転を終え、屈んだまま振り返る。其処には突如姿を消した心鬼が石の床を金棒で叩き砕いており。
もし直撃を受けていたら、本気でヤバい事が証明され背筋に寒気が走る。
自分は何が起きたか分からず、相手は何故避けられたのかが分からず、巴は何故か此方に疑問を持つ。
「流石、不完全体とは言え我らが弟妹を倒して来た男。我の予想を上回るか」
「ふぅー……ふぅー……」
(不完全体の弟妹?あの化けモン、宿主様に何を言ってやがんだ!?)
(多分眼よ。奴の眼を見ると、何か異能を受けてしまうんだわ!)
知る者にしか分からない様な言葉使いをする心鬼。此方は複数人の転移で魔力・霊力共に消耗済み。
其処に直感の判断ミスや土壇場の緊急回避で息を切らし、体力も既に限界が近い。
心鬼をゼロは化けモンと言い、眼を見る事が異能。即ち奴が能力・効果を発揮すると見抜く霊華。
「貴紀さん、動きに余裕がない」
「其処で大人しくしてろ……流石に力を大量に消費した後では、厳しい……か」
ならば、眼を見なければいい。目を閉じ、心鬼の魔力に視線を向け動きに注視する。が──
今度は死因に繋がる無数の恐怖心が脳裏に浮かび、集中の邪魔をされて奴の動きが捉えられない。
邪念を振り払う様に首を横に振り、目を開けば既に奴は目の前で、巨大化した右腕を引き絞り。
見るからに此方と同じ高さはある巨拳を繰り出す。正面から来る為ハイジャンプで高く跳び、後方へ着地。
「どうしたJUDAS。もう息切れか?」
「う……うるせぇ」
(宿主様!蜘蛛の巣っぽいのを背負ったミイラの化けモンはあっちだろ!!何を一人で飛び回ったりしてんだよ!)
「何っ!?」
右腕を元のサイズに戻す中、余裕綽々な薄ら笑いを浮かべ此方に挑発的な言葉を言う心鬼。
安い挑発に乗る程、冷静さは欠けていない。そんな時、ゼロから予想外な事を言われ。
あっちだと言う大広間の祭壇に視線を向けるも、何も無い。俯瞰視点で見下ろせど、何も見えず。
しかし過去視点に切り替えると……居た。ゼロの言う通りの奴が、一人で飛び回る自分を嘲笑う姿が。
「其処か!」
「ふふふ……何処に撃っているのかしら?」
「クソッ!面倒臭い奴だな」
視た直後に朔月の銃口を祭壇に向け、連射するも手応えはなく、祭壇と周りが壊れただけ。
四方から聞こえる、女の嘲笑う声。何処からともなく、不可視の弾幕が飛んで来る始末。
更に言えば、幻影だと認識した心鬼がステップを踏み、飛び込みと同時に繰り出す金棒。
嫌な予感が働き、フォースガジェットに力を注ぎ魔力の刃で防ぐと……重みと強引な力に押し返された。
「幻影……じゃない!?」
「いいえ、確かに貴方が視ているソレは幻影。されど、実体を持つ幻の──ッ!!」
確かに感じる、右手が痺れる手応え。過去視点では目の前に存在していない。されど手応えはある。
無であり有である幻影。そう言葉が響いて来た直後──バックルのランプが光輝き、何かを放出。
ソレは空へと昇り、薄く透明な半球状のバリアらしき物を破壊。そのまま落下し、自分の目の前へ。
「幻影の源たる空間は砕いた。今の我々に出来るのはここまでだ、ジューダス。いや……我らが友よ」
「その声、ジャッジ!お前なのか!?」
「幻影空間が!?いや、アダムやディストラクション同様、疑心暗鬼と化した仲間達に襲われ……?!」
石床に見えていた足場には草が生え、街並みは森へと変貌。話し掛けてくる大斧からは、ジャッジの声。
幻影空間と呼んだドーム状の結界が破れ、ゼロが言う心鬼の本当の姿が漸く視認出来た。
干からびた蛇を思わせる頭部と腕部、脚を開いた蜘蛛の胴体、ミイラ化した人間の脚部と言う姿。
成る程。確かに開いた蜘蛛の脚が隣へ繋がっている形は、蜘蛛の巣にも見える。
「魔王・クイーン。貴様には我ら終焉の闇勢も恨みがある。デトラ、今こそ我らで奴を裁く時!」
「コイツがアインの死因にして、ディストラクションが匿われる程襲われた原因。殺るか」
「私も参加させて貰う。個人的にも、コイツだけは許せない」
右手のフォースガジェットを懐に直し、代わりにジャッジの大斧を片手で振り上げ右肩に乗せ。
分割した魂の二人がコイツに片や殺られ、片や瀕死まで追い込まれた。なら……俺の敵だ。
すると近衛琴音が隣に立ち並び、白い槍を右手に。黒い盾を左腕に装備し、声に怒気が含まれている。
「ハッ……何を怒っているの?知性ある命とは皆、こう言う愚か者達でしょうに!」
「まあな。だが、それでも」
「えぇ。それでも──だからこそ、私達はアナタを倒す!」
蛇顔の口から吐かれる真実、極々当たり前の事実。その言葉に俺や近衛琴音も、否定はしない。
故に目を閉じて、発言を遮る事もせず、無言のまま聞き続け。言い終わったのを見計らい、目を開く。
一旦は心鬼の言葉を肯定するも。それでも、だからこそと続け、改めてお前を倒すと断言し飛び込む。
「スキル発動・疑心暗鬼!」
「小賢しい!!」
「──!?」
「近衛流槍術──散沙雨!」
頭部の蛇眼が光り、最初と同じく幻影を見せ今度は同士討ちを狙って来たが……
左手の甲で勇気の紋章が緋色に輝き、怒りの言葉と気迫で奴のスキルを真っ正面から破る。
するとスキルを破られた事が相当衝撃的だったのか、動揺が素人目にも分かる程狼狽え。
その隙を逃さんと心鬼の背後に回り込み、魔力で強化された槍による素早い連続突きが奴の体を何度も穿つ。
「っ……残念。我の本体は、この体ではない。さあ、死ぬまで我が本体を求めて踊り狂いなさい!」
「幻影?分身?どれが本体だ!」
「多分、私達が視ているのは全て実体を持つ幻影。本体は私達が疲弊するのを待ってる筈」
身体中を穿たれたのにも関わらず、頭部は背後の近衛琴音に。両腕の蛇頭は此方を向き。
本体は自分ではないと口角をつり上げ、消えたと思えば周りに無数の、様々な種族の心鬼が出現。
近衛琴音曰く、俺達が視ている心鬼は全て倒しても意味の無い幻影。
倒すべき本体は隠れ、此方の疲弊を待っている。幻影を倒そうが倒さまいが、どちらも同じ展開。
「……近衛琴音、派手に暴れられそうか?」
「さっきの話、聞いてた?コイツの本体は私達の疲弊を──えぇ、体力には自信があるわ」
周りを見て幻影達の動きを把握していた時。ある事に気付き、背中合わせに近衛琴音へ提案をするも。
呆れた様子の声で言い返され、再度注意喚起をする途中……とある事に気付き、提案を飲む。
大斧で迫り来る幻影を草ごと斬れば、黒い霧となって消えては新たな幻影が生まれ、それの繰り返し。
近衛琴音も槍を振り回し、乗り越えた幻影を盾で殴り倒しては踏みつけ、幻影は霧散。
「何をやっても無駄。抵抗は止めて、死を受け入れなさい」
「ダンスは行ける口かしら?」
「まあ、少しだけなら」
何処からか響く心鬼の声。幻影の群れは攻撃の手を緩めず、此方に飛び掛かってくる。
倒しても倒しても切りは無く、何度か攻撃を受けつつ問われた質問に答えると、此方の左腕を左手で掴み。
そのまま振り回され、独楽の如く回転。迫り来る幻影達を大斧で切り刻み漸く停止。
「やっぱり、本体を始末しないと無駄っぽいわね」
「あぁ~、目が回る」
「何をやっても無駄だと、何度言えば……!?」
倒した端から幻影が次々生まれ、刈れたのは周囲の雑草だけと言う結果に。
回転の勢いが強かったのもあり、手を放された俺は千鳥足のまま倒れない様するも、結局尻餅を着く。
若干、心鬼の声が近く聞こえる。そう思っていたら、雑草を刈ったギリギリ外でジタバタと動く影が三つ。
灰色の蛇が、白と黒。二匹の蛇に喉や胴体を噛み付かれ暴れている光景を見付けた。
「木を隠すなら森の中……阿呆め。蛇が自分だけと思ったか……」
「な、何故我の位置が正確に分かったのだ?!」
「何故分かったのか?愚問だな。原初の蛇に知恵比べで勝とうなど、端から無理な話なのだ」
白と黒の光が放たれ、人の姿を取る三人。一人は静久、もう一人は鬼の姿の心鬼。
最後の一人は……神父服姿のベーゼレブル・ツヴァイ。どうやら蛇に化け、雑草の中に紛れていた様子。
正確に分かった理由は俺達が雑草を刈りながら戦い、わざと見せた隙にテメェが引っ掛ったからだ。
「ならば本気で相手をしてやろう!魔王・クイーンの全力を思い知り、絶望の果てに死ぬが良い!!」
「お決まりの死亡フラグを……貴紀、sin・フュージョンをするぞ」
「でもまだ、静久のsin・第三装甲は」
「イリス相手には不利な上……悟られぬ為、敢えてそう言ったまで。コイツは丁度良い肩慣らしになる……」
心鬼は二人から大きく距離を取り、全力を引き出すべく周囲から負の感情を全て吸い込んで行く。
そんな中、静久からsin・フュージョンの要請を言われ、イリス戦の時に言われた事を思い出し。
伝えると静久なりの考えがあった様子。けれど心鬼相手には丁度良い肩慣らしと、悪い笑みを浮かべる。
『sin・フュージョン!』
「コール……ゼノサーペント……」




