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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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対面 -survivor’s guilt-

 『前回のあらすじ』

 終焉の闇誕生の上映が終わった後、不思議な未来を見てしまうエックス。それは、ワールドロードとしての覚醒。

 新たな上映の光に包まれ目を覚ました場所は、不思議な魔物達の街。その街で処刑された勇者パイソン。

 助けを求める声無き声に導かれ、辿り着いた所で目にしたのは……勇者と呼ばれた近衛琴音。魔王・琴音の過去の姿。

 勇者琴音は魔王・クイーンの討伐使命を受け、この時代のヴォール王国へと旅立ち……森に住む住人達を虐殺したのであった。



 狼の森を抜けた直後、視界が渦巻く様に捻れて歪む。されど渦巻き切ったと同時に、元に戻って行く。

 其処は場所こそ変わっていないのだが……大勢の移民とも取れる人達が狼の森へと自ら進んで入る。

 見えているのは自分だけと思いきや。静久や巴も驚愕の表情で辺りを見渡す様子から、違うと判断。


『クソッ……父さん、母さん。どうして……』


『生き残ったのは……私達だけ。後ろで殺られた人達の悲鳴が、まだ……耳に残ってる』


『なんで──なんで僕だけが生き残ったんだよ!!』


 けれど、その表情は葬式時や葬儀後かと思える程に暗く、大抵の人達が俯きながら歩いている。

 両親の死を嘆く男性。避難中に亡くなられた人達の顔や悲鳴が脳裏に焼き付き、忘れられない女性。

 自身だけが生き残った事に対し、強い罪悪感を覚える青年。各々苦しみを背負い、森へと消えて行く。


「貴紀さん!今のは……」


「この場所の記憶──だと思う」


 驚きの余り訊ねられるも、自分だって確証は得られていない為、曖昧不確定な返答を返す。

 けれど、大きく外れてはいない。左眼に霊力が集中してるから、過去視点が記憶世界に干渉してるんだと思う。

 

「おい、バックルが……」


「これ……は」


 そんな矢先、バックルのランプが虹色に光輝き光を放つ。すると……過去の映像が今現在の光景と半分ずつ。

 左右対称と言わんばかりに、過去の現代と幻想の地を映し出す。その映像も……酷いものだ。

 昭和二十年八月六日・午前八時十五分、正確には十六分。広島に原子爆弾が投下され、爆発直後の映像。

 爆心地の光景らしく、恐らく三十万度の熱量と閃光を浴び、目の前で瞬く間に蒸発して行く大勢の人々。


「爆心地の地表温度は三千度から四千度……太陽の表面温度には劣るものの、人が生きれる場所じゃない……」


「ひ、人が……うっ!!」


「…………そうか、今理解した。これは──自分を構成する魂達の記憶なんだ」


 爆心地から半径三百二十メートルを火球が瞬時に蒸発させ、半径五百四十メートル以上が壊滅。

 三キロメートル離れた硝子も全壊。真っ赤に染まる大地は生命の存在を安易に許さず、赤熱し続ける。

 日常を過ごす人々が目の前で無抵抗に、避難さえ許されず一瞬で蒸発する姿を見て、思わず吐く巴。

 同時に……理解した。これは、オメガゼロと化した際に得た──地球に住む人々の記憶だと。


「そうだ。デトラは同じ悲劇を避ける為、長崎に落とされた原爆を……市街地の中心から外に」


「命懸けでな……恐らく此処に居る人々は……原爆で死した魂が、幻想の地に迷い込んだ」


 デトラも……自分の記憶を引き継いでいた。だから命を懸けて、限界ギリギリまで──

 それでも、助けられなかった大勢の命が……この幻想へと迷い込み、また命を狙われ奪われるとはな。

 そこで映像は終わり、森に残された屍の山から無数の光球が無数に抜け出し──バックルのランプへ吸い込まれた。


「ノアの……方舟」


「それより、早く琴音を追い掛けないと──!?」


 その様子を見た巴が、バックルをノアの方舟と呼ぶ。名前がアークバックルなので、正解ではある。

 だが、それよりも今は琴音を追う方が優先は高い。そう思った瞬間……景色が後ろへ引っ張られる様に。

 SF作品で言う、ワープ航行と同じ光景。それが終わった次の場はなんと、魔王城の玉座。

 更に言えば、魔王には全く見えない人物と琴音が対面している場面。けれど、争う様子はない。


「汝が……魔王?」


「君達からすれば、そう呼ぶ人物だろう。されど我々からすれば、君が魔王にしか見えない」


「私が魔王だと?!」


「実際そうだろう?我々は君達に何もしていない。なのに君達は、我々を一方的に攻めて来ている」


 魔王か?と呼び掛けた相手は自分が見ても、ただの人。マントも付けていなければ、冠も付けてない。

 服装も、ただの黒い布服と言うだけ。魔力や霊力での強化もなく、魔法使いでもない黒髪短髪の女性。

 問い掛けに対し、正論を返す女性。感情的になり、聞き返す琴音に女性はただ、ありのままを言う。

 何も知らない、知ろうとしない。そんな操る側に都合の良い人物など、使い捨てとして利用しない手はない。


「貴女は知るべきだった。自分が何者で、倒すべき相手がどう言う存在なのかを」


「何を……」


「僕達はこの廃墟に、滅びた国に住んでいる難民の人間。君達は僕達の理解を超えた力を振るう人外だと」


 故に、今回の様な事態が起きる。諭される様に語る女性の眼は可哀想な人を見る眼をしており。

 動揺する琴音に、自身らが滅びた国に住む難民である事や、琴音達よりもずっと弱い存在だと。


「そう言えば、以前此処に来た蛇男の彼はどうしたの?彼は黒幕に気付いたと言っていたけど」


「パイソンは……魔王に精神をやられた為、救済の儀式を受けて……死んだ」


「…………そう。いつの世もそうだ。不都合な真実に近付いた者は、国のトップや不都合な者に消される」


 何かを思い出したかの如く訊ねるも、勇者パイソンは──黒幕に不都合な真実に気付き、処された。

 現代でもそうだが、真実を知り過ぎればそれを良しとしない者達に命を奪われ、存在すらも消される。

 誰かの成果を奪い、その誰かを用済みと消す人も存在する。その結果はまあ……良し悪しありだが。


「もし君が望むのであれば、僕を殺して戻れば良い。仮に生き残っても、孤独死するだけ」


「ッ……!!」


 女は琴音に近付きながら、生殺与奪の権利を琴音に渡す。部屋を見渡せど、玉座の間の出入口は一つ。

 琴音の背後にある為、逃げるとしても自身より遥かに格上の相手を突破する必要がある。

 仮に生き延びても、彼女に同胞は居ない。全て、琴音が殺してしまったから。

 生き残った者が感じる罪悪感に苦しむ。女は受け入れ、琴音は苦虫を噛み潰したかの様な顔をする時。


「難民移民。現地民からすればそれはただの侵略者であり、相容れず、自国を我が物顔で闊歩する悪そのもの」


「──!!」


「そんな害虫。全て駆除してしまう方が、世界的にも平和だと思わない?」


 肌に静電気が走った様な感覚を覚え、透き通る声が部屋中に響き女の背後を見た瞬間……

 女の左胸を突如現れた闇納の左手が貫き、喋り終えると同時にまだ脈打つ心臓を、簡単に握り潰す。

 目の前で心臓を握り潰され、何が起きたのか理解を拒む琴音の顔に……これが現実だと、飛び散る返り血。


「ハーゼンベルギア!──っ!?」


「か……らだ……がッ」


他人(ひと)の記憶にまで潜り込む不届き者達。この廃墟の崩落に飲まれ、心中してなさい」


 無月闇納こと、ハーゼンベルギアは放心状態の琴音と一体化する様に溶け込み、此方に背を向ける。

 その一瞬で横顔の微笑みを見た刹那、奴の目的が理解出来た。足止めの意味も込めて呼び掛け。

 追い掛けるべく走り出す時──全身を針金で何重にも巻かれた様に、全く動けない!

 睨む様に此方へ視線を向け、崩落に飲まれて死ね。そう言い残し、玉座から歩き去って行く。


「クソッ……アイツ、自ら崩落を……!!」


「やるしかない……此処でやられてやる程、諦めは良くない!」


 直後、始まる崩落。次々落ちてくる瓦礫、差し込む太陽光。まだ……陽は落ちていない。

 此処での全滅より、疲弊してでも生存をと判断し、目を閉じ精神を集中させて二人の位置を把握。

 体内を駆け巡る魔力・霊力を全身で融合。範囲内に円陣を広げ、崩落する中で瞬間移動を発動し跳躍。

 跳んだ先は勿論──今回目を覚ましたあの不思議な街。それは良い、そこまでは良かった。が……


「燃えて……る?」


「ッ……生存者を探すぞ!」


 街の入り口たる、砦の入り口かと思う鉄製の分厚い門。それが──内側に倒れていた。

 それも、外側から拳で破られた痕跡が残っている。厚さ五十ミリはある鉄の門が……たったの一撃で?

 街は燃え盛る炎に包まれ、民家にしろ庭園にしろ。燃やせるモノは全て燃えている。

 現状を知る為、生存者を求めて三人で探し回るも……見付かるのは黒焦げだったり、多種多様な死体だけ。


「串刺しとは……な」


「あ──っ、なんて酷い事を」


「黒焦げ死体は雷系、多種多様な串刺しの死体は土系の魔法と見た。しかも……」


 壁に左右から、落ちる天井の棘で、地面から突き上げ、仰向け時に滅多刺しされた死体を発見。

 それはどれも、拷問や死刑を連想させる。巴が指で触れた黒焦げ死体は、風に吹かれ塵と化して消失。

 それらから、琴音と闇納の魔力を感じる。奴の企みは恐らく……琴音の心を砕く為の大虐殺。


「うぎゃあぁぁぁ!!」


「……貴紀、覚悟は……いいか?」


「……あぁ。どうせ逃げても、後悔するのは自分自身だ。それなら、後悔を背負って前に進むのみ!」


 大広間の方から聞こえてくる断末魔。今行っても、助けられなかった事実に直面するだけだろう。

 それを理解してか、静久は自分の方を向いて訊ねる。少しの間だけ目を閉じ、腹を括り目を開き答える。

 静久と巴の二人と顔を見合わせると、二人共短く頷き、一緒に大広間へと駆け出す。

 其処には力無く宙に浮かぶ琴音と、琴音や死体達の体から抜け出て行く黒いモヤが一つに。


「くふふッ!!なんと言う美味な絶望!母上様、我の誕生にこれ程の美味をくださり、感謝の極み!」


「あれは……鬼、ですか?」


「ただの鬼で済めば良いがな。お前、何者だ」


 黒いモヤが地面に落ちると、収束し現れる黒い肌と額に生えた赤い角を二本持つ少年が屈みながら呟く。

 此方からは後ろ姿しか見えない為、巴の質問は正しい。一番の問題は、奴がただの鬼ではない点。

 呼び掛けると此方の存在に気付き、振り返りつつ立ち上がる鬼の少年。格好は……白と黒の和服。


「我が名は──心鬼(しんき)。母上様たる闇より生まれ、他者の心に宿り負の感情を操り喰らう者じゃ」


「成る程……心の鬼で心鬼か。名は体を表すとは言うが、それを能力とする鬼とはな」


「貴様の事は知っとる。我らと同じく母上様より生まれながら、母上様に反逆する裏切り者じゃとな!」


 鬼は自身を心鬼と名乗り、右側へ伸ばした右手に黒いモヤ──負の感情を集め、太い金棒へ変換。

 此方がコートの内側から単眼鏡似のフォースガジェットを右手に、左手に朔月を取り出したのを確認後。

 赤い眼の心鬼は金棒を此方に向け、母親や自分達に歯向かう裏切り者だと発言し、飛び掛かって来た。




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