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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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始動 -LAST HOPE-

 『前回のあらすじ』

 第二装甲が活動限界を迎え、使えなくなってもイリスに挑むエックス。追い詰めたイリスだったが……

 言葉と表情を上手く使い、リボルビング・インパクトを叩き込み──イリスと言う心の殻を破壊。

 ヴァイスを引きずり出し、説得を試み成功。されど自我を持った心の殻に襲われピンチに陥るも。

 トリックやナイア・ラトホテプが救援に現れ、夢現の力をイリスから取り戻したエックスの一撃に散るのであった。



「お疲れ様。今はゆっくり休んでも、誰も怒らへんよ」


「それじゃあ──お言葉に甘え……て」


 ヴァイスからの言葉と共に優しく抱き寄せられ、心と体の疲労が予想以上に酷く。

 ヴァイスの温もりに包まれ、眠ってしまった。何処までも深く落ちて行く感覚に気付き、目を覚ませば……

 映画館の赤い席に座っていた。先程までの戦いが上映し終わり、ENDマークが右端に映る。

 画面が暗くなったと思いきや、また映画が始まる。タイトルは──LAST HOPE。


「最後の希望……か。誰が掲げる最後の希望なんだか」


 無数に存在する宇宙の事を、人は──マルチバースと呼ぶ。それは言わば、可能性の世界。

 またの名を、パラレルワールド。そして我々人間にも、自分だけの世界(ワールド)が存在する。

 此処はそんな多次元宇宙にある、数多く存在する内の……赤い星。仮に第五地球と呼ぼう。

 その地球の人々は欲望が非常に強く、神の領域と呼ばれる禁忌を侵す程、科学が異常に発展した世界。


O.A.(オメガ)西暦一八九年十一月十日、第七十五回目の録画記録。私は心情闇納(あんな)、職業は研究者」


 一人の白い防護服を着込んだ人物が、スマホに似た機械を手に、緑と紫色の混じった街を歩く。

 現在の年代と年表をO.A.西暦と呼び、人気の無い明るい街を録画しつつ、実況をしている。

 今回が何回かを言い、自身の名前や職業をも淡々と発言。恐らく、記録の類いだろう。


「世界各地を巡り回ったけど、何処も廃棄物やガス、薬品などの無断廃棄が汚染の根本的な原因」


「闇納博士。正確には、第三・第四世界大戦で使用された細菌兵器、生物兵器の死骸も該当します」


「えぇ、その通りよDT(ディーテ)。それにまだ……世界中には、様々な地雷が潜んでいるわ」


 何故こうなっているのかを説明し、撮影している中。バスケットボール位の大きさをした。

 球体型のドローンが闇納を博士と呼びながら後を追い掛け、情報に補足を加えつつ。

 地雷云々と話ながら見つめる先には、汚染され紫色に光る人間や猫の他、犬と鳩の死骸の地獄絵図。


「あの死骸達もそう。いつ爆発するか分からない地雷」


「下手に後処理が出来ず、爆発すれば風に乗って汚染が広まる。厄介な状況です」


 死してなお埋葬されず、自然による循環も出来ない。逆にやろうものなら、汚染を広げるだけ。

 放置したとしても、いつかは自ら種を飛ばす様に破裂して汚染地域を広げ、濃度を高めてしまう。

 汚染云々を除けば陸にあげられ、絶命した鯨に近しいものがある。アレも爆発するからな。


「でもね、DT。一番厄介なのは……こんな状況になっても、止まる事を知らない欲望って感情よ」


「報告。此処へ接近するマイナスエネルギーの反応を複数探知。タイムは六十秒と予想」


「やっぱり来たわね……欲望の獣、ラプター!」


 話し終わった頃を見計らってか。はたまた、何処かから会話を聞いて知ったのか。

 DTのセンサーに引っ掛かったのは、マイナスエネルギーを持つ移動物体。

 現代のモデルとは全く異なる白い銃を脚のホルスターから抜き、両手で構え──迫り来る奴らへ発砲。


「へっぴり腰な構え方からして、戦闘経験は無さそうだな。あの博士」


 そんな戦いが起きている事など微塵も知らず、生き残った者達は今はまだ安全な場所。

 地下へ住居を移し、未来の為にとある研究が毎日繰り返されていた。これも良くある話だ。

    

「やったぞ!!長年の歳月を掛け、遂に……完成した!」


 一人の年老いた白髪の老人が、汚染で生命が住めなくなった地上から地下研究所に移り。

 完成した円型の大型機械を前に大声を上げると、研究と開発を手伝っていた老若男女の科学者達も。

 自身らの悲願達成を祝う様に、老人の科学者に向けて盛大な拍手を送る。

 老人は少しの間、感傷に浸り涙を流すも。目を見開き、完成したばかりの機械に近付く。


「じゃが……まだじゃ。この星の──延いては、全宇宙の平和を実現するこの装置が起動するかどうかが問題じゃ」


「そうですね……我々は科学の発展や人類の環境や願望を優勢し過ぎた結果、地球を汚染してしまった」


「今や人口は二十%に届かない程。外の空気すらも、数多の人々がポイ捨てした事で有毒になる始末」


「そうじゃ。この発明は……ワシらの度重なる戦争や大気汚染、森林伐採などの罪を償う為の最後の希望」


 この物語は──そんな多次元宇宙に存在する一つの地球に住む、科学の進み過ぎた人類が引き起こす。

 他の多次元宇宙や、パラレルワールドさえも巻き込む……善意で塗装された、地獄への物語でもあり。


「にしても。桜花博士、まだ帰って来ていないのか?」


「はい。自作され、亡くなられた娘さんの名前を付けた偵察機、DTと出掛けたまま……」


「博士も運がない。世紀の大発明の完成に立ち会えないとは」


 老人と研究員が話す外側で、男の研究員は同僚の女研究員に、桜花が戻って来ないか訊ね。

 訊かれた女研究員も、心配そうに眉を歪めて話す。桜花の帰りが遅いのは毎度の事なのか。

 それ以上は追及せず、肩を落としながら腕を組み、呆れた様子でぼやく。


「成功させましょう。我々人類……最後の贖罪を!」


「うむ。世界を創造せし父と母よ。今こそ汝らの愛し子が作りしゲートを通じ……全世界の道に平和を!!」


 最後の希望と願いを込め、発明品のスイッチを押す老人。

 ゲートと呼ばれた機械はその願いを聞き入れたのか──見事に起動し、彼ら彼女らが望む存在。

 『世界を創造せし父と母』への道を、繋げてしまった。成功だと歓喜に喜ぶ科学者達に反し、老人は……


「すまん……皆の者。そして、マルチバースやパラレルワールドを含む全ての命達よ」


「ど、どうしたんですか?博士……?!?!」


 突然頭を抱え、膝から床に崩れ落ちて震えながら、絶対に届かぬモノ達へに対する謝罪の言葉を吐く。

 一人の女性科学者が老人に近付き、ふと起動中のゲート──その中を見てしまった時。

 謝罪の意味を知った。いや、知った直後に発狂。暴れる前に脳が許容を容易に超え、即死。

 何故なら、繋がったその先に居たのは……盲目白痴にして万能の創造主・魔皇アザトースの玉座故に。


「な、何だ!?ゲートからアンノウンが……!!」


「何この気味の悪い演奏!?た、助け──」


「我々は再び……パンドラの箱を開けてしまったと言うのか?」


 フルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神達……をすり抜け、黒い煙が通る。

 地下研究所へ入った直後。黒い煙は近くに居た女研究者の鼻から体内へ侵入。

 少ししてその女研究者の体は内側から作り替えられ、黒い人型の何かによって繰り広げられる戯れ(虐殺)


「あ……悪夢じゃ……悪夢の異形じゃあ!!」


 それは後にナイトメアゼノやオメガゼロと呼ばれる存在のプロトタイプに該当する──終焉の闇。

 地下研究所でプロトタイプが暴れ回り、全滅させ、ゲートを作る機械も大破。開いたゲートは消滅。


「素晴らしい……これが──融合。全ての命、知恵、力を持つ究極の生命体。だが……まだ足りない。全てが」


 こうして誕生した初代終焉は闇で地球を丸ごと呑み込み、第五地球のあった宇宙とも融合。

 第五宇宙は滅び……訂正。一つの意思の下、永遠の平和と不滅の命を得た。しかし──


「まだだ。全ての世界に平和を。全ての命に安らぎと救済を!その為には……次元と時間軸を越えねば」


 彼ら、彼女らは思考する。マルチバースやパラレルワールド、全ての世界を救済する方法を。

 そうして一瞬で理解する。自身が融合した世界から、他の世界へ飛び影響を与える方法すらも。

 これは……史上最悪の悪夢と、史上最大の地獄から生まれた──LAST(最後の) HOPE(希望)の物語であり。

 エックス達が紡ぐワールドロードと言う物語の内、誰にも語られる事も無い外伝である。


「これが……全ての原因。こんなものを自分に見せて、どうしたいって言うんだよ」




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