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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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勇気 -you set me free-

 『前回のあらすじ』

 戦闘開始と同時に先手を打たれ、最初から追い込まれるエックスは咄嗟の機転で脱し。

 sin・第三装甲を纏って挑むも、愛・絆が次々に破れて行く。静久は装甲が未完成の為、無事。

 唯一食らい付ける恋だったが……遂には敗北を覚悟するも、エックスの言葉と意志で選手交代。

 貫く意志が技となったリボルビング・インパクトで一矢報い、勝負を仕切り直すのであった。



「……ッ!!」


 回避・迎撃・防御。そのいずれかを実行に移そうとした瞬間、パワードスーツの稼働限界時間に到達。

 先程まで動けていたのに、全身を鎖で縛られているかの如く動けず──体当たりの直撃を受け。

 後方へ吹っ飛んで背中から滑り落ちながら、第二装甲がバラバラに飛び散って行く。


「これで……最後の頼みの綱も切れた!」


「…………だから──どうした?」


「もう戦う余力も!術も!!何も残ってはいまい!」


 第一装甲のサバイブスーツも強制送還され、残ったのは普段身に付けている服と装備だけ。

 仰向けに倒れている俺を見下ろし、チェックメイトだと宣言する様に言い放つイリスに……

 敢えて言い返す。だからどうした?と──するとその言葉が頭に来たのか。

 甲殻を手甲サイズにし、俺の襟首を右手で掴み執拗に叫ぶ。お前はもう戦えない状態だと。


「己の力に溺れ、相手は自分に勝てないと思い込む……」


「ん?」


「そう言うのが──甘ったれた糞餓鬼って言うんだよ!」


 イリスの視線や全ての触手が俺の顔に集中している内に、右手で右腰からフュージョン・フォンを外し。

 注意を引く言葉を喋りながら、記憶を頼りに画面を視ずボタンを操作。奴が疑問を持った瞬間──

 飛来する旧第三装甲・一号の仮面が顔に装着され、縦に振り鋭角(ブレード)で顔を縦に裂く。

 すると融合神・イリスの仮面が割れて床へ落ち、素顔が晒された事に気付き首から手を離し顔を隠す。


「仮面を被って素顔を隠し!!殻に籠って本心をも殺す!そんな悲しい人生(世界)……俺が壊してやる!」


「ッ!!──例え今助けられても、世界(現実)は変わらへん!!そんなん……余計今後が苦しいだけやんか!」


 がら空きになった胸部へ今度は、両腕を突き出しリボルビング・インパクトを打ち込む。

 計十二回の内部へ浸透する衝撃に苦しみ、融合神と言う鎧が剥がれるイリス改め──ヴァイス・ツヴァイ。

 融合神の触手で欠損している四肢を補い、衝撃を受け、三メートルは離されているのにも関わらず。

 触手で作った右腕を急速に伸ばし、二メートルに巨大化した拳で此方が殴り返され、後ろへ吹っ飛ぶ。


「俺も……同じだ。己の人生に絶望し、親友に殺してくれと頼み、自殺やオーバードーツすら試した」


「──!?」


「だけど死ねなかった、誰も殺してくれなかった。言われるのは無責任な生きろだの、親が悲しむと言った目糞鼻糞以下な言葉だけ!!」


 壁に激突し、激痛走る背中に苦しみ、足や膝が震えながらも立ち上がり……自身の過去を話す。

 家族と呼べる仲間が居る今とは真逆の、人生に絶望した自殺志願者。その言葉に驚くヴァイス。

 首筋を流れ伝う血を左手で拭い、一歩ずつ歩みながら言葉を続ける。愚者に負傷者の気持ちなど分からない。

 投げ付けられるのは、負傷者を死地へ送り返す言葉。愚者はそれが正しいと誤認し、満足感に浸る。


「ヴァイス!!お前の眼に俺はどう映っている?他の愚者と同じ様に、見えるのか?」


「それ……は……」


 この決着は──暴力での勝ち負けで決する訳じゃない。それでは何も変わらない、変えられない。

 故に、近付きながら問い掛ける。彼女が俺の姿をどう見ていて、どんな風に思っているのかを。

 するとヴァイスは此方を直視出来ないのか。チラッと見ては目を逸らすを繰り返し、口ごもる。


「他人の褒め言葉は信用出来ず、叱責に心を痛めて生きて来た!!でも……だからこそ!改めて知り、痛感した」


「何…………を?」


「他の誰でもない。自分自身で己の失敗や罪を許し、受け入れ、努力や活動を褒める事の大切さを」


 罪悪感や叱責に心追い詰められ、思考も視覚も狭まり誰も信用出来ないのは当然だ。

 そんな闇の中で、小さな光を見付けた。自分の努力を褒め、失敗を許せる……そんな回答を。

 他者に何かを求めるのではなく、自分自身が認める大切さが必要だと、身を以て知った。


「義手で動ける様になったのは誰のお陰だ!?誰が、どんな苦労を積み重ねた結果だ!」


「ウチや……。オラシオンに入りたくって、諦めずに頑張った。ウチの結果や!」


 なんとかヴァイスの真っ正面まで辿り着き、両肩を掴んで今までの努力は誰のお陰かを問い掛ける。

 その言葉に義手で動き、勉学に励み努力し辛かった頃を思い出し心に響いたのだろう。

 最初の小さい声から始まり。続けて腹から声を出して吐き出す、自分自身の努力を認める発言。

 目には涙を滲ませ、頬を伝う数粒の涙。その顔と発言を見て聞き届けると……体から力が抜けて行く。


「よく……認めれたじゃねぇか」


「貴く……っ!?」


 床に倒れ伏した自分を見て屈む瞬間。周囲に黒紫色の魔力弾が撃ち込まれ、爆発と共に破片が飛び散る。

 俯瞰視点を使い、何が起きたのかを確認すると……剥がれ落ちた融合神の鎧が再構築され。

 此方に向けて触手で作った右手を向け、指先から撃っていた。それを確認した後、俯瞰視点を閉じ──


「もういっちょ……踏ん張ると、しますかね」


「そんな体じゃ無理やって!」


「変……身ッ!」


 生まれたての小鹿みたく震える手足を使い、立ち上がるも──やはり足に力が入り切らずふらつく。

 ヴァイスに体を支えられ、今のままでは戦う以前の問題だと言われたが……やるしかない。

 無茶かも知れないけど、無理じゃない。フュージョン・フォンを取り出し、再度ベルトに装着し変身。

 されど、反応しない。想いに反して体が動かず、左膝と右手を床に着け体を支えるのが精一杯。


「最後まで諦めない。鬱病を患ったまま、半ば強制的に始まった旅の中。貴方は此処まで成長した」


「愛する者の為困難に立ち向かう。これを愛と呼ばず、何を愛と呼ぶ!!」


「ジューダス。いや……我らが最愛の友。この場は私達が受け持つから、安心して休んで」


 トドメとばかりに撃ち込まれる魔力連射弾が迫る時。バックルのランプが黒色に明滅したかと思えば……

 遥か上空から目の前に棺桶が落下し、弾を防ぐと聞き覚えのある女性の声が聞こえ……蓋が開く。

 バックルから二つの黒い光球が正面左右に舞い降りて形を成し、消え行く棺桶から現れたのは──

 本気になった真夜改め、ナイア・ラトホテプことナイア姉。黒い光はカーリ、タースに姿を変えた。


「トリック……カーリタース!貴様ら!!我らが母上に反旗を翻すつもりか!」


「反旗を翻すも何も、我々はドゥーム様に仕えし者。そして──」


「ドゥーム様が唯一無二の親友にして、我らが友・ディストラクションを助けているだけよ」


 胴体から首の付いた目玉を一つ生やし、無月闇納ことハーゼンベルギアを裏切るのか問い掛けるも。

 元々終焉の闇No.達は大半、誕生後はNo.01・ドゥームの志に同意して付いて来ている連中。

 無月闇納は同志と知れど、産みの親とは知らなければ、何も感じてない。愛情を向けなければそうだろうよ。

 寧ろ自分を助ける為だと、堂々言い放つ。正直、敵対していた自分を助ける理由が分からなかった。


「事情はデトラ!貴殿の持つ、アークバックルの中で全部調べさせて貰った」


「何故私達を救ったのかも……ね。だから今は、私達にも手伝わせなさい!」


 融合神の鎧……違うな。融合神・アヤメは此方を捕まえようと両手の触手を伸ばし。

 背中の触手から魔力弾を連射するも。ナイア姉が前に立ち、大剣を巧みに振り回し全て捌き切り。

 トリック──男のカーリと女のタースが鏡に写る反射が如く、全く同じ動きを取り。

 喋りながらアヤメの左右から、腹部へ回し蹴りを叩き込んで大きく後退させた。


「我らが王が何故、デトラにのみ極秘任務を与えたのか。それも──納得の理由だった!」


「我ら兄妹や、他の者達では不可能。どうやっても黒き蛇に全てを喰い尽くされ、終わる未来しかない……」


 息の合った攻撃に追撃でナイア姉が一歩で飛び込み、振り上げた大剣の一撃がアヤメを右肩から斜めに切断。

 余程のダメージだったらしく、二歩三歩と下半身が後退。後ろに倒れると切断箇所を接合せんと触手が蠢く。

 その一瞬、赤い球体が頭部へ逃げるのが見えた。アレが奴の核……体内を動き回る新しい心臓(ノイエ・ヘァツ)

 魔力と霊力の混じり合った独特な感じが、奴の体から感じ取れる。狙い撃つのは難しい。


「あの娘の輪廻転生にすら寄生する、哀れで愚かしい魂に──破壊神の一撃を」


「──!!」


「無駄な事を!ワタシの体は如何なるダメージも、生え変わる触手が無効化する……!?」


 斜めに切断された半身から触手が伸び、絡み合って何事も無かったかの如く復活するアヤメ。

 哀れみと苛立ちを孕む発言、奴の前へ飛び込み再生された胸部に右手を抉り込む。

 その行動の意図を理解し、バックルへ手を向けると……右手を引き抜いたナイア姉から小さな光が投げ渡され。

 受け取ると同時にカーリタースが自分の前を交差。受け取った光を胸に押し当てている瞬間──


「返せ!!それは母上に──!?」


 ナイア姉を強引に退け、此方に向けて刀身に変化させた右腕を急速に伸ばす。

 自身が守ると前に出たヴァイスと自分の左胸を捉え、容易く貫き穿った。次の瞬間……

 自分達だと思っていたのはガラスであり、砕け散る様を見て唖然として大きな隙を見せる。


「本当に愚かな奴ね。アレはアンタを道具の一つとしか見てないわよ。愛娘を愛する私達と違ってね」


「「デトラ!」」


「あぁ、準備は出来てる!!」


 そんなアヤメが右腕を元の長さに戻したのを見て、腕を掴みナイア姉の真正面。即ち──

 トリックにアヤメの背後へ移動させれた此方へ向け、一本背負いで投げ飛ばす。

 カーリタースの二人に呼ばれ、左手を正面に向けると小型ブラックホールが出現。

 入れ替えで右手をブラックホールの中へ伸ばし引き戻せば、黒い鞘に納まった日本刀を掴んでいた。


「一刀流──夢現雪月花・百花繚乱」


 即居合い抜きの構えを取り、目を閉じて一撃に神経を集中させ……独り言の様に呟く。

 その間に投げ飛ばされて来たアヤメが頭上を通り抜けるまでの数秒だけ──月夜に雪と桜の花が吹き乱れる。

 直後、股間から頭部まで縦一閃され開きに。開いた体内から零れ落ちる核もまた、真っ二つとなり滑り落ちた。


「アンタの敗因は無数にあるけど、一つに絞るなら──自分の人生を他人に任せた。それだけよ」


「アディオス。愛に飢えし、悲しき獣よ」


「兄様。アイツは融合神なんだけど……」


 溶けて行く融合神・アヤメに対し、三者三様の言葉を送る三人。確かに過去を見る限り……

 コイツは自身の人生における行動の選択を全て、無月闇納に任せた。親の言う事を愚直に守る子供の様に。

 カーリが言う通り、愛に飢えていたのかも知れない。タースに訂正されるも、気にしていない。

 もしアイツに来世があるのなら──世間一般的な愛情に包まれた家庭に産まれて欲しいと願うよ。



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