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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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幻想 -Never say never-

 『前回のあらすじ』

 融合神・アヤメは生命の危機を迎えていた時、目の前に現れた無月闇納に救われる。

 彼女の掲げる全世界平和計画の邪魔となるエックスが手に入れた力……夢想。これの奪取か抹消をアヤメに指示。

 白いお面を被る不思議な少年の言葉が聞こえていないのか、耳を貸さない二人。

 エックスは過去を一部思い出し、融合神・イリスと対面。互いの決着をつけるべく、戦いの火蓋が切って落とされた。



 『他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ』

 十九世紀のロシア文学を代表する文豪、トイ・トルストイの名言。その言葉が脳裏に浮かぶ中……

 イリスの操る触手が蛇の様に床を素早く這い、右足首に巻き付き此方を軽々と持ち上げ──

 駅中のコンビニへと投げ込まれた。ガラスが砕け散り、棚は次々と倒れ、漸く止まったかと思えば……


「緋想──スカーレット・デーモンズ・ノヴァ」


「そうだった、奴は!!」


 八本の触手は短剣の様な先端が縦に開き、サッカーボール程の爆炎球を此方に向けて作り──一斉に射ち出す。

 直撃まで遅くとも四秒。防御は威力が容易く貫通する為駄目、回避も仰向けで倒れてる姿勢故に無理。

 爆炎球が迫り、バックルの中央ランプが青く発光。右人差し指と左手を正面に突き出せば……

 八つの球は大爆発を引き起こし、発生した衝撃波が駅中のガラスを粉砕し吹き飛ばす。


sin(シン)fusion(フュージョン)


「……流石、と言うべきか。だが」


「──っ!?」


「音速移動など、神たる私には止まっているも同然」


 一瞬でsin第三装甲・四号を纏い、爆煙から抜け出してイリスの背後へ回り込む。

 右手で首を掴もうと手を伸ばす……刹那。正面に居た奴の姿は消え、左側から現実を突き付ける声が。

 視線で姿を追い掛け、此方に背を向けていると認識し振り向くまで一秒。その直後──


「絶体絶命の危機で咄嗟に出た新技と、虚無・アインで凌いだまでは良い。が……この選択は誤り」


「何──をぉッ!?」


 床を踏み抜く音が響く右足の踏み込み、胸部を襲う強打の激痛。気付けば──改札機に激突し。

 空中スピンをしながら斜めに跳ね上がり、床を顔面・背中と二回バウンドして駅の線路上へ滑り落ちた。


「鉄っ……山、靠……ッ!?そう、じゃったな。お主は、ぬし様から血液を……ッ!?」


「無理に喋ると……死ぬぞ」


 鉄山靠。八極拳の技の一つで、直撃を貰えば子供の体格でも大人を押し飛ばせる技。

 最悪人命すら奪う大技でもあり、過去の自分が強敵達相手に使用した。それを……イリスが愛に打った。

 胸中央に直撃を受け、呼吸が思う様に出来ぬまま話す中……口から大量の血を吐き出し。

 仮面の左半分と胸部装甲が全壊しており、立ち上がろうとするも膝から力が抜け、俯けに倒れ伏す。


sin(シン)fusion(フュージョン)


「勝ち目など、最初から無い」


「最初から勝ち目が無いなど──ッ!?」


「例え神の名を関していようとも、所詮その種族間での話。汝らなど、融合して生まれた神の敵ではない」


 仮面の眼から光が消え行く中。此方に背を向け、ゆっくりと歩きながら話すイリス。

 バックルのランプが赤く発光。装着されていたsin第三装甲・四号が自ら離れて頭上へ昇ると同時に。

 入れ代わりに二号が降り注いで自動的に装着され、戦闘不能となった愛に代わり絆がメインへ交代。

 背後に飛び込むも……また奴は瞬時に消え、真上から背中に蹴り込まれた激痛を覚えると同時に、体は床へめり込む。


「夢想夢現の力を得た今の私を倒せる者は……私を産み出した存在のみ!!」


「っ……つまり、貴女は──はうっ!!」


 背中を踏みつける足が退いた。かと思えば右手で絆の首根っこを掴み、持ち上げ。

 徐々にゆっくりと力を込められる中、イリスの発言から何かに気付いた絆は両手で奴の右手を掴み。

 足で胸や顔を執拗に何度も蹴り続けるが……その発言を握り潰す様に、薄れ行く意識を反映するかの如く。

 眼の光が明滅。遂には消失し……糸が切れた人形の様に全身から力が抜け、無抵抗に。


「例え真実を知った所で──紅き龍よ。汝らに勝ち目は微塵も存在しない」


sin(シン)fusion(フュージョン)


 気を失って動かない絆に返答……とも受け取れる言葉を返し、首を掴んでいた右手を離す。

 支えを失った絆は床へ仰向けに倒れた後、また奇襲があるかも知れないと睨むイリス。

 今度はバックルのランプが黄色く光り、sin第三装甲が分離し三号と入れ代わりに装着され、立ち上がる。


「汝は他と違い、賢き者と見ていたのだがな。どうやら、評価を改めねばならん様だ」


「理解しているさ。僕達じゃ君と言う幻想に勝ち目が薄い事位は。けれど」


「けれど、なんだ?」


Never(ネバー) say(セイ) never(ネバー)。まだある可能性を諦めるのは、早計と思わないかい?」


 その様子を見て、呆れた風に肩を落とし首を横に振るイリス。かなり恋を高く評価していたらしい。

 その言葉に対し事実を認めた上で言い返す。けれど……続く言葉に疑問を抱き、聞き返すと。

 可能性はまだある、決して諦めるな。何かを伝えているとも思う発言を答えたら。 


「……寝言は寝て言え。決断とは一手二手先を読んでこそ、被害を最小限に抑えられるものだ」


「他人の不幸は蜜の味。人の不幸は誰かの幸福……確かにその通りだけど、生憎僕達は強欲なんでね」


「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。されど不公平な現実、故に綺麗事の理想なり」


 少し間を開け、寝言や被害を最小限に云々と言った。それを聞いて、ある疑問が浮かぶ。

 何故イリスはトドメを刺さない?何故絆達は……こんなにもらしくない戦い方をしているのか?

 人の欲は世界を創造し、滅ぼす可能性の塊。二人が口にする言葉を聞き──双方の意図が見えた。


「汝、接近戦は苦手ではないのか」


「誰がそんな出鱈目を言ったんだい?光闇戦争時代、僕は重量級とタメを張れるパートナーだよ?」


 四方八方から迫り来る八本の触手。されどそれを次々と両手や片手で捌き、叩く形で難無く弾く。

 その事実に疑問をぶつけるも、恋の言う通り光闇戦争時代──パワードスーツもない頃。

 恋との融合形態は重装甲を身に纏い、大型ハンマーを手に高い攻撃力と防御力で相手と殴り合う戦法。

 そこに本来の暗器を用いた戦法や八極拳や拳法、仙術などを組み合わせた戦術が今現在の形。


「成る程。剛力の龍、速度の狼、統合の狐、射撃の蛇。それらを戦況に合わせて使い分けているのか」


「一部違うが、大まかには正解だ。三節棍、白狐・黒狐」


 喋りながら触手の両腕に白い甲殻が発生し、刀身を連想させる形状の武器を生成。

 恋は両手を正面に向けると回転する陰陽印の図が浮かび上がり、印が左右に開くや否や。

 光と闇になり両手へ収まれば白黒の三節棍へ。此方へ飛び込み、右手の鋭利な甲殻で。

 横一閃に切り裂こうと振り払う瞬間。イリスの右腕に三節棍を上からぶつけ、軌道を大きく下に変更。


「──!?」


「先入観は、時に墓穴を掘る。君……僕も絆や愛の様な戦い方だと思ったのかい?」


「…………君の評価を低く改めたばかりだが。これは以前より高く、評価を改めねばならぬな」


 一歩手前の床を切り裂くだけに終わり、何故あんな一撃程度でここまで軌道が変更を!?

 そう思っているのが分かる程視線は足下に向き、その行動に気付き慌てて顔を上げ後退する瞬間。

 振り下ろした三節棍を勢い良く振り上げ、人間で言う顎に会心の一撃(クリティカルヒット)し足が若干浮いた。

 されど直ぐに体勢を整え、恋の発言と実力に下げた評価は上方修正が必要だとイリスは再認識。


(とは言え……僕も何処まで粘れる事か。静久のsin第三装甲は僕達のとは調整が根本から違い、まだ未完成)


「では少しずつ本気を出して行こう。この空間で何処まで持ち堪えられるか試すには丁度良い」


「狐死して兎泣くのは無しだよ……ご主人様」


 内心、静久がsin第三装甲でまだ戦えないのを心配する中。イリスが油断を無くし、本気を出し始め。

 自身が敗北する未来を確信したのか。そんな言葉を口にし、三節棍を一本の杖に生成し直し構える恋。

 両手から繰り出される高速の突きに、受け流したり弾いたりして対処して行く恋だが……

 詰め将棋の如く。次第にsin第三装甲は徐々に砕かれ、杖も切り裂かれ……右膝を床に着け既にボロボロ。


「五十%まで、よく持ち堪えた。最後はこの一撃で、楽にしてやろう」


「ご主人様。後は──任せたよ」


「深き眠りに落ちよ。私が認めた好敵手、天皇恋!」


 まだ本気を半分しか出していない。それでも持ち堪えた事を評価し。

 刀身さながら伸びた右腕の鋭利な甲殻を見せ、この一撃で終わらせると言う。

 仮面の眼から光が消え、腹を括り後を託す言葉を聞き届け……イリスは顔目掛け右腕を一気に突き出す。


「諦めるな!!」


「──ッ!?」


 思わず叫んだ。誰に対して?それは勿論、諦めている・諦めた意思を見せる二人に対して。

 刹那──縦真っ二つに裂けた狐の仮面が宙を舞い、軽い音を鳴らしながら床に落下。

 その音に続き、釘打ち機の様な重い音が六回鳴り響き……イリスは後ろへ二メートル押し込まれ後退。

 右手で腹部を抑えると、堪えられないとばかりに両膝と左手を床に着け、震えながら此方を見る。


「ぐっ……全身に響く振動、内側に深く届く鋭利な衝撃。これが……」


「そうだ。これが──『俺の貫き通す意志』、リボルビング・インパクト」


 仮面の下は恋の顔……では無く、融合の主導権を強制的に奪取した為、自分自身の顔。

 カウンターにと突き出した右拳からは白い蒸気が噴き出し、指からは血が滴り落ちていた。

 リボルビング・インパクト。初めて覚え、幾度も屈強・頑強な相手をも苦しめた技。


「だが……何故だ。何故、無傷で済んでいる!?」


「ンなもん、こっちが知りたいわ!」


 イリスが質問する通り、仮面が割られた以外は全くの無傷。逆に、奴の右腕にある甲殻が一部消滅。

 けど、あの瞬間見えたモノがある。仮面が割れた直後、真っ黒で今にも吸い込まれそうな渦が。

 突き込んで来る鋭利な甲殻を吸い込み、インパクトが浸透し離れるまで、守ってくれた。

 んだが……それが何か分からないし、何故現れたのかも不明。話し合いながら、お互いに立ち上がる。


「しかし、奇跡は二度も起こらぬ」


「かもな。それでも……イリス!俺はお前を止めなきゃならねぇ。誰でもない、俺とお前の為にも!」


「知った様な口を……聞くんじゃない!!」


 消滅した右腕の甲殻を再生。返しが付いた鉤爪に変化させ、もう奇跡は起きないと釘を刺す。

 確かに、偶然の奇跡はそう起きない。だが奇跡に頼っていては、イリスを本当の意味で救えない。

 ボロボロと床に落ちるsin第三装甲・三号。使える装甲は旧式で試験用の一号のみ。

 自分自身とイリスの心を救う為。そう口にすると……奴は怒りで体を震わせ、飛び込んで来た。



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