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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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選択 -可能性-

 『前回のあらすじ』

 新たに辿り着いた世界は、過去の旅で融合神・イリスと決着をつける前の時間軸。

 出来るならば、二度と体験したくない程に悲しい戦い。この世界が何を求めているかすら分からず、夜空へ飛び込む。

 現代の京都駅で激突を繰り広げ、過去を含め四度目の挑戦に見事勝利を納める。

 イリスの胸をこじ開け、助け出した少女・イリスはエックスに感謝の言葉を残して息絶えてしまうのであった。



 意識が戻った時、其処は……雨が降りしきる夜の街。恐らく当時調査に来た、東京の裏路地と思われる。

 何故此処へ来ていたのか?それは天界で倒したマリス・ライムから、ノイエ・ヘァツが下界へ逃亡した為。

 マリス・ライムは天界で発生した悪意を数千年掛けて吸い、産まれた純粋な悪意の塊。

 地上まで追い掛け、漸く見付けた。見付けたのだが……奴は此方の予想を色々な意味で裏切った。


「おにい……ちゃんたち、だあれ?」


「ッ……」


 奴は、あの時純粋な悪意から産まれたノイエ・ヘァツは……裏路地に棄てられ。

 風前の灯火だった幼女の命を救い──溢れんばかりの悪意を、自ら捨て去った。いや……

 正確には自ら悪意を切り離し、純粋無垢と純粋悪を産み出していた。それが偶然か故意かは兎も角。


「君は……一人かい?」


「ひと、り?ひとりって、なあに?」


「ご主人様、今此処で討つべきだ。それが下界にも、天界にも最善の選択となる!」


 知恵の大半も抜け落ちたのか、一般的な知識すら無い。恋の言う通り倒すなら今が最善の選択。

 今も昔も。出せる選択に変わりはなく、代用の選択肢すら無い。例えこれが、最悪の選択だとしても。

 もう一度賭けてみたい、もう一度だけ試してみたい。三度も同じ結果は見たくない。そんな心境もあり……

 恋の訴えを退け、左手を差し出す。最悪の結末を避ける為、皆の批判も受け止める覚悟で。


「一緒に──来るかい?」


「はぁ……ご主人様」


「まあまあ恋よ。此処でぬし様が救わぬ選択を選べば、わっちらはぬし様を見限っていた。違うかや?」


「それは……そうだが」


 此方の問い掛けに対し無言で頷き、手を取る彼女。溜め息を吐く恋に内心、申し訳無さを覚えるも。

 そんな恋に愛が例え話で問い掛け、選択次第では見限っただろ?と諭され、言い返せず口ごもる。

 三度目の正直で救えるか?またあの結末にならないだろうか?自分の選択にすら不安を覚える始末。


「何を悩んでるの?これは貴方が選んだ選択。貴方自身が背負うべき責任よ」


「……分かって、るよ」


 顔に出ていたのか。左隣にマジックが膝を曲げて屈み、話し掛けてきた。

 ……あれ?この異変時、マジックと共闘はしてないし、遭遇もしてない筈。

 記憶と違う出来事に頭が混乱し思わず言い淀むも、違和感の正体を掴むまで流れに乗ると決めた。

 彼女の華奢な右手を優しく掴み、ゆっくりと立ち上がる。この小さくて儚い灯火を、潰さない様に。


「全ての命が、平等に生きられる世界なんて、あり得るのかな?」


「絶対に無理ね。もしそれを叶えたいのであれば──無月闇納。ハーゼンベルギアに全てを任す他無いわ」


「異世界を含む全ての命が融合した、完全無欠の世界しかない……か」


 ポツリと呟いた、何気ない独り言。それを聞き逃さず、絶対存在しないと答えるマジック。

 もし仮にそれを叶えたいのであれば、全ての黒幕ことハーゼンベルギアに全部譲渡し。

 全ての苦痛や苦悩も無く、誰もが互いを理解し合い、拒む事無く受け入れられる世界に委ねる他無いと。


「世界に平等などと言う、都合の良いモノは存在しない。世界は不平等でバランスを取っているから」


 そう……とある不平等に対し別の不平等が天秤に乗り、バランスを取っているのが世界。

 其処に人類の愚かさが上乗せされ、天秤はどちらか片方に傾き──国や国境すら崩壊する。

 要は世界規模で行われる不平等の押し付け合い。だからこそ……自分は選別を選んだ。

 目を閉じて。自分が選んだ道を、救う為に固めた決意を思い返す。


「人生とは選択の連続!!手に入れる為に何かを手放す選択を取り続けなければならない!」


「ならない~……ならない~……ならない~……」


「…………」


 目を開ければシリアスな空気をぶち壊すかの様に、自己主張……いや、自己存在主張とでも言うべきか。

 某サイバーな光の巨人に変身するポーズを取りつつ、声高に言う這い寄る混沌の真夜と。

 その背後にて屈み、自身の声でエコーをやる生ける炎・クトゥグアの紅瑠美が居た。


「少年……暗い夜道を歩くには、真っ赤なお鼻のトナカイさんが必要」


「そこは松明とかじゃないかい」


「何を仰る兎さん。太陽なんか眩しいだけ、闇に飲まれて消える運命(さだめ)ですよ」


 紅瑠美は突き立てた人差し指に青い炎を灯し、赤鼻のトナカイを歌いながら真っ暗な空間を照らす。

 其処は先程とは違い、真っ暗な舞台の上。舞台幕や舞台道具はボロボロで、真正面には──

 胸元で腕を組んだ黒紫色の悪魔が宝石に包まれた……石像?があるだけ。


「光すら抜け出せない闇から脱した貴方。そんな貴方だけが、唯一究極の闇に対抗出来る存在」


「急に真面目になるのな……」


 ギャグ空間ばりに満面な笑みから一転。真剣な表情になり、一部はブラックホールを意味すると理解。

 けど、ブラックホールから抜け出した……ってのが今一つ理解出来ず、取り敢えず真顔で突っ込む。


「これは選択……少年は、あの子をどうしたい?」


「…………どう──したいんだろうな」


 真夜の後ろで屈んでた紅瑠美は立ち上がり、此方に向けて問い掛ける。あの子を……どうしたいかを。

 何となく……分かっていた。フォー・シーズンズで遥から告白を受けた後。

 ヴァイスの義手から融合神・イリスの触手が出て来たのが確証を得た切っ掛け。

 どうしたい?平和に生きて欲しいが、それは自分のエゴ。彼女の気持ちを無視し、願う一方的な選択。


「ブッタは涅槃への道を教えますが、教わった者の中には間違った道を進む。何故だと思いますか?」


「例え道を教えられても、全く同じ道を進む訳ではない。故に、道を間違えてしまうから」


「Exactly、その通り。例え同じ志を持つ二人が同じ道を進んだとしても、全く同じ道を進む事はありません」


 悩む自分に、真夜はブッタの話を例に話す。その話を知る為、すんなり答えると。

 瞬時に執事服へ着替え、礼儀正しく頭を下げて解答に間違いが無いと肯定した上で。

 此方が知る内容、イメージし易い例え話をして更に理解し納得出来る様に話してくれた。

 それを踏まえ、改めて考えてみる。ワールドロードとは、どう言う存在で何を行う者なのかを。


「ワールドロードも……道を伝え、教える者?」


「はい。ブッタと違う点、それは──貴方は王であり、民と共に学び、歩み進む者である事」


「少年は自覚がなくとも王として……民と一緒に苦難に立ち向かい、苦楽を共に肩を並べて歩いて来た」


「ハーゼンベルギアに、それは無い。アレは全てと一体化すれば解決すると言う自己満足の塊ですから」


 ワールドロード──世界の王であり道。ロードはキリスト教では神や主・キリストを意味する言語。

 ブッタは教え導く者。自分はそれに加え、同行する者達と苦楽を共に目的地……夢へ歩む者だと言う。

 ハーゼンベルギアは、完全なる世界平和を完遂する為なら他者の言葉に耳を貸さない。

 二人のワールドロード、二つの異なる道。最も近く、絶対に重ならない似て異なる最終目標。


「道とは常に、無数に枝分かれしています。貴方が辿って来た道も、パラレルワールドの一つ」


「少年……退屈は不幸と不安を産む。常に断崖絶壁に己が身を置けば、自然と足は崖から離れる様に前へと進む」


 どうするかを選び、如何なる言葉を使い、何を選択するかですら無限に枝分かれし広がる。

 それが可能性の世界(パラレルワールド)。思い返せばどの旅も、常に断崖絶壁へ立たされていたと思い返す。

 死にたくないから、死に物狂いで異変の元凶へ挑む。それが今までの……極々当たり前な普通だった。

 でも、今回の旅は──沢山の心強い仲間達が居るから、心の何処かで甘えていたんだろう。


「なら……自分が選ぶべき道は決まっている。例え、結果がどうなろうとも」


「えぇ。それが貴方が持つテーマ──勇気。他の七人にも、それぞれ貴方が持っていた強い心がある」


「勇気、友情、愛情、真実、知識、絆、野生、優しさ……それが生前に少年が持っていた、心の強さ」


 胸の奥で不安に揺れる心を握り締める様、左手で胸元を掴み一歩前へ出て答える。

 すると真夜は期待していた何かを得た様に目を閉じ、柔らかな笑みと共に自分達が持つテーマを話す。

 それは自分が生前に持っていたと言う最も強い八つの心は、自分達が持つ紋章と同じ……


「愛し愛され恋い焦がれ、深い絆で繋がり静かな時を共に過ごす……。少年、青春はいつでもある」


「実年齢が分からんお……あだだだだっ!!」


「貴紀さん。人間は何故口が一つに対し耳が二つあると思います?それは話すより聞く事が大事だからですよ」


 言われて過去を振り返ってみれば、これまでの旅の中で色々と恋愛や友情などはやった。

 紅瑠美は良い事を言った。とばかりに膨らみも無い胸を張り、褒めて欲しげに此方を見る。

 が……我ながら要らん事を口に出し、全部言い切る前に真夜から笑顔でコブラツイストを決められ。

 人間に耳が二つある理由を説明された。要は我々の年齢には触れるな!と言いたいらしい。


「我々やハスター君がビヤーキーに股がって、あなたに急降下しても良いんですよ?」


「お前らが超時空シンデレラだと、歌より武力の面でヤックデカルチャーなんだよ!!いだだだだだ!」


 トドメに脅しも掛けて来たが……脅迫や痛みよりもボケとネタに対してツッコミを入れてしまい。

 気付けば真夜はパロ・スペシャルの体勢で、此方の背に乗り両腕を後ろに引っ張っていた。

 それはガチで洒落にならん!暫く耐え抜き解放されたが……ある意味融合神からのダメージより酷い。


「可能性の獣よ。今一度あの世界に戻り、カバとプテラノドンを掛け合わせた魔王と裏に居る大魔王を倒してくるのじゃ」


「自分はユニコーンや勇者じゃねぇし。それにあの場所、アレフガルドでもねぇから」


 なんかゲームで見る王様の格好をしたかと思えば、人様を一角獣の機動戦士やら勇者扱いするし。

 第二の故郷をアレフガルド扱いとか、流石に怒るよ?でもあの世界を構築してる奴は一体……

 そんな疑問を抱いている内に、悪魔が黒紫色の宝石に包まれた石像が放つ光に飲み込まれ、意識を失った。




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