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ワールドロード  作者: オメガ
六章・Ich bin menschlich
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悪夢 -融合神-

 『前章のあらすじ』

 夢見一家を襲った一人の醜く肥大化した欲望。それをハーゼンベルギアに目を付けられ、起きた大異変。

 人類の存亡を賭けた異変に遭遇したエックス達は夢見姉妹や古き仲間・結城飛鳥、遠井彼方達の協力を得て。

 ナイトメアゼノ・バグ、コクーン、スルト、人工のグラッジを退ける事にも成功。無事、人類の生存を勝ち取る。

 されど未来はMALICE MIZERに繋がる為、人類が自らの手で大半が滅亡する事は確定事項であった…



 六番シアターの扉を両手で押し開けた。瞬間──溢れんばかりの眩しい光に包まれ。

 光が収まり、視界が戻ったと思えば……其処は真っ白な世界。辺りを見渡しても、在るのは黒茶色の扉一つ。

 念の為裏側に回り込んでみるが、何もない。一枚の両手式の扉があるだけ。


「何だろう?この扉の先から、懐かしい……そんな何かを感じる」


 左手でそっと優しく扉に触れ、懐かしさや複雑に入り乱れた何かを感じ取った。

 両手で扉に触れ、押して開けば……景色は何もない空間から一転し、何処かの夜空。

 なんだが──妙に懐かしく、悲しみすら覚える。そんな中、一瞬で夜空を駆け抜ける影が三つ。


「……この世界は、自分に何を求めているんだ」


「マイマスター。空中戦かつ相手が奴ならば──先に行きます!」


 この光景、相対する相手、結末を──自分は知っている。否、戦って……この手で大切な義娘の命を……

 だからこそ、この世界が自分に何を求めているのかすら分からず、思考は停止。

 此方の心情を察した絆が自らの腰にアークバックルを出現させ、声を掛け自ら扉の向こう側へ。


「畜生……クソッタレがぁぁ!!」


sin(シン)fusion(フュージョン)


 思考が停止したら先ずは動け。ユウキが居れば、必ずそう言って背中を叩くだろう。

 自分も扉の向こう側──遥か上空の夜空へと飛び出し、翼を広げ滞空する絆の背へ飛び込む。

 するとバックルが反応。黒と白のエネルギーに包まれ、エイド・マシンも飛び込んで来て変身が完了。

 龍の仮面の眼が紅く光り、背中に付いたエイド・マシン──フェニックスが光の翼を広げ追跡開始。


change(チェンジ)……Seven(七つ) Deadly() Sins(大罪)Dragon Sin(憤怒の罪)


「さぁ──エンペラータイムと行きましょう」


 口上を決めた直後。音速の壁を突破した短くも強烈な音と、頭から肩に掛けての強い衝撃が襲う。

 仮面のモニターに速度が映され、徐々に速度が上昇して行く。マッハ三……五、六!

 少しずつ、されど確実に前方を飛ぶ三つの姿に追い付いて行く。前方二つは戦闘機。

 その戦闘機が追い掛け、機関砲やミサイルを撃ち込んでいる相手は──唯一戦った最強の融合神。


「Oh my god!!」


「charlie……Wow!」


「戦闘機、二機共撃墜されたのを確認。目標、マッハ九へ突入……マッハ十、行きます!」


 放ったミサイルは人型融合神の腰から伸びた触手に弾かれ、左側の一機に激突し爆発。

 右側の戦闘機は、触手の鋭く尖った甲殻の先端から放たれたレーザーに両翼を裂かれ、墜落し爆破炎上。

 此方を振り切る様に、マッハ九と言う更なる速度へ。追い付くべく、此方はマッハ十の世界へ突入。


「やはり──そう来ますか!!」


 すると融合神の腰から伸びる八本の触手は此方の接近に気付き、戦闘機の両翼を裂いたレーザーを発射。

 中央から外へ離れる様螺旋を描きながら回避し続け、行動パターンを読まれ移動先に撃たれては。

 縦横無尽に動き回り、紙一重ではなく余裕を持って大きく回避し。

 背中にある第二装甲のブースター、フェニックスのスラスターとバーニアを吹かせ突撃。


「イリス!!融合神・イリス!」


「全ての命……宇宙中の命を、吸い尽くす」


「仕方ありません。あの時の様に──やるしか!」


 横に並ぶと同時に速度を合わせるべく落とし、呼び掛けれど望む応答は無い。

 黒紫色の闇……ハーゼンベルギアの願いを叶える為、宇宙中の命全てを吸い尽くす使命に支配されている。

 それを阻止せんと、絆はイリスと向かい合う様移動して姿勢を合わせれば、両腕を掴み地上へと降下。


「墜落地点も……此処、ですか」


「我が使命の邪魔をする者。全て……排除!」


「貴女と戦うのは形態別を含め、これで四度目!流石に動きは読めてます!」


 墜落した場所は過去に戦った時と同じ──京都駅の二階、カフェエリアのテーブル設置付近。

 邪魔をされた、妨害する者と此方を認識したイリスは排除優先に切り替え。

 両腕左右に生えた、甲殻の鋭い突起物で襲い掛かる。されど過去に四度戦った相手。

 両腕で顔を狙う鋭い連続突き、右肩から左脇腹を裂かんとする右腕の切り裂きもステップで回避。


「当然──その手も!」


 両腕を引き絞る様に曲げ、両肘に装備されたエボル・ブレードの刃を瞬間的に伸ばし、一気に振り上げれば──

 イリスの細い触手が束になった両腕は切断され、視線も宙を舞う両腕の方を向き隙が生まれる……

 が、これは罠。背中に隠れた触手は此方を的確に捉え、一斉に左右から突き刺すべく迫ってくるも。


「脅威度更新。全力による排除を開始」


「ナイトメアゼノよりは戦い易く、よりチートで戦い難い相手ですね……融合神と言うのは!」


 右手の甲にあるファンの蓋が開き、周囲のエネルギーを吸い衝撃波に変換し手から放ち吹っ飛ばす。

 駅を支える柱の一本に激突し、崩壊と崩落に巻き込まれてなお平然と起き上がり、動きに変化も無く。

 両腕を再生し全力を引き出す始末。絆も改めて気を引き締め直し、一階へと飛び降りて向かい合う。


「では……此方も出力のリミッターを少しだけ、解除しましょう」


WARNING(警告)!!WARNING(警告)!!|REJECT(排除)SACRIFILCE(生け贄)Are(準備) You() Ready(良いか)?』


「いつでも!」


 右腰に装着済みのスマホを取り出し操作した後、警告が響くまま出力を決める為。

 音量調節ボタンを一度だけ押し、再度差し込めば準備の有無を訊ねられ、答えると音声を認識し起動。

 各関節のエネルギー・アンプが紅く光り輝き、消費魔力の上昇を知らせ。

 メフィスト戦時同様スーツ内温度が急上昇するも、後頭部から出る黒髪が放熱し温度は低下。逆に髪は赤く染まる。


「以前戦った時の姿より当然スペックは落ちてますが……逆に、安定性は向上しています!!」


「理解不能。されど、果たすべき使命に変わりは無い」


 お互いに駅内で高速移動を繰り返し、激突し交差する度にコンビニやお店の硝子を衝撃で破壊。

 格闘用に再生した両腕の連打を繰り出すイリスに対し、以前と今回を比較しながら連打で打ち合う絆。

 互いに打撃を貰い合う中。静かに音を殺して床を這い、右側から近付く一本の触手に自分が気付くと──

 絆は右足を素早く上げて触手の先端たる甲殻が砕け、床に亀裂が走る程強く踏みつけ奇襲を阻止。


「ふぅ……此処からは憤怒を利用して、冷静に行きましょうか。頼みます、白刃」


「理解……不能」


 続け様に左足の力強い蹴りをイリスの腹部に叩き込み、踏んでた触手が千切れ大きく後退したのを確認後。

 息を整えてゆっくりと腰を下げ、天に向け掲げた左手に白い雷が天井を破り降り注ぎ。

 白い柄と白銀の刃が特徴の白刃を掴みながら足に力を込め、超低空ジャンプで突撃。


「親の敷いたレールを走れば個は消え、学校へ行けば枠に嵌めた正解しか認められず洗脳されるこの腐った世界を」


「何故抗う?何故拒む?何故?何故何故何故何故何故!」


「間違いを違うと言って正し、日々形を変える洗脳や侵略から自身を守る為に!」


「決められた道、悩む必要も苦痛すら無い世界の何を拒み、抗う?枠に嵌める事の何が悪い!」


 手にした白刃の脅威を直感的に悟り、直撃を受けてはいけないと痛感したのだろう。

 距離がまだある内に残った触手からレーザーを放つも、超低空ジャンプの飛距離は短く。

 高速のステップ混じりに前後左右へ動き、空振りし乱れ動くレーザーは床を穿ち、壁を裂き続ける。

 そんな中で交わされる互いの言葉。片や抗い拒む意味を求め、片や腐敗した世界から自身を守る為の思いを話す。


「全て!様々な経験を積み重ね、善悪問わず個は新たな道を見付けて進む。その芽を摘むなどと!」


 逆三角形を描く様に動き、稲妻を帯びた刃で触手を根本から切断し傷口を瞬間的に死滅。

 超速再生と触手による奇襲も細胞を死滅させて封じ、正面に回り込んだ刹那。

 イリスの腹部甲殻が鳥類の嘴が如く大きく開き、ほんの小さな赤と青色の光が見え……


「ッ──!?」


「最大出力での放射を継続」


 口内で赤い魔力と青い霊力が融合。触手が放つのとは比較すら出来ない紫色の極太レーザーを放射。

 イリスとの距離が一メートルも無く、まだ使い慣れていないsin・第三装甲では回避が間に合わず。

 真っ正面から直撃を受け、押し出そうとする衝撃、相反するエネルギーの合力と極光に飲まれた。


「ヌッ!?ぐ、おぉぉぉ!!あ、頭……が!」


「ぱ……パパ。助け──て」


 数秒か数分。直撃を受けていた感覚に陥った時、イリスの苦しむ声と助けを求める声が耳に届く。

 片や大人びた苦しむ声、片や幼くも救いを求める声。その幼い声が、自分の心で燃える炎に薪を()べ。

 放射される極光の中で踏ん張りを効かせ、一歩ずつ前進し、奴の懐まで到達直後。


「我々が燃やす憤怒の炎……こんな極光程度で消すなど、片腹痛いと言うもの!!」


 極光に胴体が隠れたまま顔を見合せ、離れろと言わんばかりに両腕で此方の頭を左右から掴まれ。

 お返しに右手でイリスの頭を鷲掴み──開いている甲殻の内部へ左手に持った白刃で刺し貫く。

 すると極光は徐々に収束を始め、此方の頭を掴んでいた手も力無くぶら下がり、抵抗が無くなった。

 一度引き抜いて床に突き刺し、床に寝かせたイリスの胸部甲殻を両手でこじ開け、中身を引き抜く。


「パパ……ありが──と」


「イリス!?イリス!!イリスゥゥゥッ!」


 融合神・イリス……頭部パーツに該当する人間体・イリスと、強化洗脳用ボディパーツのアヤメ。

 二人で一人の融合神であり過去、異世界との境界線があやふやになった光闇戦争で拾った孤児。

 自分と白い麒麟のお姫様をパパ、ママと呼んでくれて……自分達も本当の娘同様に愛情を注いだ我が子。

 そんな我が子の命がまた……抱き上げた腕の中で消え、感謝の言葉と共に安らかな眠りに落ちた。


「大丈夫。あなたが望むなら、そう祈り願うのであれば……この世界は変わる。変えられる」


 悪夢の様な追憶。深く苦しく、耐え難い悲しみを少しでも晴らすかの様に。

 愛する娘の一人、イリスの名を叫ぶ。例え幾ら祈り願い望んでも、叶わないと知っているから。

 すると世界は左右に歪み始め、最終的には自分……いや。イリスを中心に渦を巻き、飲み込まれ意識を失った。




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