久遠の友
調査していた遺産へ心達は戻り、霊華は明るい遺跡で小学一年位の自分を抱いて、夫の帰りを待っている。
自分は発見されてから、今もぐっすりと眠り続け、目を覚ます気配がない。
されど死んでいるのでは? と言う疑問は一切ない。呼吸音が聞こえるからだ。
「……ねぇ。貴紀、聞こえる?」
「あいあい。此処に居ますよ~」
この直感力の高さ、本当に自分達が知る霊華で間違いない。
と言いますか。魔力や霊力が高ければ、今の自分を見付けたり会話をする事は出来る、と思う。
そんで呼ばれた理由だが、調査中の心を助けて欲しいって話だ。いやいや、ちょっと待て。
霊魂みたいなこの姿で出来る訳がねぇ! んだが……どうも、女の頼みってのは断り切れん。はいはい判りました、行ってきますよ。
「さぁ、調査の続きだ」
「苦労すると思うけど、よろしく」
「妻になった貴女程じゃないわよ。気苦労も、ね」
走って戻って来た……と思いきや、そのまま遺跡調査を再開。
一緒に来たシオリと顔を合わせ、片や旦那。片や自身を雇う主人。
生涯を共にするのも仕える事も、お互いに気苦労は絶えない。
ほんな事を話していると、お互いに物好きなんだな。と思ったんだろうな、思い出し笑いしていた。
「そんじゃ、さっさと仕事をしますかね。その子の為にも」
「お願い。いつ目を覚ますか、判らないし」
担いでいた荷物を降ろし、準備運動を行いつつ幼子の自分へ目を移せば、何も追究せず。
眠る幼子の事も考え、仕事へ移る。霊華も自分が目を覚ました際、泣く事を考えると……
予想と言うよりは、ほぼ確実し起こりうる事。
知らない場所と見知らぬ存在。赤子が恐怖を感じ、助けを求めて泣き出すには十分過ぎる条件だ。
「本当に超古代遺跡だとするなら、当時は高い魔法や奇跡、機械技術に優れてたのね」
「どう言う事だ?」
「遺跡の壁、確かに石板を使ってるけど、魔法や奇跡で風化対策してあるし。壁の裏側」
「はぁ~……これは凄い!! まるで昔話で聞いた、からくり屋敷じゃないか!」
慎重に最深部の床や壁を触れ、耳を当ててシオリが調べた後。
腕を組み、目を閉じて頭の中で整理した結果。この遺跡を建造した時代の技術力、魔法と言った力は。
今を遥かに越えて優れており、遺跡が風化しない為の対策がしてあるらしい。
言われて心が石板の壁の内側を覗き込めば、錆び対策を施した歯車、数多くのギミックが詰め込まれてやがる。
「此処、ね」
ポツンと置いてある、自分が入っていたカプセル……その内部。
傷が付かない、衝撃を受けても揺れ動かない用敷かれた白く分厚い低反発クッション──
を退かした下に、蓋で隠された赤いボタンがあった。
「押すか放置するかは、任せるけど」
「押そう。今後の為になるかも知れないんだ」
「はいはいっ、と」
見付けても押さず、一度雇い主から押すか否かの有無を訊ねる。
許可が出た後、シオリは何が起きるか不安が浮かび上がったのか。少し間を空けていたが意を決し、ボタンを押す。
壁裏側のギミックに関係していたらしく、行き止まりと思われていた壁が起動。
右へ奥壁が少し移動、平均身長の女性が立って入れる高さの通路が出現した。
「隠し通路。此処が最深部じゃなかったのか」
「パッと見、罠が色々とあったから、外の魔族も殺られたんでしょうね」
「ちょ、外に魔族がいたの!?」
最深部と思っていた部屋に、まだ奥へ続く隠し通路を発見して、心は子供さながらワクワクしてた。
奥へ進む。途中、此処へ来るまでの遺跡内通路にも、幾つかの仕掛けがあった事。
トラップに引っ掛かり、死亡した魔族が外で倒れていた事を話す内に、隠し通路を通り抜けた。
「此処にも、壁画や文字が刻まれてる」
「……読める。此処にある壁画、超古代文字が全部!」
「ならどんな内容か、聞かせて貰えるか?」
隠し部屋には左右中部に壁画、上下に超古代文明で使われていたであろう文字が。
ズラリと蛇のように、みっちり書かれ、奥には大きな祭壇もある。
多分、心は内心「完全解読には最悪、二泊三日も」と予想していたが。
部屋中を目で見回した霊華と自分だけが、超古代文字と壁画の意味を理解出来る。
どの様な内容が描かれているのか、どんな物語かを知るべく、読み上げてくれるよう、頼まれた。
「判った。それじゃあ、読むわね」
内容は、こうだ。──この星に落ちた光と闇は、自らの主張をぶつけ合った結果、闇は大地の奥深くへ封印され。
時空の狭間へ。しかし封印される直前、闇は世界中に闇の恵みをばら撒いた。
最悪の事態に備えて光も、自らの力を特殊な結晶や数多くの恵みとして、世界中へ残す。
「二つの恵みは星に生命を誕生させ、魔法や奇跡の術を与えた。我々は栄え、幸せを掴んだのだが」
「だが、どうした?」
「長続き、しなかった訳か」
読み上げる言葉が止まり、訊ね答えを言う前に、シオリが先に答えた。
霊華は黙ったまま小さく頷き、黒い人物と炎の壁画を指差し、また口を開き読み上げる。
──闇の使者現れ、数多くの勇士と一つの文明は瞬く間に滅亡。
次の文明と命を求め、闇の使者は移動をして殺戮と破壊を繰り返した。
追い詰められた我々は、光が残した七つの欠片を命懸けで集め、願った。光の使者の再臨を。
「それで、あの壁画。って訳ね」
「えぇ。此処から始まったの。光の使者の……絶望への道は」
指差す壁画には、白い人物と後光が描かれていたソレはまるで、救世主か神の降臨。
──光の使者は闇の使者を倒し、我々を救った。最初はその出来事、結果に我々は大層喜んだ。
しかしそれは、時を重ねる事に至極当然と感じるようになり、我々はなんと。
光の使者を便利屋と感じ、感謝すら忘れた。その結果、当然の事ながら。
光の使者は、我々の前から姿を消し、二百年後。蘇った闇の使者に再び追い詰められ……
「また、光の使者を呼び出した。か」
「そう。で、光の使者は」
次に指差した壁画。白い人物の目から雫、胸に描かれたハートが半分程黒い。
──再度の呼び掛けに応じ、使者を倒す。我々は感謝を忘れぬ為、共に闇の軍勢や使者と戦った。
闇の軍勢との聖戦が始まり、十年に渡る年月の果て、我々は多大な犠牲を払いながらも。
闇の軍勢を率いる謎多き闇を球に入れ、誰の手も届かない場所へ追いやった。だが、我らが光の使者の顔色は悪化。
我々は後々知った。我らの善意が、光の使者を絶望の道へと運んでいた事を。
「何でよ。一緒に戦って、勝ち残ったのに!」
「……そうか。傷を癒す為に帰還する時、古代人達の善意を拒めず、残り続けたのか」
「正解。勝ち続けた為に記憶は持ち越され、闇が再び現れた時、友人は」
結果に不満を持ち、不服な点を言うシオリだが、使者と古代人の肉体事情は違う。
──受けた深い傷を癒す為には一度、帰還する必要があった。が、拒み説明する暇も無く、押し付けられる親切や善意を与えられ。
使者は心を病みつつ、残る魔神王を封印。役目を終え消えた後、再度降臨した世界は……
使者の活躍や存在は無かった事にされ、知人友人とも、初対面扱いだった。
「救った世界に、彼の居場所は何処にも無かった」
「成る程。勝っても負けても悪夢、ね」
「全くだ」
副王も言っていた。平和な世界に、勇者や英雄の居場所は何処にもない。
勝者が枝分かれした出来事を切り落とし、修正した世界は住民達にとって、続く平和。
敗者は封印され、復活は無かった事へ。勝者と敗者、両者の共通点は、救われない点。
「故に我らは未来永劫、この歴史を刻み残し続ける。そして、我らが残し掟を破りし者よ」
「な、なんだ?」
石壁を彫り、歴史を刻む壁画から、読み上げながらも一人の人物が正面を向く壁画へ、指を向ける。
──掟を破りし時。再び蘇る我らが古き友の為、技術の粋を集め、パワードスーツを創造す。
我らへ知恵を与えし異形なる者。己を神と呼び、此処を含めた遺跡を七つ造らせ、我らが遺産と願い。
其処へ宿し、いずれ来るであろう。光の使者……いや。我らが久遠の友に全てを託す。
「文字はここで終わり。でも、書いてあった七つの遺跡にはまだ、文字があるかも」
「久遠の友、か」
「っ、気を付けて。部屋が大きく揺れて!」
記された文字を全て読み終え、当時の出来事へ三人が思いを馳せる中、隠し部屋全体が揺れ動く。
各々激しい揺れに耐えたり振り回されていたら、ピタリと停止。だが、部屋に変化は無い。
残念ながら着ていたパワードスーツは、時の流れに耐え切れず、砂と化した。流石に弱体化してる今。
パワードスーツ無しはキツい。一通りの調査を終えた心達が、来た隠し通路を通り抜け戻ると。
「な、なんだ、此処は!」
其処はパワードスーツが砂となり、赤子を保護した場所ではなく、立派な祭壇がある部屋。
……そうか。先の部屋が激しく揺れたのは部屋全体が回転し、更なる隠し部屋へ繋がるギミックだったんだ!
光に誘われる虫のように、心は祭壇の上へ続く階段を登り、直立型円筒形カプセルへ触れる。
「指紋登録完了。ならびにDNA検査も完了。闇の軍勢ではない事を確認致しました」
「なっ」
「ロック解除。カプセル、オープン」
触れた途端、指紋やDNAを確認され戸惑う。
しかしそれは、超古代人が残したこの遺跡、最後の抵抗なのだろう。
闇の軍勢じゃない事を確認した後、カプセルの蓋が左右に開いた中には……黒く、福王から貰ったパワードスーツと同じ物があった。
「これが、古代人が残した、七つの遺産。その一つ」
入ってみて判る。このパワードスーツは、一つの遺産だと。
そしてこのパワードスーツは、まだまだ未完成である事も、直接送り込まれて来た。
敢えて言うなれば、必要最低限の機能を持った状態。他の遺跡に、スーツを強化する何かがある事や。
闇の軍勢は必ず、七つの遺産を破壊しようと迫って来るであろう事も。
そして遺跡の前で倒れていた魔族、その意味を心も理解した時、好奇心を恐怖心が塗り潰した。
「霊華、シオリ!! 一刻も早く此処から離れるぞ!」
「な、何よ。いきなり叫んで」
「そうか、あの魔族は……転符・瞬間移動!」
想像するだけで、理解出来る。外で死んでいた魔物や魔族、アレはこの遺跡に眠る遺産が破壊する為。
闇の軍勢、もしくは使者が送り込んだ兵。
長時間報告がない時は必ず警戒心を抱き、此処へ第二波や使者、本人が来る危険性が高い。
思わず撤退を叫ぶ心の意図を理解したシオリは、荷物から御札の束を出し、宣言と共に光り、消えた。
「って、自分は転送されてないのかよ」
「少し、話があるからよ」
自分は入り込んだパワードスーツと共に、遺跡へ残されてしまった。
幸いな事に、現状でも入り込んでいれば、スーツは動かせるらしい。それを知った直後。
何も無い空間が開き、麦わら帽子を被った白いワンピースを着た副王が少女姿で現れ、隠し通路を見る。
「貴方はもう一度、此処へ戻って来る。必ずね」
右手を口元に当て、クスクスッと笑い、階段を一歩ずつ下りて行く。
赤い靴が一歩階段を踏む度、軽やかな音を鳴らし、まるで水面を歩いているのかと錯覚する程。
音の波紋が広がり。階段を下りた後も、祭壇裏の平らな床の上で軽やかに、リズムよく飛び回る。
白と黒の床、様々な楽器が描かれた床は、踏む度に描かれた楽器の音色を、次々と鳴らす。
「何事も探索って言うのは。もっと周りを観て聴いて、触れて判断するものよ」
副王は此処には居ない、紅心へ駄目出しを言いながらも。
少しの間、楽器床とも言うべき床をリズミカルに跳び跳ね、ピアノの音色を鳴らして遊ぶ為。
自分はスーツを動かし、自力で遺跡を出る事を決意して走り出す時──
「正義と悪は破滅を呼ぶ。そして、貴方が挑むべき敵は……面倒臭いわよ? まあ、それはそれで、私達見る側にとっては娯楽だけどね」
そんな言葉を言ってきた。
確かに、正義や悪ってのは破滅を呼ぶ。
それは理解出来る。が、挑む敵が面倒臭いのは何時もの事だ。
何故今さらそんな事を言うのか、今の自分には、言う意味や訳さえも何一つとして分からなかった。




