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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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オルタナティブ

 『前回のあらすじ』

 紅絆専用sin・第三装甲のサポートメカ、エイド・マシンの試験運用も兼ねて裏で悪さをしていた人類を処刑。

 翌朝。伏見の山で悠君の遺体を掘り返す中、理想と現実の紋章を得た夢見姉妹も合流し、無事掘り返すのに成功。

 悠君や夢見姉妹に家族団欒の時間を与え、遠井彼方と再会するも彼は、伏見稲荷大社に奉られる神本人。

 結城飛鳥と合流。国の未来を心配する飛鳥に、人が正さぬ限り国は腐り滅びるだけと言うエックスであった。



 何処かから落ち……目が覚める。真っ暗な世界で起き上がり、遥か遠くに光が見えど辿り着けるかは不明。

 そう思っていたら──足下から伸びる一本の光が道を作り、遠くの大きな光に向かって伸びて行く。

 幾ら歩いても、周りの景色に変化はなく、進んでいるのかどうなのかすら分からず、不安だけが募る。

 もしかして、道を間違えた?そう思い立ち止まったら……足下で七色に光る円筒形の結晶体を発見し拾う。


「……オルタナティブ、メモリー?」


 そう、オルタナティブメモリー。初めてゲートを通り、トリスティス大陸でイブリースを倒した報酬。

 オルタナティブ……代案・代替物・二者択一の選択、それを宿した記憶の結晶。

 何故自分が砕く方が良いのか?それすら説明も何もないが……右手に力を込めると簡単に割れた。


「君は……」


「俺はデトラ。分離する時、俺はお前からデストラクションと名を貰った」


「そっか。琴姉が、本当に好きな相手……」


 振り返ると……通って来た道に無数の分岐が生まれ、更に細く細かな分岐が繰り返し生まれて行き。

 黒いロングブーツを履き、紅い無数の線が描かれた黒い長ズボンと長袖。その上に──

 青い宝石を一つ埋め込んだ白銀の西洋胸鎧と籠手。赤色で燃える焔を描いた三眼の黒い仮面を被り。

 綺麗な白と黒の長髪を揺らし、首から顔へと紅い線が血管の様に伸びた人物が此方に近付く。

 彼こそデトラ改め、デストラクション。幾度も自分を影ながら助けてくれたドゥームの古き友。


「通った後に生まれたあの道は、俺達が冒険した結果と言う種より生まれしモノ」


「その種と冒険に、何の関係が?」


「元々、この世界のパラレルワールド(可能性世界)は闇納……ハーゼンベルギアに滅ぼされていた。だが」


 曰く、自分達の冒険が可能性の種を世界中に蒔き。再び世界に可能性が満ち溢れて行くと言う。

 それは──畑を耕し種を蒔くのと同じだが、デトラは思っていたのと違う表現の仕方をし始める。

 「俺とアインが出来るのは耕すだけ。後は現地民に任せる」と言い、驚きつつもすんなり納得。


「俺達もずっと、子守りが出来る訳じゃない。俺達が去るのは、人類の腐敗が早いからだ」


「まあ……そうだな」


 自分達には帰るべき場所があり、やるべき事もある為、この世界に永住など出来ない。

 故に、いつまでも今まで通り、人類や愛する者達を守り続けれる訳でもない。それが現実。

 人類の腐敗に関しては……確かにそう。腐敗し始めたのも『名付け』をしてからだ。

 名付けこそ、人類が犯した巨悪。カテゴリーに分け、上下を生み、差別を生んだ原因。


「なのにお前は……何度も悪意に曝され、酷い目にあっても自身の信じるモノの為に何故立ち上がり続けた?」


「醜い大人達の薄汚い欲望で夢が穢れ、奪われるのを見た。だからこそ、いつか必ず叶えると心に決めたから」


「ほう。何を決めたんだ?」


 小さい頃も、今現在も。大小なりの悪意なり何なりに曝され、酷い目には会い続けてる。

 身代金を求めた誘拐、自身の欲望を果たす為の犯罪、他者への迷惑も考えぬ身勝手な行為を沢山見た。

 辛くなかったのか?と聞かれれば、当然辛くなかったよ。でも、幾ら叫んでも意味は無い。

 だって──みんな(テメェら)、自分の事にでもならなきゃ動かねぇから。だから見捨てるんだ、人類を。


「世界征服による、世界平和」


 親が子を見棄てる様に、人が人を見棄てる様に。自分も人類を見捨て──

 世界を征服し、世界を平和にする。そう言う意味では、自分も闇納も人類と何も変わらない。

 だから……故に──世界を愛す。その為なら、世界に蔓延る悪党共を滅ぼす為なら。

 国の一つや二つぽっち、灰塵に化しても良いとすら思え始めた。その気持ちは……今も変わらない。


「成る程な。だから俺の衣装が──こう魔王に近いって訳か」


「人類に塗る薬は劇薬程度が丁度良い。だからこそ自分は、人類の敵であり続ける」


「やはり……お前を王にと選んだ甲斐がある」


 自分のそんな想いが、デトラの衣装にも出ていたらしい。けど……もしその言葉が本当なら。

 青い宝石を嵌め込んだ白い西洋胸鎧と、素顔を隠す様に被っている燃える三眼の仮面の意味は──

 まだ自分に優しい心と、誰かの為に戦う心が残っている証拠。それを理解したら、ふと笑みが溢れ……


「──!?」


『長らくの御視聴、誠にありがとうございました。映画・ワールドロード第五章、穢れた星空は……』


 目が覚めると──映画館の赤い座席に座っており、上映されていたであろう映画はもう幕が降りた後。

 アナウンスが鳴り響き、上映の終了と掃除を行うのでシアターから出てくださいと述べる。

 背凭れに背を預け、右手で目元を覆い、今が現実かさっきまでが現実かを考える。何がなんだか……


「だからそれは原作者がそう感じ、これもそうだ!と判断したからであろう?」


「だとしても、それならサブタイトルを変えるべきじゃない?それをどう感じるかは視聴者次第だし」


「…………何を言い合ってんだか」


 頭の処理能力が追い付かない中。シアター中部、左側にある出入り口から男女の声が聞こえてくる。

 ふと気になり、近付いてみたら──ベーゼレブルとマジックが何やら言い争っている様子。

 原作者ってフレーズが出た辺り、何かの作品に対して言っているんだろうが……さっきの映画か?


「半分ハズレ。正確には認識の違いから来るモノ、と受け取っておくといい」


「な、成る程」


 後ろから此方の心を読み取った言葉を言い、此方の頭に平たい何かを乗せて前へ進むナイア姉。

 振り返りそう言われ、認識の違い云々から来るモノと受け止め、頭に置かれた物を取り追い掛ける。

 乗せられていたのは、マヨヒガの屋敷と書かれた一冊の小説。中身を見ると……

 ハートフルと言うサブタイがあり、人間関係に苦しむ中華風衣装を着た狐娘と女賢者、旅人の物語。


「どう感じ、受け取るか……か」


「当人と相手、周囲が同じ内容を聞いても全く同じ風には受け取らない。何故なら」


「自分自身にとって都合の良い様に解釈するから。でしょ?」


「そう。そして解釈違いが生まれ、いがみ合い、仲違いや殺人にまで発展する。それは何故か?人類は愚かだから」


 開いた小説を閉じ、改めて自分達と三勢力の人類救済方法の違いも。受け取り方の違いだと理解した。

 自分の都合が良い様に解釈するからこそ、争いや差別などが生まれる。人類は愚かだから。

 顔色一つ変えず言うナイア姉に、自分は隣を歩きながら心の中で静かに思う。

 愚か故に凡人や愚者は天才や他者に寄り添えず、理解出来ぬ余り突き放して殺してしまうのだな……と。


「…………貴方は、怖くないの?襲い掛かってくる連中はほぼ全部、貴方より強いのに」


「心底怖いよ。死にたくない、誰かを犠牲に生き残るのも嫌。だから生き残る為に戦ってる」


「流石、世界を十六回も救っただけはあるわね」


 上映が終わった五番シアターからチケット売り場へ戻り、ポップコーンを買いながらそう聞かれ。

 馬鹿正直に言い返す。生きる為に力を身に付け、知恵を絞り、勇気を出して行動。

 それを褒めてくれるものの、出来なきゃ終わり。だから褒められた嬉しさより、悔やむ方が勝る。


「神ですら全ての命を救うなど、所詮無理なのだ。過去の犠牲者は時折思い出す程度で十分」


「その通り。助けられた人類も、自分自身に都合の良い様に解釈して喚く生ゴミだもの」


 救えなかった者達、犠牲となった者達。みんな揃いも揃って、人間と認めた相手ばかり。

 俯く自分に声を掛ける、ベーゼレブルとマジック。確かに神と言えど、救えない命もあるし。

 届かない思いもある。助けられるのが当たり前と認知してる生ゴミの件もそうだけど。


『まもなく──六番シアターにて、ワールドロード第六章・私は人間。が上映されます』


「もう次の上映準備が終わっていたとは」


「貴紀。私達は先に行って座ってるから」


 話し、悩んでいる内に次の上映準備が終わったらしく、館内放送で案内が始まった。

 二人はポップコーンやドリンクが乗ったプラスチックのお皿を手に、小走りで立ち去って行く。


「マジックは、行かないの?」


「……頑張る貴方に、一つ教えてあげる」


 チケットやお土産、売り場で二人っきり。素朴な疑問を投げ掛けたらそう言われ。

 熱を計る様に、マジックと額をくっ付けられた。直後、瞳に飛び込んでくる光景は……

 自分が巨大な爆炎球、スカーレット・デーモンズ・ノヴァを作る……際の両手。

 指と指の間を稲妻が飛び、ぶつかり合って炎を作り出していた。これが──教えてくれた事?


「貴方個人の魔力は雷。もっと上手く練れるなら、今より更に応用の幅は広がるわ」


「……どうして、わざわざ自分に?」


「…………さあ?どうしてかしらね。知りたかったら私を越えてみなさい。そしたら、教えてあげる」


 両手で此方の髪を微笑みながらグシャグシャにしつつ、マジックは助言をくれた。

 何故敵である自分に助言をくれるのか?何故、助けてくれるのだろう?

 そんな疑問を込めて訊くも、知りたければ 私を越えろ。そうすれば教えると微笑み歩いて行く。


「オル……タナティブ?」


 ふと口に出た、オルタナティブと言う言葉。いつの間に持っていたのか?

 右手には春島の居酒屋で水葉師匠やマジック達と飲み食いした会計後、渡された剣らしき物の柄。

 すると突然亀裂が入り表面は砕け落ち、中から真っ白な横笛が。これは、スカーレットから貰った……


『上映開始まで、後五分。お手洗いなどお済みでない方は、今の内にお済ませください』


「…………行くか。どの道、自分の進む道は前にしかないんだ」


 何故?どうして?頭の中は疑問だらけだったけど、上映間近の館内放送を聞いて頭を切り替え。

 入り口から見て右側へと歩き出す。壁や円筒形の柱には、六章のポスターがあってあるものの。

 悲しげで俯いた顔のオラシオンや、悪役ばりのゲスい顔で笑う国王や民間人と言う内容。

 例えその通りの内容だとしても、前へ進むしかない。知恵と、力と、勇気を胸に。




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