立ち上がれ勇者
『前回のあらすじ』
終焉とタッグを組み、ナイトメアゼノ・バグに挑むも……バグの固有能力に翻弄され大苦戦。
一体を倒せど次々と現れ、白い糸の束で二人まとめてぐるぐる巻きにされるも、仲間達が救援に駆け付け脱出。
更には追加で現れた四体の内、二体を仲間達が撃破。残毒でもう動けない終焉を仲間に託し、残る二体を追うエックス。
遠井彼方や自衛隊、消防隊など人類の協力で全て撃破するも……闇納とコトハの力でスルトが復活してしまう。
融合四天王・ジャッジを取り込んだノイエ・ヘァツと一体化したオメガゼノ・スルト。
赤く燃える炎は黒を含み、炎の勢いと温度を増す。奴の近くにあるビルが溶解してる辺り、相当な温度だ。
「ジュゥゥゥダァァ~スッ!」
「でっけぇ……一体、何十メートルあるんだよ」
「解答。周辺の建築物が三十メートルの為、オメガゼノ・スルトの身長は四十三メートルと計算可能」
奴の声は耳を塞ぎたくなる程大きく、同時に熱波をも吐き出してくる上に。
見下ろしてくるその巨体は周囲のビルよりも高く、蟻と人間にすら思える程の差がある。
独り言にも似た言葉にディーテが解答をする位なら、あの燃え盛るスルトを攻略する方法を教えてくれ。
そんな願いを打ち砕く様に振り下ろされた左手が地面に触れる時。強烈な熱波に吹き飛ばされた。
「警告。オメガゼノ・スルトの直接攻撃に触れた場合、推定温度十万度により炭になると想定」
「広島に落とされた原爆の爆心地周辺の温度かよ!?五万度でもほぼ死ぬっつーのに!」
運良くか悪くか。俺達は近くのビル内部にあるゲームセンターへ吹き飛ばされ。
熱風は壁やクレーンゲームのガラスを破り、飛び散った景品のクッションが壁への激突を和らげた。
隣に滑り落ちたディーテ曰く、奴の直接攻撃は原爆の熱量にも匹敵すると言う。
そんなモン……幾らパワードスーツを着込んでも、数秒と持たない。生ける原爆そのものじゃねぇか!
「近衛流……一刀流──百邪両断!!」
「グオッ?」
「な、なんだ……今の攻撃は!?」
「解答。膨大な魔力を固めた刃と認定」
内心愚痴った時、スルトの背後から首に真紅の刃が振り切られ直撃するも……砕け散ってしまう。
しかしほんの一瞬。紫色の血が噴き出したのを感じれたが、直ぐに傷口は塞がった。
全く知らない攻撃に思わず言葉が出ると、ディーテは攻撃を解析し魔力の刃だと言う。
「近衛流槍術……雷光、五月雨突き!」
「グウゥゥゥッ!!」
訳が分からなかった。眼に映る誰かの言葉、外から聞こえる奴の苦痛に耐える声。
何が起きてるのか?ビルの外に出ても周囲に立ち並ぶビル郡や、スルトの巨体で対戦相手が見えない。
それでも理解出来るのは……鋭利な何かがスルトに直撃し勢い良く弾ける雷と、轟く雷鳴だけ。
「勇者とは……最後まで諦めぬ者。そう言う意味では、貴方も立派な勇者……ですの」
「立ち上がれ!テメェの実力はまだ、こんなモンじゃねぇだろ!」
「ハハッ……随分と持ち上げるねぇ。しゃあねぇ、やってやるか」
耳に響く苦痛の叫び、此方を焼き尽くさんと迫る熱波。前に出てそれを防ぐスカルフェイスとアニマ。
飛び掛かる火の粉……いや。火炎弾を怪獣形態の青い火炎弾を口から吐き、迎撃するベーゼレブル。
諦めない者──それに該当する俺も立派な勇者だと持ち上げ、実力はまだ出し切ってないだろ!?
そう言う宿敵達の言葉に俯きながら答え、立ち上がりゼロライナーが停車していた場所へ走る。
「ジュゥゥ~ダァァ~ス!!」
「やべぇ!こっちに気付いた!」
すると此方の動きに気付き、体を捻り右手を伸ばしてくるスルト。
あんなマグマよりクソ熱い野郎の手に掴まれたら、骨も何も残りゃあしねぇ!
ビル裏に逃げ込んでも、アイツの手はビルを融解させて追い掛けて来やがる。そう思ってたら……
マグマに大量の水でもぶっかけたのか!?と思う程の蒸発音が響き、右眼で俯瞰すると──
「放水開始!!各自己の命を最優先に、時間を稼げるだけ稼げ!」
「我々自衛隊は消防隊の援護だ。閃光弾、証明弾で注意を引くぞ!」
地上では消防隊が消防車に乗り、水をスルトに放水。自衛隊も注意を引く形で援護してくれていた。
ナイチンゲールの援護射撃に加え、実物の戦闘機も冷却弾を投下し、炎の鎧を剥がそうとしている。
注意が俺から自衛隊・消防隊・戦闘機に向いた為、視界を戻し安心してゼロライナーへ駆け込む時。
「重傷者は五両目に、その他は緊急車両の医療用コンテナに搬入を」
「ニーア~、そろそろ薬草が切れちゃう!」
「此処だな、緊急医療現場は。私達は各地から集まった医師だ!医療用の薬品や包帯などを持って来た」
「こっちでしゅ!これで……これで重傷者の皆しゃんも、助かりましゅ」
二車両前で、ニーア達医療組が自衛隊や自衛隊などの治療を行っているが。
当然、ゼロライナーの設備や医療品だけでは圧倒的に足りない。
ライチも薬草とすり鉢を抱え、最後尾のコンテナからニーアの下へ訪れ医療品の在庫切れを伝える中。
大型車に乗り駆け付ける白衣を着た医者や看護士達は、エリネに案内されコンテナの方へ。
「……ほら、貴方も早く倉庫に。桜花さんや水葉さん、真夜さん達が緊急でパワードスーツを改修してるから」
「この土壇場まで改修!?」
最近姿を見ない面々の名前が上がったと思ったら、こんな時までパワードスーツの改修を!?
何はともあれ。慌てて三両目の倉庫へと入れば……先程名前の上がった三名に加え。
マキナと終焉も床に大の字になって倒れていた。それ程までに疲弊する改修だったのか……
「やっほ~……パワードスーツの改修、終わってるよ~」
「現私史上の最高傑作。これで勝てないなら、もう終わりって位に改修したぁ……」
「終焉……あんたの前任者のドゥームって奴。どんな思考回路してんのよ」
「俺に聞くな……こんな機能、普通は思い付かねぇよ。どう考えてもこれ、貴紀専用の構築だろ」
此方に気付き声を掛けてくれる水葉先輩、満足げな様子のマキナ。完全にお疲れ気味の桜花と終焉。
どんな改修をすれば、これ程までに疲弊するのか。超特急だったからここまで疲弊したのだろうか?
何はともあれ。スレイヤー専用格納庫こと、リボルシリンダーへ入れば自動的に零番へ回転。
作業用アームが分解済みパワードスーツを装着後、次は五番倉庫へ回転。続けて第三装甲の装着へ。
『change……Seven Deadly Sins・Dragon Sin』
「ふむ……これが、わっちのsin・第三装甲じゃな」
「はい。第三装甲史上最速の化物仕様です。詳しい説明はバイザーに記載されてますので……」
リボルシリンダーから出て来た俺達を出迎えてくれたのは……ギルドの受付嬢こと、大山巴。
なのだが……膝を曲げて屈み、此方と同じ視線の高さ。疑問を抱いて俯瞰視点で見てみると──
なんと、灰色の狼で四足歩行形態。確かに憤怒を象徴する動物は狼だけども。
「戸を閉め、耳を塞いでおれ。少しばかし、軽く走ってくる」
「は、はい?」
三両目の外へ繋がるドアを開けて貰い、愛は戸締まりの後耳を塞げと言うが。
巴はその意味までは理解出来ていない様子。各車両のドアが閉まったのを確認後、愛は深呼吸をし──
「アオォォォォン!!」
天に顔を向け、狩りを始める合図の遠吠えを一つ。身を震わせ、左前足で地面の固さ。
脚の感覚を確認後──軽やかな足取りで飛び出した。馬が走る様に速く、顔に当たる風が心地良い。
そう思った時。スルトを真っ正面に捉え、一直線に高く跳び高速前転したまま、左腕の付け根を通過。
奴の後方に左前足から着地し振り向けば……通過と同時に切断した左腕から炎が消え、地面に落下。
「ナ……何故、ダァァ!!」
「阿呆。無闇にオメガゼロを取り込むからじゃ」
何故容易に左腕を切断されたのか?どうして炎の鎧を突破出来たのか?と言う意味の何故、だろう。
その答えは明白。狼王フェンリルである愛は神性な存在に強く、神すら喰らう。
オメガゼロとは超越的な存在。即ち、常識の理解を越えた者故に神に近しく、神に嫌われし者。
愛は神性を持つ存在に対し特効が働き威力を底上げ、口から吐き出す凍える吹雪で炎から身を守った。
「ならばァァ……」
「トワイ・ゼクス、青空遥!!速くわっちの隣へ!」
「はい!」
此方に振り向くや否や、大きく息を吸い込む姿を見た愛は雪女のトワイと青い龍の遥を叫んで呼ぶ。
駆け付けた二人を左右に立たせ、愛達も負けじと息を吸い込み──
片や全てを焼き尽くす灼熱の炎。片や永久凍土が如き冷気を吐き、相反する二つが激突した刹那。
水蒸気爆発が発生。同時にマンホールの蓋が跳び、ナイトメアゼノ・ハザードが下水道から飛び出す。
「ごめんなさい……ですの。あなたを、こんな形で呼び出して」
『成る程。高い粘着性の体で、我々を水蒸気爆発から助けてくれたのですね』
鼻が曲がりそうな臭いは兎も角……MALICE MIZERで倒し損ねたナイトメアゼノ・ハザードが集結し。
水蒸気爆発諸共、放射能ボディでスルトを飲み込んだ模様。良く言えば奇襲、悪く言えば捨て駒。
その事実を理解してるからか。アニマは申し訳なく頭を下げるが……骸骨の謝罪姿はシュールの一言。
「──!?」
「ハザード!!」
「古き悪夢……我らの餌!オ前達の行動、無意味!」
ナイトメアゼノ・ハザードが突如、燃え盛る炎の剣に突き上げられ串焼き状態に。
驚くアニマを余所に、古き悪夢……即ち新たな王に仕えぬナイトメアゼノは新しい悪夢の餌だと言い。
串刺しにしたハザードに噛み付き、あっと言う間に食べ進めて完食。
あの強敵を平らげ、アニマに対し無意味な行動だと言い放ち。素早い右ストレートを繰り出す。
「ッ……あ、あなた達!?」
「我ら。生前に我が子への行いを償うが為、この姿へなり幾星霜……」
「漸ク叶う……我らが、我が子ヲ護る悲願」
灼熱の炎と右拳からアニマを護ったのは……お供だと思っていた二体のスカルフェイス。
左眼が二体を捉えた時──無数の若い男女が見えた。全員で巨人の拳から、我が子を護る勇者達が。
しかし奴の炎に焼かれ、拳に耐え切れず、自壊して行く赤い骨の体。崩れ落ちて行く夫婦達。
「ヌゥゥッ……余計な真似を」
「余計な真似?そうか──童にはそう見えるのじゃな。それも良かろう」
繰り出した拳を戻す傍ら、切断された左腕を掴み付け根に押し付けると傷口がくっ付き復活。
お前にとっては余計な真似かも知れん。だがな?強がる為の鎧を脱ぎ、泣き崩れるアニマを見て……
そう思えるお前に、俺達は激しい怒りを覚える。理不尽に思うだろうが……俺達は後ろ足で立ち上がる。
『CAST OFF CHANGE Fenrir』
「わっちが抱える憤怒の炎とぬしの炎。どちらが強いか……試すとしようかや?」
するとベルトがキャスト・オフ。チェンジ・フェンリルと電子音を鳴らし、sin・第三装甲を一部解除。
分離したパーツは自動的に組み上がり、バグの糸に絡め取られた際に助けてくれた狼の姿へ戻り。
尻尾の三日月を模様した湾曲刀を此方に投げ渡すと、自らゼロライナーの方へと走って行った。
帰巣本能があるのかも知れん。柄を仮面の開口した部分で固定し、身を低くして構える。




