立ち上がる者達
『前回のあらすじ』
出現と同時に異常気象レベルの高熱を放ち、エックスの意識を奪おうとしたオメガゼノ・スルト。
しかしその場に無月終焉、マジックの二名が現れ燃え盛るスルトを炎ごと氷付けにしてしまう。
奇襲を仕掛ける人工ナイトメアゼノことバグ。半覚醒状態のエックスに見抜かれるも、終焉とエックスを毒で苦しめる。
片や体力の低下、片や両腕を封じられ。連携技でいち早く仕留めるべく動く二人であった。
走った状態で、ヴルトゥームの人格を表に出したバグに対し、前後からの挟撃を仕掛ける。
が、奴は余裕ぶっているのか。何の動作もしなければ、無防備に突っ立っているだけ。
空から黒く細長い物体が終焉の掲げた右手に落ち、居合い斬りの巻き添えで即死するビジョンが見え。
奴と同じ瞬間、接近する様に飛び上がり回避。背中に魔力を込めた右回し蹴りを叩き込む刹那。
「何ッ!?」
「クソッ!そう言えばコイツ──」
奴の体は無数の蝿となって散らばり、回し蹴りは盛大に空振り。驚く終焉だが、それは一瞬だけ。
コイツとの初遭遇を忘れていた自分は振り向き、思い出すと同時に──無数にある光の線を見た。
その全てが選んだ選択肢から派生する可能性の未来へと続く道……パラレルワールドロード。
数多の行動・選択肢の結果に触れ、体験し着地。霊華が左手を操り蝿の群れに向け振り下ろすと……
「なんだと!?」
「終焉、今だ!」
「よくやった。丸焼きだ!!」
緑色の球体に閉じ込めた奴らを地面に落下させ、終焉は密閉された球体内部の地面へ魔法陣を展開。
回転し始め黒い焰を噴き出す。球体はソフトボール程で集合体には戻れず、地獄の業火を味わう蝿達。
漸く完全にトドメを刺した。その瞬間、自分達に束になった白い糸が襲い来る。
「トリックやメイトの特性を忘れたのか?」
「幾ら貴様らが強くとも。我ら全てを倒さぬ限り何度でも、幾らでも量産と強化が可能」
「貴様らも……我らが一部となれ。今度は余計な人格など、完全に溶かし切ってくれる」
四方から終焉と背合わせに巻かれ、お互いに毒の影響で満足に力を振るえない。
ボディパーツこそ男女別やら怪獣形態もあれど、共通しているのは糸を吐く頭部が蜘蛛と言う点。
それに──にじり寄りそう言ってくると言う事は、コイツらは間違い無く自分達の敵だ。
脱出しようにも動けない時。灰色狼と白蛇、白狐に紅い龍形体の第三装甲が駆け付け、各々バグに体当たり。
「目障りな……ぬおっ!?」
「ボク達を計算に入れてない。それが君達の詰めの甘さだよ」
「貴紀さん。フェイクの救援要請を受けて、俺達も助けに来たぞ!」
「喋ってると舌を噛むよ!!」
横から頭や脚にぶつかられ、バランスを大きく崩し愚痴を溢すバグ。
其処に、サイドカー付きオートバイに乗るルージュとアナメ。片手剣や刀を手に糸を斬る女戦士とR。
どうやら、この場から抜け出したフェイクが救援要請を出してくれたらしい。
「おのれ……忌々しい虫どもめ!」
「虫はお前達の方だ!それに。私達ばかり見てると、痛い目を見るよ?」
「な──にぃぃ!?」
張り詰めた糸を切られ、各々倒れるバグ。愚痴を溢す言葉には苛立ちが見られる中。
アナメの見事なツッコミの後、忠告を受けた直後。汽笛を鳴らしゼロライナーがバグへ突撃。
縦二匹を跳ね飛ばし。横二匹は跳ねられ、動けないところをRと女戦士が喉に刃を刺し撃破。
毒で動けない終焉をニーアに託し、自分はスクランブル交差点に飛ばされた二匹を追い掛けた先で。
「っ!?」
「クックック……幾ら貴様の眼が世界を俯瞰しようとも、眼が見えなくては効果も使えまい」
眩い閃光の奇襲を受け、一時的に目が見えなくなってしまった!
突如放り込まれた真っ暗な世界。聴覚・嗅覚・触覚を頼りに神経を集中させるも。
複数の足音は止まっては動くを繰り返し、周囲を飛ぶ羽音が集中の邪魔をする。
次第に足音は消え、羽音が強くなったと思えば何処からか光線。または体当たりで襲ってくる始末。
「フハハハハハ!恐るるに足らず、オメガゼロ・エックス!」
「畜生……奴は何処だ!?」
まだ視力は回復せず、内心の焦りが感情にも出る。どうすればいい、どうしたらいい?
そんな気持ちが心を満たし、焦りが不安を生む。ルージュやアナメ達を連れて来た方が良かったか?
だが、この閃光を一緒に受けたら今と同じ結果で意味がない。次第に近付いてくる大きな羽音。
「どっちだ……何処から来る!?」
(今の向きから先行で腹部狙い、正面から六時が三秒後。十二時が六秒後に背後から腰狙いだよ)
一人では拭い切れない、晴らせない不安と言う闇。焦る俺の心に呼び掛ける遠井彼方の声。
その声と指示に従い、右膝蹴りと左後ろ蹴りを繰り出すと──十分な手応えがあり、迎撃出来た模様。
(大丈夫だよ。僕達も勇気を出して、破滅の未来に挑むから)
「偶然だ……偶然に違いない!いや、誰かの助力を得ているの──かぁぁっ!?」
すると奇襲や羽音も止み、遠井彼方曰く人類も勇気を出して挑むと言う言葉を伝えて消え。
俺の迎撃の成功を偶然か、誰かの助力を得ているのか?どちらか分からず戸惑う声が聞こえる。
すると一定の足音を鳴らし、此方に近付く足音が複数。それに便乗する様に、羽音も再び鳴り此方へ。
その時……聞き覚えの無い音が鳴った後。前後から爆発音が鳴り響き、爆風に呑まれる。
「通達!目標への直撃を確認。第一陣二陣、移動後次弾装填用ぉ~意!第三、四陣。照準狙え!」
「消防隊、前へ!桜花様特製、今作戦専用水、放水開始!我々のレスキュー魂を見せてやれ」
「ヌウゥッ!!脆弱な現人類風情が、生意気な真似……ヌオォォッ!」
渋い男性の声高い指示がスクランブル交差点に響き、無数の足音もそれに従って移動や行動を開始。
多分、さっきの援護は自衛隊の人達だ。それに……消防隊?専用のホースから放水された水に対し。
人工ナイトメアゼノ・バグは酷く苦しんでいる。桜花特製とは言ってたが、水でそんなに苦しむか?
そう思っていたら。突然誰かの両手が俺の目を覆い、淡く光ったかと思えば手は離れ……目が見える。
「我々の他にも……協力、していますのよ?
「アニマ……他って」
振り向いた其処には、赤い髑髏の鎧を纏ったナイトメアゼノ・アニマと、スカルフェイスの姿が。
自身らの他にも協力している者がいる。と微笑みながら言い、スカルフェイスが指差す方向を向けば……
ビルにある大型モニターにスタジオらしき場所の映像と、夢見永久や様々な動物の容姿をした人物の姿も。
ライバーが配信で使うアバターだ。それに、マスコットらしきデフォルメされた黒猫も居る。
「みんな~!準備は良い?一度でもやられたらゲームオーバー。残機一のオワタ式ゲーム、始めるよ~」
「電脳フィールド・オン。FPS、RPG、格闘、アクションゲームと同調開始」
「標的はナイトメアゼノ・バグにゃ。かなりの強敵にゃから、味方との協力プレイで倒すのが理想にゃ~」
「さあ──超協力プレイでノーコンティニュークリアだ!」
狐耳の娘がゲームの始まりを告げ、狸耳の娘はアイアン・メイデンが使っていたあの機能を起動。
すると俺達の居るスクランブル交差。その周りに建つビルの屋上から上空に光線が撃たれ。
ぶつかり合えば、ドーム状の空間を形成。跳び跳ねる黒猫がルールを説明。
他のライバー達も含め、全員で協力プレイを強調する形でゲームスタートをし、ジャンプ。
「永久、久遠……それに、みんなも」
「夢を追い続ける……それは時に呪いであり、生きる活力にも成りえます……の」
『すげぇぜ、宿主様!敵対していた三つの勢力に加え、人類までもが一体となって脅威に挑んでる!』
前線に立てぬ者達にも、それぞれの戦場がある。医師や看護士は病院や救急テントが。
ゲーマーにはゲームをする場所、ライバーなら配信現場。料理人、スタッフ、各々の仕事や趣味。
それを行う場所が、それぞれの戦場。アニマの言う通り、夢は活力であり呪い足り得る諸刃の刃。
それでも……終焉の闇、元調律者、ナイトメアゼノ、人類が今。俺の……デトラの夢を叶えてくれた。
「おのれ人類……だが、この程度でやられる訳が」
「リボルビング・インパクト!」
「ジャッジメント──ギルティ!」
自衛隊の攻撃に合わせた連携や、穴埋めを行うFPS組。それに援護魔法とバフを乗せる、RPG組。
もう片方を格闘、アクションゲー組が押さえ込む。されど人工とは言え、ナイトメアゼノ。
倒し切れず、意地を見せるバグへ右腕に魔力の弾丸を六発込め、顔面に叩き込み頭部を粉砕。
もう片方も、ジャッジが上空より落下しながら大斧を振るい──頭から一刀両断して爆散。
「幾人か脱落者は出たものの、みんなの超協力プレイでナイトメアゼノ・バグは無事倒された~!」
「ゲームクリアにゃ。参加者にはライバーのみんにゃと、二分間画面越しの対話が報酬に与えられるにゃ」
各勢力や人類が協力し、バグを倒した。勝利報告をする狐耳の娘と永久。
黒猫に声を当てる久遠が参加者への報酬を伝えると、歓喜のコメントが画面を覆い尽くし見え辛い。
周りを見渡せば、互いに褒め称えて喜び合う人々。……人類は手を取り合える。俺の計画も一つ、証明完了。
「それにしても、美味しいところを持ってったな。ジャッジ」
「……終焉様から、貴様を手伝えとのお言葉だ」
握手を求めて右手を差し出しながら言えば、ジャッジはそっぽを向きながら応じてくれた。
本心は受けた借りを返す、お前の罪を裁く前に倒されては……とか、色々あるんだろう。
それでも良い。こうして君と、手を取り合えたのだから。俺達も、手を取り合えると言う証明となる。
「くひひ……ゲームのボスと言えば、第二形態がお約束でしょぉ~?」
「コトハ!!貴様ッ……何故終焉様の謹慎命令を破り、此処に居る!?」
「うっざぁ~……。ん~なもん、トップが変わったからに決まってんじゃ~ん?」
そう感じていた時だ。コトハの気だるげな笑い声が聞こえ手を離し、辺りを見渡すと……居た。
氷付けにされたオメガゼノ・スルトの左肩に座り、自身の身長位はあるデカい筆を持っている。
筆──その一点にある事へ気付くも、時既に遅し。ジャッジとコトハの会話に注意が向いている間。
解凍の文字が染み込む最中。謹慎命令無視には、トップの変更と言うが……まさか!
「初めまして、そしてさようなら。愚かなる人類の皆さん。私は無月闇納、新たな終焉の闇を納める者」
「ぬぅぅっ……貴様も終焉様を裏切るつもりか!」
コトハの横に小バグの群れが幾つも集まり、大きな円陣を作り闇で満たしゲートの代わりとして現れ。
同時に、ビルの大型モニターをジャック。恐らく、全世界のテレビやラジオ、携帯電話をも……だろう。
礼儀正しく挨拶をする無月闇納だが……ヤバいな。以前会った時より、力が更に大きくなってやがる。
「私が彼を裏切る?そんな事、数百年前から彼は予知していたわ。だからこそ……オメガゼロ・エックス」
「っ!!」
「極秘裏の任務として貴方にわざと組織を抜けさせ、私の計画を阻止すべく暗躍させた。裏切り者として」
「ナ……ンダ……ト!?」
奴は……無月闇納は。ドゥームに裏切る予知を見抜いていた。続けて俺に視線を向け、名を呼ぶと。
ドゥームが仕込んだ対抗策たる苦渋の決断すらも見抜いており、それを公の場で公言。
俺を裏切り者として長年信じ続けたジャッジは余りにも衝撃的な事実に、右手に持った大斧を落とす。
「ふひひ……極秘裏の作戦。それは組織・終焉の闇をエックスに壊滅させてぇ~」
「私こと魔神王にして、終焉であり虚無なる王。オメガゼロ・ワールドロードの復活阻止を目論んでいた」
「なのにぃ~……アンタとトリックだけは、ガチで無実の同僚を裏切り者として殺しに掛かってるって訳~!」
「ソンナ……馬鹿な。それでは何故、我らが王は……」
コトハと無月闇納は極秘裏作戦の内容、今までの行動に意味が無かったと赤裸々に話。
信じて疑わなかった王の発言、忠実にこなした作戦の数々。それは裏返せば……
長年無実の者を裁こうと行動し、沢山の命を奪って来たと言う事実に両手で頭を抱え、膝を着く。
慰めようと手を伸ばす時。空を飛ぶノイエ・ヘァツがジャッジに取り付き……スルトと一体化。
「さあ──オメガゼロとナイトメアゼノの合わせ子、オメガゼノ・スルト!!この星を焼き尽くしなさい」
「ヴオォアァァァッ!!」
闇納の言葉と左肩から離れた事に反応し、灼熱の高熱を放ちながらオメガゼノ・スルトが復活。
その雄叫びは、ジャッジの悲痛な叫びにすら聞こえた。待ってろよ……ジャッジ!
お前の罪は、俺が裁いてやる。そうして罪を償い切ったら……決着をつけるんだ。今度こそ!




