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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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託すモノ

 『前回のあらすじ』

 元調律者・桜花との握手が切っ掛けとなり、過去の枝分かれした体験を走馬灯の如く思い出すエックス。

 その記録量や内容は桜花本人や機械への保存を許さず、寧ろ逆にウイルス的なモノとなって襲う程。

 気配も無く現れた預言者・アンパイアは融合四天王・ジャッジとしての正体を表し、約束の決闘を挑む。

 しかし、エックスの進化した能力を前にあっさり敗北。再戦を言われ、撤退するジャッジであった。



「おかしいな……スキル・スレイヤーの効果で暗い場所でも夜目が利くのに」


 疑問は浮かべど、やる事は変わらない。左眼に見える無数の映像、結末の大多数……

 姉妹の死か、動画配信を行っているライバー達の死へと続く道。その中でも。

 僅かに残された救済の道を目指し、強風に吹かれて揺れ動く一本綱を渡り切らなければ。


「ぐふッ──!?」


「流石に……か。少し休め。扱い切れぬ力を連発した反動が如何なるモノか、まだ分からん」


「検査。霊力、魔力の大幅な消耗、力の反発を確認。安静にして休む事を推奨」


 そんな気持ちとは裏腹に、気持ち悪さと共に体内から口へ逆流し──大量の血を吐き出した。

 右手で口を抑え塞いだものの、指や手の隙間から漏れ出て地面に零れ落ちる。

 気分の悪さやベーゼレブル、ディーテに休む事を推奨された途端。意識を失い、その場に倒れ込む。

 どれ程眠っていたのか。目を覚ませば……陽当たりの良い神社の縁側で眠っており、思わず起き上がる。


「へぇ~。カケハって西暦五千九百六十年生まれなの?呪神封印の役目もかなり続いてたのね」


「えぇ。少なくとも私の代までは、封印の役職に関して納得はしていましたので」


「同じ武闘派巫女として、私にも使える技とか伝授してくれないかしら?」


 霊華と話すカケハ。巫女の一族も、かなり未来まで呪神・珠沙華(じゅしゃげ)を封印してたのな。

 そうなると、アバドンやベーゼレブルと戦った頃辺りかその後に、コトハが封印を解いた訳か。

 まあ、家が八百屋だから将来店を継ぐって子もそうそう居ないし。そう言う意味でも、駄目だったんだな。

 納得していたら、カケハさんから技を教えて貰おうとしている霊華。二人共華奢な体なのに武闘派……


「回復効果を暴走させた霊力を相手に叩き込み、回復不能の内部破壊を起こす技で……」


「細胞分裂を引き起こす技なのね。これはナイトメアゼノとの戦いでも使えそう」


 しかも、教わってる技がかなり物騒極まりない。動きを見せつつ説明してくれているのも優しいな。

 ……アレンジを加えたら自分でも使えそうだ。多分、他の技と組み合わせるのがベストだろうか?

 池の方に目をやると、静久と詠土弥が何かを話している様子。近付いてみたら、何か悩んでいる。


「呪い、解けた。静久、離れるべき」


「それは分かっている……だが今はまだ、あの中二病娘を欺き目に物を見せる為、このままでいい……」


「分かった。タイミング、静久に任せる」


 何故詠土弥が?と思った反面。本人の口からコトハが仕掛けた呪いが解けた為、分離すべきと言うも。

 そこは、やられっぱなしは性に合わない静久。我が儘と理解しつつも理由を話し、現状維持を所望。

 詠土弥もその旨を理解し、承諾すると。懐から鈍く光る紅玉を取り出し、静久に差し出す。


「……これは?」


「人工悪夢の呪い、その核。多分、使える」


「……ホレ」


 受け取ったそれは、溢れてる魔力から察するにナイトメアゼノ・グラッジのコア。

 多分使えると言われ、じぃーっと見ていると思いきや。突然此方へ山なりに放り投げた。

 核だけとは言え、こんな全く分からんものを此処で投げるんじゃありません!


「使うかどうかの判断は……任せる」


「コイツは使うかどうか?じゃなくて、使えるか否か……だけどな」


 仮に使えるとしても、グラッジの能力を得るとしても。静久との相性はべらぼうに悪い。

 そう言う意味でも、使えるか否か──だ。綺麗好きと汚れ大好きじゃ、相反し過ぎるし。

 もし使えるとしても、本来の能力を静久寄りに切り替えた上で、昇華させなくてはならない面倒臭さ。

 そんな事を思っていると。遠くに四つの人影が見え、近付いてみたら……終焉達と闇納の二組だ。


『まだ時期尚早な計画を何故段階も踏まず、押し進めた!?』


『えぇ~……どうせ消す邪魔者だしぃ~、別にいいじゃん』


『これは計画の練り直し、建て直しが必要そうね』


『クソッ!もう余分な時間も余計な手間もしてられないってのに!!』


 正座中のコトハに怒鳴る終焉と、呆れた様子のマジックが、真っ白い空間に映っている。

 向こう側の様子が一部切り抜きされているっぽい。怒られても反省の色を見せず、口答えするコトハ。

 マジックが話し掛けるも、部下の報連相もしない行動に苛立ちを覚える終焉……御愁傷様です。


『何百年の時を経て、漸く完成した私の卵達。さあ、早く目覚めて?美味しいご飯が待ってるわ』


 闇納が大事そうに、両手で抱き抱える二つの黒い卵。一つはモゾモゾと動き、一つは静寂を保つ。

 奴は完成した……と言った。魔力などを塊に圧縮した物か、それとも調律者の技術で作った物か。

 そう考える内に意識が遠退き、目が覚め体を起こすと……暗雲の空や景色が上下に揺れ動いていた。


「おはよう。目は覚めた?」


「結城飛鳥……あぁ。夢か現実か分からん領域から目が覚めたよ」


 此方の顔を覗き込み、挨拶をくれる飛鳥。オメガゼロになってからと言うもの。

 相も変わらず夢か現実かすら分からない空間に放り込まれ、寝た気すらせず、寝れたかも分からない。

 その時。フュージョン・フォンの着信音が鳴り、通話状態にするとテレビ電話へ切り替わった。


『貴紀君、大変大変!そっちにナイチンゲールからの映像を送るから、指示して欲しいの!』


「これは、余り宜しくない状況ですわ……ね?」


「周囲の監視カメラから、何があったのかを検索するわ」


 突然話し出し、内容もそっちのけで映像に切り替わったんだが……そのリアルタイム映像はと言うと。

 白いビルの前で抗議する二十人余りの人達が、唐突に開いた扉の中へ吸い込まれてしまった。

 この現象はアニマが占拠したデパートでの体験と全く同じ。これに横から覗き見て反応したのが……

 アニマと桜花。桜花は監視カメラの映像を遡る為、宙に電子キーボードやモニターを展開。


『隊長、聞こえますか?』


「あぁ。聞こえるよ、リグレット。通信回線に乱入とはどうした?」


『独断専行した夢見久遠さんを追い掛け。私とR、フェイク、フュンフの四人で被害現場に居ます』


 突然再度着信音が鳴れば。画面の上半分を頂きますと言わんばかりに占領し、話し始める皐月。

 今は作戦開始前の段階で、唐突な割り込みの理由を訊ねれば……一人で行動する久遠を追い掛け。

 支援型小型戦闘機・ナイチンゲールの映像に映る現場に四人で居ると、本人の口から報告を受けた。


『以前体験したあの空間と同じだとすれば、後十五分が作戦可能時間だと予想します』


「その根拠は?」


『実体験です。心に闇を抱える人程耐えれる時間が減るので、事態は一刻を争います』


 本当は無断行動を咎めたかったが……今回は逆にそれが良い結果を生んでくれたのも事実。

 その上。皐月の体験が作戦に必要な時間をも導き出し、自分から進んで話してくれたのも嬉しい。

 更にあの空間で受ける被害者側の詳しい情報もあり、この成長を手放しで喜びたい程。


「了解した。リグレット、君の目覚ましい成長を褒めてやりたいが、それは作戦の後になりそうだ」


『はい、それで構いません。今は人命救助が最優先ですから』


「恐らく、此方の到着に合わせて新生ナイトメアゼノが邪魔しに現れる筈だ。その殲滅を任せたい」


『了解!人手が足りない時は現場の判断で仲間を呼ばせて頂きます』


 自己主張や意見が出来る様になり、褒めたくても作戦の後になる旨を伝えたら。

 当人の人命救助優先と言える人格にも内心嬉しく思い、トップが変わったらしいナイトメアゼノ勢力。

 その邪魔が妨害に現れる予想を伝え、殲滅を任せたら。人手不足時の対応を即答。

 今の彼女になら、安心して任せられる。肯定の意味も込めて頷けば、通話が切れた。


「不味いわね。夢見永久まであのビル──洗脳装置のあるアイドル育成事務所に入ってるみたい」


「悠君、聞いた通りだ。余計な時間はない。君の家族を助ける為にも──跳べ!」


 何と言う悪い運の巡り合わせ。夢見姉妹までもが、あのビルに入っていると桜花から聞かされ。

 獣形態で自分達を乗せて走る悠君に急ぐ様伝え、何が誰とどう繋がっているのか?

 不思議とその妙な程複雑に絡み合った縁の繋がりが、気になって仕方がない。

 そして……あの異質美術館で視た絵の数々。誰が、何の目的で自分達と関わりのある絵を描いたのかも。


「……新たなる王。私達は……古きモノとして、棄てられてしまったんですの……」


「…………」


 これもある種の縁なのか。旧人類を救う為、自身らの王の言葉を信じて行動して来たアニマ達。

 されど新たな王が古き王を退け、君臨。その結果、古きモノ……ゴミとして夢諸共捨てられた。

 そのショックは、自分にも経験がある。でもその苦難に対する答えは、本人が導き出すしかない。

 民家や店、車や信号機を飛び越えて走る悠君もまた──父親に棄てられた側。何とも言えないな。


「お兄ちゃん……お母さん達の事、お願い!」


 その言葉と共に急ブレーキを掛け、背中に乗っていただけの自分は前方のビルへ飛ばされ。

 目的地であるビルもまた、此方を餌と認識して自らドアを開き、自分は内部へと吸い込まれる。

 吸い込まれた先は一階の受け付け。勢い良く閉まる音が鳴り響き、振り向けばドアが閉じていた。


「退路は断たれた訳か。まあ、救助作戦と脱出の最終目標は一緒だから構わんがな」


(トハ言エ、此処カラハ時間トノ勝負ダ。移動ト侵入ニ五分使ッタ。残リ勝負ハ十分ダゾ)


 退路は無く、あるのは前進のみ。今はそれで十分。とは言え……この空間の気持ち悪さは異常だな。

 以前と違い、ドス黒くも原始的な欲望と纏わり付く悪夢に満ち満ちている。

 ルシファーの言う通り、元より作戦時間は少ないが、そうでなくとも長居は危険だ。


(貴紀、階段の近くで誰か倒れたわ!)


「上の階から降りて来た人か?」


 空気に嫌な感覚を感じつつも先へ進もうとした時。上の階へ通じる階段から降りて来た若い女性が倒れ。

 駆け寄り右腕で抱き起こしてみるも。その表情はとても酷くうなされ、苦しそう。

 左手を女性の額に近付け、第三の力・装填する能力を使用し自身がうなされている原因を受けると……


「っ!!」


(大丈夫か!?宿主様!)


「あ、あぁ……。クッソ……俺達の因縁を悪い意味で絡み合わせやったな、アイツ!」


 女性が見せられている悪夢を移し視た事で、この空間を作っている原因たる張本人が判明。

 改めてその下衆さに苛立ちと怒りを覚え、コートの内側に左手を入れ。

 転移の符を使い、港倉庫の仮拠点へと女性を避難させた。ゼロライナーもある為、治療も可能だ。

 使える転移の符は残り十枚。最低でも二人を同時に転移させないと足りない事を確認し、階段を登る。




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