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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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──の進化

 『前回のあらすじ』

 復活したエックスは停止した時間の中。襲う最中のインサニア達から切り裂き核を抜き取って撃破。

 スーツに亀裂が入るも変身を解き、桜花から連絡を受けアニマとディーテを連れて指定の場所へ。

 会って話した内容は『掃除』に関する。ただそれは、人類の一部を掃除する為に協力して欲しいと言うもの。

 快く承諾し理由を聞くと、現在の二千三十年や未来の二千四十年に起こる大規模な問題に対処する為であった。



 桜花と握手を交わし、席に戻ろうと動く刹那──激しい頭痛がしたのを、覚えている。

 同時に、走馬灯とも言える映像も観た。正確には、見せられ続けた……と言うのが正しい。

 復讐を誓った元友人を追い掛けて幻想の地へ着いた後。そこで初めて……ベーゼレブルと戦った。

 いや──瞬殺された、と言うべきか。友を止めるべく刃を交えて戦い、決着がついた昼頃。


『……えっ?』


『チッ……まだこの程度か』


 元友人の胸に集まった闇から飛び出す右腕に、安堵して無謀なままの左胸を貫かれて死んだ。

 本人としては品定め程度だが、当時の自分は意図も容易く殺された。桔梗との喧嘩で勝てたのに。

 闇に飲まれ消える元友人と、腕だけのベーゼレブル。走って駆け寄る居候先の巫女。


『駄目よ!アンタまだ、私に恩も何も返せてないって言ってたじゃないの……』


 何も知らぬ第三者から見れば。居候の恩着せがましい巫女、恩を理由に利用する奴と思うだろう。

 でも違う。彼女はゼロの肉体と血縁的に妹であり、自分も後々それを知ったが……知らない当時は。

 不思議と気を許せる間柄で、いい関係。それを周りに茶化される事もしばしばあった。

 そんな彼女が。目に溜まった大粒の涙を溢しながら、感情の爆発を抑えながら話し掛ける。


『おい……気をしっかり持てよ。いつもみたいに、自分を色んな場所へ振り回してくれよ』


『へへっ……悪いな。もう、お前の顔もよく見えな──』


 場面は変わり。今度は自分が右胸に鋭い棘の刺さった魔女っ娘を抱き支え、俯きながら話し掛けるも。

 魔女っ娘は自身の帽子を此方に被せ、左手で掴んでいた彼女の右手がすり抜けて宙にぶら下がり。

 細く華奢な右腕を伝い落ちる鮮血が、死を物語る人里の朝方。そんな光景が何百何千何万と続き……


『明日は終焉や四天王と決着をつける日。決戦前は懐かしの日常で過ごしましょう』


『あぁ、そうだ──な?』


 組織・終焉の闇と最終決戦を行う前日の夕暮れ時。サクヤは寧の姿へ戻り……

 忘れて久しい日常を思い出させてくれようとし。ブロック塀の横道と繋がる場所に出た瞬間──

 パンッ!!銃声が聴こえ、サクヤは……寧は頭部を撃ち抜かれて倒れ伏す。

 それを確認し、横道から次々と出て来る自衛隊達。周囲の警戒で俺に気付いた時……


『最重要ターゲット発見!射殺し──』


『射て射て射てぇ!!』


『だ、駄目です隊長!弾が当たり──』


 瞬時に殺した。通信状態だったらしく、増援も次々と現れ、待ち伏せたりしたが……皆殺し。

 人が行う殺し方や処刑法を全て試し、拠点へ戻れば──市民が俺の仲間を捕らえ、なぶり、慰みものへ。

 当人達は悪人を捕らえ、悪事を防いだ気分だろうが。俺はもう……人類を見捨てる覚悟を決め。

 龍神・天狐・ヤマタノオロチ・狼王の姿へ戻した絆達に『人類と言う玩具』を与え、殺し尽くした。


『……気は済んだ?』


『済む訳無いだろ。人類に対しても、俺自身に対しても』


『それ、日本では体育座り……だっけ?本当は戦後のアメリカに与えられた奴隷座りって名前だけど』


 全世界に対して破壊する能力を使い──縁や絆を辿って全人類の命を文字通りじっくりと握り潰す。

 本当は相手の体感時間を極僅かにして、足の指の一本ずつから徐々に徐々に殺したかった。

 ゆっくり切り刻まれる精神的恐怖を、少しずつ切断される肉体的痛みを何千、何百万倍の時間にして。

 白いワンピを着た麦わら少女姿の副王が現れ、膝を抱える自分に話し掛けるも……気は済んでない。


『でも凄いわよ?一億飛んで百八回目のループなのに、貴方の執念は薄れるどころか増すばかりね』


『通常、リセットのループをしたら記憶は無くなる。だが……強い感情があれば記憶は持ち越せる』


『その通り。貴方の執念と恨みは人類の歴史上サイキョウ。それが……覚える能力の、本当の正体』


 何度リセットループをしても。大切な相手を殺され、俺が殺られる度に見る涙と悲しむ表情が……

 俺に深く根強い執念と恨みを覚えさせ、それを回避すべく場面に合わせて掘り起こす。

 言わば復讐と負けず嫌いに力を注いだ記憶力の結晶。それでも……全ては救い切れないのが悔しい。


『一億百九回目のリセットループは如何?』


『頼む。今度はもっと……上手く立ち回って見せる』


 そうしてリセットを繰り返し、今が何度目かなんざ全く覚えていない。覚える必要も無い。

 覚えるのは──仲間を殺した奴の顔と場面だけで十分。今度こそ護る為に、救う為に殺し尽くす。

 走馬灯にも似た刹那の映像が終わり、意識が戻ると椅子の背凭れに背中から倒れ込む。


「冷や汗……凄いですの。……お互いに」


「検査。体温、心拍数、脈拍、呼吸の上昇を双方共に確認」


 言われる言葉も内容も理解出来る。けれど、蘇った記憶と知らぬ間に握っている二つの代物。

 一つは金色の懐中時計。もう一つは七色の宝石が一ヶ所に填められた銀の指輪。

 指を填める穴の部分に銀の鎖が通してあり、ネックレスとしても使えるようにされてある。


「あぁ……負荷の原因をサーバーに送り、再起動と同時にバックアップを起動します」


「あら……記憶の共有なんてするからですの。彼の記憶は貴女程度では保管も不可能ですのに」


「エラー。記録した映像に重大な問題が発生。全システムを保護する為、記録を完全消去し再起動開始」


 仰け反り痙攣する桜花は機械音声で淡々と喋り、あの記憶を保管しようとしたらしいが……

 破壊の力が作用し、桜花自身を生かす機能に影響を及ぼすも。最小限を切り離し九死に一生を得る。

 アニマの言葉なんて聴こえていなかっただろうが、涙目で咳き込むあたり──身を持って知ったか。


「……決闘の申し込みなら、もっと正々堂々と来るんだな」


「おやおや。気配を消していたのに、バレてしまうとは」


「今の彼や私には、あなたの気配は歪みとして捉えてしまいますのよ?」


 椅子から立ち上がり、振り向かず視界に映っていない相手へと言葉を投げ掛ける。

 すると背後から予言者・アンパイアの声が聞こえ、それに気付いたディーテが驚いた様子で視線を向け。

 アニマは気付いていたらしく。此方の左側面へと回り込む予言者に向かって理由を言う。


「今度こそ。改めて──正々堂々、二度目の決着と行きましょうか」


「ふむ。ではこの私、ベーゼレブル・ツヴァイが公平な審判を。私と彼女らを見届け人としましょう」


 正々堂々、今度こそ、二度目の決着。そう言い身に付けているマントを右手で開く。

 その中身は黒く濃いめの緑色、縁は金色の洋と和を見事に合わせた鎧。

 盲目故に閉じていた目を見開けば、首から皮膚が炎上し残った髑髏に自身で兜を被り大斧を手にする。

 正体を現したジャッジとの決着を見届ける為、ベーゼレブルが現れ審判を受け持つ……いや、当然か。


「それで良い。だが──俺も暇じゃない上、問題も山積みでな。悪いが……早めに決着をつけさせて貰う」


「レディ……ファイッ!」


「ジュウダァァァス!!」


 そう。問題は山積みなのだ。今の俺には見える……仲間の誰が、いつ何処で何をして誰に殺されるか。

 又はどうやって死ぬか、どうなるのか。何百何千万通りのルートや、結末が鮮明に見える。

 だから──こんな認識違いの逆恨みに長々と付き合ってやる義理や暇もない。

 決闘開始の合図が出され、一刀両断しようと最初から全力投球。大斧を振り上げ、一気に振り下ろす。


「驚愕。今の一撃は、回避すら難しい筈」


「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!何故だぁぁ!!」


「怒涛の振り下ろし……直撃すればミンチか粉砕は確実なざく切り、ですの……ね?」


 が──土煙が晴れるまでもなく、チラリと見えた此方の無事な姿に苛立った様子。

 滅多斬りと言わんばかりに怒涛のラッシュを繰り出す。まあ、俺には掠り傷一つすら当たってない。

 命中しない理由としては……動作の一部始終を直接何千万と視て体が知っているからだ。


「来るか!だが!!終焉様より頂いたこの鎧、以前の物とは強度が違う!」


「その慢心が命取りだといい加減に気付け、うつけ者」


 土煙が舞う中飛び込むも、仁王立ちで寧ろ攻撃を受けてやるぞ。と言わんばかりの挑発。

 その鎧の硬度は初見だが、十二分に触れて叩いたから知っている。割る程度は力を借りれば問題無い。

 しかし、問題は内部。コイツの本体は怨念の魂達。物理的なダメージは全く意味がないのもな。

 勿論対応策はある。二十三度目のトライで編み出し──静久の名前を拝借し名付けた技。


「永久に響け。静響久遠掌せいきょうくおんしょう!!」


「な──ジューダス!貴様……ぐおぉぉぉッ!?」


 チラッと視線をベーゼレブル達の方へ向けたら、ディーテの眼が此方を捉えて離さない。

 両手による掌底を鎧の腹部に打ち込み、極一部の存在にしか聴こえない音波を発生。

 すると平衡感覚を乱されたジャッジは、酒に酔った酔っ払いが如く足下が覚束ず尻餅を着き倒れる。


「そこまで!勝者、オメガゼロ・エックス!」


「俺の勝ちだが──まだやる気か?」


「ぐぬぬぬ……」


 片足で大斧を持つ右腕を踏みつけた上、右手で抜いた朔月を髑髏に向けた所で勝敗の判決が出され。

 見下ろしまだやる気かどうか聞くと、随分と悔しそうな……されど下された公平な審判に抗えぬ様子。

 ただ、理解は出来る。例え敗けと判決を下されても、心や眼は敗けを認めていない。その強さと弱さも。


「……もう一度だ」


「なん……だ、と?」


「お前の実力はこんなもんじゃない。お前がドゥームに向ける想いは、まだ燃え尽きていないだろ?」


 だからこそ、もう一度勝負を吹っ掛けた。本当、我ながら面倒事を増やしたと思っている。

 ジャッジから降り、左手を差し出すも──要らぬとばかりに弾かれ、自らの力で立ち上がり。


「ジュウダァァ……ス」


「いずれ、この貸しは返す。だとよ」


 溜め息でも吐く様な言葉を残し、姿を消す。ベーゼレブルが翻訳してくれたが、よく分かったな。

 何はともあれ。これで洗脳装置の停止や、壁画に残された予言。オメガゼノ・スルトへの対策も打てる。

 ジャッジ、お前は本当に強い。自分が勝てたのは……あの過去の体験記録が何かを開眼させたからだ。

 その上でなお、体験・経験上で何十回も殺られた。その積み重ねがなければ、勝てなかったよ。


「漸く、複数のスキルがワールドロード(世界の道)に進化出来た……と言うところ、ですの」


「スキルの──進化?」


 修得・会得したスキルが経験を積み、レベルアップして効果が強くなる。と言うのは知っている。

 が、複数のスキルが経験を積み重ねて統合進化する。と言うのは全く知らなかった。

 そもそも、何のスキルが統合されたのか?それすら分からず外に出て見上げた空は……薄暗い。


(いやいや。これは敗北からの進化だろ!)


(何ヲ言ウ。コレゾ王道、積ミ重ネノ進化ト言ワズシテ何ト言ウ?)


(二人共分かってないわね。これこそ、人間の進化よ)


 そんな疑問や気持ちを余所に、何の進化であるかを言い合っているゼロ達に思わず黙った。

 敗北を積み重ね続けた人間の進化……で良くないッスか?なんで一つに固定しようとするのだろう?

 まあ、何か拘りなり語呂合わせ的なものがあるんだろうな。敢えて言わないのが吉……かな。




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