共犯者
『前回のあらすじ』
渦巻く光と闇を通り抜けた先は、見知らぬ寺の大きな部屋。其処では巫女の一族が呪神の封印を代々続けていた。
それは三騎士・コトハにも関する記憶。その中で何故コトハが三騎士になったのか?一族を滅ぼした理由を知る。
現在を投影する空間でベーゼレブル・ツヴァイと話す最中。守りたい、救いたい存在を思い出し駆け出す。
インサニア達の襲撃を受ける仲間達は、意識の無いエックスの体を守りながら戦うも、対に魔の手が届き掛ける。
インサニア達の振り下ろす爪が当たる寸前。目を見開くと同時に、パワードスーツが装着された時。
(本当に死にたい人は死にたいって言わない!)
(みんな苦しいんだ!お前だけが苦しいと思うな!!)
(会社や親の所為にするな!)
周囲が停止した様に見え……手で触れた相手の感情が読み取れた。余りにも身勝手で、一方的な言葉。
だからなのか。立ち上がり、両腕の刃エボル・ブレードが伸びたのを確認後。
近くに居る三体を切り裂き、みんなの方へ駆け出し食い止めているインサニアを次々と切り捨てる。
「愚かなる魂に──無限の地獄を」
理解しない、批判ばかりする、己の常識を押し付ける。そんな連中に救済なんて必要ない。
可能な限り細かく、滅多切りにしてもなお、時間は進まない。
赤いコアを抜き取り、体外へ投げ捨て愚か者へ向け言葉を残した直後。
空気を読んだかの様に時間は動き出し、切り刻んだ肉片は床に落ちては自然発火し消滅。
「隊長……よくぞ、復帰してくださりました」
「あぁ、なんとかな。皐月、現状は?」
「はい。実は……」
喜びと涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で拭いながら、復帰──もとい復活を喜ぶ皐月。
抱き締めて安心させてやりたい。とは言え、今は現状把握と対処が最優先。
今の状況、あれからどれ程経過か?それを訊ねるとフュージョン・フォンを出され、受け取ると……
『久し振り。消失から三日と十時間振りね、エックス』
「心情桜花か」
通話状態かつスピーカーになっており、元調律者である桜花の声が聞こえ。
名前をフルネームで呼ぶと仮面内部のモニターに時間と住所、ルートが転送され電話は切れた。
周囲に警戒しているのが察せられた。そらまあ、また闇納の奇襲を受けるのは勘弁だろう。
余計な会話は傍受や逆探知の危険性もある。そう言った危機感も理解出来た為文句は無い。
「復活出来たみたいで良かった……って、それ!!」
「パワードスーツに亀裂が……」
「で、でも。数値上で損傷箇所は無いのに、どうして!?」
Rが心配して声を掛けた直後。ルージュの口からスーツに亀裂が発生したと耳にするも。
寧が言うのと同様、此方もモニターでチェックするがダメージを受けた様子はない。
亀裂も表示されておらず、寧ろ出力の上昇や強度性の向上が数値として表示されている程。
手足を見ても言う様な状態は無いものの、パラパラと黒い部分が剥がれ落ちている。
「何はともあれ。みんなが無事で良かった」
「はぁ~……それはこっちの台詞だってぇの。ジャンクと新月さん達が消えた後、色々大変だったんだぜ?」
「それはすまなかった。だが、自分達と別れて手詰まりでは大問題だ。その点は解決力を養って欲しいな」
何か起きる前にフュージョン・フォンを操作して変身を解き、みんなの無事を喜ぶも。
勇者候補生のフェイクから深い溜め息と、自身らが体験したであろう愚痴を笑いながら言われた。
別に怒っている訳ではなく、責めたい訳でもない。ただ……親友に吐き出す世間話感覚の言葉。
故に軽い謝罪の言葉から始め、自分達が消えた後に来る問題の解決力を養って欲しいと笑って返す。
「ねぇ、エックス」
「なんだ?ルージュ」
少し間が空いて、ルージュから呼び掛けられ振り向き返答すると……何やら俯いたまま黙り込む。
何かを心配している、何かを言い出したいけど周りの目や相手に言い出し辛いんだと理解。
こう言うのは呼び掛けたまでは良いが……その後の言葉が言って良いのか悩み、言い出せないのが多い。
「緊急や急ぎの内容か?」
「そう……じゃ、ないけど」
「了解。今から出掛けるが、帰還後に話を聞かせてくれ。言い辛い事なら紙に書いてくれても構わない」
念の為、緊急や急ぎか否かを訊ねるも……返事は何処か迷っている様子。
自分も社畜の頃に大なり小なりのミスをした時は、不安で早急に報告が出来なかったのを思い出し。
もし上司と立場が逆だったら、こう言って欲しかった。と言う願望を敢えて口にするのは何か──
罪悪感にも似た何かを覚えた。口で言い辛いなら、書く方が伝え易い。メールでもそうだがな。
「ディーテ、アニマ。自分のボディーガードを頼む」
「了解。オーダーを受諾、行動に移します」
「畏まり……ですのよ」
念には念を入れ、二人を連れてみんなが仮拠点としている港の倉庫。その一つから港側へ出た。
周りに人影は無く、まるで放棄されているのかとさえ錯覚する程。
一応、船の整備をしてる人は居るが……波が荒く、漁に出ても収穫より人命を失い兼ねない程荒い。
フュージョン・フォンに表示されたルートを進むべく、港町の方へと足を運ぶ。
「何やら、賑やかな場所があります……のね?」
「検索。本日はコミックマーケット、通称コミケと言う同人誌即売会がある模様」
「珍しいな。本当なら冬や夏にやるもんなのに」
ルートの一つ。港町の近くを通ると、熱狂的な歌声と歓声の声が響いており、アニマが興味を示す。
ディーテ曰く同人即売会が開催されている模様。時にはライブもあるから、この熱気はそれだろう。
本音を言えば買いに行きたい。今のアニメ作品とか色々知りたいし、グッズも欲しい……が、断念。
モノレールが走る線路の下を通り、牛丼屋チェーン店で使う牛肉パックの製造工場の近くを通ると。
「いらっしゃい。さあ、席は三人分用意させて貰ってるわ」
「用意周到ですね。此方としては、ありがたい限りですが」
瞬間移動か、はたまたあの工場の近くを通った時に空間の狭間にでも入ったのかは不明。
場所は町並みのある所から真っ白な四角い空間へ。色も考えてか、玉座とも言える椅子は黒い。
呼び掛けられ、席に座る様促されるとアニマとディーテに目で合図を送り、自分だけが席へ座る。
「それで、呼び出した用件は?」
「この世界を『綺麗に』する為、貴方達の力を借りたいの。勿論、私も手を出させて貰うわ」
「……確かに。今の内に幾らか掃除をしなきゃ、動き難さは発生するな。足下からやるのか?」
「えぇ。掃除や洗濯は足下から片付ける。それなくして身動きは取れない……でしょう?」
わざわざ特定の時間や場所、ルートまで使って招いた話し合い。その用件は──
『掃除』に関わる内容。当人も手を汚すと口にするが……そうでなくては割りに合わん。
それで、足下から片付けるのか?と言う問い掛けに肯定し、身動きを強調して話す桜花。
「保護も兼ねて……と見て良いのか?」
「当然。寧ろ、足下の掃除はそれがメイン。後は戸棚や高い所を叩き、落ちたゴミや埃の除去の後までね」
保護。それは自分が危惧するライバーに向けられた危険性に関してだが……桜花はそれを瞬時に理解し。
早急に片付けるべきメインはソレで、残りはデカい粗大ゴミや腐敗した空気の換気。
その後まで見据えている辺り、人類の管理を計画し実行しようと動いていただけはあると再認識した。
が……此処で少し疑問が生じた。何故そんな天才的な頭脳を持つのに、わざわざ直接会って話すのか?
「何故直接会って話すのか?疑問そうね」
「あらあら。表情から心を読まれています……わよ?」
「仮面でも被るべきかねぇ」
表情から心を読まれた。アニマにも指摘される辺り、相当顔に出易いのかも知れん。
戦闘中は命のやり取りやら仮面を装着してるのもあって、表情から読まれてないだけなのかも……
「呼び出した理由は、相談する為よ。そう言う点では、今の人類が行う教育も入れ替えるべきかしらね」
「ほう。例えばどんな風に?」
「最低でも遠慮無く相談出来る様に──よ。時代が違えば教育や社会のあり方も変えるべきよ」
話は更に膨れ上がり、人類の教育も入れ替えるべきだと発言し出した。例えを聞き、ある意味納得。
学校で言う相談とは教師が採点し個人や集団に宿題を教えるも、社会に出れば求めるのは協調性。
学校時代の教えが邪魔となり、上司を採点官と認識。完璧やキチンとした高いモノを……と相談し難くなる。
親もそう言うのを求めるから、完璧主義が生まれるのかもな。そう言う意味では、目から鱗だよ。
「それに二千四十年に起きると予想される水不足による戦争の阻止、二千三十年の問題も山積みよ」
「同意。蜜蜂の数が年々減っている点も深刻。蜜蜂が絶命すれば、人類の食料危機は確実」
今や殆んどの場所で手に入る水。とは言え、安心して飲める水は他国では少ないだろうし。
雨が降らなければダムに水は溜まらず、仮に溜まっても土砂を含んだ泥水じゃ飲料水にはならない。
そう言った意味では、二千四十年に起きると言う水戦争は納得出来る。蜜蜂の件は確かにそうだ。
後継者が居なきゃ、蜂蜜もそうだし受粉も殆んど無くなるだろう。そうなれば、植物は育たず食料も無い。
「となると、今は蜜蜂の問題もあるのな」
「えぇ、残念な事に。それが原因で、上級国民や大半の金持ちが人身売買で大人や子供を買う問題もね」
問題は、予想以上に深刻だった。あの爆弾にされた少女も多分……花いちもんめの犠牲だろう。
蜜蜂の減少で食料の値段は高価し、ほぼ金持ちしか沢山買えない。
ゴミのポイ捨てや海や川の汚染で、家畜や魚も減少。飢餓により犯罪率も遥かに倍増。
う~む……これは人類にもやらせなきゃ解決は無理だな。面倒臭がって嫌がるだろうが。
「その為に、自分の人類救済計画を利用したいと?」
「共犯者に入れて欲しい。と言ってるの。共犯者たる私達全員を含め、本当の人類救済を行う為にも」
「なら、断る理由はないな」
今現在と未来を含めた問題解決の為、自分が掲げる人類救済計画の共犯者になりたいと言う桜花。
個人的には大歓迎だが、計画を内側から乗っ取られない様に細心の注意だけは必要か。
椅子から身を乗り出し、向かい側に座る桜花と握手を交わす。利用し合う仲でも構わない。
自分の目的は、人類が人間として生きて行く為の救済なのだから。




