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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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巫女の一族

 『前回のあらすじ』

 出口らしき場所へ向かうも、行く手を阻む透明のバリアー。その場に居たベーゼレブルが指を鳴らすと……

 突然次々と心が抱える問題や不安が襲い掛かるも、エックスはこれを見事自身の答えで撃破。

 されどその答えは、自らが体験し仲間達に支えられたからこそ得た回答だと述べる。

 ベーゼレブルはドゥームに姿を変え、助言を伝えるとエックスはバリアーを砕き、外の世界へ大きな一歩を踏み出す。



 光と闇の渦を抜けた先は──無数の蝋燭と心細く灯る火だけが照らす、大きな和風の一室。

 まるで儀式でもしているかの如く、老若の巫女達が何度も繰り返しお経を唱えているのが聞こえる。

 真正面……部屋の一番奥には十メートルはある仏像が置いてあるが、右半分は泣き、左半分は憤怒。

 その時、背後から自分をすり抜けて行く若く黒髪を括った巫女が、前方で正座中の巫女へと近付く。


「母上ぇ~、呼びましたぁ~?」


「──!!毎日決まった時間に来る様伝えてるでしょ!?……兎に角、今日も巫女としての修行を始めるわよ」


「えぇ~……」


 母上と呼ばれた黒髪ロングの巫女は立ち上がると同時に振り返り、躾のキツい母親の如く娘を叱る。

 ただ名前の部分は、何故か聞こえなかった。巫女としての修行と言い、面倒臭がる娘を連れて外へ。

 場面がスライド移動し、切り替わった其処は……竹林の中に流れる滝行の場。


「巫女とは神に仕えし者。大自然の中で精神を研ぎ澄まし、木々や風。自然の声を体全体で聴きなさい」


「……っ~……無理だって~。何年もやってるけど、一向に聴こえないしー」


 三十メートル上から落ちてくる滝と竹林の間で座禅を組み、瞑想を行う親子。

 しかし娘は五分程で音をあげ、愚痴をこぼす始末。されど母親は瞑想を続け、返答も無い。

 自分も二人を真似、目を閉じて意識を集中させてみる。……何となく、母親の言いたい事が分かった。


「てか毎日やってるけどさ~……これ、何の意味がある訳ぇ~?」


「太古の大昔に闇の欠片を封印した赤き光の使者。その付き添い人から頼まれた封印を施す為の修行よ」


 愚痴る娘、説明する母親。当時の付き添い人……スカーレットだな。こんな根回しまでしてるとは。

 で、この巫女達が呪神・珠沙華(じゅしゃげ)の封印を受け持ち、内部崩壊をした巫女の一族。

 娘の声からして判断するに──コイツ、三騎士のコトハだな。なんでアイツの過去を見てんだよ……


「アンタは除霊の力よりも、呪術に適正がある。でもそれは身を滅ぼす諸刃の剣」


「ふぁ~……」


「だからアンタが道を(たが)えないよう、毎日厳しい修行をしてるんでしょうが!!」


「いっってぇぇぇ!」


 それは、母親が娘を大切にしているからこその親心。子供が間違った道を歩まぬ為の躾。

 でも……コトハにその親心は全く通じてない。寧ろ厳しさ、思いやりが悪い方向に捉えられている。

 多分。母親もそれには気付いている。故に焦ってもいるんだろう。コトハの心の奥で微笑む闇に。


「さぁ、repeat after me」


「……我は偉大なる御身に呼ばれ、受け入れし者なり。我求めるは、御身が求めるモノなり……」


「コトハ──ッ!?」


 あの蝋燭が明かりを灯す大部屋では、少女姿の無月闇納がコトハの耳元で何かを囁いた後、一度離れ。

 虚ろな眼をしたコトハに言葉を復唱させる。周りに居た巫女達は全員倒れ、動く気配もない。

 そんな時。母親が襖を力強く開け、娘の名を呼ぶが……振り向いたコトハの青い瞳は、くすんでいた。

 違和感・危機感を感じて近付くも──床に仕掛けられた呪術にハマり、足下から石化して行く。


「こと……は」


「親なら子供のやりたい事を伸ばすもの。そうでしょう?物言わぬ石・像・さん」


 遂には全身が石化。鼻を闇納が人差し指で軽く押すと後ろに倒れ、音を鳴らしバラバラに砕ける。

 その音を聴き、駆け付ける他の巫女達。砕けた石像と虚ろな眼をしたコトハを目の当たりにすると。

 闇納の姿が見えないのか。巫女の一族はコトハが己の母親を石像に変えたと気付き、円を描く様に囲う。


「捕縛重円陣!」


「っ!」


「まだよ。今はまだ、抵抗するべきじゃない。面白くなるのは、この後だから」


 巫女達が各々の手から放つ光の縄はコトハを捕らえ、巻き付いて身動きを封じる。

 自由を奪われ、もがこうとするも耳元で闇納が再び囁いた事もあり──抵抗を止めたコトハは。

 一族が住む大きな寺から追放され、見上げる程に高く積み上がった石段を見上げる。


「言う通りにやってみなさい。そしたらきっと、面白い事になるから」


「我が声に耳を傾け、嘆きと怒りの感情に目覚め──我が身に宿れ。呪神・珠沙華(ジュシャゲ)


 悪魔の如く囁き、呪文を唱えさせた闇納。すると石段の遥か上に位置する寺は……

 真下から噴き出す膨大な闇に呑まれ、コトハ目掛けて飛び込み──彼女は呪いの神をその身に宿す。

 寺があった場所はもう既に何も存在せず、執念で立ち上がった一人の巫女が石段から転げ落ちて来る。

 その顔はミイラの如く目は窪み、眼球すら存在しない。人と言うよりは、干物と言う領域。


「さあ──これからは私が作った組織で思う存分、その力を振るっても良いのよ?」


「ふひひひ……ンはははははは!!!」


 そうか。闇納はコトハの心に元々あった闇と呪術の高い適正を利用し、呪神・珠沙華(ジュシャゲ)の復活を……

 母親や一族の呪殺。流石にこの罪は、自分には計り知れない。……ジャッジなら、裁けるのだろうか?

 己が国の価値観で他国の価値観を考えては駄目とは聞くが──闇納が調律者として動いた理由は多分。

 ドバイ以上の監視社会を構築する、完璧な管理。元々調律者姉妹が掲げた自分達だけのユートピア。


「……り!!目を覚まし……!」


「全隊、防衛陣を……、全員生き残って隊長を──!!」


 何処からか聞こえる、みんなの声。空間が分解される様に場面は切り替わり、電子的な空間へ。

 もし仮に、此処が電脳世界だと言われれば、すんなりと受け入れてしまう程のネット空間。

 みんなの声と映像は、宙に浮いたモニターが映している様だが。向こうには意識の無い自分が居る。


「ご、ゴミが……川や海に棄てて来た生き物達が!!」


「た、助け──」


 不法投棄されたペット達がノイエ・ヘァツに寄生され、川や海に棄てられたモノを纏い。

 自身を捨てた人達に復讐を誓い、上陸しては人々を襲い始める。その中には……

 とある野球チームの優勝で川に捨てられた白髪白髭の人形を棍棒として持つ新生ナイトメアゼノも。


「…………」


「古代ローマのコロセウムで猛獣に罪人を喰わせる動物刑と同じ。助ける必要も無い」


 ジィーッと襲われる人々を眺めていたら、隣に並び立つ神父姿のベーゼレブル・ツヴァイ。

 奴の言う通り、昔からこう言う罰や処刑法は沢山ある。中には、神の裁きとする処刑法も。

 外道が掃除される分には何も文句は無いし、寧ろ掃除の手間が省けて助かると言うもの。

 常人なら人の心は無いのか!?と怒り喚くだろうが……綺麗事や理想だけで世界は救えない。常識だろ?


「私は個人的に、スカベンジャーの娘が好きなんだが……君の好きなのは何かな?」


「ファラリスの雄牛。てか、スカベンジャーの娘ってお前……なかなか酷いな」


「何を言う。確かに長く苦しむが──ファラリスの雄牛よりはマシだろう?」


 自分達が言う『好き』は、処刑法の話。スカベンジャーの娘は十五世紀のイギリス生まれの処刑法。

 拷問器具であり、前屈み正座の折り畳まれた状態で固定し、血流が滞り出来た血栓が血管を破壊する。

 ファラリスの雄牛は……真鍮性の内部が空洞の雄牛像に罪人を入れ、火炙りにする処刑法だ。

 内部温度は四百五十度まで上がり、死ぬまで意識を維持させたままオーブンで焼くと言う内容。


「とは言え。あの場所には守りたい大切な仲間達や、間違いに気付き正せる人物も居る」


「……夢見永久の事か」


「あぁ。あの世界の暗雲は不安や絶望、醜い欲望が渦巻き。人々が見る星空(無数の夢)の穢れを晴らす」


 ベーゼレブルに向き直り、真剣な表情であの場所へ戻る理由を話せば。

 奴は間違いに気付かせ、道を修正出来るかも知れない相手が誰かを言い当てた。

 その為にも先ずは異変を解決し、穢れた星空を覆う暗雲を晴らさなければいけない。


「ならば、無月闇納に気を付けると良い。そして考えてみたまえ。何故、心情桜花と行動していたのかを」


「……分かった。助言、助かる」


 自分の眼を真っ直ぐ視たベーゼレブルは「ふぅ……」と溜め息を吐き、助言をくれた。

 無月闇納に注意するのは当然だが、考えてみろと言う部分が何か引っ掛かる。

 アイツは三つの勢力を手に入れる為と言っていたが、何故三つの勢力を手中に納めようとしたのか?

 兵力と考えても魔族や魔物、ナイトメアゼノだけでも十分事足りる。その時、ある考察が浮かぶ。


「もしそうだとしたら……急がなきゃ!」


「フッ、気付いたか。何故わざわざ、超科学を手に入れようとしたかを」


 周囲に現れるモニターが此方に進めと矢印を映し出し、案内されるがままに走り出す。

 そうだ。何故あの時、永久が言った発言に疑問を持たなかった?通常でもあり得るからか?

 だとしたら、他のライバー達も命を狙われる可能性が極めて高い!もっと速く、急がなくては!!

 モニターが映し出す矢印は穴の下へ行く様促す。正直不安もあるが……勇気を胸に飛び降りた。


「だぁぁりやぁぁぁ!!」


「ベビド兵士長の攻撃後の隙を狙って、インサニアの群れが隊長に向かって進行を!」


「俺達でカバーするぞ!後衛組、援護は任せる!」


 ベビドの攻撃は鎖付きの大鉄球や鎚を使ったもの。威力は高いが、スカした後の隙がデカい戦法。

 群れは一部を犠牲に引き付け、挟み込む形で襲い来る。Rはフェイクと肩を並べ、刀と剣を構える。

 後衛組も銃器や魔法を撃つ、的確なタイミングを真剣な表情で待ち──すり抜けた敵に向けて放つ。


「やっべ……何匹か後衛組もすり抜けたぞ!」


「っ!魔力を込めた矢でも射抜けない」


「クソッ……幾らボクでも、何匹も抑え込むのは無理だ」


 それでも中には魔法を弾き、魔力で強化した矢すら受け付けない強固な個体が第二陣を突破。

 ルージュが剣で二匹食い止めるも、追加で三匹すり抜けて自分のところへと辿り着く。

 これで終わりだと、三匹のインサニアは前足を大きく振り上げ──力強く振り下ろすのであった。




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