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ワールドロード  作者: オメガ
五章・corrotto cielo stellato
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Giant Step

 『前回のあらすじ』

 消滅した筈のエックスが目を覚ませば、そこはありふれた極々普通なアパートの一室。

 ノートに書かれた作品名・ワールドロードの数多い設定。部屋を後にし、近くの駅へ出向けば……

 投身自殺を試みるも、友人に阻止される女学生。目的地に辿り着くも、四聖獣のお面を被った子に質問される。

 投げ掛けられる質問を通して白線の内側の意味を知り、伏見稲荷大社へとエックスは駆け出す。



 走って伏見稲荷大社へ到着した自分の目の前で……因縁深いベーゼレブルが神父姿で、座っていた。

 正確に言えば、此方の目と鼻が痛くなる程の香辛料を使った激辛中華を汗水流しながら食べている。

 少なくとも今は──コイツの相手をしてる暇は無い。一刻も早く、仲間達と合流しなきゃ!

 横を走り抜けるも反応しない。そのまま進むと……ガン!!鈍い音と共に何かへぶつかり転倒。


「……食うか?」


「食えるか!」


 仰向けに倒れ、ふとベーゼレブルの方を見れば視線が合い……少し間が空いてこの言葉。

 激辛や激甘は苦手な為、食事の誘いを拒否。起き上がって今度は慎重に、見えない壁を両手で探す。

 ……あった。感触的にはツルツルで、叩くと鈍い音がする辺り……分厚い透明ガラスだと思う。


「それは一種のバリアー。私も試したが、逆に手首の骨が折れる程強固でな」


「足止めを食らってる訳か」


「正確には違うな。私は私自身の意思で此処に留まり、お前を待っていたのだよ」


 食事を終えたのか。突然此方に話し掛け、自分と同じく足止めを受けている。

 そう思い、発言するも……奴は自身の意思で、自分が来るのを待っていたと話す。

 椅子から立ち上がり、右親指と中指でパチン!と音を鳴らしたかと思った瞬間──


「やべぇ!」


 突如自分の影が円形に大きく広がり始め、真上を見上げたら何かが降って来る。

 慌ててその場から離れてみると、円形の石?と思わしき物体が地面に激突。

 石で出来た通り道にめり込み、周囲に亀裂が広がる辺り……人が受けたらスプラッタな状態だろう。

 ベーゼレブルの仕業と思い視線を向けるも、自身の背中を指差して何か言いたげと理解した矢先ッ!!


「な──なんだ。この……重量!?」


「なんであんなアホな事したん?自分じゃない自分なら、もっと上手く生きれるんじゃ?」


「完璧にやらなきゃ、また怒られる……僕が生きてる意味なんて無いんだ……」


 背中にズッシリと感じる重量感。何かが背に張り付き、不安や恐怖心を呟いている。

 その言葉を聞けば聞く程に重量は増し……最初は左膝を地に着け、続けて両膝、最終的に四つん這いへ。

 けど……この泣き叫びたい程の苦痛、消えてしまいたい無力感は──懐かしい感覚を覚える。


「……むっ?」


「そっか……辛かったよね。よく、言葉にしてくれたね。言える事、全部教えてくれないかな」


 自分自身がやらかした、大小のミスから来る自己否定や自責の念や行為は──よくある。

 だからこそ、過去の自分自身と向き合い続けた。何故、どうして、具体的には?

 自問自答を幾度も繰り返し、理解した。他人に許しを求め、他人の評価を気にするなど馬鹿げた行為だと。

 自分の努力や悔しさを一番理解し、許せる存在は自分自身。もし許せないなら、理由と解決法を探せばいい。


「……うし。軽くなった」


「やはり何度見ても、お前と言う存在は未知数だな」


「ハッ、何が未知数だ。俺に出来るのは、人間と同じ事だけだ」


 語り掛けた後。背中にのし掛かる異常な重量は消え、何事もなく立ち上がれる程に戻った。

 それを見て、ベーゼレブルが自分と言う存在を未知数だと評価するが──

 残念ながら、自分が出来るのは人間と同じ行為。魔力とか霊力は別にしてな。


「出来る出来ないの問題ではない。やるかやらないかの問題だ」


「成る程。確かに出来るのにやらない、出来ないのにやる。そう言うのもあるわな」


「ならば、これはどうだ?」


 それに対し、出来る出来ないではなく、やるか否かだと言う。確かにそう言う場面も人にはある。

 だが……誰かが自分の代わりに助けてくれるだろう。面倒な事に関わりたくない、関わるのが怖い。

 そんな心境もあり、動けないのも確か。中途半端な優しさは人を殺すとも言うしな。

 続けて指を鳴らし、絵に描いた様なオバサンが現れ、自分の方へ苛立った様子で近付いてくる。


「ゲームとか推し活とか!!そんな無駄な事にお金を使う位なら、もっと為になる物を買いなさい!」


「……アンタにとっては無駄でも、他の誰かには傷付いた心を癒す大切な物であり、行為だ」


「それなら病院に行けばいいじゃない!!頭悪いわね!」


 人生に置いて、無駄と言うモノはない。全てが良くも悪くも経験として身に付いて行く。

 そもそもな話。会社は労働者が壊れても交換するだけ、病院は一時的な治療しか出来ない。

 それが精神病。その原因は親の夫婦喧嘩、八つ当たりや虐めの対象など沢山ある。が──


「頭が悪いのはアンタの方だ。自分の価値観や認識を他の誰かに押し付けるな。そう言う奴の言動が、誰かを死に追いやるんだよ!」 


 一番はこれだ。自分の価値観や意見が正しいと、間違った正義感を振るう阿呆共の存在。

 否定し続けて相手を苦しめ、自身の愚行も気付かず押し通す。こんな奴が無意識に人を殺す阿呆だ。

 若い・年寄り云々も関係ない。産まれた世代・環境・場所が違えば何もかもが全く異なる。

 それが理解出来ない、しない、受け入れられない奴らが自分の事を棚に上げて息を吐く様に人殺しを行う。


「お見事。これもクリアするとは」


「虐め八つ当たり勘違いにパワハラリストラうつ病やオーバードーツと自殺未遂……沢山経験したからな」


「そう言うところが、未知数だと言うのだ。どんな絶望に飲まれても立ち上がり糧とする。そんなお前は……」


 言い返すと相手のオバサンは幻が掻き消される様に消え、自分に向けて拍手を送るベーゼレブル。

 とは言え、これは沢山の絶望に何度も押し潰され、立ち上がれたが故の回答だと答えると。

 奴は拍手をする手を止め、目をゆっくりと開き、淡々と語りながら再度目を閉じ──


「僕が唯一無二と認めた……いや。私が見出だした最高にして、俺の──好敵手!」


「──っ!?」


 再び目を見開いた途端。奴の体は服も込めて形状変態を始め……最初は右肩にホライズンの上半身。

 左肩にはツヴァイたる神父姿が生え、今度は体全体が自分の知る大将になったかと思えば。

 黒いローブを被ったドゥームへと完全変態を終え、突然自分に対して指を差し始めた。


「闇を恐れるな。君はワールドロードを止める唯一無二の可能性を持った、クエーサーなのだから」


「クエーサー……?」


「魔は鬼の力。負の感情が高まり鬼を産む時、人は魔となり秩序を滅ぼす。破王の刃は鬼を斬る刃」


 ドゥームの話は分かるが、チラホラ理解の及ばない言葉が混ざって頭が混乱している。

 ワールドロードとは、最終目的たる魔神王の名前。自分は……奴を食い止めれる唯一無二の存在。

 そこまではいい。が──クエーサー?それに魔は鬼の力で、まだ取り戻せてない破王は鬼を斬る刃?


「唯一無二の友よ。人類は何故、こんなにも愚か極まりないのだろうか?」


「犬は餌で飼える、人は金で飼える。欲望に目が眩み、自己保身に走るが故だろうと思う」


 問い掛けられる疑問。その答えは多分──人類がシェアする事を忘れてしまった為ではないだろうか?

 田舎で見る野菜や不要な物の物々交換、助け合いの精神。そう言った心が、人類の成長と共に薄れた。

 もしくは、愛欲や欲望が壊してしまったから……と自分は見ている。

 原初の神・カーマの愛欲とは性的なモノ。愛なんて聞こえは綺麗だが、中身は汚物の場合もある程。


「人間は魂のレベルで性格と行動に差が出るとは聞くが……この世界の人類は極めてレベルが低い」


「確かに──それこそ、邪神が文明の発展と精神の成長が釣り合っていないと言う程だな、友よ」


「ハッキリ言うぞ、ドゥーム。自分は人類を篩に掛けて選別し破壊する。救うのはその後だ」


 ランクの低い魂は己の欠点を認めず、損得勘定で動き動物や子供が苦手。

 逆に高い魂は前向きで感謝の心を持ち、孤独になり易く苦労し易い。

 真夜も時折人類を馬鹿にするが、人類が大好きな正しい事──正論を言っていただけ。

 故に選別を行い、もう一度魂からやり直させる。勿論、持っている罪は裁いてから……な。


「それで構わない。僕は争いが嫌いだ。その為の人類救済計画なのに、仲間内でも小さな小競り合いが」


「ドゥーム……命は個体別で全てが違う。自他の違いを受け入れ、許すのが本当の人類救済なのでは?」


 争いが嫌いと語るドゥームの表情と声は暗く、俯く様子が何処か哀愁を漂わせていた。

 魔神王は……俺の友・ドゥームであり、止めるべき相手、オメガゼロ・ワールドロードでもある。

 その時、ふと遠い昔の出来事を思い出す。光と闇でこの星へ来た時の会話を。故に、この言葉が出た。


「あの時は、自分も君の言葉を否定した。けど今は、あの言葉に込められた意味や心も理解出来る」


「本当に……君は凄いよ。それが、君が人間であり続ける理由かい?」


「……さあな。自分はただ、理解されない苦痛や苦悩を知っている。ただそれだけさ」


 改めて、あの時の発言に込められた意味や気持ちを理解出来た旨を話す。

 ワールドロードには、彼ら・彼女らなりの優しさがあった。当時の自分は、己の主張こそ正しいと……

 頭ごなしに否定していた。そう話すとドゥームは自分を凄いと評価するが──

 これは人間として再度体験し、経験した出来事から学び、理解し直しただけ。多くは語らないがな。


「僕も……君の様な、素晴らしい存在になりたかった」


「それは過大評価だ。誰しも心の持ち方一つでどうにでも変わる。自分は学びが多かっただけ」


 生とは、生涯学び続ける事。その知恵を後世に伝え、力と勇気のあり方を若者に示し続け。

 人類と自然、宇宙がより良く共存出来る未来を築き上げて行くべきだと思う。

 友の悲しげな言葉に、自分なりの答えを示す。知恵・力・勇気を心がどう解釈するかの問題だと。


「そうか……。君の愛刀・破王は──」


「ありがとう。でも大丈夫。その答えはもう、心の中にあるから」


「……成る程。改めて、君は本当に凄い男だ」


 失敗・経験から何を学び、思考して行動するかを納得し、そのお返しと破王の情報を口にするも。

 その答えはもう、心の中に。右手で胸元に手を当て、優しく微笑みながら言葉を返す。

 別に評価される程でもない。何故なら愛し愛され、時に叱ってくれる大切な仲間達が居てくれた。

 だから自分は経験から学び、間違え、道を修正出来た。自分一人の成果ではなく、みんなの成果だから。


「出口はこの先だが、コレは──」


「フンッ!」


 出口はバリアーの先だと言い、透明な壁をノックしながら何かを伝える前に右拳で殴り込む。

 すると亀裂が生じ、次第にドンドン大きく広がり砕け散った。唖然とするドゥームに振り返り……


「コレは外の世界や傷付く事を恐れ、閉じ籠る心の殻。自分自身と向き合い、大きな一歩を踏み出す勇気があれば進める」


 正体を言い当て、バリアーの向こう側──即ち出口の方へと一歩踏み出す。

 外の世界とは、自分自身の部屋や家から出た場所。つまり、自身が思う安全地帯の外。

 個人差はあれど、心が耐えられない程の辛く苦しい経験をした者が陥る現象。

 故に、当人が自分自身や現実と向き合えるならば、あのバリアーを砕いて前へ進める。


「自分の心が生み出した存在だとしても……また話せて良かったよ。ドゥーム」


「……そうか、ならば行ってこい。辛く厳しく、不公平が蔓延る外の世界へ」


 今度は振り返らず、背を向けたまま感謝を伝え。友の声を背に受けながら走り出す。

 大切なみんなを助ける為、約束を果たす為。階段を登り、千本鳥居を進む。

 すると鳥居の先に渦巻く光と闇が見え、その中へ向かって飛び込む。

 Giant(ジャイアント) Step(ステップ)。不安や恐怖に挑む大きな一歩は常に、小さな勇気と共にある。




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